ヒトツバタゴの咲く島で


ヒトツバタゴの咲く島で【知佳の美貌録】知佳作
荒磯に挑む海女～漢ですら怯む三島灯台の漁場～「おう、これが今年ん磯ん割り振りや。目ば通しとけや」　船着き場に出向くと漁協から出てきた男に声を掛けられ、美咲は笑顔で答えた。「はい、ありがとうございます」　男は、美咲の肩をポンと叩き、笑みを返して去っていった。その男こそ鰐浦ではすべての権力を握っているとされる、あの海栗島渡船の船長の身内、御手洗だった。　その様子をどこからか見ていたのだろう、美咲と年齢がほど近い紗矢が歩み寄ってくる。「なぁなぁ、美咲、海栗島から姿ば消し、戻ってきてから、なんかモテとらん？　姿ば消しとー間に何かあったと？　ケバい化粧で荒れとった肌がツルツルになって、おまけにやけに色っぽうなってん評判ばい。御手洗さんにまで気に入られてしもうてー！　さては不倫かあ？」　紗矢のからかうような口ぶりに、逆に美咲は微笑みで返した。「やめんね。　御手洗さんって、今鰐浦じゃ顔役やろ？　ここでん揉め事は磯権にかかわろうばい」　美咲にきっぱりと釘を刺され、肩をすくめながらも懲りない紗矢は、次にこんなことを口にした。「そうそう、村内ちでん恋愛は避くるタイプやったね、美咲は。……じゃあ、また例ん場所に出向いてみん？　来週末辺り、あそこは呑み会開くったいって。まだ未婚のよか男がおるごたーばい。チャンスばい、いかんね！」　美咲は苦笑いしつつ、さらりと返した。「考えとくわね。お誘い、ありがとう」　何事も親任せの紗矢は、たとえそれが親友の美咲であっても、酒乱の親を持つ小島家のお家事情などまるで気づいていない。この時、美咲の実家小島家は磯権でとんでもないところを引かされていた。海栗島の沖合２キロに浮かぶ高ノ島群島三島灯台の東の磯だ。船底の浅い舟だからこそ、しかも凪で大潮の干潮と、3拍子揃えば近づけるが、船長の渡船などは航路の内側は水深が浅く、また複雑に入り組んでいて、岩礁にぶつかり引き潮となった波が四方八方から押し寄せるため近寄れない。　高ノ島群島三島灯台コース　そこへ行くには港を出ると、ものの５百メートルと行かないうちに仲間と別れ、海栗島と本島の間に浮かぶ海老島の本島側の狭路を通り抜け、海栗島から離れるようなコースを通り、遙か沖合に向かわなければならない。　漁具を積み込む鰐浦の船着き場の割り当てでさえ、東側の宮原家にほど近い、低い岸壁から追いやられ、漁協にほど近い、水面からの高さが半端ない、しかもうねりが強い場所を当てがわれていて、乗下船は道板どころか梯子のようなものを掛けなければ干潮時は乗り降りできなく、下手すれば船に乗る、たったそれだけのことで怪我をしかねない。　それもこれも理由はただひとつ、父親が呑んだくれてろくに働こうとしないので、母親が苦労して得た上りはその全てが酒代に消え、漁協へ納めるべく上納金を、もうここ数年納めていない。その分、鰐浦漁協が発行する磯の入札に参加できないし船着き場をあてがってもらえない。勝手に魚でも獲って食ってろと言わんばかりなのだ。　対馬の地形の磯漁には最適と思えるリアス式・岩がゴロゴロという特徴が最も顕著に現れているのが海栗島周辺の岩場、その中にあって最も沖合、つまり流れが速いことで有名な朝鮮海峡に近い場所にあるのが三島灯台周辺の岩場なのだ。 ※参考画像　玄界灘の干満差は大潮になると３メートルをゆうに超える。最も潮が引いた時、陸地面積が１．５倍程度増える。晩秋から早春にかけ、大潮でこの岩場が現れるのを待って、鰐浦漁協は主にここで採れるヒジキ（岩ノリやサザエ、アワビではない）で年度分の大半を稼ぎ出す。　特筆すべきは海流（いや、海洋生物かもしれない）の特徴だろう。日本では東北以北にしか生えない昆布が、対馬では、この鰐浦地区（海図中、海栗島と海老島の中間のごくわずかな幅１５０メートルにも満たない海域・溜まり）のみ生えている。朝鮮から下る冷たい海流と、対馬海峡を北上する暖流がぶつかり合う地点なればこその現象だ。したがって海水温は他と比べ低い。しかも鰐浦漁協は昆布を禁漁とし保護に努めているからこそ繁茂する。　三島灯台付近に点在する岩場は、こういった特徴を持つ潮の流れで岩礁が削られ、それらの剥落した岩が転がり、浅瀬と深みが交互に点在、干満差によって船の航行に障害をきたす。しかも、この海域は玄界灘の潮流と干満差による潮流ををまともに受け、そしてその潮の流れが極端に速い。危険と隣り合わせと分かっていながら小島家は、食つなぐためこの海域に向かわなければならなかった。　海栗島の裏の磯なら絣の上下を着たまま作業ができる。しかし、三島灯台付近となるとそうはいかない。波に足をとられた場合を考え、寒かろうが身に着けるものを極力減らす。美咲もそのつもりで漁の用意をし始めた。半裸で海に立ち向かわせようと、御手洗が仕組んだに違いなかった。　仁田の民宿に一本の電話が入った。「おう、美咲ちゃん。すまんが至急帰ってきてくれ」　電話の主は御手洗だった。この漢こそが美咲をコヤに誘い込み女にした張本人。それも妻子ある身でだ。　伝馬船を操る仕事で鍛え抜かれた両の太股を使って抑え込まれると、お転婆とはいえ美咲も女の子、あっけなく太股を割られ可愛らしい下着が露になった。御手洗はその下着を脇にどけ、大事なところに指を挿し込んできた。　恐怖で抵抗できないと見るや未通で未処理のそこに、ズボンを膝近くまでずらし、褌を脇にどけ取り出した怒り狂ったものを当てがい、そこといわずここといわず這いずり回って開かせ、それでも足りないとでも思ったのか覆いかぶさり口を吸い、男女の何たるかを上といわず下といわず仕込んでくる。「儂ん言うこと聞け、悪かごとはせん。なあ、わかってくれ」　言葉は幾分丁寧になってきたが、その分熱し切った異物は腫れ上がり、ぬくもりや圧力は否が応にも秘部を通じ子宮口から更に奥へと伝わる。　孕むかもしれないとわかっていながら恐ろしさに射竦んでしまい、拒みきれなかった。　何度も何度もこのようにして切っ先で擦られるうちに異物を排除しようとする本能からかトロトロと何かが流れ落ち漢の持ち物を湿らせる。その露をたっぷりと切っ先に塗りたくった御手洗は、半ば強引にキツマン目掛け押し付けめり込ませ腰を振り、散々誉め言葉を発した挙句勝手に果て。放心状態になり下半身をあらわにしたまま横たわっていると、その光景に興奮してはまた差し込みを繰り返した。　溜まりにたまったものを幾度となく中に射出すると、「親に告げたら…わかっとろうな」と言い残し、襲った時のように肩を怒らせコヤを出て行った。これに味を占めた御手洗は、幾度となく美咲をコヤに連れ込み乱暴を働いた。そんなことがあって以降、美咲は荒れた。自暴自棄になった。それを見て、同じことを他の漢も美咲相手にやらかした。見ると、美咲に限らず、鰐浦の女という女は大なり小なりこういったことを男相手にやっていて、もうどうでもよくなってやらせてやったが、同じ懇願でもそれ以降、御手洗だけは頑なに拒んだ。「なしてここば？　何ん用？」　つっけんどんに訊き返す美咲に御手洗は「わいんとこ、上納金ば断って来た。わかっとるな。払えん時は舟ば貰う」　鰐浦で、舟がなかったら漁に出れない。岩場で海苔を採るにしても、往来は舟がなければ離れ小島には行き着けない。第一、本島近くで採取したにしても、それらを舟に積まなければ漁港まで運び込めない。「そう……わかった。ウチに磯に出れと……つまり、そがんことね」　自分が女にしてやったからには自分のもの、そう思い込んでいたところ、美咲は何を思ってか他の漢にも同様に大事なところを分け与えた。寝取られたとわかるとやりきれなかった。どうあっても取り戻さずにおれなかった。手を尽くし、調べ始めた。　どうやって調べ上げたか知らないが、御手洗は仁田に美咲が潜んでいるとわかると、鰐浦に帰る手立てをつけてきた。磯に出ろというからには、当然誰も寄り付かない三島灯台付近の利権を割り振ったに違いないとみた。誰も来ない磯へ行かせるということは、当然後を追って乗りつけるという魂胆だろう。人目を避け小舟で乗り付け捕まえたが最後、どう暴れようが磯でなら美咲をどうにでもなると踏んでのことだ。　サザエ・アワビの漁が解禁になると、誰もがその年の豊漁を願って舟を出す。先を争って各舟は漁場に向かった。美咲も舟を飛ばして三島灯台目指し駆け付けたが、果たして漁が始まってものの二時間もすると西風が強まり、舟は一時もじっとしてはくれなくなる。　メガネを使って海底の獲物を狙おうにも下ろした錨が風と波によって効かず、対馬海峡方向に向かって流され始め、傾いた舟べりから海水が流入する。女独りの力では漁どころか舟の転覆を防ぐのが精一杯となった。　本来漁が禁じられている灯台のある島に、体制を立て直すべく美咲は舟を操り近づけた。あの御手洗は、案の定灯台の岸壁で待ち構えていた。灯台守は月番交代となっている。　その、不自由であろう灯台守に御手洗は、何らかを掴ませ、岸壁に近づかないよう釘を刺しておいたのだろう。「おう、獲れたか？　風ん強かろう」「御手洗さんこそ、海栗島からこけー流されて？」　精一杯皮肉を言ったつもりだった。ところが、御手洗は美咲の言葉が聞き取れなかった風を装い、乗って来た舟を指し示した。そこには普通の方法ではとても獲れそうにない数のアワビ・サザエが載っていた。「ふ～ん、闇夜に紛れてボンベで潜って獲ったと？　よう見つからんじゃったわね～」　隊員から秋風が立つと海中が光り輝くと訊かされていた。　隣国から深夜、高速艇に乗って密漁目的のスキューバに来る輩がいると訊かされていた。彼らのやり方は船上でコンプレッサーを回し、ホース内を高圧酸素を送り、潜水士はその酸素でもって体力が続く限り乱獲し、帰っていく。　彼らに混じって御手洗も禁止されているボンベを使っての漁でお宝をせしめていたのだ。「儂ん場合、ちゃんとポイントば心得て竿ば伸ばすけんのう～」　サザエやアワビがどこらへんに棲みつき、それを獲るにはどのような方向から竿を伸ばすか身振り手振りで示し、分けてやっても良いと顎で指し示すと同時に別の棹も取り出そうとしていた。　未通の美咲をコヤで襲った時と同じように御手洗は、ほぼ半裸で漁をしていた、そのわずかに身に着けていた服を美咲の前で脱いで見せた。同じく半裸の美咲を前にペニスを晒した。待ちきれなかったのだろう、彼のペニスは見事なほど反り返っている。「やるって言うんなら、有り難う頂いとくわ」　御手洗の舟に乗り込むと、御手洗に背を向けアワビには手を付けず、サザエだけを自分の舟に乗せ換え始めた。危険な航路を、それも久しぶりに舵を握り乗り切り、独り荒磯で漁をした。この時の美咲は小倉時代の美咲であって、翔太に恋焦がれた美咲ではなくなっていた。野性化してしまっていた。「なんでアワビば？　そうかそうか、わいんアワビば儂に差し出してから頂こうちゅうわけか。殊勝な心構えじゃ」　後ろ向きで作業する美咲の背後を取ると、身に着けていた海女着をひょいと脇にどけ、その隙間から反り返った棹を挿し込もうとした。長時間にわたって冷たい海水に晒された美咲のソコは冷え切り、なかなか反応を示さない。人が来ないことを良いことに、御手洗は幾度も幾度も張り裂けそうなペニスで美咲のラビアを擦りあげた。当の美咲は揺れる舟の上で振り落とされないよう両足を開いて踏ん張っている。擦りあげることしばし、黒々としたワカメの隙間からピンクの膣口が顔を表した。「むうううん……こうなっとったか……うううう」　御手洗は慌てて切っ先を、ピンクの入り口目掛け添え、腰を使ってめり込ませた。　すっかり女になり切った美咲に咥え込まれ、海水に長時間浸かって冷えてるはずの御手洗の額に汗が浮かぶ。それでもなんとかして奥に向かって注ぎ込もうと、御手洗は腰を振った。　「あああああんんっ……やめて……こがんことされたら……」　憎い相手であっても、そこは男と女。擦れ合う間に情交特有の温もりが伝わり、美咲の中の野生が目を覚ました。咥え込んだペニスを、腰を前後させ振り払おうとした。よほど美咲の帰りを待ち焦がれていたんだろう。これに堪え切れず御手洗はあっけなく浅瀬に放出してしまった。　美咲は海水に身を浸し、指を挿し込んで中に溜まった濁流を掻き出すと、舟に戻り鰐浦に向かった。漁協に着くと、すべての獲物を上納金として差し出した。漁協関係者から見ればほぼ値の着かないサザエである。しかしその量たるや生半可なものではなかった。　確かに三島灯台付近の岩場でサザエを根気よく拾い集めれば、この程度の数にならないこともない。だが、短時間にここまで集めるとなると、舟の上からでなく、潜るしかない。潜水漁法は禁止されている。「どがんしたけんかいのう……上納ば受け取ったもんかどうか……」「組合長に訊くしか無かろう」　果たして受け取ったものかどうか、喧々囂々の意見が飛び交う中、美咲は漁協を抜け出し自宅に向かった。結果は訊くまでもない。御手洗からすれば、沖合で美咲に注いでしまった以上認めるしかない。美咲への上納金代わりに、禁止されている潜水漁法で乱獲し、それを灯台近くの磯に潜めておいたのは、何を隠そう自分だからだ。「ウチんやつになんて説明するかじゃ」　御手洗は独り語ちた。若い頃はナメてかかってたが、念願かなって沖合で絡め、その良さに改めて惚れてしまっていた。この後、どうやったら美咲を妾に……血筋という文字が頭を過ぎった。が、ペニスに付着した美咲の残り香が鼻腔をかすめた瞬間、その足は小島家に向いていた。
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【知佳の美貌録】
2025年3月29日掲載
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