はちみつ太郎 作
| １０５ 外で食事する妻を気にするのは、どれくらいぶりだろう。昇は、その年数を数える事すら手につかないでいる。海外サッカーの始まる時間。いつもなら、寝ている笙子をよそ目に暗がりのリビングでビール片手に眺めるだけだが、携帯を気にしすぎ、電池の残量を減らし続けている。 「もう、・・・してるんか。」 再度、受信ホルダーを開封してみても、そこにあるのは既読のメールのみだった。『夕飯をご馳走になりました。』その後の記述はない。 ＡＭ３時を越えて帰宅しますの一言もないのは、どこかしらにしけこんだ、か、帰宅途中の車の中で会話が弾んでいる。どちらにしても、承諾した昇に不満を述べることはできないことだった。 サッカーが前半を終え、その間のハーフタイムには、前半のハイライトが繰り返されている。昇は目をつぶると笙子の姿と見知らぬ男が交わりを始める前の前戯がまぶたの裏で繰り返されていた。 「あぁぁ・・・。」 いらだつ昇の下腹部は、酒に血流を奪われているように肝臓への処理のほうに尽力している。脳内の処理もおぼつかず、はいているジャージ越しに下腹部に刺激を加えていた。 思い切りがつかずにいる昇は、カーテンを何度もちら見し、笙子の帰宅を待ちわびている。おそらく、事件以降、笙子は性行為をしていない。自分との交わりを滞らせ、３ヶ月のブランクは笙子に何を与えるのか昇は少しその不安を重く感じている。 「しかたないよなぁ、できねぇし・・・先生の言われる通りかも知れんし。」 ジャージの上からさすれども回復の基調は見えていなかった。後半が始まりの合図をホイッスルで知らせると、音もなく開いたドアに昇は気がついた。 「ただいま。・・・起きてた？」 「おかえり、うん・・・やっぱり、寝れなくて。」 「ごめんね。」 「ご飯・・・だけ？」 「・・・。」 笙子は首を横に振る。そこに涙はないし、申し訳ない顔もなかった。昇はそれに憤ることもなく、笙子はソファー横に座ると、おでことおでこをすり合わせながら昇にキスをする。 「怒ってない？」 「怒らんよ。・・・だって、治療だし・・・それに。」 「それに？」 「帰ってきた笙子見て・・・なんかすごい、ほっとして。」 「うん、ありがと。」 笙子は再び昇にキスをせがむ。舌を突き出すと、昇の無精ひげの顎に手をかけ、横向けの顔に近づいていく。 そのまま倒れこむように横たわると、笙子の短い髪の毛から香るタバコの香りに気がついた。 「タバコ吸う人なんだな。」 「臭う？」 「あぁ、髪の毛・・・少しだけ。」 「車で送ってもらったから・・・一緒の時は吸ってなかった。」 「そうか・・・いい人？」 「一回だけだから・・・わかんないけど、いい人っぽい。」 「・・・何回？」 「言わなきゃダメ？」 「先生に言われてる・・・抑えちゃダメなんだって、そういうこと聞いて・・・抑えちゃダメだって。」 笙子は、夫婦以外誰もいないリビングで耳元でささやいた。 「２回。」 「生で？」 「違う、ちゃんとしてくれた。・・・ゴムの中で出すのもダメだろって・・・お腹に。」 「もう一回は？」 「おっぱいの間。」 昇は、確かめるように胸元に顔を近づけ鼻を嗅いだ。香水の匂いでもなく石鹸の香りを少し感じると、浴びたシャワールームを想像してしまう。 「シャワーとかって、一人？」 「え、・・うん、最初は。」 「じゃ、帰る前のは・・・二人でってこと。」 「うん・・・。」 昇は笙子の正直な告白に怒りよりも下腹部に充満する熱量のほうを多く感じ取った。状況の確認作業はまだ続くいている。 「洗いっこみたいに？」 「そんな若くないし・・・。ま、流し合いくらいは。」 昇は少しいらだった、聞けば聞くほど興奮を覚えるのだが、肝心な下半身にいくはずの熱量の具合が芳しくない。笙子は確かめるように昇の下腹部をさする。 大きくない縮こまったままの陰茎は、手に触れる感触もわびしい物だった。少しジャージをずらし出てきた芋虫を丁寧にむき出すと、笙子は昇の意思を聞くまもなく吸い付くように芋虫を食らった。 「あぁ。」 かすかな声を昇はあげる。亀頭に触れた笙子の舌は、幾度も唾液を纏わせていく。ある程度の熱量の変化は感じるが、余した皮は、芋虫を覆うように亀頭を隠そうとしてる。 「ちゅぽちゅぽぽ。」 「笙子・・・まだダメかも。・・・もっと聞かせてくれよ・・・今日の出来事。」 「いいの・・・聞きたくないと思ってた。」 笙子は亀頭を口から離すと、指先で陰茎をしごきながら松山との交わりを詳細に話しはじめていく。 食事を終え、支払いは松山が済ますと、松山の自家用車であるＳＵＶに乗り込んだ。松山は送り先を尋ねるが、笙子は煮え切らない答えでドライブをねだっている。 １時間ほど、車を走らせる松山。意図したように終着地を笙子に告げると、軽く頷いた。５階建ての賃貸マンションの４階に松山の目指す地があった。 「ここ・・・自宅ですか？単身赴任？・・・え、あ、聞いてなかった・・・独身でしたっけ？あ、お子さん出来たって。」 松山は、薬指の指輪を見せる。鍵を開けると笙子を中にいれ、背後を気にするように鍵をかけた。チェーンロックも施されると密室になったその部屋の雰囲気を笙子は感じ取る。 「どういう部屋なんですか？」 「ここかい、・・・隠れ家ってとこだね。・・・心配しないで、今日は誰も来ない。」 殺風景だが、女性的な印象の物は何もなかった。無線機、カメラ、手錠、パソコン、松山の職業柄、想像の範囲で印象を述べた。 「監視部屋とか？」 「まぁ、そんな感じ。・・・４課と生活安全部が使用しててね。」 「一般人なのに、いいんですか？」 「いいよ、責任者は私だから・・・何か、飲みますか？」 「あ、・・・お酒をって・・・ないですよね。」 「ありますよぉ・・・これでもいいですか？」 松山は酎ハイの缶を手渡すと、自分の缶もあけ、乾杯するように口に流し込んだ。半分ほど流し終えた松山は、笙子のほうを向いた。 「シャワー、使えますよ。・・・タオルとかも置いてあるし、・・・。」 「あ、はい・・・じゃ、いただきます。」 笙子は、狭さほど感じないが、男所帯の脱衣所に踏み入れる。バスタオルは何枚か置かれていた。服を脱ぎ捨てると、下着などは服の下に押入れ見えないように配慮している。 笙子は、警察の監視場であることは昇には隠したまま伝えている。松山の職も、事件の担当刑事であることも告げていない、行為に及んだのも、向山が用意したアパートであり、松山の職も消防士であることを教えている。 昇の問い詰めは激しくない。自信を失っている夫の聞く耳は、大きくなり、些細なことももらさずに聞こうとしていた。 |
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| 2014.9.1掲載 |
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