はちみつ太郎 作
| ８０ 春村花梨は、慰安保育士のスタイルで佐々木の尋問を受けている。涙に暮れている感じではないが、円満退職を告げられているようにも見えない。 「田山さんから身請けの希望を受け付けたわ。どうしたいの？」 「・・・お受けします。」 「簡単ね。・・・身請けの具体的な話は？」 「聞いています。」 「体外受精の実験台よぉ。」 「は、はい。・・・今のままなら、いずれ誰かの子を・・・。」 「そうよね、きりん組のお父さんたち・・・何人目？」 「６人です。」 「残りは、４人ね。」 「はい。・・・だから、もう、終わりにしたいんです。」 「わかったけど・・・上手くいったら、未婚の母にでもなる気？」 「・・・。」 「むりよねぇ・・・実はさぁ、いいことを考えてたの！。」 佐々木は田山に電話をかけると春村に承諾の意を問うている。愕然とうなだれる花梨は、顔色を変えることなく承諾のうなづきを佐々木に見せた。 「いいわね・・・上手くやんなさいよ・・・個人懇談は、来週よね、きりん組さんは。」 「は、はい。」 「副担任には、言っておくから、面談、一人でやんなさいな。・・・上手くいくって。」 「・・・。」 春村は佐々木の姿が消えると、力なく膝をつき園児の名をか細く口にする。 「蓮くんのお母さんか・・・・。」 そう口にした後、蓮という園児の父親の姿が視界によぎる。風体の悪い今時ではない妻に逃げられた４０過ぎの男だった。 木島翠。その名をつぶやきながら河は、スマホが示す住所にたどり着いた。助手のスマホを片手に運転し、玄関が望める位置に駐車する。 数時間は動く気配はない。アパートのベランダには号数を確認した河が洗濯物の存在に気がついていた。子供の物と旦那の物。タオルなどが干されている。 動画を再生した後、一番よく見える顔を一時停止させ記憶にとどめるていると、車内から見える位置の玄関扉が開いた。小さい子を抱き、買い物に出かける女だった。 「間違いねぇな。・・・木島翠、履歴書どおりかよ。」 女が子供をチャイルドシートに乗せるとそのまま買い物に出かけたと河は判断した。玄関口に近寄ると、死角を作り郵便受けの中身を覗き込む。 「木島・・・卓郎、旦那か。」 郵便物を見ながら考察する。職業まではわからないが、かたぎの人間に違いはないと推測する。では、翠の職業は？。もう一度履歴書を眺め見る。 「Ｈ保育園って・・・まさか。」 河は声色を変えずに１０４をダイヤルする。番号を聞き取った後、別人を名乗りその番号に指を重ねた。 「もしもし、村野市社会福祉課の伊丹と申します。木島翠さんの育休取得の日数についてお伺いしたいのですが？」 「はいはい、・・木島翠先生ですね・・・少々お待ちください。」 保留音とともに河は電話を遮断する。憶測が事実を超えていた。笙子の所属するひかり保育園の一部分を垣間見ることが出来た。 リンクしていく河の頭の中。 「神足組、アダルトサイト、木島翠、ひかり保育園、東山典秀、立川笙子、・・・・江藤悟もなのか？」 木島翠の動画を再度、見つめている。再生し始めてから、わかったのは男の顔モザイクの薄さ。判別はしがたいが、身長体つきはどことなく江藤のものだと感じてしまう。 「確証はないがなぁ・・・江藤が手篭めにして・・・でも、そこまでするかぁ。」 ある程度の想像を描きながら笙子の未来予想図も河の頭の中で描いてみる。木島翠のようになるのか、それとも・・・。 春村は、きりん組の保育ルームで蓮の父、広田進（４４）と面談していた。蓮は、笙子がいる時間外保育ルームで絵本を手に読んでいる。 「蓮くんは、とてもしっかりしてますよ。」 「そうですか、母親がいなくなって心配はしてるんですが。」 「そうですね・・時々、他の保護者さんのお母さんに話しかけたりもしてます。やっぱり寂しいのかもしれないですね。」 「これくらいの小さな子には、・・・やっぱり母親の存在は・・・。」 「たしかに、重要ですね。・・・再婚とか、考えられてます？」 「したいのは山々ですが・・・相手の問題と・・・私の容姿では。」 「え、そんなこと・・・ないと、思いますよ。もっと自信をもたれたほうが。」 「そうですか・・・この年になるとそういうことかんがえないからなぁ。」 広田は春村の表情を気にしながら少し視線をそらす。春村は被せるように会話を続けようとしていると保育ルームの向こう側に佐々木が腕組をしながらのぞいていた。 早く決断しろといわんばかりの顔つきで花梨を目で威嚇する。花梨は、視線を広田に戻すと強引に会話を続けていく。 「蓮くんの寂しそうな顔・・・私、見たくないんです、お父さん・・・私に出来ることって・・・何かありますか？」 「え、先生がですか？」 「えぇ、・・・たとえば・・・お料理とか。」 「えぇぇ・・・春村先生が？」 「はい、それくらいのことでしたら・・・させてください。」 「うちで？」 「そうですね・・・あ、今度の土曜日とかって・・・大丈夫ですか？」 「急ですけど・・・まぁ、大丈夫だと。でも、いいんですか、うちだけにそんなことしても。」 もう一度佐々木の顔をのぞき込み、観念するように承諾の声を発する。自分からまいている種を、踏み潰すように声を落としてだった。 「はい・・・。内緒ってことで。」 「蓮がしゃべりませんかねぇ。」 「大丈夫です。男の子なんで秘密を守る約束、初めてじゃないと思うんで。」 「そうですか・・・じゃぁ・・・お願いします。」 春村は、広田に懇談資料を渡す手を少しだけ重ねていた。びっくりした様子の広田を佐々木は半笑いで窓の外から見つめていた。 蓮と広田が下駄箱に行き、佐々木は見送るようにさよならを告げている。春村は、その場にはいない。Ｃ更衣室で、準備を進めている。 佐々木がＣ更衣室にノックなしで入ってくると、身請けもとの田山の言葉を簡潔に告げた。 「花梨先生、あんたの排卵日・・・今週の金曜らしいわねぇ、だから、金曜はお休みして田山クリニックに行きなさい。」 「・・・そんなに、早くにですか。」 「だって、土曜日には広田さんと繋がるんでしょ？」 「き、決まったわけじゃ、ご飯を作る約束だけです。」 「向こうはそうは思ってないし・・・晩御飯を作りにくる女をみすみす、帰すわけないし、帰る女もいないはずよ。江藤悟にもそうしなかったでしょ。」 「・・・。」 「一回で体外受精で孕むこともないかもしれないからね・・・ま、広田さんの子を孕んでも、田山先生は流すかもしれないけどねぇ。」 佐々木はＣ更衣室を出て行く。涙をこらえた花梨は、下着姿にエプロンを纏い、６人目の保護者の相手に向かっていた。 木島翠以外の住所をダウンロードするには金がかかりすぎる。その他の女の確認は後回しにして、今日の結果だけ向山に報告書を持ち込む。 「河さん、これって・・・やばいほうの神足組よねぇ。」 「そうですね。・・・蛇以上の大蛇ですね。」 「木島翠？これも、奥さんと同じ保育園勤務なのね？」 「えぇ、育休中ですが間違いなく。」 「ってことは・・・この東山って男が仲介で、手篭めの女衒が江藤悟。・・・元締めが、神足組？」 「多分・・・他に掲載されてる女も・・・おそらく、全部じゃないにしても・・・保育園の保育士やら、神足が脅した女や犯されて泣き寝入りの女ではないかと。」 「河さん・・・立川さんの奥さん、守れそう？」 「少し、自信が無くなってきました。・・・資金面と組織への対抗力が。」 「東山という足場会社の社長の調べは？」 「企業舎弟ですね、神足組の。・・・警察なんかのマークは外されてますが、・・・上納はしているようで。」 「保育士を使ってかね稼ぎ？もしくは、欲求だけのはけ口に？」 「それだけで、江藤悟を使うのも合点がいきませんし、想像の範囲では、江藤が女衒で東山が買い受け、使用済みを神足に動画として流しているのかと。」 「奥さんも・・・嵌められて・・・ぼろ雑巾。」 「には、できませんよねぇ・・・。」 「お金と・・・手を・・・貸せってことね、その顔は。」 「いい論文を作るには・・・それなりの物を使わないと。」 「お金は、用意します。」 「はい・・・。」 向山は、河に軍資金を手渡した。不満げな顔をして見せるが、持ち合わせの大半だと向山は言い張った。ポケットに沈めた札は、コンビニＡＴＭでは受け付けてくれなさそうなくらいくしゃくしゃだった。 江藤悟は、今まで落としてきた女同様、小山蘭の動画を東山に渡している。数週間前に、撮りためた動画を整理していると、パソコン内に残されていた笙子との動画が目に入っていた。 削除すればいいだけの動画だが、ゴミ箱にクリックすることが出来ていない。フォルダーをわけ隠しアイコンにし、人目をはばかった。 ドアのチャイムが鳴る。帰宅した小山蘭の換わりに東山が江藤を訪ねる。合鍵で入ってきた東山は、パソコンの横の半裸の悟に調子づいた。 「笙子のア○ル・・・最高でしたわ。」 「・・・そ、そうか。」 「悟さん・・・小山蘭のア○ル、どうですか？」 「あぁ、・・・まぁまぁかな。」 「この前、一晩中・・・俺のポ○チン、笙子の直腸で温めてもらいましたよぉ。人妻の尻の穴、ましてや処女肛門。」 「壊すなよ。」 「え？未練っすか？」 「未練じゃねぇけど、抱いた女を悪く言われるのは、好きじゃねぇな。」 「まぁ、そうですよね。」 「で、・・・動画、取りにきただけか？」 「まぁ、経過報告をかねて、春村花梨・・・田山が身請けします。産婦人科の・・・田山が。」 「あの娘も・・・壊すのか？」 「いえいえ、・・・あの先生、体外受精ってしたことないそうでね。練習がてらに花梨を使うので、買い受けて実験台に。」 「未婚で産ませるのか？」 「悟さん、認知します？」 「・・・、それは・・・。」 「大丈夫、担任の園児の父子家庭の男親と・・・再婚させる筋書きが出来てますから。」 「・・・そいつに育てさせるんか？」 「えぇ、工場勤務の派遣労働者・・・かわいそうだが、花梨は一生共働きで、・・・出産後も田山の実験台でポコポコ、産まされますよ。」 悟の顔がすこし変わったのを東山は見逃さない。 「怒ってます？」 「いや、・・・笙子はどうするんだ？」 「そうですねぇ・・・とりあえず、尻の穴はいただいたし、動画もまだモザイクつきの安のサイトで小銭稼ぎ。」 「まだ？」 「えぇ、木島翠は・・・神足のサイトで運用中です。結構なしのぎになってるんで助かります。」 悟は数年前の翠のあどけない顔を思い出している。 「そうそう、笙子・・・今の女、小山蘭と悟さんの動画みせました。・・・半泣きでしたよ。まだ、未練があるようですねぇ・・・どうです、今度、尻の穴ぁ使える様になった笙子、貸してもいいですよ。」 悟は昔の顔を東山に見せた。睨みのきつさは、高村の虎といわれた頃と同じだったが、東山も今では企業舎弟の顔だった。 「そう、怖い顔しないで、・・・笙子の今後は悪いようにしませんよ。・・・俺もお気に入りなんでね、もしかしたら、俺が身請けして・・・再婚するかも・・・そのときは祝儀をお願いしますね。」 東山はフラッシュメモリーをパソコンから外すと、悟の顔色を見ないままマンションから消える。悟は、再び隠しアイコンをクリックさせ、笙子と貫一との動画を再生し始めていた。 |
| あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。 |
| 2014.7.2掲載 |
はちみつ太郎さんの作品群→ |
無断転載禁止！