保育士だった人妻

保育士だった人妻

はちみつ太郎作

４２

　正月休み前の火曜日。保育園も大掃除で園児まで総出だった。小さなほうきや、１０人が並んでも体育館モップ一個分くらいの雑巾がけを一列で行っている。

　笙子も、担任の園児と同じように雑巾がけを主導している。その大きくあげられたジャージの尻を悟は横目で見ながら自分の担当園児とはたきをかけている。

　はたきはいつの間にか戦隊物の武器に変わりちゃんばらや変身が始まっている。叩かれながらも悟は笙子のピタとはりついた尻を目にしている。

　いつでも見れるもの、とはいえ、仕事中に手出しをするわけにはならない。が、明日から６日間は、普通の夫婦に戻ってしまう。明日ではなく、今日の晩からだろう。

　その感情を大きくさせたのは、土日の旅行が一因だった。昇は、今日笙子の蜜を啜りに帰ってくる。それは、とめようのない事実。

　笙子の尻を見つめるその目は透視するように注がれている。

「えとうせんせ、・・・どこ、みてるの？そうじ、そうじ。」

「おぉ・・ごめん、・・・ほら、りす組さんも、雑巾かけしてるぞ、・・・こあら組もまけるなぁ。」
　団結感をみせた園児らは、笙子らのりす組をのぞき、同じように雑巾を手に持った。後ろから追いかけるように廊下をかける。

　見据えた先には笙子の尻が見えている。倉田という補助担任の保育士も胸を揺さぶりながら、前のめりだった。

　折り返してきたとき、倉田の胸元は悟の目に飛び込む。Ｆカップ、形とウエストのくびれは保育園１であるのは間違いなかった。

　視線を追いかけるもう一つに視線が気になった。笙子は倉田の胸元に悟の視線を感じていた。少し、むっとした表情で笙子は悟をにらむ。

「しょうこせんせ、・・・どうしたの？」

「ん、・・・なんでもないよ、みんなぁ、りす組の底力、コアラ組さんにみせてやろぉぉ。」

「おぉぉ。・・・ダダダダダッ。」
　廊下を行き来する園児達はにぎやかに雑巾がけをしていく。きれいになるわけではないが、はかどらないわけでもない。

　りす組の園児と、コアラ組の園児が衝突した。頭をぶつけ泣いている。園児も保育士も駆け寄った。大きなこぶではないが、一人の園児はたんこぶが出来ている。

　こあら組のほうは上級組なので泣かないでいた。こぶも出来ていない。笙子は園児を抱き、看護士のいる保健ルームに駆け込んだ。

「まちこさん、・・・やまとくん、たんこぶが出来ちゃいました。・・・氷、ありますぅぅ。」

「あ、ほんとだぁ・・・ごっつんしたか。」

「うえうぇぇぇ。・・・うん、あいらちゃんとごっつんしたぁぁ。」

「そっかそっか・・・冷やしておけばだいじょうだから・・・。」

「すいません、お願いします。・・・やまとくん、まちこせんせいとじっとしててね。」

　看護ルームを出ると、悟が顔を出した。

「どう？」

「ん、・・・たんこぶ。あいらちゃんは？」

「あぁ、なんともないし、また掃除してる。」

「石頭は、あいらちゃんか。」

「保護者、電話する？」

「うん、・・・しとかなきゃ、めんどくさくなるとやだし。うるさくないとこだからいいけどね。」

「そうだな。」

「ちょっと、・・・倉ちゃんの胸元見すぎよ。自分も園児とごっつんしますよ。」

「見てた？・・・Ｆカップ。・・・ゆさゆさだねぇ。」

「ちょちょ、っと。・・・園だよ、ここ。」
　下乳を摩られた笙子は、あわてて悟の手をふりほどき、背後を確認した。奥まった看護ルームの廊下には誰もいない。

　きょろきょろ見回した二人は、笙子の頬を再び青ざめさせる。

「笙子、・・・。」

「キャッ・・・な、なにしてんのっ。怒るよ。」
　悟はジャージのゴムに指を入れ、笙子の今日履いているショーツを確認した。ブルーのＴバック風ショーツは支配人のみやげ物だった。

「あぁ、支配人のだ、やっぱり。」

「なんでわかったん。」

「雑巾かけの時、お尻にパンツのラインがなかった。・・・いつもは見えてるのに。」

「え、いつも見てるん？」

「あぁ、・・・ここみちゃんのお父さん。お迎えの時、・・・いつも、お前の尻見てるよ。」

「え、まじで。」

「あぁ、浮き出るだろ、ジャージとかだともろに。ここみちゃんのお父さん、ジャージの時は少し長めに園にいるだろ、デニムのときは意外に早いんだ。」

「良く観察してるねぇ。」

「こんど、ここみちゃんのお父さん来た時サービスしてやれよ。」

「なんで、・・・あほくさ。」

「ちょっと、浅めに穿いてパンツのうえ見せてやったら？・・・お年玉代わりに。」

「今日、お迎えに来るよ。・・・しないけどね。」

「残念だ。もう一つ残念だ。」

「なにが？」

「支配人パンツで・・・旦那くんとする笙子。・・・残念だ。」

「お風呂はいるから、着替えるって。」

「やっぱり、するんだな、今日。」

「ありがと、妬いてくれた。」

「ムネヤケがするよ・・・六日間。」

「正月、どうするの？」

「ん、内緒だよ。・・・内緒。」

「あ、そ。」
　悟は、周りを何度も見返すと、笙子の頬に唇を触れさせた。笙子は、同じように周りを見返しながら、顎の下辺りにキスをした。

　直後、看護ルームからやまとが出てくると笙子は声を掛け、保護者の電話口にだそうと職員室まで抱っこした。

　夕方、４時過ぎおでこに湿布を貼ったやまとは、保護者の母親を見つけバッグとともに駆け寄った。腫れは引いたものの青あざは痛々しかった。

　怒った様子もなく、母親は息子をいさめている。笙子は安心し何度も頭をぺこぺこするが、笑みが戻っていた。その横をここみの父親が通り過ぎる。

「こんばんはー。」

「あ、おとうさん、こんばんは。ここみちゃん、あおぞらルームにいると思います。」

「あ、そうですか・・・はい。」

　やまとの母親と話し込むが、背後に通り過ぎたここみの父の視線が少し気になった。チラと一度振り返る。案の定だった。

　悟が言ったことは事実だった。笙子は振り返ったときここみの父親と視線が鉢合わせる。誤魔化すように振り戻った父親は、あおぞらルームに少し駆け足で急いでいる。

　笙子は、やまととさよならをするとあおぞらルームに戻った。ここみはまだ遊び足りないと、父親にわがままを言っている。笙子は、意図せず、すこしずり落ちたジャージをそのままにし、ここみの背後に屈んだ。

　背中のトレーナーは少し丈が短く、背中に冷たい空気を感じた。同時に、熱めの視線もそこに感じ取れた。

　ここみの父ははっきりと笙子のブルーのＴバックショーツのリボンを眼に捕らえる。ここみに声をかけることもなくだ。

　ここみは絵本を持ち、笙子に読んでとせがむ。父親は、すいませんとだけ言い、視線のあった笙子と視線をすぐに外した。

　回り込むように再び笙子の背後に回られる。悟の言ったとおりだった。父親は、笙子の下着に目を完全に奪われ、目に入れても痛くない娘すら目に入らないでいた。

　ここみの腰を持ち上げ、笙子は椅子に座らせる。一冊だけ読んであげると約束するとおとなしく聞いていた。

　その際も笙子は中腰だった。腰の寒さを気にせず、他の保育士がいないのもあいまってかジャージを直すこともしない。

　ここみの父は、笙子の腰に見える誘うようなショーツの青に目を取られ、娘がこっちを見ていることも気がつかない。

「おとうさん、・・・せんせのおしり、なにか、ついてるん？」

「あ、・・いや、ついてないよ。・・・さ、さよなら言って、立川先生に。」

「うん、・・・せんせ、・・・バイバイ。」

「はーい、ここみちゃん、良いお年を。」

「うん・・・よ、よ、おろしを。」

「ここみ、言えてないよ。」

「ははは、お父さんも良いお年を。」

「よいお年を。」
　笙子はここみを抱き渡すと、ジャージのゴムを引き上げ、トレーナーの下のＴシャツを中に入れる。その仕草も父親には、見せつけのように笑顔でしていた。

　満足したのか父親は、ここみの手を握ったまま廊下を振り返ることなく下駄箱まで行ってしまう。悟のいったことを実践してしまった自分に可笑しくなって笑ってしまっていた。

「せんせ、しょうこせんせ、なにがおもしろいん？」

「んー・・・なんでだろうね。さ、絵本どれ読もうかぁぁ？」

「これ、これ、・・・はらこぺ、あおむし。」

「はらぺこだよ。」

「はらぺこあおむし、よんでぇぇ。」

「はーい、じゃみんなぁ、座ってください。」

「はーーーい。」

　一年の終わりの業務、園児と戯れながらいつもと同じように終わっていく。いつもと違うのは、楽しみが一つだけ奪われた正月休みだった。

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2014.3.19掲載

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