香菜子は学校から帰ったままの姿で、しばらくはＣＤプレーヤーの前から動けなかった。そして、身震いが止まらなかった。
　封筒には、どこを見ても「立花香菜子先生の性教育講座　その１」という文字のほかには何も書いてなく、また、その中にはＣＤ以外には何も入っていなかった。だから、こんなＣＤを送りつけてきたのが誰で、どんな目的なのかはわからなかった。
　しかし、香菜子と和彦の交わりの様子を録音したＣＤを持っている以上、それがたとえ誰であろうと、香菜子にとってかなりまずい状態であることは明らかだった。
『こんなものがもし学校に送られて、他の先生たちにでも聞かれたら、私、たいへんなことになってしまうわ』香菜子は目の前が暗くなった。
　
　それにしても、こんなことをしたのは誰なんだろう。そして、どうやってこんな会話を録音できたのだろう。
　盗聴、という言葉が香菜子の脳裏に浮かんだ。
『私の部屋が盗聴されている』
でも、今までこの部屋に出入りしたのは、香菜子以外には和彦ぐらいなものだ。和彦がこんなことをするわけはないし、そうなると盗聴器を付けることが出来る人間など、誰もいない。

　と、そこまで考えた時、香菜子はあの夜のことを思い出した。
　そうだ、あの夜、この部屋に侵入して、香菜子を陵辱したあの男なら、まだ香菜子が寝ている間に、盗聴器をしかけることも出来たはずだ。
　そう考えた香菜子は、部屋のあちこちを調べて、しかけられた盗聴器を発見しようとした。しかし、香菜子はそれがどんなものか全くわからなかった。どんなところに仕掛けられているかも、見当がつかなかった。
　結局、香菜子は何も発見できなかった。

　翌日、香菜子は不安な気持ちで学校に出勤した。
　いつも誰かに見られているような恐怖があった。しかし、何事もなく一日は終わり、香菜子はアパートまで帰ってきた。その日は郵便受けには何も入っていなかった。

　香菜子が部屋に戻ると、すぐに玄関のチャイムが鳴った。
　出てみると、それは隣の部屋に住んでいる山内達夫という男だった。香菜子の家に届けられる宅配便は、この男が預かってくれていることが多いので、香菜子は達夫の顔を見て、『最近、何か配達を頼んだかしら』と心の中で思った。が、次の瞬間、香菜子は達夫の手にあるものを見て、「あっ」と言ったまま、立ちすくんでしまった。
　それは、昨日と同じ、あの封筒だった。

　香菜子があまりに驚いたので、達夫の方も慌てたようで、早口でこんなことを香菜子に言った。
「いや、実は、今日の１時くらいだったかな。僕が外で昼飯を食べてアパートに戻ると、黒い服を着た怪しいヤツが、手にこの封筒を持って、立花さんの部屋の前にいるのですよ。そいつ、部屋を開けようとしているみたいにも見えたんで、『どちらをお訪ねですか』って後ろから声をかけたんです。そうしたら、そいつ、びくっとして急に逃げようとするんです」
　そう言って、達夫は封筒を再び加奈子に示し、
「だから少し追いかけて行ったら、この封筒を落として、結局、近くに止めてあった車に乗って逃げていきました」と言った。

　そのまま達夫は香菜子に封筒を手渡そうとした。封筒には「立花香菜子先生の性教育講座　その２」とだけ書いてあるのが見える。きっと中には昨日のと同じようなＣＤが入っていて、今度はそれに、土曜日の香菜子と和彦の交わりの様子が録音されているということが予想できた。
　昨日のもそうだったが、封筒の口はのり付けされていない。香菜子はまた、「はっ」と息をのんだ。封筒がこうなっている以上、達夫は聞こうと思えば簡単にこの封筒を開け、中のＣＤを聞くことが出来たはずだ。
　
　そこに気づいた瞬間、香菜子は思わず達夫の顔を見て、「こっ、このＣＤ、私のじゃありません！」と言ってしまった。
　それは、ここに録音されている声が自分のものではないという意味だったが、達夫はそう言われても、何のことだかわからないようで、
「えっ？　じゃあ、どうしたらいいですか？」と封筒を手に持ったまま、聞き返してきた。
　香菜子はもう、恥ずかしさのために立っていられないくらいだった。
　もしこのＣＤを達夫に聞かれたとしたら、それは和彦と自分の性行為を見られたようなものであり、その恥ずかしさはかなりなものだ。香菜子は体が火照るのを自覚した。
　その一方で、その「恥ずかしい」という感覚は、香菜子に倒錯した快感をもたらした。香菜子は、自分の膣がまた蜜の壺へと変化していくのを意識して、慌てて、
「あっ……、とにかく、一応、調べてみますから」と言って、封筒を受け取った。

「ええと……、立花さん、これはよけいなお世話かもしれないけど……」達夫が控えめな様子で言った。
「今日、逃げていった男の車、屋根に何本かアンテナがついていたんです。それってラジオ以外の無線の受信も出来るってことですよね。だから、僕が思うに、ひよっとして、そいつ、立花さんの部屋の盗聴でもしてるのかもしれないって……」
『あっ、やっぱり、この人はこのＣＤを聞いてしまったんだ。だから、こんなことを私に言うんだ！』
　香菜子は内心でそう考え、またしても、恥ずかしさのために身を震わせた。
　達夫はあくまでも事務的な調子で、静かに語りかけてきた。
「……それで、僕の友達がそう言う仕事をしてるので、前に調査を手伝ったことありますから、もしよかったら、立花さんの部屋に盗聴器があるかどうか、調べるのを手伝ってあげられますよ。あれって、素人にはなかなか見つけられないものみたいですから」
「えっ？　盗聴器ですか？」
　それは、本当は香菜子にとってはとてもありがたい話だった。しかし、今、このＣＤを受け取った上で、盗聴器を探すのを手伝ってもらうと言うことは、これに録音されているのが本当に香菜子の声であるのを認めることになってしまう。それは香菜子にはためらわれた。
　
　香菜子は、ほんの少しの間、どうしようか迷ったものの、結局は、
「あの……、ほんとにご親切はうれしいんですけど、たぶん盗聴なんてされてないと思いますから、いいです」と答えてしまった。
　達夫は、少しも表情を変えず、
「あっ、そうですか。じゃあ、また今度、何かありましたら」
　と言って、帰ろうとしたが、ドアを閉める時に思いついたように、
「ああ、そうだ。僕はコンピュータの仕事してますが、在宅勤務なのでほとんど一日、部屋にいるんです。だから、今日の怪しい男がまた来ないかどうか、気を付けて見てますよ。で、もしまた見かけたら、立花さんに知らせた方がいいのかな？」
　確かに香菜子は、その男がどういう動きをするのかには大きな関心があった。
「ええ、お願いします」
　香菜子が言うと、達夫は、
「じゃあ、そうします」と言って自分の部屋に戻っていった。

　達夫が帰ると、香菜子は急いで受け取ったＣＤを聞いてみた。
　それは香菜子が予想していた通りのものだった。
　香菜子は、いったい達夫にはどんなところまで聞かれてしまったのだろうと思い、恥ずかしさで顔を伏せながら、今日はそのＣＤをすべて聞いてみた。
　そこには、普通の会話は省かれていて、和彦と香菜子が性行為をしている最中の声だけが録音されていた。そして、特に恥ずかしいのは、後半だった。香菜子は夢中だったのでよく覚えていないのだが、その頃になると、二人は羞恥心を捨て去っていて、香菜子は、和彦の肉棒を迎え入れようとするたびに、
「滝原君、ああっ、ちょうだい！　君のチ×ポを先生にもう一度ちょうだい！」と言い、和彦の方は、香菜子に挿入すると何度も、
「ああっ、先生のオ××コ、すごい、すごくいい！」と言った。
　
　そして、絶頂を迎えると、香菜子は、
「ぃ、いいわ……、滝原君、ぃ、ぃ、いい！　私……、ぃ、ぃ、いく！、いく！」とはっきり叫んでいた。
　女教師の香菜子にとって、教え子とこんなにも激しく淫行しているということを他人に知られるのは、恥ずかしいという以上に、とても危険なことに違いなかった。

その夜、香菜子はまたオナニーがしたくなった。
　強姦される以前にも、夜、乳房や陰部を布団に押しつけるようにして、ほんの少しの快感を得ようとしたことはあったのだが、今の香菜子は、そんな刺激ではとうてい満足できなくなっていた。
「あんなＣＤを聞いたせいよ」
　香菜子は自分にいいわけをしながら、布団の中で全裸になり、左手で乳房を撫で、右手で女の芯をまさぐった。最初はゆっくりとした動きだったが、やっているうちに激しくなっていった。
「う、ぅ、ぅ……、あっ、あぁっ……」
　香菜子は自然に声を出した。
　香菜子は、左の人差し指と中指に乳首を挟み、そのまま乳房全体をきつく揉んだ。女の芯には、直接は指を当てないように、周囲の部分を強く撫でた。そのうちに、息づかいがとても激しくなり、ついには、
「ぁぁ、あっ、あぁっ、あっ、あっ、あっ」という声が大きくなるのが自分でもわかった。

　香菜子がそんな声を立て始めたちょうどその時、電話が鳴り出した。香菜子はびっくりして、あわててオナニーを中断し、電話の前まで這っていった。
　ベルはすでに１０回以上鳴っている。どうしようかしばらくためらって、ようやく香菜子は電話を取った。すると、香菜子が何かを言う前に、
「香菜子先生、オナニーなんかしちゃっていいですね。でも本当は、本物の男が欲しいんでしょう？　強姦されたいんでしょう？」という、低い、押し殺したような声が聞こえた。
「誰？　誰なの？」
　香菜子が強くそう言うと、電話の向こうからは、
「ふふっ」という含み笑いが聞こえ、そのまま電話は切れた。
　香菜子は、全裸で電話を握りしめたままの姿で、しばらく固まっていた。
　その日はかなかな寝られなかった。

　翌日は金曜日だった。朝から不安な時間が続いたが、結局、学校では何も起こらなかった。香菜子は疲れ切って自分のアパートに戻ると、今度はかなり真剣に盗聴器を見つけようとした。
　昨夜の電話は、香菜子がオナニーをしている、まさにその時にかかってきた。こんなにもタイミングが合いすぎているということは、盗聴されているのは間違いない事実だった。
　香菜子はＧパンに着替えて、四つんばいになり、まずキッチンから捜索を開始した。

　ちょうどその時、また玄関のチャイムが鳴った。
　訪ねてきたのは達夫だった。香菜子は、今度も達夫が例の封筒を持ってきたのではないかと一瞬たじろいだが、今日は何も持っていない。
「立花さん、実は、昨日の夜、変な車が近所に止まってたんです」達夫は静かに言った。
「えっ？　何時くらいですか」香菜子は思わず身を乗り出した。
「ええと……、１１時くらいかな。僕がコンビニに夜食を買いに出た時だから」
　それはちょうど香菜子がオナニーを始めた頃だった。
「どこに止まってたんです？」
「アパートの横の、ほら、病院の駐車場の前あたりですよ」
　達夫は指で、そちらの方向を示した。
「で……、僕、この間は、よくは見てなかったんで、本当に同じ車かどうか、はっきりははわからないですけど、やっぱり屋根にアンテナがついていて、誰かが中にいるような気配でした。ガラスがスモークなんで、よく見えませんでしたけど」
　きっと中ではあの男が、香菜子のオナニーの声を盗聴していたのだろう。そう考えると、香菜子は恐ろしさと恥ずかしさで、また身震いがしてきた。

　達夫は、おずおずと、
「……あの、それで……、もし立花さんが警察に届けたいなら、一応は車のナンバーを控えておきましたから、教えようかと思いまして」
　『警察』と聞いて香菜子ははっとした。
　もちろん、警察に訴えることは出来ない。とはいえ、このままにしておいていいわけはない。香菜子は自分がどうしたらいいのか、まるでわからなくなった。

　黙ってしまった香菜子に、達夫は、
「……ええと、昨日も言いましたけど、とりあえず盗聴器について調べるんだったら、いつでも手伝いますよ」と、やさしく言った。
　一日たつと、香菜子の中では、昨日感じていた抵抗感がかなり減少していた。そして、自分の淫行を認めてしまうことへの抵抗感よりも、「誰かに助けてもらいたい」という気持ちの方が強くなっていた。この二日間の出来事で不安の極地にいる今の香菜子には、自分の力になってくれる人間が必要だったのだ。
　昔、恋人だった大島謙二は、今は就職して神戸に行ってしまい、最近では電話もあまりかかってこなくなっている。同じ大学を出て、やはり高校の教師をしている吉岡恵里という友達もいるが、とてもこんなことは相談できない。まして、勤め始めたばかりの今の学校の同僚を頼ることなど考えられはしない。
　つまり、今の香菜子には、相談相手が近くに誰もいなかった。
　香菜子はしばらくの沈黙の後、結局、達夫の言葉にすがりつくことにした。
「……あっ、じゃあ……、少しだけ、手伝っていただけますか？」

　それを聞くと達夫は、
「それじゃあ、ちょっと、上がらせてもらいっていいですか？」と言って部屋にあがった。そして、まずはキッチンの周囲を手早く探してくれたが、何も見つからなかった。
　すると、達夫は、
「もし盗聴器があるとしたら、やっぱり奥の部屋だと思いますけど、そこに僕が入ってもいいでしょうか？」と丁寧な口調で聞いた。
　香菜子はその態度に好感を持った。幸い今日は部屋はあまり散らかってはいない。
「平気です」と香菜子は言った。達夫は、
「じゃあ、押入の中とか見てもいいですか？」と聞いてきた。
　押入には布団が入っているが、この際、その程度は見られても気にならなかった。
「どうぞ、調べてください」
　香菜子がそう言うと、達夫は、
「じゃあ、失礼します」と言い、寝室に入って押入を開けた。そして、上段に上って天井を調べ、そこについていた小さな扉のようなところから上半身を天井裏につっこんで、しばらくごそごそ音を立てていたが、
「あっ、ありました、これですよ」と言って、手に何かを持って下りてきた。

「ほら、これが盗聴器です」
　香菜子が手に取ってみると、それは小型のラジオのようなものだった。
「天井裏にしかけるのはよくある手口なんです。いつ仕掛けられたか、心当たりがありますか？」達夫が聞いた。
「えっ？　あっ……、いや、全然ありません」香菜子は慌てて答えた。
「そうですよね、立花さんは引っ越してきたばかりだものね。じゃあ、これ、ひょっとしたら、前にこの部屋に住んでたヤツがこの部屋を出る時にでも仕掛けていったのかな……。とにかく、見つかってよかったですね」
　達夫が冷静な口調でそう言った。
「あっ、ほ、本当にありがとうございました」
　香菜子の心に安堵感が広がった。それと同度に、達夫に対する感謝の気持ちが強くなった。こうしてみると、達夫という人間は、かなり信頼できるように思えてきた。
　引っ越してきた直後は、自分の部屋の隣に若い男が住んでいるということに多少の警戒心を持っていたのだが、その後は何かと親切にしてくれていたので、その警戒心がちょうど緩んできた頃、こんな事件が発生したのだった。
　それに、香菜子は、達夫が昼間でも家にいるのが何となく不審だったが、聞いてみると、コンピュータ関係の在宅勤務ということなので、それも理解できた。
『今回のこの盗聴器の件でこんなに世話になったのだから、何かお礼をしなくてはいけないのかしら』ふと香菜子はそんなことを考えた。

　達夫の方は、盗聴器を見つけると、別に手柄顔をするようすもなく、そそくさと玄関に戻って、靴を履こうとする。そんな様子も香菜子には好ましかった。　　
　達夫は、帰り際にこんなことを言った。
「あの……、さっきの車のナンバーなんですが……」
　そういえば、そのことがまだあった。
「こんなこと、本当によけいなお世話なんですけど、前にも言ったように、僕の友人に盗聴対策の仕事をしている人間がいるんです。で、そいつに相談すると、例えば車のナンバーから、盗聴した相手の住所や名前を割り出してくれたり、相手が持っている盗聴のテープを処分させてくれたりするんです……」
　達夫はそこまで言うと、さらに控えめな調子で、
「この車のナンバーの件、もし僕に任せてくれたら、そいつと相談して、立花さんがこれからも安心してここに住めるようにしてあげられるんじゃないかと……」と続けた。

　それを聞いて、香菜子の心には、また以前の抵抗感が少し戻ってきた。
　盗聴器が見つかったということは、香菜子の部屋が実際に盗聴されていたということになる。その上で、香菜子がそれを依頼するとしたら、あのＣＤの中で愛欲の溺れ、教え子と何度も体を交えている女がまさに自分であるということを、達夫にはっきりと認めることになってしまう。
　香菜子はしばらく下を向いて考えた。　　
達夫は、そんな香菜子の心を読んだように、あくまでも静かに言った。
「このことって、時間が解決してくれるような問題ではないし、とにかく、この盗聴器を仕掛けたのがどんなヤツなのかだけでも調べておいた方がいいんじゃないですか？」
そう言われると、その通りだった。しかし、そうは思っても、香菜子にはなかなか決断が出来なかった。ただ、こんな好意的な申し出をむげに断ることも出来ない。そこで、香菜子は下を向いたまま、
「……それじゃあ、少し考えさせてください。その上で、また、お願いしますから……。それで、もしお願いするとしたら……、何ていうのかしら、手数料というか、経費が必要だと思いますが、それは……」と言った。
「いや、僕の友達ですから、相談だけならお金なんかいりませんよ。だから、気が向いたらいつでも気軽に声をかけて下さい」
「いろいろ親切にしていただいてすみません。何てお礼を言ったらいいか……」
　香菜子はようやく顔を上げて、達夫を見た。達夫は少しほほえんでいた。
「いや、別にお礼なんか……。これも隣に住んでいるご縁ということですよ。立花さんのようなすてきに人には、ずっとここに住んでもらいたいですしね……。それじゃあ、また何かあったらお手伝いしますね」
　達夫は初めてはっきりした笑い顔になって、そんなことを言い、玄関のドアを開けて外に出た。そして別れ際に、
「盗聴されるなんて、気持ち悪いですよね。だって、聞かれて困ることじゃなくたって、自分の部屋の音がテープに録音され、それが保管されているって思うだけで、いやな気分になりますものね」と言った。
　香菜子はその言葉が、達夫の自分に対する思いやりの言葉だと思った。

　香菜子はその夜、盗聴器を発見した安心感の中で、また声を上げてオナニーをした。香菜子には明日の土曜日、また和彦がこの部屋を訪れるのではないかという予感があった。
　明日は人に聞かれる心配なしに、ゆっくりと和彦に抱かれることができる。そう考えただけで、香菜子の体は熱く燃え、体の奥からとろりとした愛液が溢れた。
「ぁ、ぁ、あぁうっ……」香菜子は和彦に抱かれるシーンを想像しながら、指を使った。
　そして、香菜子は、自分がもう、男なしでは暮らせない体になってしまったと思った。

　土曜日の朝、香菜子は先週と同じようにシャワーを浴びた。
　そして、その日の服には、半袖のミニのワンピースを選んだ。白い服なのでブラジャーとパンティも白いものを選んだ。パンティは思い切り小さいものにして、もちろんパンティストッキングはつけなかった。
　
　和彦は１０時頃に来た。
　部屋に入ってくるとすぐに、
「先生、会いたかったです」と言って、香菜子の肩を抱き、唇を求めてきた。
「ちょっと、待って……。ん、もう、馬鹿ねえ、毎日、学校で会ってるじゃないの」
　香菜子は、和彦を焦らすつもりはなかったが、すぐには唇を与えず、体を横にしてそう言った。
「だって……、先生、学校では絶対に話しかけてはいけないって言ったじゃないですか」
　それは、一週間前、別れ際に香菜子が和彦に約束させたことだった。
「俺、約束守りましたよ。だから、今日は、俺にご褒美を下さい」
　和彦は強い力で香菜子を抱きしめ、強引に唇を合わせた。香菜子はその強引さに思わず、悦びの声を上げそうになりながらも、
「ん、うぅん……、ちょっと……、ちょっと、待って、滝原君……。君に話しておかなくちゃいけないことがあるんだから」と言った。
「ええっ？　何ですか？」そう答えながらも、和彦の手は、ワンピースの上から香菜子の乳房を揉むのをやめない。そして、Ｇパンの中ですでに勃起した肉棒が、香菜子の体にぐりぐりと押しつけられる。

「本当に、ちょっと待ってったら……。私、あれから大変だったんだから」
　香菜子は本気で和彦の手をはずさせ、畳に座って言った。和彦もすぐに近くに座った。
「俺だって、あれから大変でした。次の日なんか、俺、疲れ切って一日寝てました。やっと体力が回復したの、火曜日くらいかな……。でも、木曜日くらいになるとまた、先生のこと……、あの日の先生のいろんな姿とか、体とか思い出して、先生の家の方を見ながら、一人で何度もやっちゃいました」
　香菜子は、和彦のそんな正直な言葉につられて思わず、
「えっ？　滝原君も木曜の夜、オナニーしてたの？」と言ってしまった。
　和彦は笑って、
「ていうことは、先生もオナニーしてたんですか？」と聞いた。
　香菜子はあわてて、
「私、そんな……、それどころじゃ……、そうよ、それどころじゃなかったんだから」と言った。

「滝原君、実は私の部屋、盗聴されてたの」
「ええっ？　盗聴ですか？」
「あっ、そんな大きな声を出さないで！」
　香菜子は、和彦が急に大声を出したので驚いた。
「誰に……、誰に盗聴されていたんですか？」
　そう聞かれると、香菜子はまさか自分が誰とも知らない男に強姦されたということを、和彦に話すわけにはいかなかった。
「……うーん、もしかしたら、この部屋に私の前に住んでいた人が残していったのかもしれないって、盗聴器を見つけた人に言われたけど」
「えっ？　盗聴器、見つかったんですか？　誰に見つけてもらったんですか？」
「あっ、それは……あれよ。そういう調査をしてくれる会社に頼んだの」
　香菜子はとっさに、達夫のことを和彦には隠しておこうと決めた。
「そんなことより、もっと大変なんだから……。実は、水曜日、私の家にＣＤが送られてきたの。それには、この間の滝原君がここに来た時の会話なんかが録音されてたのよ」
「えっ？　会話って、話したこと全部ですか？」
「全部よ」
「じゃあ、あの……、先生が俺にエッチなこと言ったのも全部録音されてたんですか？」
「私だけが言ったわけじゃないでしょ……、それに、私……、君に無理に……」香菜子は思わず若い和彦に食ってかかったが、和彦は笑って、
「そんな……、先生、むきにならなくてもいいですよ」と言った。

「それより、先生、それって強請かなんかですか？」
「うん、まだよくわからないの」香菜子の不安は、その点については何も解消していなかった。
「先生、そのＣＤ、俺にも聞かせてくださいよ」和彦はのんきにそう言った。
「何言ってるの、馬鹿ね。すぐに処分しちゃったわ」
　香菜子はここでも和彦に嘘をついた。

　和彦の方はこんな話を聞いても、そんなには深刻にならないようで、
「それもそうですね。ＣＤで聞くより、なまで先生の声を聞いた方がいいに決まってます」と言って、また香菜子の体を抱こうとした。
　香菜子も一度、和彦に話したことで少し気持ちが楽になった。それとともに、昨日から体の奥でちろちろと燃えていた欲情が、急に体全身に広がってきた。
「あぁん、だめよ……」と言いながらも、体から力を抜いて、和彦にされるのに任せた。
　
　和彦はすぐに唇を吸い、しばらくワンピースの上から香菜子の体をあちこち触っていたが、じきに香菜子を畳に横たえ、スカートをまくり上げ、パンティを脱がし始めた。そして、自分もＧパンだけ脱ぐと、急いでコンドームを装着して、すぐに香菜子に跨がり、挿入しようとした。

　香菜子は驚いた。
「何するの、滝原君、いきなり……そんな」
「先生、俺、この間のことでわかったんです」
「何が？」
「俺、一度出しちゃっうと、その後は長持ちするから、その方が先生を悦ばせられるって。だから今日は、最初に一度、すぐに出させてください」
　香菜子は、和彦が自分を悦ばそうとしてくれることもうれしく思ったが、それ以上に、まだ服も着たままで挿入をされるという状況そのものに興奮を感じた。だから、
「えっ、そんな、滝原君……」と言いながら、決して「ダメ」とは言わないようにした。
　
　和彦も、香菜子がそれほど抵抗しないのを感じとって、そのまま挿入の姿勢になった。
「（ああっ、服の上から乳房が揉まれる！）うっ、ぅうっ……、（ワンピースが上にづり上げられて、私の秘密のところが剥き出しになる）ぁぁあっ……、あっあっあっ……」
「あっ、先生……、先生のここ、もう、すごく濡れてます」
　和彦は体を起こして自分の肉棒を手に持ち、香菜子のクレバスを見ながら、膣口に肉棒をあてがって、一気に奥に送り込んだ。その動作は、香菜子にあの強姦された夜を思い出させた。あの夜も、たしかあの男は香菜子にそういう形で挿入したのだった。
　それを思い出すことで、香菜子の欲情は爆発的に強くなった。
「（あっ、あぁっ、肉棒が奥まで……）はっ、うっ、ひっ、ひいっ……、（ごしごしと肉棒が膣壁を擦る）ぁぁあっ、ぁぁあっ……」
　香菜子の声が大きくなった。
「うぅっ、あっ、あっ、あっ……、（す、すごい！　滝原君、前より上手くなってる！）ぃい、ぃい、いいいぃ」

　和彦は「うっ……、先生、先生」と言いながら、肉棒をリズミカルに送り出し、香菜子の膣を突いた。単調な動きだが、前より力強さも増している。
　香菜子は、この最初の一回は、自分からは腰を使わず、和彦の抽送をそのまま受け入れるつもりだった。その方が強姦されているような感覚が強くなるのではないかと思ったのだが、しばらくすると我慢が出来なくなって、腰が自然と動き、和彦の動きに合わせるようになった。
　
「（滝原君の動きが早くなった！）はあぁん、んぁっ……、（彼の肉棒が、私の浅いところを何度も突く！）うっ、ぅうぅっ、うっうぅぅっ……、（あっ、来た！　ああっ、来た！）はっ、うっ、ひっ、ひいっ……、んぁっ、んぁっ、ぁあっ、あああっ、あああっ、ああああぁっ……あっっあっっあっっ」
香菜子の声が大きくなった。和彦は荒い息を吐きながら、
「先生、声、大きいですよ」と言ったが、それはからかうというより、自分の肉棒で香菜子を悦ばせているという実感を得ているあらわれのようだった。

　そして、和彦はついに、
「ああっ、先生、オ××コすごくいいです！」と言った。これは射精の近い証拠だった。　和彦は、香菜子に腰を押しつけて、肉棒をぐっと奥に差し入れ、何度か短く突いた。そして、
「あっ、もう出します！」と言って動きを止めた。
　香菜子はそれに合わせて、自分も腰を送り出し、和彦の肉棒を深く受け入れた。
「（あっ、今、滝原君が精を放った！）ぅうううっんっ、んはっ、ああっ、ああっ……」
　香菜子は初めて、挿入されたままで男の射精の瞬間を直に感じ取ったような感覚を得た。

　一度目の放出が済むと、和彦はすぐに体を起こして、
「先生、布団敷いていいですか？」と聞いた。
「俺はこのままでもいいけど、先生、下になって痛そうだもの」と言う。
　そして、香菜子がまだ快楽の余韻で十分な返事が出来ないでいるうちに、どんどんと押入を開け、布団を出して敷いてしまった。
　和彦は、香菜子をその布団に横たえた。そして、香菜子の体を俯せにして、今度はワンピースのファスナーを下げ、それを脱がそうとした。
　香菜子は体の力を抜いて、和彦のされるままになっていた。

　和彦は、香菜子をブラジャーだけの姿にすると、自分も全部服を脱ぎ、香菜子の隣に体を横たえた。だが、すぐに香菜子への愛撫を再開せず、香菜子の髪を撫でながら、こんなことを言い出した。
「……、先生、俺、先生が初めての女の人なんだけど、先生は、今まで何人くらいの男と……したことがあるの？」
　突然の問いかけに、香菜子は少し絶句した。
「えっ？　そんな……、何聞くのよ。変なこと聞かないで」
「変なことじゃないよ。俺、本気で先生が好きだから、先生のこといろいろ知りたいんだ」
「そんな……。私が、誰とでも平気でこんなことする女に見える？」
　香菜子がそう言うと、和彦は強く首を横に振りながら答えた。
「いいや、全然見えないよ。……俺、先生、処女じゃないかって思ってたくらいだもん。だけど、……してみるとすごいんでびっくりしたんだ」
　和彦にしてみれば、あこがれの女教師とセックスできたことはうれしいに決まっているが、そういう関係になってみると、自分の想像していた清楚なイメージの香菜子と、和彦の肉棒に自分からしゃぶりつくことまでする、現実の香菜子とのギャップが気になりだしたのかもしれない。

　香菜子はどう答えようか少し考えたが、結局、
「私、ちょっと前まで恋人がいたの。私が知ってるのはその人だけよ」と答えた。
「マジ？　じゃ、俺、先生の二人目の男？」
「……もう、これ以上そんなこと聞いちゃダメ」
　香菜子は教え子に対するというより、男に甘えるような言い方になった。
「じゃ、先生、これだけは教えて。俺の……この……これさあ」
　和彦は自分の肉棒を手に持って、香菜子に見せながら言った。肉棒はすでに血管が浮き出るほどに勃起していた。
「これ、その人と比べてどうかな？　小さくはないかな？」
　それは和彦のような若い男なら一番気になることかもしれなかった。

　香菜子はいっそのこと、『今までやった男の中では一番よ。だからそんなこと聞かないで早く入れて！』と答えてしまいたくなったが、我慢した。
「そんな、……そんなこと、私にわかるわけないじゃない」香菜子はそう言った。
「じゃあ……、ほら……、なんて言うのかな……、時間は？」
「えっ？　時間？」
「ほら……、俺、最初、全然長持ちしなくて、すぐ出しちゃってたじゃないですか。でも、やるうちにだんだん長い時間、先生の中に入れてられるようになったでしょ？　あのくらいでいいのかな？　まだ出すの、早過ぎちゃうのかな？」
　どうやら和彦は、自分が早漏ではないかと気にしているらしかった。
「……うん、もう、そんなこと気にしなくても大丈夫だったら」
「でも、先生……、俺、ホントに先生のこと満足させてる？　……その、前の恋人の人みたいに……」
　和彦の声は真剣だった。
「本当のこというと、私がこんなになったの、滝原君のせいなのよ。……だから、もうそんなことなんて気にしないで」
「じゃあ、俺、先生を満足させてるんだね？」
　うれしそうに和彦はそう言い、香菜子のブラジャーを外して、乳房に食らいついた。和彦の愛撫が激しさを増した。

　和彦はまず、香菜子の陰部に顔を埋め、舌を使い出した。今日初めてクリトリスに和彦の舌が触れた。香菜子の体にまた火がついた。
「ぁあっ、ぁあっ、滝原君、先生のだけじゃずるい」
　香菜子は自分から体を入れ替え、和彦の肉棒を握ると、それを口に含んだ。
「あっ、先生、それ……、それをしてもらいたかったんです！」
　女教師と教え子は互いの性器を舐め合った。
　そして、和彦が、
「先生、先生、もう俺、我慢できません！」と言って、コンドームに手を伸ばした瞬間、電話が鳴り始めた。

　その音を聞いて、香菜子はびくっとした。慌てて体を起こすと、和彦も、
「えっ、何ですか、何の電話ですか？」と心配そうな声を出した。
　そして、香菜子のおびえた様子を感じ取ったようで、
「先生、これ、例の盗聴に関係あるんですか？」と言った。
「黙って！　ちょっと静かにしていて！」
　香菜子はそう言うと、ゆっくりと電話の前に進み、受話器を取った。
「もしもし……」香菜子は出来るだけ落ち着いた声を出した。
　電話の向こうではしばらく沈黙が続いた後、例の押し殺したような作り声で、
「先生、淫行はいけないよ。生徒とセックスしちゃダメだよ」と言うと、すぐに電話は切れた。
　香菜子はまたしても、暗い沼に引きずり込まれるような気持ちになった。