はちみつ太郎 作
| ５３ 「よろしくお願いします。」 「あ、立川・・・笙子さん・・・よろしくお願いします。田山と申します。あ、ここの医師はみんな田山ですけどね。」 「あ、はい、ご家族なんですね。」 「えぇ、若いのが継いでくれて、楽隠居のはずが・・・このざまですよ。」 「いえ、お若いですから、・・・頼りにされてるんじゃないですか。」 「そうだと良いんだけどねぇ。・・・じゃ、問診から始めましょう。」 初老の医師は、おじいちゃんと言うには早いが６０を過ぎたことは髪の生え具合でも、顔の皺の具合でも見当が付く。人当たりのよさそうな老医師は、笙子に問診を続けている。 既婚か、経産婦か、生理不順ではないのか、問診に記されていく項目が終わりに近づく頃には、笙子の鼓動が少し早まっている。 老医師の後ろには、未経験の検査台がある。股を開くのは当然のこととはいえ、気持ちにゆとりはできていない。ましてや、妊娠の兆候があるわけでもなく、それを望んでの来院でもない。 「では、検査台に・・・おかけくださいね。・・・カーテンは閉めますので。シャーーー。」 視界から老医師は消える。幾分、心に落ち着きは戻る。足を閉じかげんで検査台に腰を下ろすと、検査着を尻に引き、カーテンに足を通す。 ふくらはぎを腕木のような皿に乗せると、開脚は心持ち閉じ気味で内腿は震えが見られた。看護士が一声かける。 「立川さん、緊張なさらないでください。」 「あ、はい。」 準備のためか、数分が１０倍にも感じられて、丸見えになっているだろう生殖器に空調の風が当たるだけでも恥辱だった。 「先生！・・・ちょっと、・・・高血圧の高本さんが。」 「どうしたの、はっきりいいなさいな。」 「あ、はい、血圧を下げる薬じゃなくて、間違えて、上げる薬を・・・。」 「え、それは・・・ちょ、ちょっと・・・悪いね・・・おい、検診の方を正信に・・・引き継いでくれんか。」 「はい、わかりました。・・・立川さん少しお待ちくださいね。」 「はい。」 笙子は拡げられたままの足をもじもじさせながら、医師の到着を待たされる。佐々木の方についている医師なのか、別の医師なのか、正信と呼ばれることは、若先生であることは間違いない。 数分すると、カーテンの向こうに看護士と話す医師の声がする。 「正信先生、・・・検診の方、がお待ちです。」 「あ、あぁ・・・えぇ、立川笙子さん・・・はじめまして、ちょっと、代わりましたけど、田山と申します。あ、みんな田山ですけどね。・・・若い方です。」 「あ、よろしくお願いします。」 「どこまで、進みました？」 「え、あ、・・・問診だけ。」 「了解です。・・・では、えー・・・少し洗浄しましょうか。お湯が出ますので・・・。」 笙子は、カーテン越しに聞こえる若医師の声を聞きとり不安は解消されている。老医師と同じ口調は、安心感をもたらしている。両足の力は抜け、天井の吸音板の穴の数を数える余裕もある。少し強めの水量で膣周り陰唇まわりの汚れを落とされていき、水滴を拭われたときには、尻に力が入ってしまっていた。 「ではね、膣鏡で拡げます、・・・力をぬいてぇぇ・・・はいそうです、少し拡げます、痛かったら言ってください。」 クスコを挿入すると、笙子の膣道は大きく開かれていく。見えない感覚は、笙子の想像内で増幅され続ける。 「・・・。」 鼻息なのか空調なのか、膣道の粘膜にクスコの金属と違った風が当たる。乾いていくはずの膣道は、少し湿潤を感じさせられ、洗浄し終えたはずの陰唇周りに汗を帯びる。 「立川さん・・・少し、質問してもよろしいですか？」 「え、あ、はい。・・・何か、問題でも？」 「んー、・・・旦那さんと・・・性交渉は・・・昨晩？」 「え、え、・・・あ、・・・はい。」 「そうですか。・・いえ、頸部に少し赤みがあるんでね。・・・奥の方まで・・・。」 「あ、・・・そ、そうかも・・・あ、はい。」 「あ、それならいいんです。・・・何もなされてないのに赤みがあれば、気になるんでね。」 「はい。・・・問題はないんですか？」 「えぇ、視診だけでは、・・・じゃ、頸部の粘膜採取させていただきますね。・・・えー、細胞診と言いまして、病理の組織がないかを調べさせていただきます。子宮の入り口あたりの細胞を採取しまして詳しく調べます。後日ですが結果をお知らせいたします。・・・では、痛みはありませんが力をぬいてくださぁい。」 笙子は、力を抜ききれず看護士に促される。 「立川さん、肩に力はいってますよ・・・リラックス。」 「ふぅぅ。」 「はい・・・取れましたので・・・じゃ、エコー・・・準備して。」 銀色に輝き、笙子の開脚をその流れるようなラインに映し出すクスコは抜き取られる。膣液をかすかに纏った銀のくちばしは、その汚れを始末するように拭い去られていく。 看護士は親指ほどの太さをした超音波画像診断機を取り出し、専用のコンドームを被せる。ジェルを塗り、画像機を医師に向けると、根元を掴んだ田山は、膣前庭をなぞり何度か行き来させている。 「あっ・・・・。」 「あぁ、ごめんなさい・・・痛かったら言ってください。これから、子宮筋腫などがないか超音波で画像診断します。親指くらいの太さの器具を入れます。・・・奥の方まで入れますので息を吹いて力をぬいてぇぇ・・・そぉぉぉぉ。」 「ひぃ・・・いぃぃぃ。」 「少し、回転させながら奥まで行きますよぉぉ・・・大丈夫ですか、立川さん。」 「あぁ、は、はいぃぃ・・・大丈夫・・・ですぅ。」 「あと、少しで・・・あ、奥まで行きました。・・・痛くないですか？」 「はぁいぃ。・・・なんとかぁぁ。」 「大丈夫そうですけどぉぉ・・・違和感・・・あります。・・・この上らへんとか？」 「あぁぁ・・・だ、いじょうぶぅ・・・ですよぉ。」 「はい、・・・じゃぁ・・・抜きますよ。・・・きれいな状態ですね。」 「あんっ・・・。」 抜き去られたとき、入り口付近を擦られ、前庭の上にある包皮をジェルでなぞられた。声を聞かれたか気になるが、反論も抗議の声もあげる自信はない。時間の過ぎ去るのを待つのは、もう少しかかりそうだった。 「じゃ・・・このままで、・・・触診させていただきます。指を・・・入れます。痛かったり、・・・したら、教えてください。遠慮しないでくださいね。」 「あぁ、はいぃ・・・くぅぅ。」 笙子は田山の指先の動きを膣道に感じる。医学的知識のない自分には、性行為と触診の差がわからない。看護士は、いつものことといった感じで後始末や、次の準備を行っている。 指先は、膣肉に食い込むように揉み解されている。声を押し殺す笙子を看護士は見てみぬ振りを決め込んだようで、カーテンの向こうに消える。 唇を噛み締め、出来る限りの声を絞る。息すら止め、眉は皺の数を増やすほどだった。指先は中で開いたり閉じたりを繰り返している。Ｇスポット、その辺りを触診し始めると、笙子の足は震えが始まっている。 田山は声を掛けない。笙子の感じ方に気がついているのか、指先を再びローリングさせると、膀胱側に大きく膣肉を練り上げる。 「あぁぁ・・・いぃぃ。」 「ごめんなさい・・・痛かった？・・・でも、ここ、・・・筋腫が多いとこでね・・・見逃すと全摘ってことになると・・・赤ちゃんできなくなるんでね。もう少し・・・・そう。」 田山の言葉は信じるに値した。笙子は、顔をしかめ喘ぎを堪えると、ぬるっと出て行く指先を名残惜しんだ。 「終わりました・・・問題ない感じです。・・・最後に・・・子宮体がんって、ご存知ですか？」 「え、いえ・・・。」 「最近、子宮頸がんと共に、２０代後半の女性にも体がんが増えているんです。・・・検診時、両方されることをお勧めしますが。」 「痛いんですか？」 「え、えぇ、・・・具体的にいいますと、先ほどの細胞診をしました子宮頸部より内側にキュレットゾンデという器具を子宮内に入れ、内膜の細胞を採取します。頸部の時より少し違和感はありますが・・・どうしましょう。」 「あ、お、お願いします。」 「じゃ、準備しますので・・・。」 カーテン越しに田山のシルエットが映る。視線を合わさぬように気を使っているのか、背中で作業の進行を見せている。 看護士が金具を手渡す。再びクスコが挿入されると先程より大きめに膣道を割り裂かれる感覚がある。笙子は目を閉じた。カーテンの向こうに気が取られてしまう。 ピストル状の先端には細く細かな鋏のようなモノが田口の操作によって動いている。クスコに潜らせたその金属の先端は、いともたやすく笙子の子壷の入り口に到達する。ノックされる感覚は笙子にとって、陰茎より細く細やかな動きが、快楽を通り越した恐怖を感じさせられる。 入り口での挿入は、膣肉をすぼませる。生理的な人間的な反射だった。 「少し、力を抜きましょう。・・・息をはいてぇぇ・・・そぉぉぉ。・・・ヌプッ。」 「いぃ・・・つぅぅぅ。」 「入りました・・・そのまま、動かないでください。・・・そう、そのまま・・・じゃ、吐いてください。・・・ヌヌプ。」 カチャカチャと金属の触れ合う音がする。終わったのか、まだ入ったままなのか、感覚があるようでない。田山の言葉を待った笙子は、看護士に促され、体を楽にした。再び、陰唇、膣前庭、それを通り越し膣道の入り口辺りを湯で洗浄されている。 「終わりですか？」 「えぇ・・・終わりました。・・・じゃ、マンモグラフィーのあとで、膣内の画像説明させていただきます。ご苦労様。」 田山は、顔をあわせることなく部屋を出た。笙子は看護士に洗浄後の陰唇を拭われ、次の乳がん検診に移動させられる。 マンモグラフィーは、佐々木の脅かし以上なことはなく、乳房を挟まれると、すぐに痛みはなくなり、終わったことを告げられる。 検診室に通された笙子は、田山正信と名札にかかれた医師の前に座る。検査着から私服に着替え、椅子に腰掛けると、笙子の目を見つめる田山の説明を受ける。 「ご苦労様でした。・・・細胞診と体がんの病理検査は２週間ほどで結果が出ますので、結果は郵送させていただきます。再検査の有無はそこに記されますので、わからないことがあれば電話などで相談してください。」 「はい、ありがとうございます。」 「立川笙子さん・・・これが、画像診断の結果です。・・・大きな問題はないように思います。」 「あ、はい。」 「えー、これが、子宮頸部・・・子宮の入り口です。・・・少し鮮血が見られますが、昨晩の性交渉の影響だと思います。」 「・・・。」 「お子さんは・・・欲しいですか？」 「え、あ、はい。・・・そうですね。」 「６日後・・・ですね。・・・・。」 「・・・あ、はい？・・・あぁ、・・・はい。」 「余計でしたか・・・ごめんなさい。・・・わからない方って、多いんですよ。」 「そうですか・・・はい。・・ハハハ。」 「じゃ、・・・ご苦労様でした、・・・なるべく年一回は・・・検診を行ってください。お大事に。」 「・・・ありがとうございました。」 笙子は、画像を消されることなくモニターに大写しなのがとても恥ずかしく、佐々木に見られでもしたらと気が気でない。笙子が、ロビーに向かうと、佐々木は笙子の肩をたたく。 「どうだった？」 「あ、異常ないみたいでした。」 「よかったじゃん・・・若先生？」 「え、あ、はい。」 「私、じいちゃん先生。」 佐々木は、受付で請求書を手渡されると、会釈一つでクリニックを後にする。笙子も会釈一つすると自分の車に乗り込んだ。 エンジンをかけるや否や、佐々木は触診について笙子に尋ねた。 「若先生の指、・・・どう？」 「え、どうって・・・え？」 「おじいちゃん先生ねぇ・・・すっごいエロいのぉぉ。」 「あ、あぁ。」 「２回くらい往きそうになっちゃってぇ・・・絶対、転がされてるわ、私。」 「そうなんですか・・・よかったぁ。」 「え、若先生は、そこまでじゃないの？」 「そんな感覚で受けてないですよ。・・・ま、少しは、・・・。」 「そうなんだぁぁ・・・立川先生くらい若かったら、・・・おじいちゃん先生、やる気満々だったろうにねぇ。」 「そんなクリニックなんですか？」 「男の先生って・・・そんなものじゃない？」 「そうなんですかねぇ。」 笙子はひかり保育園に向かう途中、頭上にある無数のひかり回線を通じ、自らの子壷の赤らんだ入口の画像が海外サーバーに送信されていることを気がつくよしもない。 |
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| 2014.4.30掲載 |
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