はちみつ太郎 作
| ９１ 年末にはまだ少し時間がある頃だった。 昇の配置転換は正式に決まり、その部署の上司の話は昇の口から少し聞かされていた。東山のおかげで、社内の営繕工事が手早く進んでいること、浮いた経費で元の部署の環境改善できたことなどだった。 入っているようで聞き流している笙子の耳。部署が変わったためか、昇のエレクトは状況の変化をもたらしている。笙子に求めているのは下の穴を使っての生殖活動より、勃起不全の解消に尽力するよう要請されるだけだった。 帰宅時間が同じな二日間。不全解消のため、指先を肛門に差し入れ口淫を施そうとするが、屹立は上手くいってこない。一時間ほど繰り返すが、ふやけたそれは、以前に戻ったように感じている。 献身的なのは笙子だけで、生殖を途中やめにされた笙子は、ふがいなさなのか落ち込み度合いの大きさを自分でも感じている。それが、一つの流れを合流させ流水を増やしてしまった。 １２月１４日。 笙子は望観楼に招かれていた。昨冬の２月、貫一の後輩である野村と朝まで嵌められてから、それきりの奏の間に通された笙子は、不安を通り越したなにかを自分の中に感じている。 支配人は、いつもどおりの受け答えでいる。今日もショーツを盗み取る目的だろう。笙子の下半身に目がいっていることは、あからさまではないものの、２度の経験からか、そう感じ取るのに間違いはない。いやな感じはなくなっている。勲に招かれた時点で、それを期待まではしないが、ルーティーンであると理解していたからだった。 お茶をすすり、浴衣に着替えることもなく勲を待つ笙子は、話の内容を整理することで脳内の隙間を埋めていくが、その隙間を埋めさせないよう、整理させないようにする画像がフラッシュしている。 暗い眼前に映るフラッシュの中に笙子は知らぬうちに埋もれていった。 いつの間にか対面に座っていた勲は、笙子の半泣きの顔を見つめている。話は、ほとんどの部分を包み隠さず終えると、咀嚼した勲は、結論を待たずに問いかけた。 「でも、奥さん、いや、笙子ちゃんは、・・・その、あれだ、・・・そういう女であることが、恥ずかしく感じなくなった。」 「はい。・・・そうなんです。」 「お尻で交わること、・・・それを不貞行為ではないと、・・・赤ちゃんの出来ない穴ですることは、・・・不貞じゃないと。」 「そ、それは・・・そうかも。・・・あそこを使うより罪悪感が・・・薄れてて・・・それで、・・・。」 「ずるずる快楽を受け入れてしまう。・・・脅されている男らに対しても。」 「です。」 勲は、いつの間にか対面から、笙子の横に移動している。茶を入れてからその位置を動かないでいた。肩を抱くように体を寄せると、吸い込まれるように勲の胸元に顔を寄せる。 「２０００万だったよね。」 「はっきりとした金額は、知りません。・・・でもそれくらいで・・・他の保育士さんも、身請け？っていってました。」 「女郎のようなことを・・・。うん、半分は用意できたんだ。」 「・・・。」 「残りの半分は、・・・上手くいってからの担保を聞かせて欲しい。・・・担保を、どうするか。」 「自宅を・・・。」 「家なんか要らないんだ・・・わかってくれないか。」 「離婚・・・するのですか。」 「違う。・・・僕の欲しいものはね。」 「・・・。」 「人のものなんだ。・・・自分の物になったものは、・・・手放してしまう癖がある。」 情けない顔をして笙子は勲を見つめた。 「離婚しなくても・・・。」 「あぁ、いい。その代わり・・・笙子ちゃんを独占していきたいんだ。・・・奴らのようなことはしない、強制も、金稼ぎも。」 「・・・勲さんとしか・・・。」 「そう望んでくれるようになるまで・・・笙子ちゃんを染めたいんだ。」 勲は、笙子のおでこと自分のおでこをこすり合わせ、脳内の変換を促すように見せた。笙子の返事は、半開きの唇に差し込まれた舌の絡まりで勲に伝えていた。 胸元にはいりこんだ指先は、固くした乳首を転がす。涙目の笙子は、目を閉じてもなお、こぼれる涙を止めることができない。舌を交わらせるまま、座椅子にもたれかかる笙子は、勲の軽い抱き寄せに体を預けると、鼻水をすすりながら感謝の意を超えた表現を告げる。 「抱いてください・・・。」 「あぁ、・・・出口は見えてきたんだ。・・・安心できるよね。・・もぅ。」 「うん。・・・あ、はい。」 座椅子から体をくねらせ寝間の敷かれていない畳に体を横たえる。張り替えたばかりの畳表が、新鮮に感じれた。勲は笙子に覆いかぶさるように口元を寄せると、欲するように舌を伸ばしている笙子のそれに吸い付いた。 指先を重ねあわせ、舌の動きを激しくし始める笙子。目を閉じたままの笙子の目頭にはいつしか液体の心の毒素は消えていた。 「涙は終わりだよ。・・・笙子。」 「・・・、勲さん、なんだか・・・温かくなってきました。」 「気持ちがかい？・・・それとも・・・こっちかな。」 笙子の履いているデニムのファスナーの部分に手をかざすと、涙顔から笑顔に戻りかけの笙子が頷いている。 「両方かも・・・。」 「その顔だよ。」 勲が笑い顔を見せると、笙子も緊張が解けるように体を預けていった。デニムのファスナーは下ろされ、ベルトを外されると紫色のショーツが顔を出した。ずり下げるのは、笙子自らが行い、さらされた太ももは勲にまさぐられていく。 そこから一切の言葉はなく、男と女の会話は、指先、舌先、生殖器の先でしか行わなかった。感覚は麻痺し、触られているのもわからないほどだった。そのうちにフラッシュは解け、白いまばゆい光が笙子の目の前を覆った。 笙子の横には、仁王立ちした男がいる。寝そべっている笙子をつま先で突き起こすと、夢見を遮られた事に気がついた。 「いさ、・・・。」 勲と言う言葉を吐こうとした瞬間、その呟きをやめた。そしてその名を東山が問われる前に答えていた。 「オーナーか？夢でも見てたのか、今日は俺との不倫旅行だ。・・・ここのシステムは理解したぜ。」 「・・・。」 終わりに近づいていたのは、脅されていた現実ではなく、笙子の女の部分だった。勲の姿はない、その通りだった。ここ望観楼に来たのも東山の車に乗せられて来ていたことも忘れていた。 どうして、ここを東山が知ったのか、それは聞くことを恐れ、あくまでも想像の範囲内で笙子は理解せざるを得ないでいる。 「もぉ、そろそろ２２時か・・・笙子先生は、知ってるんだよな。・・・ここは、響きの間・・・覗かれる嗜好の部屋らしい。・・・暗くするか、それとも、明るいまま・・・肛門の咥えこみを見てもらうか？」 「く、暗くしてください。」 「そうか、そのほうが気分が出る・・・そういうことだな。」 東山は、部屋の照明を暗くする。いつもどおり行灯は。一番弱い明かりを灯し、交わる二人には視界が届く限界の明るさだった。 浴衣をはだけた東山は、肉棒をしごきながら、亀頭の先端を笙子の鼻筋に当てる。温泉成分の臭いとまではいかないがいつものような臭気ではなかったため、咥え込むのに時間を要さない。 浴衣ではない笙子は、普段着のまま正座し、口淫を施していく。時計は２２時を回っていた。笙子は、玄関のほうを気にするが今だ人の来る気配はない。 亀頭周りに舌を這わせ、唾液で東山を喜ばせていくと、テーブルにおいていたエナジードリンクの缶を残さず喉に押し流した。東山は飲み終えると、缶を無造作に置き、首元を震わせながら、その成分を脳内の神経細胞に働きを起こさせていく。 「あぁ・・きぃくぅぅぅなぁぁぁ。先生も飲むか・・・ドリンク？」 「いりませんっ。」 「不安だろ・・・誰が覗きにくるか？」 「まさか・・・。」 「その不安、吹き飛ばさないかぁぁぁ。」 笙子の後頭部を摩り、くわえ込みを深くさせていく。えづいた笙子は、唾液をあごに垂らしながら、コカ入りのエナジードリンクを視線から遠ざけ、頭を振った。 「そのほうが無難だ。・・・お前の後輩の小山蘭・・・クリに塗られて、風俗嬢に落ちそうだ。・・・園児の守じゃなく、おっさんたちの口姫に落ちそうだ。」 「・・・ぐぐぐぐぐぐぅぅぅ。」 「金額が張らないんだよなぁ、それじゃぁ・・・ま、いいさ、ここにエナジードリンクのライト盤を納品できることになった。月、２００万は固いからな。」 東山は、首を震わせながら笙子に語りかける。勲も巻き込むことになったことに罪悪感を感じる余裕もなく。勲のスタンスすらもどちらにあるのかわからなくなっていた。 「お、・・・客人か？」 笙子すら気がつかなかった入り口の開く音に感づいている。神経が研ぎ澄まされていく東山の目は、ぎらぎらとし、陰茎への血流も舌先で血管の浮き出る具合がわかるほどだった。 |
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| 2014.7.28掲載 |
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