はちみつ太郎 作
| １１０ 午前２時を回り、眠気を催している昇は、ＴＶの画面を見ることが出来ないくらい瞼が引っ付きかけている。笙子が見知らぬ部屋に篭ってから連絡のない時間は、３時間を越えていた。 携帯は充電器にささり、６０パーセントの充電で再び放電を始めていく。笙子からのホルダーをタップするが着信メールは、通販サイトのＤＭのみだった。 開かれた昇の受信ホルダーと繋がっていない笙子の送信ホルダー。Ｃｏｍｍで繋がっている向山には、笙子の性癖とこれから処遇についてが垂れ流されているように、音声データが届けられていた。 勾留延長は、向山が承認することもなく、却下もされていない。自ら、余罪を取りし続ける笙子は、取調べ中にも関わらず、手錠を嵌められたまま、汗を流すことも許されてはいなかった。 手錠拘束から４時間近くが立ち、手首の赤身を気にするが、松山はその拘束を解こうとはしない。笙子はそれをねだることも、要求することもなく、３回の射精を、首元と腹、そして口内で受け入れていた。 そのつど、ティッシュでは拭われるが、汗にまみれた精の香りは、部屋の中に充満しているように感じられた。換気を求めても、出てしまう声を気にすれば、求め合う物も薄くなってしまう。 「・・・。」 ３時を過ぎた頃、所用の電話が松山のスマホに飛び込んでいた。汗だけを拭い、来ていた服に着替えると、笙子をそのままにして、部屋を出て行った。不安がる笙子を説き伏せるように、ここの鍵は、自分しかもっていないことを何度も繰り返して出て行った。 ３度の射精で体は精子臭く、また、汗をかきそのままの自分の体臭も多くはないが感じている。それは、大きく万歳のまま汗を染み出している、腋からはっしている臭いだった。腋臭でもないが、篭っている腋の臭いは笙子の顔の横で身動きをとれず、ストレスを感じながら汗が滲んでいた。 「遅いしっ。」 笙子は、時計を見ている。２０分は経っていた。どれくらいで戻るとも言わぬ松山は、簡易ベッドの笙子を半裸のまま置き去りにしていた。 誰もいない玄関に向いている、笙子の生殖器は風の起きない部屋の中で、蒸れたまま放置され、その放置が蜜壺の具合を湿らせてしまっていく。 少し、目を閉じ仮眠までいかないくらいの休息を取っている。その時だった。 「コンコン、・・・松山課長補佐、お迎えに上がりました。・・・課長補佐、居られませんか？コンコン。」 ドアの向こうに迎えであろう男の声がする。携帯を取り出し、所在を確かめ始めたようで、若い男の声は、少し絞り気味で玄関前で役職を連呼するように電話での所在を確認する。 「補佐ですか？あ、はい、・・・電気ついてます。・・・どこに居られます？じゃ、５分ですね・・・玄関で待ってます。」 リビングの横、流しの窓に男の影が何度も映る。クレセントは掛けられているのだろうか、そこを開けられたら、笙子の姿は丸見えだった。足を閉じても、体をくねらせても、陰部は隠れるものの半裸の肌は避けられるものではなかった。 五分の時間が５０分にも感じられる。外で待つ男は、何度も電気のついている中を気にするように流しの窓に顔を近づけていた。なんとなく、誰かがいる気配を感じているのがわかる。刑事の卵であろう彼は、その臭覚を今、研ぎ澄まそうとしている。 笙子は物音を立てずに息を呑んでいる。何度もつばを飲み込むとその喉の音すら、聞こえやしないかと汗を滲ませてしまう。 その汗も、敏感にさせられた生殖器のまわりの分泌穴からは、成分の違いはあるものの吹き出る汗のように陰唇に垂れ下がり、尻間にその雫をこぼしていた。 拭うことも出来ぬ笙子は、滲んできた生殖器にかゆみを覚え、腰をくねらすようにし、かゆみに耐えている。体をくねらせた時、手錠が簡易ベッドのポールに金属音を鳴らす。 「カチャッ。」 「ん？」 若い刑事の顔がすりガラス越しに近寄り、顔の輪郭から眉の太さ、モザイクのかかる画像くらいまで判別できている。窓の手をかけるが、クレセントに阻まれ開けることは出来なかった。笙子は、窓に手がかかった瞬間、多く分泌された膣液を感じたが、それを確認する術はそこの若い刑事にしかない。 あきらめるように窓から離れると、次の瞬間、松山の顔を見つけたのか、会話を始めている。刑事の臭覚を松山に知らせるのは、顔を見るや否やで、中の状況を聞き取った。 「課長補佐、・・・中、誰かいませんか？なんか、音がしましたし、・・・空き巣とか？」 「あぁ、少し腹減ったからな、電気つけたままコンビニに行ってたんだわ。誰も居らんよ。」 「そうですか、ならいいんですけど。気になって。」 「刑事の勘。・・・成長の証か。」 「そんなもんじゃないですけど。」 「栗山が姿ぁ現したって？」 「はい、ビジネスホテルのフロントから・・それっぽいのがって。」 「そうか、３０分かからんかそこまで。」 「はい。１５分ですね。・・・車、下に置いてます・・・。」 「エンジンかけて待ってろ・・・部屋の電気と、手錠取ってくる。」 「はい、じゃ、準備しておきます。」 ドアが開いた。松山の姿は玄関口にある。若い刑事は、中を見ることなく扉の向こう側を素通りする。中を見たのか見ていないのかは、判別しがたいが、立ち止まらないということは、そういうことだと胸をなでおろした。 「もぉぉ・・・。」 笙子は、半泣きの顔をしたまま口を尖らせ抗議の顔を見せえている。 「どぉ、緊張した？」 「ダメだって、開けられるかと・・・もぉぉぉ。」 「ごめんね、これから臨場なんだ・・・１時間かからんと思うし、４時過ぎには帰るよ。」 「え・・・このまま？」 「が、いいんだよなぁ。」 「えぇぇぇ、こまるしぃぃぃ。」 「寝てていいよ・・・帰ったら送るし。」 「だめだってぇぇ。」 「若いのが上がってくる・・・じゃ、いって来るから。」 「ちょちょ・・・ほんとですかぁぁ。」 松山は玄関まで行かず、洗濯機を覗き込むと、笙子の履いていたショーツを手に取り、大きく広げると、足を通し、再びもとの位置にまで戻すと、繁茂も陰唇もそこに隠し本来の役割を言いつけていた。 笙子はジタバタすることなく、松山の去り際を見届ける。廊下に近づく、新聞配達の音を聞きながら、再び足を固く閉じた。バタと閉められたドア。 「え、鍵、・・・かけてよぉぉぉ。」 絶望とまでは言わないが、大きなスリルを自動的に味わされてしまう。 「課長補佐、遅いですよ。」 「わるい、手錠、署においてるわ、お前さん持ってるよなぁ。」 所持品を松山に見せた若い刑事は、アクセルを踏み、手配人の現れたというビジネスホテルに向かう。もう一つだけ、若い刑事に尋ねている。 「そうだ、生活安全部・・・あの部屋、いつ使うって言ってたか？」 「え、あぁ・・・日曜の朝、８時引渡しじゃなかったですか。」 「そうか・・・じゃ、急がないかんな。」 松山は、腕時計を見つめる。時刻は午前４時を少し回ったところだった。 |
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| 2014.9.13掲載 |
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