はちみつ太郎 作
| ２ ダブルサイズのベッドの上で、何かを忘れるために男は腰を突き上げている。いつもより激しいのは、そうされる女も判っていた。 「あぁぁ、あぅぅ。」 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・はぁ、はぁ、はぁ。」 長くすらりと伸びた両足を割り開かされた笙子は、鬼気迫る昇の突き上げを受け入れているが、その形相を見ることは出来ず目を閉じたままだ。 昂ぶりのため目を開けられないのではなく、いつもの優しい目をした夫ではなく強姦魔に犯されていると錯覚しかねないほどの、ピストンだったからだ。 あまり大きくはない夫のそれも、勢いだけはあり続けるためか幾度となく笙子の結合部より外れてしまう。 「くそ、くそぉ。」 「あぁ、あぁ、あぁ、あぁ、・・・はぁはぁ。」 ぬるりと外れた陰茎をさやに収めるまでに時間がかかると、昇のいらいらは増していく。 「笙子、上になって。」 「う、うん。」 言われるがまま、笙子は横たわる昇にまたがり、自ら鞘に矛を収めようと割れ目に添わせていく。 根元付近をつかみ、天に向けると、強張りが薄らいでいる陰茎の先端から白い精液がドクンと放出された。 笙子の陰部には少しばかり精液が付着するが、大部分は昇の腹の上に付着した。 「はぁはぁ・・・笙子、おれ、だめだなぁ。」 「そんなことないよ、そんなことない。」 慰めるように笙子は、昇の腹の上の精液を舐め上げ、ビクビクとした亀頭も口の中に収め丁寧に吸い込んだ。 亀頭の周りを何度も繰り返し舌で刺激を加えても、エレクトすることのない昇。睾丸付近にも舌を這わせながらエレクトを待つが回復の気配はなかった。 太ももの付け根付近を入念に舐め続ける笙子に、昇は声をかけた。 「もういいよ、笙子。」 その声に反応した笙子は、昇の顔を覗き込んだ。視線は泳いでいた。完全に生気を失った夫にかける声を失った。 「シャワー浴びて来いよ。」 「うん。」 裸のまま、脱がされたショーツとブラ、長袖Ｔシャツとハーフパンツを持って階段を降り、バスルームに入った。 体だけにお湯を当て、髪がぬれるのを気にしてか、当てるお湯は下半身に集中していた。夫の調子の悪さで昂ぶることも薄かったからか、シャワーヘッドは祥子の不完全燃焼に当てられている。 「あぁ、・・・・あんっ。」 直接当てているわけではないが、不完全に終わった昂ぶりは、ある程度まで昇らせてくれた。いつ、夫が入ってくるかも判らないので、１、２分おきにシャワーヘッドをあてがい、外すとボディーソープで火照った隠核包皮を揉みこんでいた。 指先を中にくぐらせるた時、夫の顔は浮かばなかった。第二関節までくぐらせた時、目をつぶったまぶたの裏には、ある男の顔が浮かび上がっていた。 覗き込まれるように瞼の裏でその男がささやきかける。『気持ちよくなろうよ。笙子先生、一緒にね。』あわてて抜き取った指は、ボディーソープではない笙子の泡が纏わりついていた。 朝になり、いつもより早めに出勤する笙子。早番のため昇よりも早く家を出る。気がかりだが、朝食はいつも通り食べていたので、気にせず出かけた。 ある程度のリストラの内容は話し合った。工場閉鎖に伴い、単身で別工場へ移動となり、それを承諾しなければ、再就職の企業を斡旋するという話だった。 転職も考えたが、給与は格段に下がり、しかもほとんどが契約社員での採用だった。６月までは猶予があるが、その間は自宅待機で給与は半減することが決まっていた。 笙子の給与は、保育士としての給与は堅いが、昨年末に建てた家のローンは３５年残っている。 あれこれ考えながら、保育園の駐車場に車を止めると、同じタイミングで入ってきた黒のハイブリッドカーが笙子の横に止めた。 「おはようございます。笙子先生。」 「あ、おはようございます、江藤先生。」 笙子は江藤に視線を合わせられなかった。昨晩のバスルームでの自慰で瞼の裏に出てきた男の目線は、異常なまでに恥ずかしさを覚えたからだ。 気にすることなく江藤は、荷物を降ろし上履きに履き替えていく。笙子と交わしたのは挨拶それだけだった。 笙子は、着替えをロッカーに預けると、早々に登園してくる園児たちを笑顔で出迎えた。 いつもと同じ時間が保育園を通り過ぎている。お昼寝の時間が始まり、皆の寝息が聞こえ始めたころ職員室に戻ると、副園長に呼び止められた。 「笙子先生、ちょっといい？」 「あ、はい、なんでしょう。」 「あのね、７月のよいさ踊りの事なんだけどね。公立の保育連で園から二人出ることになってるのよ。」 「えぇ、私ですか？」 「そう、江藤先生が出られるんですけどね、この園で踊りがうまいのは笙子先生だって言うもんだから、どうかなって。」 「えぇぇ、踊ったことないですよ、よいさ踊り。」 「見たことはあるでしょ。」 「そうですね、・・・他に立候補のかたは？」 「それが、ね・・・いないのよ。お願いしますよ、笙子先生。」 「じゃぁ・・・は、はい。判りました・・・。」 「ありがとう、これ、冊子ね。あとは、江藤先生とお話してください。」 副園長は、保育連からのプリントを渡すと、別の用事に取り掛かり始めた。プリントを見つめる笙子は、日時やら準備物などを記憶していく。 「土日が潰れそうね。」 「そうですねぇ。」 江藤は笙子の背後でそう呟く。振り返る笙子は、椅子に座っていたため上目に視線をむけ江藤の顔を見た。 「江藤先生、よいさ踊り経験者ですか？」 「えぇ、去年もでましたよ。笙子先生は？」 「いえ、初心者です。色々、教えてくださいね。」 「えぇ、みっちり教えてあげますよ。」 江藤は体を大きく動かしながら、アピールを続ける。そこに、嫌らしさや嫌味はない。が、昨晩の瞼の裏に現れた男との会話は、心臓の鼓動を少しばかり早めていた。 後日、顔合わせ日を確認した二人は、少しばかりよいさ踊りについて話をしている。伝統的な踊りと最近のダンスの部門に分かれている為、若い保育士を選抜しているとのこと。 ７月の初めの土曜日に開催されるまで、毎週金曜の夜、各学区の体育館で練習を行うなど、大体の進行状況は確認できた。 「じゃ、個別にわからないことがあったら、園の講堂で夕方空いたときにしましょうか？」 「そうですね。」 「あ、でも、」 「でも、？なんですか。」 「笙子先生は、旦那さんがいますもんね、あまり遅くまで出来ないですよね。」 「ま、まぁ、でも、理解してくれると思いますよ。」 「そうですか、でも男の保育士と一緒って、気にならないんですかねぇ。」 「大丈夫ですよ。」 「僕が旦那さんなら気になっちゃうけどなぁ。・・・あ、そろそろ、３時ですね。」 「あ、ほんと。」 廊下から部屋に向かう江藤の逆三角形な背中を、笙子の視線は追い続けていた。 |
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| 2013.12.11掲載 |
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