はちみつ太郎 作
| ４１ 悟と笙子の交わりが解けたのは、午前３時半過ぎだった。 ３時間ほどの睡眠は仮眠といえるほどの短さだった。身支度を調え、昨晩の浴衣と厚めの丹前を着た二人は、朝食の場に足を運んだ。 悟は、笙子の後姿を見ながら半笑いだった。くすっと声が聞こえると笙子は振り返り、頬を膨らませて手を出した。 「紐だろ・・・寒くないか？」 「寒いよっ・・・だって、着替えのも持っていかれてるんだよ。」 「臭いも嗅がれてるわけだし、・・・それだけで、濡れるんか？」 「そんなことありませんっ。・・・かえしてくれるんかなぁ？」 「今時、ブルセラショップもないだろ、あの支配人だったら、自分のものにしそうだけどな。」 「やめてよ、・・・お気に入りだったんだけどなぁ。」 「黒いの？」 「うん、・・・少し高かったんだぁ・・・上下で９０００円くらい。」 「えぇ、・・・安いか高いか、良くわからん。」 「そこそこだよ。・・・あ、今度、買ってね。」 「はいはい、・・・あ、おはよう。」 悟は前を行く二人に声をかける。若い二人は、田沢とマネージャーの佐奈だった。佐奈は、悟ではなく同姓の笙子をみつめていた。 目線は、この女か淫乱人妻めっ、という感じ受けられる。貫一は、同じく笙子に視線を合わせた。下半身に目を移してしまう。昨日の剃毛は悟の知るところであることはわかっている。その叱責を喰らうのでは少し引き気味に話していた。 「すいません・・・あ、あれは・・・。」 「あ、これのこと・・・いい、いい、・・・いい感じだったよなぁ、笙子。」 笙子の股間に指を指した悟が手を振りながら言った。笙子はその手を振り払うように貫一に声を掛けた。 「え、あ、あぁ・・・気にしなくて良いよ、貫一くん。」 「貫一くん？・・・先輩、奥さんといい感じじゃないですか。」 「うるせぇよ、・・・後輩の分際で、いつも、上からなんだ。」 「後輩ちゃんは・・・勲さんと？」 「え、・・・旦那さん知ってるんですかぁ？」 「あぁ、なんとなくだけど。でも・・・すごいだろ、あのおじさん。」 「ま、まぁ・・・気持ちよくなって、お小遣いもらえて・・・一石・・・三鳥くらいです。」 「最近の娘だね。おじさん、ついてけないわ。」 「旦那さん、大丈夫です。全然、○ですよ。・・・範囲内、どんぴしゃ。」 「そう、まだいける？」 「いけますいけます。・・・夜来てくれればぁ。」 「お小遣いあげれないよ。」 「旦那さんならいらないですよ。・・・社長くんからはもらうけどね。」 「おそろし。」 隣り合わせのテーブルに腰掛ける。会話は少し収まっている。仲居が食事を膳に乗せ始め、それが終わると空腹な４人は、あまり声を掛けぬままかきこんでいく。 これからの時間の使い方など、それぞれの会話が食事をしながら続く。笙子は、はしを止めた。誰もそれに気がつかないで食事を喉に通している。 「奥さま、クリーニングが出来上がっております。・・・お受け取りください。」 「あ、ありがとうございます。」 旅館の土産袋のような紙袋を支配人に渡された笙子。中身は、そこにいる皆が知っているものだった。 支配人が姿を消すと、悟は茶化すように言った。 「匂い嗅ぎましたよ。って、顔に書いてあったな。」 「ちょ、ちょっと・・・。」 「奥さん、・・・パンティー変えられてますよねぇ。」 佐奈は、悪気なく笙子に話しかける。 「え、うん、・・・あなたも？」 「えぇ、・・・ま、わたし、いつもここからもらった、ショーツ。お気に入りなんで、毎回、新しいのがもらえる感じでうれしいんですけどね。」 「あ、あんな感じのでも。」 「えぇ、大好きっ・・・奥さん、嫌い？」 「あ、ちょっと、はずかしいかなぁ。・・・ね、ねぇ。」 「いやぁ・・・俺は、っていうか、男はみんな好きなんじゃないかなぁ、貫一くんも。」 「そうですね。・・・大好きです。・・・佐奈、お前のは別だけどな。」 「へぇ、奥さんみたいな、穿きそうにない人が穿いてるのが良いんでしょ、変態先輩。」 「うるせ。」 「いや、いいとこ突いてるよ。そのとおり、いつもと違う・・・これこそがエロス。」 会話が違う方向に向かいかけ、それを元に戻すものもいない。笙子は、袋の中身をテーブルの下で確認する。 違うものだった。色も形状も違う、ショーツとブラがきれいに入れられているが、着替えで持ってきた黒も、穿いていたベージュのも入っていない。 声を出さずに上に乗せられた便箋を開いてみる。男の文字がボールペンで煩雑に書かれていた。 『奥さまへ 大変申し訳ありませんが、クリーニングでお預かりさせていただきましたベージュのショーツとブラは、染みが濃いため洗浄が上手くいかず、色落ちをさせてしまいました。当方のミスでございますので、サイズとメーカーなどをお調べし、新品のものをご用意させていただきました。誠に勝手ながら、代用の品でお許し願えませんでしょうか。 支配人』 笙子は、声が出なかった。他人との性行為より笙子の受けた衝撃は大きい。支配人が、その晩、何をしたのかは想像できた。この旅館の離れに泊まる男女が何をしているかも知っているはずの男がだ。 笙子の履き汚れたショーツを匂い、舐め、その夜の性活すらを想像しながら、汚れた陰茎でショーツを握り締めたに違いないと。 悟が問いかける。 「入ってた、クリーニング？」 「うん、・・・入ってた。」 「絶対、嗅いでるよね、舐めてるとも思うし。」 「そ、そんなことないでしょ、さすがに。３０前のおばさんのパンツだよ。」 「おれは、そこだと思うなぁ。支配人の歳なら、笙子だって若い女だよ。」 「えぇ、そう見られるほうが、なんか、怖いねぇ。」 笙子はそういうと、残りの食事に手を出そうとするが、少し喉が通りにくく感じ、デザートだけを口にして、箸をおいた。 チェックアウトまでは、まだ２時間以上ある。１１時まで滞在可能とされた離れの部屋で、浴衣姿のまま戻った二人は、片付けられた部屋の座椅子でお茶をすすっている。 笙子は、早く着替えたかった。浴衣だけでなく、紐状のナイトウェアをだ。だが、悟の前では着替えにくい。いつもなら、気にすることなく着替えるのだが、自前のショーツではなく、支配人が用意したセットでは安心することは出来ない。 だが、今の紐状よりもましな感じのした袋の中身は、開けることを戸惑わせる。同色ならまだしも、支配人の好みなのか、薄いブルーのものだった。切れ込みは深く、昨晩の貫一の剃毛のおかげか陰毛のはみ出しはしなくてもすむのだろうが。 悟は外を眺めながら、もう一度湯にはいろうかどうか悩んでいる。笙子にも尋ねるが、化粧もしたいのでと断り、一人で入るよう促した。 文句を言うわけでもなく悟は一人で素っ裸に着替えた。笙子は、タオルや着替えを洗い場の付近に重ねておく。悟は、声を掛け感謝の言葉と微笑で返している。 笙子は、手に取った自分の着替えと、支配人から渡された下着の袋を持って洗面所に消えた。悟の視界から消え、丹前と浴衣を脱ぎ終えると、鏡に写ったＴバック姿にもう一度恥ずかしさを感じさせられる。 だが、体を少しくねらせ、食い込んだ紐を際立たせても見た。身長の高さもあいまってか、自分でもまんざらでもない感じに、再び頬を赤らめた。 乳首だけを隠しているブラ。剃毛してようやく繁茂を収めきったＴバックショーツ。上から脱ぎ、下の紐パンティに手をかけると躊躇なくずり下げる。 股布のごく小さい部分を裏返しにし、汚れを確かめた。最後に悟の精を受け止めたのは、午前３時ごろ、シャワーを浴び陰唇も丹念に洗い流したが、気になるのは夫ではない男の精のためだった。 おりものも、分泌も感じられない股布に安堵したのか、折りたたみようのない紐はくるくると丸まり、旅館の紙袋に収まる。 その袋から取り出したのは、上下セットの薄いブルーのショーツを広げてみる。食い込みというより、脱いだＴバックよりは布生地が少し多いだけで、ほぼＴバックに感じられる。 仕方なさ顔で、足を通し、腰まで上げると腰をくねらせ姿見に写している。 「・・・、いいセンスかも。」 正直なところ笙子はこういったショーツが欲しかった。ネット通販などでも見ていたが、購入には二の足を踏んでいた。昇がプレゼントするわけもなく、また、悟におねだりすればそれ以上のどぎつい物を購入するに違いなかったからだ。 肩紐をくぐらせカップを乳房に当ててみる。ホックを留め、カップの中に乳房の柔らか味を押し込むと、きつさもなく、ジャストサイズだった。 「ん、いいかも、・・・お尻のとこにリボンついてるんだぁ。・・・かわいい。」 尻の谷間に食い込んだブルーの生地も感じよく見える。ブラのカップの収まりも悪い感触はない。肩のストラップも気にならず、ワイヤーの硬さもない。 笙子は、一度つけたブラのホックを外しタグを見た。有名メーカーと有名デザイナーがコラボしたロゴがタグに印刷されている。 「へぇ・・これって、支配人のセンスじゃないよね。・・・社長さんかなぁ。」 半信半疑のまま、くるっとウエストでホックをすると再び肩を通しカップに収める。もう一度鏡に半裸をくねらせる。 「支配人お気に入りの下着かぁ・・・笙子、お似合いだよ。」 「なにっ・・・なんだ、お風呂じゃなかったの？」 「入ったよ。・・・だけど、笙子が消えたから、・・・オナニーでも始めたんじゃないかと思ってね。」 「しないよ。」 「似合ってるよ、それ、・・・結果、支配人にパクられて、それをあてがわれたって事か。」 「うん、・・・でも、いいやつだよ、これ。」 「へぇ・・・肌触りもいいなぁ。・・・お股汚されてなかった？」 「そんなことないよ、袋、入ってたし。」 「支配人センスにしては・・・。」 「そう、・・・勲さん？」 「かなぁ、・・・あの人だったら、一緒に買いに行くし、もっとＭ嬢的なものを選んでるだろ。」 笙子は気に入ったのか、なんども腰をくねらせお尻を鏡に写し込みながら、悟から視線を外している。悟はショーツの肌触りを手のひらで確認する。背後から繁茂の隠しを一撫でし、指先だけを布の奥に越境させる。 「い、いやんっ。・・・汚れるっ。」 「我慢すればいいじゃん。・・・それとも、支配人にもう一回クリーニングしてもらうか？」 「ばかっ。・・・これしかないんだよ、帰るまで。」 「紐があっただろ、捨てたのか？」 「・・・。捨ててないよ。」 「もって帰るん？」 「どうしよ、・・・家に置いてても・・・ねぇ。」 「こうしよ、・・・笙子のま○汁で、湿らせて、・・・支配人に渡そうよ。」 「え、・・・ばかでしょ、それじゃ。」 「そうかなぁ、・・・絶対、喜ぶし、それなりに高いブランドなんだろ、これ。」 「うん、・・・上位モデルなら、一万くらいかなぁセットで。」 「だったら・・・だろ。」 「・・・。」 笙子は口を閉じる。悟は袋から紐のＧストリングを取り出した。広げて見せると、あきれた顔の笙子は、ブルーのショーツをずり下げた。 洗面台に脱いだショーツを置くと、悟はＧストの紐を広げ笙子の足を通させる。スルスルと腰まで上げると繁茂を収めさせ、背後から抱きしめた。 「ほんとにするの？」 「本気だよ。・・・帰りに渡そ、顔が見てみたい。」 「ばか。・・・あんっ。・・・あんまり、指、入れないで。」 「どうした？」 「うん、ちょっと、擦れると、痛いんだ。」 「エッチしすぎだし、笙子。」 「誰のせいよ。・・・あぁぁぁ、・・・クリちゃん、・・・触るだけにしてぇぇ。ショーツの上からだよぉ。」 「あぁ、わかった。お望みどおりだ。」 少ない布の上から淫核の部分を摩り、湿り気を親指に感じるまで悟は首筋、乳首、も同時に攻略していく。口で喘ぎを押えている笙子は、反抗すらせず支配人に供すべくＧストを淫らな分泌液で汚していった。 チェックアウトの時間に、離れ専用の出口には勲の姿はなかった。車を廻してもらう数分前に、悟は電話を鳴らし感謝の言葉を述べている。所用で旅館を離れていることを聞いた。ある事を聞かれたので悟は、１１桁の数字を伝達する。 その見返りと言ってはなんだが、クリーニングの一件を問いただすと演技でもできない声で聞き返された。悟は勲の声で間違いなく支配人の独断だと感じている。 笙子と悟は車寄せに止められたハイブリッドカーに乗り込もうとする。洗車されていた車に支配人の姿が映っている。 悟は笙子に目配せをすると恥ずかしそうに、支配人を呼び止めた。先程、渡したはずの紙袋を笙子は持っている。 気に入らなかったのか、気に障ったのか、支配人は申し訳なさそうな顔になっている。 「これ・・・お返しします。・・・。」 笙子はそれだけを言うと、支配人の手に紙袋が渡ったのと同時に助手席に乗り込んだ。少し、申し訳なさそうな顔はなくなり、業務の一環であるお見送りの顔で、二人を見送った。 支配人は、残念そうな顔で紙袋をぶらつかせ、離れから本館までの業務用通路を歩く。だれもいないその通路で、紙袋をのぞく。 「あっ。」 声を出した支配人は後ろを確認する。誰もいない。温泉用のボイラーの基礎に腰をかけると、袋の中身を取り出した。 紐状のＧストリングスとブラのセットが入っている。支配人は、匂い立つその紐をたくし上げると、もう一度背後をきにした。 「まだ濡れてる？・・・あ、さっきまでしてたんだ。この・・・ぬめぬめ。」 股布の少ない生地は、湿り気があり、支配人は油ギッシュな鼻をそこに擦りつけ、笙子の分泌液を嗅いでいる。 ワインソムリエのように鼻で蜜を味わい、心中で品評する。大きく臭気を吸い込むと、名残惜しそうに紙袋にしまった。 自分の書いた便箋の裏が見えている。支配人は、自分とは間逆のきれいな女文字をそこに見た。 『支配人さま クリーニングのお詫びとは言え、結構な物を頂戴いたしました。これは、お返しというか、なんというか・・・。恥ずかしいのですが、これくらい、今回は楽しませていただきました。ブルーの下着、今度来るときに穿いて来ますね。その時は、また、クリーニングをお願いします。 笙子』 |
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| 2014.3.15掲載 |
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