はちみつ太郎 作
| ８６ 広田姓になった花梨は、妊娠中期の安定期に入っている。タイミング的に広田はお腹の子が蓮の弟か妹であると確信していた。数人の慰安保育園を知る保護者からは、不満の声が聞こえていた。それを処理するため、行田真知子にシフトを増やすことを佐々木は数ヶ月前から実行している。 そこにほころびが一つ増えてしまっていた。真知子の妊娠だった。佐々木に連れられた田山クリニックで、１２週と告げられた真知子は、佐々木のため息の大きさに身を縮めてしまった。 「誰？・・・言いなさいよ。真知子先生。」 「し、しりません。だって、増やされたから、わからないんです。」 「佐々木園長、んー・・・８月の最終週ですね、おそらくは。」 スマホのカレンダーを指で動かすと、その週の予約していた保護者の名前が浮いてくる。該当者は４名だった。 「田山先生、・・・曜日とかは？」 「無理です。・・・ＤＮＡ鑑定なら、非侵襲性鑑定で、もう少し後に出来ますけどね。」 「してくださいっ・・・。」 「１９万くらいですよ。・・・保険外ですし。」 「・・・。」 「あら、真知子先生、父親がわかってどうするつもり？」 「・・・。」 「生みわけなんかさせないからね。・・・あんた、めぼしがついてるんでしょ。」 「まぁまぁ、・・・行田先生・・・堕胎も可能ですけど？」 真知子は、悩むそぶり無く宣言する。 「そんなこと出来ません。・・・絶対。」 「さすが保育士、と言いたいけど、・・・シフトの問題よ。あんたたち・・・ポコポコ孕んじゃって、田山先生の責任ですよ。」 「困ったなぁ、・・・それ相応の額は、花梨先生の身請けでお支払いしたんですけど。」 「現生が増えても、頭数がいなければ、・・・・先生のとこのきれいどころの看護師・・・貸してくださらない？」 「こちらも手一杯ですよ。東山さんが探してるんじゃないですか。立川先生を手放す気は無さそうなこと、おっしゃってましたけど。」 「んー、一人、落とす候補はあるんだど卸元が煮え切らないのよ。」 「村野の保育士を・・・また、ひどい目にあわせるんですかっ。」 「そうよ、あなたが生で受け入れるからよ、欲望に負けたんでしょ。それとも、花梨先生に習って、逃げ出したかった？」 「・・・。」 佐々木はうつむいた真知子の前髪をつかむと無理やり顔を上げさせる。 「憎みなさいよ。・・・花梨は、この先生に体外受精の練習台としてこれから６回程度受精を繰り返すわ。でも、そのかわり女の幸せつかんだのよ、でもあんたは、それすら出来ずに分娩台でひっそり子を産み落とし、一人で育てながら、また、慰安保育園で働くの・・・。」 「い、いやっ、そんなこと・・・いやです。」 「行田先生、それがいやなら、やっぱり流しましょ。」 涙顔の行田真知子は、田山の提案に耳を傾けることはない。耳をふさぎ顔を覆うと医師とは思えぬ讒言に、悔し涙をこらえるのが精一杯だった。田山と佐々木は、真知子の存在を慰安保育園の頭数だけでしかないことを告げていた。 須山と東山は、３回目の会食を終えている。会話の中に出てくるのは、与えられた人妻の素性、馴れ初めだった。東山は、きつめのぼかしではぐらかし、事務員として雇ったアルバイトの女で、先生と呼んだのはピアノの教師をしていた経歴を伝えている。 旦那との関係性に触れられると、ごまかしの具合が薄くなり、ぼんやりとした昇の雰囲気を伝えると、須山の周りにいる夜勤族を引き合いに出し小ばかにするだけだった。 小ばかにされた昇の人事の移動を何気なしに東山に伝えると、彼を交えて一席設けることを東山が提案する。快諾した須山は、昇にもその女の良さを伝えたいと東山に願うが、やんわりと断られてしまう。 だが、満更でもないと含みを残したままその会話を終えていた。 須山は、睡眠の時間帯に笙子の携帯を鳴らさせた。東山のスマホは、番号を非表示にさせると声の主を待った。 「も、もしもし、・・・な、なんですか、こんな・・・。」 「あ、旦那がいるのか？」 「い、いません、・・・。」 「誰かと添い寝か？それとも、オナ中だったか？・・・息が弾んでるぞ。」 「そ、そんなことしていません、携帯を別のところにおいていたので、・・・着信中に取らなかったら・・・また、ひどいことするから、急いで。」 「旦那がいないなら・・・そこで、オナってくれよ。」 「出来ません。」 東山のスマホを渡されるとご機嫌な調子で須山は笙子に話しかける。酒の入り方は口調にも現れていた。 「あー、奥さん？どうも、須山ですぅ。この前は・・・とっても、きもちよかったよぉ。」 「・・・。」 返事のない笙子は、電話の向こうの状況を理解した。名前で呼ばれないことを気にした笙子、もう一人の男の存在はないと判断したかったが、確信はない。 「酒のつまみにさぁ・・・人妻のオナ声、披露してくれないかなぁ。」 「で、できませんっ。」 「先生、・・・いいのかぁ・・・わかるよなぁ、立場、状況、・・・時間帯。押しかけてもいいんだ、勤務時間・・・聞いてやろうか須山さんに？」 小さく周りに聞こえぬように脅す東山が変わると、笙子の声は低くなり、その後の沈黙は３０秒ほど続いた。 音声だけのショーの幕開けは、か細い声で始まる。かすかな、布団のこすれる音を聞き耳立てた須山は、東山からスマホを奪い取ると、居酒屋の個室の壁に背をつけて集中した。 耳を押し当ている須山は、東山に視線を送ることなく目を閉じ想像の中で笙子を視姦し始める。がさごそと聞こえ始める音声は、脱ぎ終わったかどうかもわからない衣服のこすれる音だけだった。 「パンティ、そのままだよ。・・・好きなんだよね、この前もそうだった。」 「・・・、はい。」 「何色なんだ、今日は、上下揃いかな？」 「く、黒です。」 「形は？」 「普通の、・・・ショーツとブラです。」 「そうかぁ・・・もう、触ってるんだよねぇ・・上からか、うーん、奥さんのことだ、最初から指をパンティの中だよなぁ。」 「・・・そ、そうしてます。」 笙子は、言われるままではなく、時間の短縮だけを考えている。須山に聞かれる声は、商業用でもなんでもなかった。数日来、昇に求められ続けている笙子には、女の感覚が戻り始めている。 東山のテリトリーでなく昇のテリトリーは、４日で合計１０回を超える回数の交わりを重ね、指先だけで慰めていた陰唇の赤身は昇との摩擦熱で炎症を少なからず起こしている。 「他に、他に、誰もいないですよね。」 「あぁ、東山さんと二人だよ、居酒屋だから飛び込みの客は大勢いるが、個室だし、気持ちいい声を上げてくれ。」 「んっ、んっ・・・あぁぃぃ。」 「お、感じ出してきてるねぇぇ・・・かわいい奥さんなのになぁ、こんな、エロだとは。」 笙子は耳元に挟んだままの携帯を落とさぬように肩ではさんだまま指先にも神経を集中させている。黒のショーツをくぐったままの指先の動きは指示される事なく、笙子の意思で陰唇を割っていた。 ヌルヌルとしたぬかるみが指先に触れると、出してはならない声を抑え込むだけに集中してしまう。 「んんっぅぅっぅぅぅ、・・・あっ。」 「お、指でも入れたね、・・・二本か、一本？」 それには答えることなく、吐く息を電波に乗せながら須山の耳に届けていく。届いた笙子のこらえようのない声は、須山の股間を熱くさせている。東山は残っている生ビールを飲み干しながらうやうやしく見つめていた。 はやし立てるように須山は、東山に実況をしていた。 「東山さん、・・・エロい女だ。・・・声を出し始めたよ。・・・二本の指で入り口をクチュクチュさせているんだ、あきれるねぇ。」 「須山さんにあきれちゃいますよ。・・・俺が指示しても、そこまでしませんよ。」 須山は再びスマホを耳に当てている。残りの手は、膨らみを見せているスラックスを摩り、笙子の指とシンクロするように刺激を与え合っている。 「あぁ、あぁ、あっ・・・はぁ、はぁ、・・・はぁぁぁ、クチュクチュッッッ。」 「奥さん、匂いがするくらい近づけてよ、いやらしいお○んこのそばにぃ、ねぇ。」 拒絶の言葉も無く笙子は、自ら携帯のマイクを下腹部に近づける。須山の耳にはガサゴソとした音の中に、粘膜が指に纏わりつきいやらしい音に変えていく瞬間を取り込んでいる。 かすかに遠くなった喘ぎは、スピーカーフォンにされたスマホから音声になった。居酒屋の従業員がラストオーダーを聞きにくる。 「すいません、２３時でラストオーダーなんですけど・・・。」 「クチュッ・・・クチュチュチュッ。・・・はぁぁんっ。」 スピーカーの音を大学生のアルバイトに聞かせた。何ですかこれ、と言った感じで大人のいたずらだと感じている。興味本位で、再確認のラストオーダーではなく、声と音の主を聞いた。 「これって、アダルトサイトですか？」 「いや・・・本人に聞いてみる？・・・この人の人妻セフレに聞いてみようか？」 東山は、須山の物だとした笙子へ問いかけるように声を出した。 「奥さん？聞こえてるか？・・・リスナーが増えたんだ・・・須山さんの了解を得てるから、アルバイトくんにもお○んこのクチュクチュ聞かせてやってくれ・・・口答えなしだ。」 「・・・。」 いやらしい音も女を表現する音も止まる静かななかで、笙子からの発信が途切れれば東山には手段があった。このまま乗り込んでもよし、須山に笙子の素性を明かすもよしだった。笙子も、東山のドスの聞いた声の裏にある脅しは理解し、自分をごまかした。 アルバイトの耳に押し付けられたスマホはスピーカーのまま、笙子の声を偽り無く届けた。 「あぁ、んっ・・・き、きかないで、・・・くださぃぃぃぃ。・・・・ゥチュクチュクチュクチュゥゥ。」 「ほ、ほんものっすか？」 「あぁ、番号、リダイヤルしてみるか？」 東山は、一回通話を遮断する。すかさずリダイヤルで笙子の番号に繋がった。目で追うように番号を記憶しようとしたアルバイトの学生は、大学の偏差値が示すように、０９０までしか覚えることは出来なかった。 「は、はいっ・・・。」 「続けてよ、・・・オナですか？」 「・・・そ、そうですっ。」 アルバイト店員は、東山にスマホを手渡すと、ラストオーダーはないと言うことを厨房に伝えにいく。東山は、障子をしきり須山にスマホを手渡す前に笙子に告げた。 「これからどうするんだ？」 「・・・、寝させてください。」 「この、２、３日、旦那としすぎて疲れたんだろ？」 「そんなこと・・・・しりません。」 はっきり言えよ、と言わんばかりに東山は笙子の言質を取りたかった。 「確認だけしに行くから、鍵開けてろよ・・・。」 「こ、こないでください。・・・私が行きますから。」 「いい心がけだな。・・・迎えのタクシーを呼んでやる・・・行き先も伝えておくから、それに乗って来いよ。」 東山は、電話を切った。なじみの代行サービスに電話をいれ、笙子の自宅にも車を向かわせる。須山は、笙子に会える喜びでスラックスの先を膨らませたまま、会計を済ます東山のあとを付いていく。が、足取りは千鳥で酒と笙子の余興が肝機能を低下させていた。 「ありがとうございましたぁ・・また、おこしくださいませぇ。」 これからですか、と言う雰囲気で顔を見たアルバイト店員は、東山に手招きされる。須山の肩をアルバイトに押し当てると、東山はバイトリーダーに声をかける。 「わりいんだけどさ、この子貸してくれない、自給の１０倍出してやるから。」 １万円札を渡すと、リーダーはどうぞどうぞと学生バイトを差し出した。かたぎには見えない東山に少しだけおびえる学生は、不手際をわびるように頭をぺこぺこしていく。 「さっきの声の主、見てみないか？」 「え、あ、はい。」 「よし、・・・じゃぁな・・・免許持ってるだろ。・・・このおっさん、タクシーに乗せたら、運転手してくれ。」 「あ、わかりました。」 学生バイトは、いつもするようにタクシーを呼び、須山の住所を東山から聞き出し後部座席に乗せた。角を曲がったタクシーは、視界から消えると、学生バイトに鍵を渡す。 駐車場から車を出すよう言われたバイトは、黒塗り高級車にたじろぐが、憧れの車に目をすこし輝かせている。 「ぶつけても、指は落とさんでやるよ。・・・さ、ここに行け。」 「はい、・・・ここ、って、・・・ラブホ街？」 「あぁ、そうだ・・・声の主のお○こ、見せてもらえ、上手くいけば・・・指くらい入れさせてくれるよ。ヌメヌメの、なぁ。」 「え、・・・まじっすか？」 東山は、頷くだけで肯定的な言葉は吐かなかった。２０分ほどかかる道のりの間は、短く感じる。東山は、笙子の到着のほうが遅いのはわかっていた。 ラブホ街の端、数日前、須山との交わりのあと、タクシーに乗ったその場所に、再び笙子はおろされた。タクシー運転手は、嘗め回すように笙子の姿を眺めた後、クラクションで馬鹿にするようにし、その場から消えた。 視界に入る場所に東山の車があった。笙子は、そこに吸い寄せられるように足を向ける。そうしなければいけない状況があった。 街行く男らは笙子を商売女と勘違いし、値段を踏んだり、蔑んだりと、その場にとどまれる雰囲気は無かった。 助手席をノックする笙子。運転席にいたのは、身も知らぬ若者だった。間違いだと感じた笙子は、丁寧に謝るが、その場の雰囲気にあったその車の運転席の男は、あからさまな名前を口にした。 「東山さんからの頼まれで来てます。・・・乗ってください、先生。」 「え、・・・あの人は？」 「先に、用事が出来たみたいで・・・で・・・。」 助手席に乗り込んだ笙子は、若者からスマホを渡された。電話口には東山の声だった。 「笙子先生、・・・お○んこの検証は、第三者委員会にお任せした。・・・そこにいる、祐樹くんが委員長でね。」 「い、意味がわかりませんっ。・・・帰りますけど・・・自分で。」 「そういうわけにいかねぇんだ。・・・エナジードリンクの効果・・・実証するには笙子先生の体が必要でねぇ。」 「ど、どういうこてなのか・・・ま、まさか・・・。」 「そう、その、まさか！」 「・・・。」 祐樹とよばれた若者は、少し目が血走るようにしていて、今にも笙子に襲い掛かりそうだった。エナジードリンクの缶は車内に二本空いたまま放置されている。 飲み干したのは、ほんの２０分も前ではないだろう。東山は、笙子に一つの指令を出した。 「そこの祐樹くん、あ、委員長に・・・お○んこ、おっぴろげでな、・・・写真とってもらえ、それをメールで送ってくれ、それが第三者委員会の仕事だから。」 「車の中でですか？」 「あ？外でもいいぜ・・・あ、そうそう、そいつにもエナジードリンクをお試しで飲ませている。・・・旦那と同じ作用であることを期待しておけよ。」 東山が電話を切ると同時に、半笑いで目をギラつかせている祐樹が笙子ににじり寄っていく。 数十分後、車内で撮影された笙子の割れた陰唇は、昇との夜の営みの回数を如実にお知らせするように、第三者委員会の名の下に須山、東山の端末へ簡単に送信されてしまっていた。 |
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| 2014.7.16掲載 |
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