僕の青春ものがたり

龍 晃一 作
第二部「愛の遍歴」

第６章　雅美の言葉に救われる


　熊太郎の指摘したウェスティンホテルに行った。スーツ姿にネクタイをした森田先輩はロビーで待っていた。
雅美を見るなり、
「いつお会いしても美しい」
　冗談とも本気とも言えぬ顔をして雅美を見詰めている。私の目には、
「やっと、雅美を全裸にして犯すことができる」
　そんな眼つきの様に思えるがそんなことは一言も言えない。私にもお金を貸して貰うという弱みがある。

　３人で予約していた４７階のレストランに行った。フランス料理のフルコースを予約していてくれた。ワインで乾杯をした。
「私の話を承諾してくれて、嬉しいです。胸がドキドキしています」
　私の内心は、心臓に毛の生えた男が何を言っているかと反発していた。

「山崎さん、毎週１泊と言う条件で宜しいですか」
「原則は、月４回と言うことで構いませんが子供の病気とか、緊急の時は３回程度にして下さい」
「そのような特例とか緊急のときは、言って下されば大丈夫です」
　森田は上機嫌であった。今夜は憧れの雅美を抱けるという思いが陽気にしている。

「奥さん、このワインは美味しいでいょう。1985年ものです」
「香りも素敵です」
　雅美も些かか酔っていた。抱かれるという覚悟はしていてもいざとなると勇気がいる。酔うことが雅美の心を陽気にしている。雅美は私が２人目の男と聞いている。大学の先輩とは１回しかホテルに行っていないと言っている。雅美が心から愛してくれるならばそれでいいと思っていた。大学生になった頃で恋に恋していたような気がすると言ってくれた。

　雅美はこの日の為に洋服も下着も新調していた。洋服はブルガリのツーピースを着て、粟い紺色のスカーフを首に巻いている。下着は知らないがワコールのセクシーな下着を着用している。

　森田熊太郎は、学生時代からプレイボーイで有名であった。大学の後輩のミスキャンバスと結婚した。ミスキャンバスもお嬢様であったが熊太郎に負けないくらいの遊び人であった。真弓のマンションには男を切らしたことがなかったと言われていたが卒業と同時に男断ちをしていた。就職した商社で熊太郎と再会した。再会して２年後に結婚した。

「真弓もそろそろ結婚する適齢期だ。俺と結婚するか」
　の言葉に、
「あなたが女漁りを辞めると誓約するならば結婚しても良い」
　熊太郎は、真弓に宣言書を提出して結婚した。
「森田熊太郎は、美希真弓と結婚するに当たり生涯を真弓の穴一筋にすることを誓約します」

　結婚して１０年間は誓約を守っていたようであるが真弓が妊娠しなかった。その原因は真弓が学生時代に二回も堕胎していることが判明した。そのことを知ってから女漁りを復活させていた。Ｗ不倫の言葉を生んだのがこの二人と思わせるほど女狂い、男狂いをしていた期間があった。

　そんな生活が１０年くらい続いていた。熊太郎が５０代になり親の持ち株のお蔭で役員になった。この頃に真弓の子宮癌が発見された。熊太郎は真弓に先進の医療を受けさせていた。一時は回復したと思われたが２年後に再発して他界した。
美男美女カップルと持てはやされた二人は、子供を授かることができないままに真弓は他界してしまった。

　理想のカップルと思われた二人が歩んだ足跡は悲しい物語になって仕舞った。６０歳で退職した森田熊太郎は２年ほどは悠々自適の生活を送っていたが一人の生活には飽きてしまっていた。若い女は、金で簡単に買うことができるが金を求めている女は味気ない。金さえ貰えばすぐに帰ってしまう。情緒も愛もあったものではなかった。コンドームを付けるセックスは虚しさだけが残った。

　熊太郎の思いは、心の通じ合える相手を探すことにした。お金は幾らつぎ込んでも良かった。セックスをするだけでなくて愛を感じ合えるお互いを信じ合える恋がしたいと願っていた。男は５０代になると綺麗な女よりも優しい女を求めるようになる。強気で押し通していたことが貫けなくなってくると弱気になってくる。仕事をしているときは、肩書が幅を利かせてくれるが肩書のなくなった老人は、心が弱くなってくる。

　お金で買った女は味気ない。金額だけのことをするとサッサと帰ってしまう。取りつく暇もない。そんなことを数回経験すると買わなくなる。人間としての心の繋がりを大切にしたいと思える。その念願が雅美であった。顔も笑顔も素敵であり体つきもスリムであるが乳房やお尻は発達している。熊太郎には 充分すぎる女である。雅美を獲得できたことで５０００万円は安いと思っている。長く付き合えるならば返済してもらわなくても構わないと思っていた。

　これから毎週、雅美を堪能できる。熊太郎の様に一線を退くといい女には巡り合えなかったが裸の雅美を抱き、キスを交わし、乳房を愛撫でき、愛液を啜ることは１０年若返ると打算している。餅肌のツルツル女体を抱いているだけで心地よい。
　これまで生きてきた苦労が雅美で報われた気になっていた。
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2015.6.13掲載

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