はちみつ太郎 作
| ５９ 火曜日、「６日目」と書き足された慰安保育所の笙子の看板。それを知ることなく、１９時には、東山組の仮設事務所を訪れている。 東山典秀は、まだ不在だった。事務員らしき人物もいない、その事務所にはそれ相応の悪事に手を染める手前の者達が４、５人集まっている。 車で待つと答えたが、牝を見る目つきに変わっていた男らを誤魔化す術は失われ、典秀に叱られるという大義に事務所での待ちぼうけを余儀なくされた。 「あのぉ？」 「あ、はい。なんですか？」 「クラブの集金っすか？それとも、雀荘の？」 「え、あ、違います。・・・保育園の・・・。」 「あ、あれっしょ・・・駅裏の・・・おとなの保育園っていう・・・ピンサロの・・・口姫？」 「え？・・・違います。ひかり保育園の・・・保育士です。東山さんは・・・まだ、ですか？」 「あぁ、親分ね・・・どうかなぁ・・・木城の訓練所だよなぁ・・・講習って。」 「そうだなぁ・・・だから、神足の組事務所でも寄ってるんじゃないか、若頭、来月、出所だろ、打ち合わせとか・・・。」 「あぁ、・・・出所イベントか・・・今度って、どこの女なん？」 「５年前は・・・チンコロした貴幸の元カノだっただろ。・・・輪姦されたんが。」 「あぁ、災難だったよなぁ、貴幸とはもう切れてたのに、的になった。・・・今、あの女なにしてんだっけ？」 「んー・・・歯科衛生士してて、輪姦されて・・・病院入りしてるんじゃなかったっけ、小村とかに？」 「小村って、格子の入った病院かぁ。」 「檻のなかから出てきた奴に・・・嵌められて、檻の中に入れられてるんだろ。災難このうえないなぁ。」 「短小包茎なんでしょ・・・若頭。」 「あぁ、やることが変わってるらしい。陰湿っていうか、お人形さんごっこのように犯されるらしいぜ。」 「どんなんだよ、みてみてぇわ。」 「で、・・・この保育士さん・・・何のようで親分待ってるの？」 笙子は、聞かぬ振りをしていたが、眼前に寄られると身の危険を感じ、少したじろぎ小声で答えた。 「あ、息子さんのことで・・・ちょっと。」 「お口の恋人？」 「え？・・・。」 「ハハハ、親分の口癖だろ・・・フェラさせた女に言わせるセリフ。」 「息子違いだよなぁ、先生。」 「・・・。」 「竜神が悪さしてんだろ・・・親父譲りで、ねぇ。」 「・・・。」 「おまえら、先生、びっくりしてるだろ、お客さんなんだ、・・・お茶でも買って来いよ。」 「はーい！・・・。」 一番若そうなのが外の自販機に向かい、お茶を買いに言った。中堅クラスのまじめそうな職長クラスの男は、笙子を気にして、声を掛け、他の男らから少し遠ざけた。 「すんませんね・・・びっくりしますよねぇ。」 「あ、いえ、・・・大丈夫です。・・・それより・・・東山さんは。」 「あぁ、もうじき、連絡があると・・・あ、電話です。」 男は携帯を取ると、直立になり、会話を始めた。すべては、はいかいいえで答えている。笙子の顔を見たときはいと答えた男は、他の男らを遠ざけるようにし、帰宅を促した。 明日の行き先を聞いた男らは、職長の声を聞き入れ、車に乗り込み帰宅した。職長と笙子だけが仮設事務所に残る。 笙子は、少し安心している。中堅クラスの職長は、他の若い連中と違い会話が出来そうなタイプだった。差し出されていたお茶のペットボトルのキャップを緩めると、乾いた喉を潤し、電話の続きを聞き取っている。 「はい・・・はい。・・・ほんとに、いいんですか？」 「あぁ・・・笙子先生には言い含めてるよ。・・・おまえ、嫁さんに逃げられてから、右手が恋人だろ？」 「え、えぇ・・・。親分の・・・女じゃぁ。」 「違うよ・・・遠慮するな・・・先生は俺に貸しがある・・・お前にはいつか、俺が貸しを作りそうだからな、・・・先に貸しを作っておくよ。」 「どうしたらいいのか・・・。」 「じゃぁ・・・代われ、言い含めてやるから。」 職長は、携帯を笙子に渡す。渡された笙子には相手が東山だとわかっている。今日は、お開き、ってことなら幸いだったが。 「笙子先生、待たせて悪いな。」 「帰らせてもらっても・・・いいですか。」 「そうはいかねぇ・・・間島と言う看護士からの電話で、今日も内出血は消えてないようだ。」 「でも、１９時って約束で・・・もぉ・・・２０時になってますし。」 「あぁ・・そこでだ、・・・そこにいる男、木村って言う男・・・俺の分身みたいな男でね。」 「・・・。」 「なんでも、飲み込み早いよなぁ・・笙子先生は。・・・そう、その通りだよ。」 「なにがですか・・・出来ません。そんなことって・・・出来ません。」 「何も言ってないよ・・・俺の分身だ、そいつは、・・・それだけだよ・・・頼んだぜ、ガチャ。」 「も、もしもし・・・もしもしっ・・・。」 切られた携帯をテーブルに置く。それを取り上げた木村は、笙子を見ている。声を掛けると、笙子は俯いている。 「誰か・・・帰って来られますか・・・これから。」 「いえ・・・恐らく誰も。」 「ご、ごめんなさい・・・鍵、掛けてもらっても・・いいですか？」 「あ、あぁ。」 サムターンをかけ玄関窓のカーテンをかけ、笙子のそばに戻った木村。笙子は袖に膝立ちになり、木村のニッカをベルトごと下げた。 汗ばんでいるのは、承知だった。長袖Ｔシャツは汗にぬれ、肩口は油で汚れている。トランクスは、汗と牡の匂いを染みこませ、笙子にアピールをしている。 「こんなことは、忘れてください。・・・お願いします。」 「あぁ、・・・ほんとに・・・いいんですか？」 「仕方ないんです。くちゅくちゅくちゅ・・・はむっ。」 作法は同じだった。東山にするように尿道口をぺろりと舐め上げ、その後亀頭の周りに舌を這わす。敏感に尖り始めると、全体に口を被せ、根元を扱き、首を支点に粘膜を擦り付けている。 「うぅ・・・きもちぃぃぃっす。」 「は、はやく・・・出してください。」 「あ、はい、・・で、でも、もったいないなぁ。」 「ぐちゅぐちゅ・・・・ぐぽっぐぽっ。」 笙子は、指先を睾丸にあて、搾り出すように精管を刺激し、射精感を向上させている。 「あぁ、逃げた嫁と・・・おなじだぁぁぁ。」 射精感は、上向き昔された嫁との性活を思い出している。脳裏に浮かぶのは良い出来事で、その後の悪い出来事には蓋をしたままだった。 笙子のこめかみを東山同様に手で押さえ、フィニッシュを感じさせるよう口内を犯す木村。サムターンが動いた音は聞こえていない。 「カシャ・・・木村、なにしてんねん。」 「あぁ・・・親分っ・・・ああ、ドクッ。」 「うぐっ・・ぐぐぐぅぇぇ。」 東山の手にはスマホが握られている。カメラのファインダーは二人を捉え、内蔵されたカードにはそのさまが瞬く間にデータ化されてしまう。 笙子は口の周りに吐き出された射精液を手の甲で拭う。あわてている木村は、東山の顔色を伺っていた。誤魔化すような表情ではなく、木村は怯えを隠せない。 「木村ぁぁ・・・どういうことや、説明せぇ。」 「え、親分っ・・・言ってることが・・・ぐあぁぁ。」 笙子の横にいた木村は、足に纏わりつくズボンとトランクスが絡まり、机に顔をぶつけながら床にへばりついた。 「先生に、手ぇ・・・だすって。ドガッドガッ。」 東山は木村の腹、背中、顔の周りを安全靴で蹴りたくっている。笙子は、その修羅場から遠ざかるように、部屋の隅に腰を落とす。狂気的に東山は、木村を蹴飛ばすと、血を口に滲ませてもかまうことはない。 「も、もう、止めてください・・・死んでしまいます。」 笙子は東山に声を上げる。東山は、笙子の方を向き、近づいている。声を掛けられるのか、脅され、同じようにされてしまうのか恐怖が空間を支配している。 「先生・・すまんなぁ・・・この写真・・・察に持って行ってくれ。・・・木村を強姦で、訴えてくれんか？」 「え・・・そ、そんなこと。」 「いや、この通りや・・・この写真があったら、成立するやろ。・・・強姦じゃなくても、暴行かわいせつ物陳列で・・・なぁ・・・先生。」 「で、出来ません。・・・だって、あなたの・・・指示じゃ。」 「いいやぁ・・・俺は一言もいってねぇよぉぉ。」 東山は少し呂律を失っている。酒の臭いはしない。木村が、東山か笙子に声を上げた。 「お、親分・・・また、ヤク・・・を。」 「きむらぁぁ・・・なんてぇぇ・・・おれが、そんなもの使うわけねぇだろぉぉ。」 「す、すいませんっ・・・堪忍してくださ・・い。」 「先生、いいんだぜ・・・警察を呼ぼう・・・こいつを務所にいれなきゃ・・・俺が、殺人で入れられちまう。」 「い、いいんです。・・・きょ、今日のことは・・・忘れますからっ。」 「忘れられては困るよぉ・・・こいつを務所に入れる算段を・・・本部から指示されたんだ。」 「・・・。」 「佐山をばらしたハジキに、こいつの指紋を・・・擦り付けるって・・・兄貴が言うんだよぉ。だから、だから、・・・務所か、拘置所送りにすれば・・・アリバイが・・・なぁ。」 「言っている意味が・・・。」 「殺人より軽い刑ですむんだぁ、なぁ、協力してくれよ・・・笙子先生っ。」 「出来ませんっ。・・・か、帰らせてください。」 「じゃぁ・・・しかたねぇ・・・きむらぁ・・・兄貴の身代わり受けてくれるよなぁ。」 東山は、木村をどうしたいのか言葉が発せられるたびに変わっている。刑務所に入れるのか、別の事件で入れたいのか、話しの件が判り始めると、つじつまの合わなさが笙子にも木村にも感じれた。 「う、うぅぅ・・・うぅぅ。」 「顎が外れてんのかぁ？でもよぉぉ・・・先生のお口の恋人にしてもらってぇ・・・最後の盃だなぁ・・・良かったなぁ。」 泣き崩れるように東山は、白目を向いた。笙子は、驚きで口を開け、心臓が飛び出しそうなくらい鼓動を早めている。 木村は、外れた顎を手で押し入れると、笙子に身振りでここを離れるように指図する。笙子は、それを見て木村の様子を伺う。 ヘッドライトの灯りが事務所を照らしている。木村は、大きめな声を振り絞る。 「先生、本部の車だ・・・俺を迎えに来たんだろう。・・・早く行かないと、あんたも手遅れで、輪姦されて・・・捌かれる・・・さぁ、早く。」 笙子は脱兎のごとく逃げ出した。全てのことを無に返すように走り去る。車に乗り込むと、アクセルを踏み、向かってくるヘッドライトと反対方向に走り出す。 追ってくるようではない、東山組の事務所に二台の車が停まった。それを、見て、アクセルは２０パーセントほど、多めに踏み込まれた。 翌日だった。ローカルニュースは、自営の建設作業員の男、木村和夫（３８）が佐山という暴力団関係者を殺害した容疑で逮捕されたことを告げている。自供した場所から拳銃が押収されたことも最後に伝えていた。 |
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| 2014.5.14掲載 |
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