龍 晃一 作
| 第８章 真理子にプロポーズをする 真理子と結ばれてからは仕事面では何もかも順調に行くようになった。僕の強気の姿勢が情熱というように捉えてくれるようになった。あんなに苦戦していたノルマ達成がる一転して順調に達成できるようになった。ノルマ達成ができると社内の評価も、美容部員達から誘われるようになった。 彼女達は結婚相手を探している。男のチャンスも１回しかない。本命がいることは内密にしている。若い小島や斉藤から合コンに誘われた。男３人と女も３人で食事の後、スナックに行ってカラオケをしたりダンスを踊ったりするが最後には、仲良しのカッブルでホテルに行くことになる。６人で同じホテルに行き、２時間後にもう一度会って、相手を交換して朝まで過ごすこともあった。 ノルマを達成している僕に集中してくるが同じ相手とは２回以上は行かないことにしている。言葉でも結婚の言葉は一切言わないことにしている。遊びの時は遊びに撤することが大切である。生半可に「結婚しようか」と言ったことが「冗談だった」では済まなくなる。 先輩から忠告されていた。会社に報告されると「結婚するか」、拒否すると１０年は出世が遅れることになる。 美容部員と行くときは、紛らわしい言葉は使わないようにしていた。「今日は遊びだから」という様にしている。 「私、山崎さんを好きなの-----」 「化粧品会社の営業は、転勤、転勤になるから辞めた方がいい」 と忠告するようにしている。 「僕は、生涯、独身派になる」 と若気の至りで済まされる範囲に留めることが大切であった。 真理子とも毎週、会っていた。そんな時に白木の両親からお誘いがあった。 「湯平温泉で旅館を経営している者がいますので行きましょう」 「お願いします」 真理子が会社帰りに迎えに来てくれることになった。いつものコンビニで待っていると赤のセリカがきた。真理子と山間にある古くからの湯治場、湯平の大きな旅館に着いた。 昔からの湯治場で、昔懐かしい吹き矢の店や鉄砲で景品を当てる出店があった。生きたマムシをお店のショーウインドウで入れている。マムシを黒焼きにした粉末が精力剤として販売していた。まむしを見るだけでもゾッーと寒気が走った。数百匹のマムシが団子のようになっている。 せせらぎの音が聞こえてくる。温泉の中に共同湯船が何か所もあり、その湯の成分が異なると聴いた。露天風呂は真理子と一緒に入ったが寝るときは父親と一緒な部屋で寝た。朝食後は真理子と二人で手を繋いで湯平を散策した。湯平の真ん中あたりに喫茶店というか谷川のせせらぎの上に板張りをして日傘の下であんみつを食べた。 ここでプロポーズをする予定ではなかったがそんな雰囲気があった。 「真理ちゃん、真理子を物質面では完璧に満足させられないかも知れないが、精神的には満足させる自信がある。僕と結婚して欲しい」 「嬉しいです。プロポーズの言葉ありがとう。ハイの返事はもう少し時間を下さいね」 「慌てなくてもいいから----」 １２月１２日の真理子の誕生日に別府の杉乃井ホテルで泊まる約束をして予約した。 ところが、１１日の前日に頭取から一緒に東京出張を命じられた。 「今回は約束がありますので、東京出張は辞退させてください」 と頭取に嘆願したが、 「東京で真理子に会わせたい人がいる。約束の人の話はキャンセルしなさい。仕事です」 と言われた。仕事ですと言われると断れなくなったという。 その日の夕方、真理子からの携帯で真理子と会った。杉乃井ホテルに行けないことを詫びた。そしてその夜、真理子に誘われるままにホテルに行った。 「ごめんなさい。あなたと行きたかったのに-----」 杉乃井ホテルに予約したお詫びとして真理子は全裸になっていた。真理子の乳房や太腿やお腹に無数のキスマークを付けた。真理子の口の中に精液を飲ませた。真理子はお詫びのつもりで僕の為に尽くしてくれた。明日東京に行かなければならない真理子と遅くまでいることに気が引け、10時過ぎにホテルを出て真理子と別れた。 真理子は杉乃井ホテルで誕生日の日に結婚を承諾することを告げる予定にしていた。この日に会うことができなくなったことで真理子の将来までが変わった。頭取の横やりが許せなかった。真理子の誕生日に会えなくなって仕舞った。 ホテルの予約の前日のキャンセルはできるがペナルティも大きい。 一人で宿泊しても仕方ないので小森チーフを誘った。 「そんな高いホテルに何故予約したの----」 と聞かれたが----。 「失恋してしまった」 小森チーフは大喜びで付き合ってくれた。夜のディナーは２人で２万円もする最上級を予約していた。大きな部屋と美味しい料理にチーフは大満足してくれた。僕の彼女が白木化粧品店の娘とは口が裂けても言えない。禁句であった。 取引先の娘と結婚を前提として交際することは許されるが結婚しなかったときのペナルティも大きい。社内の人間には何事にも内密を保つことが身の安全になる。 満足したチーフは僕を徹底して癒してくれた。チーフの口の中に２回も精液を吐き出し、膣にも３回も注いだ。 「私達、お似合いのカップルかも------」 「営業は、転勤が多いから奥さんになる人は大変かも----」 「それもあるね」 「結婚は、人生の墓場かも知れないし----」 「私のこと、嫌いなの----」 「嫌いな人をこんなところに誘わないよ」 「本当に」 「本当さ」 真理子と泊ることのできなかったクリスマスイブの杉乃井ホテルのスィートルームを小森チーフと過ごした。仕方なかった。前日のキャンセルは９０％支払わなければならない。小森かおると来れて良かったと思えた。 年末商戦の慌ただしさの中で白木真理子と会える時間が取れなかった。デパートの売り出しなどでバタバタしていた。 クリスマスイブには会いたいとメールしていた。真理子と会う約束をした１２月２４日、早めに帰社した僕は何気なく１階の倉庫に立ち寄った。そこには意外なものを視てしまった。 営業所の所長と主任が年間で１千万円くらい売上をマイナスにしていた。それを補てんする意味で１千万円の商品を架空送品したのだった。倉庫には高さ１ｍで長さ３ｍほどに商品を山積みしていた。私は一気に事務所の階段を駆け昇っていた。 「所長、倉庫の商品はなんですか---企業と言うものは架空の数字は求めていないのです。１千万円も架空に納品書を切ることは、無謀なことです。止めましょうよ」 「主任の不足をカバーするにはこれしかないのだ」 「美容部員は、７割が主任の担当の店に入っていて１千万円も不足するなんて能力がないからだ」 「主任は難しいお店を担当しているのだ。新人のお前に任せられない」 「架空送品なんて、馬鹿なことは中止するべきです」 「青二才が、判っていないのに解ったような口のきき方をするな」 「架空送品することは、判った人がすることですか」 喧嘩が白熱してしまった。僕と所長が言い争いをしているのに傍にいて１言も言わなかった。事務の大橋と三国は唖然として眺めている。 「兎に角、架空送品をしても年初めに−１千万円からスタートしなければならなくなる。そんな阿呆な事をして所長は、所長は恥ずかしくないのですか」 この言葉にハゲ所長は、激怒していた。 「青二才が俺に説教するのか」 「説教ではないですよ---正義を諭しているのだ」 「何-----」 「阿呆なあんたに、正義とは何かを教えているのです」 売り言葉に買い言葉になっていた。僕も理論では絶対に負けない自信があったこともあって果敢に攻撃してしまった。冷静になれないままで究極の言葉を言ってしまった。 「架空送品を飽く迄も正当化する所長は、所長失格です。福岡の支社長にどちらが正義か、悪か相談してみますか」 「偉そうな口を聞くな、お前は上司に反抗しているのだ」 「そうかもしれませんが、赤を黒と言い張り、お前も黒だろうと言い含めようとするのですか。最低だ」 「俺がすることに不服ならば辞表を書け」 「僕はあんたに採用されたのではないです。所長失格のあんたに、辞表なんか書けますか」 「黙れ-----」 「悪いことをしていると認めるのですね」 「うるさい-----」 こんな男と議論しても仕方ないと思えた。事務所から出ようとしたとき、 「そこから一歩で出ると職場放棄だ」 「うるさいと言っておきながら職場放棄なんて可笑しいよ」 と捨て台詞を吐いて会社を跡にした。しまったと気が付いたときは手遅れだった。１７時を過ぎて夕闇が迫ろうとしている。アーケード街は、シングルベルの曲が響いている。クリスマスを祝う気にもなれなかった。真理子と会うことになっていることを忘れてしまっていた。 |
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| 2014.10.25掲載 |