はちみつ太郎 作
| ９８ 年末の近い土曜の夕方前。赤い装いの配達人たちは夢を膨らませた子供たちに望みを運んでいた。 笙子の家に訪れた配達人は、絶望という夢のなさだけを伝えに来ている。来訪した東山は、靴だけは脱いでいるが笙子は土足で上がられたような気になっている。 昇のいないのは当然のことと踏み込んでいったベッドルームに笙子を引き入れた。たんすに手をかけると、きれいに片付けられている下着のセットの棚を引き出した。 東山は笙子に問いただしている。お気に入りと誰が購入したかだ。昇という選択肢はなく、どれも自分で購入したといいたかった。ただ、ひとつ声を出し損ねたショーツの時、東山は視線を笙子に注いだ。 「これか・・・悟の選んだショーツ。」 「・・・。」 「これを、穿いていけ。・・・旦那の前で、間男の選んだショーツを田山の前で脱ぎ捨てて・・・剥いてもらうんだ。」 「い、いやです。・・・出来るわけ。」 「出来る出来ないじゃない・・・やるんだよ。」 「そんな場所に、い、いきたくありません。」 「あ、そう。・・・望観楼のオーナー、勲さんだっけ？」 「い、勲さんが。」 「笙子から助けの電話をもらったらしいなぁ。・・・身請けの電話か・・・それとも金を用立てる電話か。」 「そ、それは。」 「あぁ、白状してくれたよ・・・エナジードリンクのお試し期間の延長で手を打った。悟からも、俺を追いこむように頼まれてたんだとさ。」 「私・・・、で、電話なんかしてません。・・・ご迷惑になるのに、するはずないでしょ。」 東山はあきれたように眉を上げる。 「おれさぁ、裏切られるって・・・こうも、快感だと思わなかったんだよ。・・・寝取られ・・・いい響きだよなぁ。」 笙子は渡されたワインレッドのショーツとブラ着替えさせられる。手渡されると、東山の目に促されるように、今つけている黒の上下を脱ぎ去ると、恥ずかしそうに上下を交換した。装着具合を確かめるようにゴムの周りをなんどか引き上げる。 「悟に裏切られてからは初めてだ？」 「し、しりません。」 「なんで、捨てなかったんだ。・・・まだ、未練・・・だろ。」 「ち、違います。」 「これ見ろよ。」 東山は、下着姿の笙子に興奮したのではないと但しをいれ、笙子にたぎった陰茎を見せ付けた。先からは汁を垂らし、笙子の口を欲している。 「笙子先生、・・・もう、こうなってしまうんだわ。・・・あんたが、旦那や悟のことを考えてると思うだけで・・・な。」 「・・・。」 「田山も言ってたろ、・・・ＥＤに効果があるのは、薬じゃない。・・・こういうことの繰り返しなんだ。」 「そ、それは・・・昇さんにも・・・そうなれと。」 「それは、早いかも知れんな。・・・俺とおまえの今の状況を理解する前に・・・発狂するかも。」 笙子は、東山の視線を外したかった。東山は、牡ではない目をしている。男の目だった。笙子は、率いられないよう視線を外し続けていたが、肩を壁に押されると、東山の口が笙子の口を塞いだ。 押し込まれる舌を追い返すでもなく、済し崩される様に絡め取られていく。笙子は、下腹部の火照りを感じ始め、凹凸の関係を想像していた。田山に打ち込まれたヒアルロン酸の影響と自慰でしか高められなかった１０日ほどの日数が、凹凸の文字を脳内にめぐらせて仕舞う。 東山の舌を受け入れながら唾液を口に含まされると、甘い感触を疑った。間違いなく、エナジードリンクの香りだった。野村が以前トリップしてしまった時、嗅がされたにおいと同じ。 それを、嗅ぎ続け、飲み込まされるのに不安を覚えると、自らの意思とは少し離れていた言葉を告げる。 「口で・・・します。」 「あぁ、・・・その気だなぁ。・・・ここでするのは初めてだな。いいのか？」 「、しかたないです。」 「しかたないか・・・違う表現をしろよ。」 「・・・。」 東山の欲する表現はなく、笙子は膝立ちになると、汁をたらし気味の亀頭を頬張った。頭を揺らしながら固く尖る先端を舐め、唾液で濡らしながら、高めるように筋を舐め上げていく。 唾液は膝に垂れ、拭うことなく、東山の怒張を支えるように杖となっている。舌をうら筋に乗せ、吸い込みを見せながらのバキュームは、全ての男の精を吸い込まれてしまうような錯覚を覚えた。 「あぁぁ、いぃぃぃぃ。」 「ぐきゅぐきゅぅぅぅ・・・ぐぼうぼっ。」 睾丸も絞り、陰茎の付け根をさするように刺激すると、いつもの東山と違う２、３分の出来事で口淫の幕を閉じた。 「でるぅぅぅぅぅぅ。・・・・・どくんっ。」 笙子はあわてるでもなく喉元にかかる精を感じながら、唾液を多めに分泌させると残りを吸い取るように食道に流しいれた。首筋に伝わる甘美な性刺激は、東山の脳内の神経組織をばらばらにしていった。 「はぁ、はぁぁ・・・しょ、笙子っ・・・馬鹿にしやがってっ・・・・だれが、すぐに往かせろって・・・。」 飲み込んだ精を吐き出してしまいそうになるくらい、突き飛ばされた笙子は、身の危険を感じる。東山の目はエナジードリンクの成分に取り込まれてしまっていた。 危険を感じた笙子は、土下座をするようにし、許しを請う。 「ご、ごめんなさい・・・・だ、だって。」 「口答えするなよ。・・・・早く着替えて来い・・・下着はそれだ・・・上は何でもいい。・・・解剖される女を表現して来いっ。」 蔑むようなまなざしで、笙子を見下すと、肩口を少し蹴飛ばし、寝室から出て行った。玄関のドアの音がすると、笙子は時間を気にしながら、表現するきのない服に着替えていった。 東山の豹変振りは何度か見てきたが、エナジードリンクの効果は段違いだった。優しさを見せたと思うと、その後に来る恐怖は別人格を疑うほどだった。 多くのエナジードリンクを保持した望観楼に足を向けたくない笙子の気持ちだが、それを拒むための手段は勲の裏切りとともに消え去ってしまっていた。 露天風呂で湯女を従えた昇は、湯の加減も星空の見え加減も判らないほどの状態で陰茎への刺激を続けられていた。肝心な、血流の改善はさっぱりだった。それをあざけるでもない女の舌の動きは、従順で腹の大きさだけが異様な雰囲気だ。 「花梨ちゃん・・・体、冷えますよ。」 「あ、あひがとぉぉ・・・き、持ちよくなぃぃ、れすかぁぁ。」 口から外さず見上げるように昇を見ている。同僚の夫とも知らされず施していくのは佐々木らの指示だった。６ヶ月を迎えた妊婦は、少し薄まり始めた広田との性生活を見透かされたのだった。 拒絶することなく、誘いに乗った花梨は、立川とは名前を伏せている昇に性接待を許諾している。 「妊婦さんのコンパニオンがいるとは・・・・お、ぉぉぉ、もわなかったね。」 「旦那さん・・・大きくならないですか？」 「あ、あぁ、ごめんね、気持ちいいんだけど・・・いい時悪い時があって。」 「そうですか・・・奥さんも・・・さびしいですね、それじゃ。・・・あ、ごめんなさい。」 「いいんだよ、事実だし。・・・こういう、非日常も・・・薬だし。」 「え、・・・あ、妊婦とってことですか？」 「あ、うん・・・ごめん、馬鹿にしたわけでは。」 「わかってます。・・・私も、したいから。」 「あ、やっぱ、・・・おなか大きいと旦那さん・・・かまってくれない？」 「ん、・・・そ、そうでもないけど・・・気を使いすぎるかな、・・・。」 「そうか・・・いっぱいしたいんだ。」 「うん。・・・そう、そんな感じですね。」 もう一人の声が洗い場から聞こえる。須山の横で、体を開いているのは、朱音という女だった。大きく足を開き抱えあげる姿のまま須山は、勃起した陰茎を突き刺すでもなく、指先だけで朱音を鳴かせていた。 その声は、ガラスで仕切られた露天にまで聞こえている。朱音の姿に少し目を奪われると、花梨は、すねたように昇の太ももをはたいた。 「向こうがいいですか・・・あんなふうが。」 「あ、・・・でも、おなか冷えちゃうよ。」 「・・・いいんです。・・・。」 そういうと星空の中、露天の脇にタオルを引くと昇のほうに足を向け、轢かれたかえるのように足を抱え、薄い繁茂の陰唇をさらけ出した。 「あ・・・見られるだけで・・・ね、・・・どうですか。」 昇は、花梨の陰唇に指を近づける。触れるか触れないかの瀬戸際付近で、熱量を感じた。温水の感覚と、花梨の女の源泉が混ざっているように熱い。 「ヌルヌルしてるね。・・・大丈夫なのかな・・・安定期とか？」 「うん・・・産婦人科の先生も・・・も、してもいいって。」 「そんなこといわれるんだね。」 「あ、奥さんはまだですか？」 「うん、俺がこんな状態だし。」 「ごめんなさい、そんなつもりじゃ。」 「いいよ・・・それより、やっぱり・・・冷えるの良くないよ。」 昇は、熱源から指を抜くと、抱きかかえるように身重の花梨を抱き上げた。花梨は、昇の顔を見つめると、とろんとした目で口を半開きにし、舌をす始めていく。 ガラスの向こうの須山と朱音は、指先での刺激を終え、休憩用のマットレスの上で交わりを始めていた。 すりガラス越しに覗く佐々木の目は、須山と朱音の交わりに感想をつけた。 「古沢朱音のシフトは、万能向きに誰とでもできる遊撃シフトに決まりね。お金の割り切り加減はいまどきの娘ね。」 すりガラスを開け、露天のほうに目をやった佐々木は、広田に名を変えた花梨の姿を見届ける。 「花梨は、・・・ふふ、孕んでから感度とやりたがり度があがったのかしら。広田さんとの夫婦生活に満足してないのね。・・・ 産休なしでもいいなんて、・・・すけべな保育士よぉぉ。」 囃すように花梨にむけた言葉を投げる佐々木。東山からは教えられていた昇の存在に、東山の真意を測りかねていた。 「でも、立川先生の旦那のＥＤ・・・相当ね。」 花梨との体の密着にも、口淫にも反応をみせていない昇の陰茎は星空を見上げることもなく湯面をただ見下ろしているだけだった。 |
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| 2014.8.16掲載 |
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