保育士だった人妻

保育士だった人妻

はちみつ太郎作

４３

「あー、悟さんっ。お久しぶりです。・・・どうっすか？」

「おぉ、典秀、二人目できたらしいなぁ。」

「えぇ、なんせ、精子の量が多いって産婦人科の先生に言われたくらいなんで。」

「どこの先生だよ。」

「保育園が一緒なんですよ、息子の。」

「へぇ。でなんで、おまえの精子を調べるんだよ。」

「へへ、興味本位で調べてもらったんですよ。そしたら、普通の人の１．４倍らしいんですよ。」

「おもしろいねぇ、どこの先生だよ。」

「田山レディースクリニックって、自由が丘の入り口に出来たでしょ。」

「しらねぇけど。・・・ま、産婦人科の先生と仲良くするのもわるかない。」

「でしょ、顔広げるって、面白いやつやおっかねぇやつ、引っかかるんです。」

「お前が一番、おっかねぇけどな。」
　歓楽街の入り口で二人は立ち話をしている。通り過ぎる女達は、東山の大きな声と、悟の男前ぶりを差し引きしながら通り過ぎる。

「やっぱ、悟さんっすよ。女が見ていくのは。」

「お前だって、もてるんだろ。」

「いやぁ・・・おこぼれですよ。悟さんの。」

「きょうは、これからどうするんだ。」

「悟さんにおごってもらうって、・・・感じで、と言いたいんですけど、お楽しみ会です。その産婦人科の先生と。」

「谷山里子・・・も、か？」

「えぇ、・・・元気にしてますよ。」

「どういう風に？」

「五体満足で。」

「無茶してない・・・よな。」

「してないつもりですよ。まだ、玉が少ないうちですから。」

「まだ、三人だよなぁ。」

「佐々木副園長の助けも借りて、・・・５人です。今のところは・・。」

「今のところ？来年には・・・６人になるってことか？」

「情が湧いたんですか？」

「湧かないわけないだろ・・・女と分かり合うって・・・なかなか、ごまかしの出来ないもんだ。」

「深いですねぇ・・・惚れて、惚れさせて・・・落としていく。」

「落とすわけじゃないよ。・・・去っていくんだ。自然にな。」

「去るものは追わないでくださいよ。」

「あぁ、わかってる。」

「あ、・・・里子先生・・・来ましたよ。会っていきます？」

「いや、やめとくよ。・・・また、情が湧いてもな。」

「そうですね、・・・今晩、悟さんの知らない、別物になりますから・・・里子先生は。」

「・・・。」

「じゃ、良いお年を。」

「あぁ、・・・良いお年を。」
　悟は後ろを振り向くことなく雑踏の歓楽街に消えていく。東山は、ＡＵＤＩが横付けされると、後部座席を覗き込み、ドアを開けた。

「寒いッすね。・・・里子先生、こんばんは。」

「・・・こ、んばんは・・・。」

「怯えなくても良いさ。・・・さ、先生・・・おっと、二人いたんだ先生は、田山先生、診察室ですか？」

「東山さん、それは無理ですよ。・・・入院患者もいるんだし、当直もいる。使えないので、ドミネートってホテルしってますよね。」

「あぁ、ＳＭホテル。」

「そこを取ってます。」

「いつもは、看護婦さんと行くんですか？」

「え、・・・まぁ。」

「いいなぁ、紹介してくださいよぉぉ。」

「ま、また、今度にでも。」

「そ、そんなとこで、・・・何するんですかっ。」

「里子先生、時期も時期でしょ。」

「時期って・・・。」

「忘年会ですよ。忘年会、・・・すみれ組の忘年会。」

「Ｓ、ＳＭホテルって・・・何を、考えて、た、田山先生も。」

「里子先生、田山先生のたっての希望だよ。・・・俺が言い出したわけじゃない。ねぇ。」

「あぁ、はい。・・・里子先生の表情が優れないんでね、最近。僕なりの処置を考えさせていただきました。」

「びょ、病院で・・・。」

「病院じゃぁ・・・治らないものもあります。薬に頼るより・・・外科的な。」

「・・・。」

「ほぉぉ・・・あれですか？」

「佐々木副園長にも、聞いています。５人の中でももっとも、従順ではないと。」

「だからだよ、・・・竜神がなつかないのも。」

「竜神くんは、・・・関係ないと。」

「なくはないさ、まぁ、四の五の言わなくて良いよ。・・・いやなら・・・いいんだし。」

「・・・。わかってます、言うことを聞きますから・・・。」

「鎖は繋いでおくものだね。」

「さぁ、着きました。・・・三人で楽しみましょ、里子先生、麻酔もある、僕は医者だ・・・心配は要らないよ。」

　その言葉が余計に不安を増幅させる。谷山里子は、保育園帰りのいでたちで黄色の名札もつけたまま、車の中から首輪を施され降ろされた。

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2014.3.22掲載

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