| ２０ 天啓 「…よ、よし、入れるぞ、中嶋」 時は少し遡り、舞台はペンションのほうに戻る。ヒカリたちが幽霊に襲われる少し前のことである。 ベッドの上に仰向けに寝させられた夢月と、その前で、妙な方向に覚悟を決めてしまった順平を、聖が穏やかな微笑で見守っていた。もちろん、ヒカリたちが怖い目にあっていることなどそっちのけ、である。 「あのさ、いい加減名前で呼びなさいよ」 『今』、というときに不平を言われ、順平の動きが止まる。 「そりゃまぁ…成り行き上もう、こうなっちゃったのはしょうがないけど、責任取るならまず、いつまでも『中嶋』呼ばわりは失礼でしょ？」 「…そ、そりゃそうだ、すまねぇなかじ…夢月」 「ま、いいわ」 （なんでこうなっちゃったんだっけ？）、と夢月は内心思っている。しかし、この状況を特に拒むつもりもない自分がいるのも間違いない。 聖と順平の行為を見せ付けられて興奮したせいも勿論あるだろう。しかし、夢月も案外、順平のことを悪く思っていなかったのかもしれない。 「あと、中に射精しないでよ…今日ヤられたら、確実にデキるわよ？ あんたが責任とってくれても、わたしはまだこの歳で子供作る気はないからね？」 「わ、分かってる。お前もあんまり激しく動かないでくれよ、さっきの聖さんの件があるからな」 「あたしは初めてだってば！」 「…わたしも、そこまで淫らな性生活を送っていたわけでもないのですが…」 傍らの聖がうなだれた。 「ほら、もう少し脚、広げてくれ。どこに入れたらいいかわかりづらいんだよ…」 「何よ、無駄毛は処理してるわよ」 「そういう意味じゃないって。さっきは聖さんが合わせてくれたが、俺から入れるのは初めてなんだからよ…」 ぐちゅ、と夢月の下腹部が音を立てる。先端が亀裂に当たった音だった。 「…こ、ここだな…入れるぞ…んっ」 夢月の膝を両手で支える。一歩脚を踏み出し、腰を突き出す。 「ん…くぁ…っ！」 夢月が小さく悲鳴を上げた。先端が亀裂をさらに裂いて食い込む。 「い…つっ、んあぁ…」 歯を食いしばり、激痛に耐える夢月。ある種大切なものを失った瞬間。 「…おい、大丈夫か？」 「なんとかね…思ったよりは、痛くないわ。思ったよりは」 とは言うものの、結合箇所には血が滲んでいる。 「それにしても、あんたデカすぎよ…もうちょっと小さいときに入れなさいよ」 「無理言うなよ、小さいと入らないんだよ」 こんなときですら文句の言い合いである。 「…ふぅ、それにしても、まさかあんたがわたしの『初めて』の相手とはね…」 先端が食い込んだ状態を維持されたまま、夢月が呟くように言った。 「まぁ、それもいいか。少なくとも、嫌いじゃないしね。あんたは、ヒカリ一筋でしょうけど」 そう言って、夢月は顔を背ける。痛烈な嫌味になったかも、と言ってから思ったのである。 「別に、甲賀のヤツには敵わないから口縄さんを諦めた、とかじゃねぇよ」 「じゃあ何よ？…んくっ」 夢月の言葉をほぼ無視して、順平がさらに腰を突き入れる。中は濡れてはいるものの、いかんせん夢月の体が慣れていない。 つい先ほど初めての挿入を終えたばかりなのだから当然だろう。 「あっ…深い…っ」 ヒカリほどは大きくはないが、それでも小さくはない夢月の胸がぷるん、と柔らかそうに揺れる。 「正直に言えば、この旅行で口縄さんとの距離を縮めたい、って下心はもちろんあったさ」 言いながら、順平は少し乱暴にさらに奥を目指し突き上げる。 「…でも、俺はこの旅行で、『もっといい女』を見つけた…それじゃ駄目かよ」 （はぁ？） と内心思ったものの、順平が今目の前で言ったことは、ド直球の告白である。 もともと順平は、恋愛に対して小細工が出来る人間ではない。言い方を変えればある意味巴以上に不器用かつ無骨だ。 「あぁもう、痛いわよ、分かったからもっと優しくしてよ！」 しばらく考えて顔を真っ赤に火照らせた夢月が体を起こして言った。 「…ん？あ、あぁ、すまん」 言われた順平が頭を書いたあと、ゆっくりと動き始めた。 「さっきも言ったけど、絶対に中に射精しないでよ？」 「分かってるって。『出たい』と思ったら抜くんじゃなくて、『もう少しで出そう』って思ったら引き抜くからな。 でないと俺も歯止めが利かなくなりそうだ。…今だって、すげぇ気持ちいいんだからよ…」 ゆっくり、ゆっくりと動いてはいるのだが、さすがに『初めて』の膣内は凄まじく狭いのだ。 加えて、一度（聖に）射精しているとはいえ順平は興奮しきっている。膣内で限界まで膨らんでいる上、反ってすらいる。 その状態で突き上げれば、深いところに、強く擦られるのである。その快感は、今のところ夢月に来るものより順平に跳ね返ってくるほうがはるかに大きい。 「…あたしの中、気持ちいいの？」 「ああ。ちょっと気を抜いたら、射精しちまいそうなくらいだ」 そう言いつつ、彼はさらに奥…根元が入るまで突き入れた。 「んんあぁっ！」 夢月も大きな声を上げた。 （…とめなきゃ…止めなきゃ…） 大雨の降りしきるペンションの外に、もやのような影が浮かんでいた。 つい先日来たばかり…いや、それ以前、十五年前の『あの日』以来、このペンションには何度も足を運んでいる。 果たしてそれを『足を運んだ』といえるのかどうかは分からないが…。 そして、このペンションだけではない。他の五人と一緒に、行ける範囲までは行っている。 もうひとつの登山ルートも、途中までは歩いてみた。そこで様々な人々を見てきた。大人も子供も老人もいた。 （あいつら、『おねえちゃん』に酷いことをしようとしてる…『おねえちゃん』は、喜んでいたんじゃなくて嫌がっていたんだ。 だから、『あいつら』が『おねえちゃん』を虐める前に、酷いことをする前に止めなきゃ…） ペンションのドアをすり抜け、中に入り込む。このロビーも、何度か来たことがある。 （あの女の人、嫌だったのかな、気持ちよくてもっとしてほしかったのかな…？） 彼は、あのとき、あの女の人…聖には手を出さなかった。気が弱い彼は、周りに詰られるのを嫌い、体を押さえつけるまでは手伝わなければならなかったものの、『カズキ』や『ユキオ』のように、酷いことはしたくなかった。 「くっ、どうだ、夢月、夢月っ！」 「あ、あぁんっ、す、凄い、凄いよ順平っ！」 折りしも、あるいは皮肉にも、というべきなのだろうか。『彼』がその部屋に入ったとき、まさに夢月と順平が興奮と快楽の渦中にあった。 白い背中を存分に反らせ、夢月が絶頂した直後、順平が急いで体を引いた。 「う・・・おおぉぉっ！」 『歯止めが利かない』、と言ったとおり、順平も間一髪だった。引き抜かれたモノからは一直線に白濁が飛び、夢月の下腹部をさらに真っ白に汚していく。 「あ、熱い…これ、中に出されてたら、どうなってたんだろう…」 「…はーっ、はーっ、はーっ、もう出ねぇぞ…」 「あらあら、本当、若いっていいわねぇ…あんなにたっぷり…」 めいめい感想を漏らすなか、『招かれざる客』がドアを開いた。 「うおっ！？」 「えっ！？」 「きゃっ！？」 三人が三人とも、ドアの方向を一斉に見た。開いている。もちろん、開く音がしたのだから開いているに決まっている。 問題は、そこに『誰も居ない』ということである。 「なんだ…いきなりドアが開いたぞっ！？」 「なになに！？こっちにも幽霊が出たの！？」 反射的に、裸ではあるが聖と夢月の前に躍り出て身構える順平。 「…ちょっと、順平、服着なさいよ」 すぐに襲い掛かられるわけではないことを悟った夢月がそう言うのへ、順平も 「…お前もな」 と言った。夢月が胸と下腹部を今更ながら手で隠した。 「…待ってくれるとは、律儀な幽霊だぜ」 服を着た順平が、聖と夢月を庇うように両手を広げ、改めて身構える。しかし、相手はどこにもいない。 「どうした、怖気づきやがったか、この日野順平、女二人の前で幽霊相手にビビりゃしねぇぞ！」 「さっき思いっきりびっくりしてたわよね？」 啖呵を切ったものの、夢月が後ろから突っ込みを入れる。 「ありゃ音に驚いたんだよ！」 緊張感のない三人の前に、もやのようなものが広がっていく。 「へへ…姿を現しやがったな…」 先ほどまで激しい『運動』をしていた疲れはあったものの、自分でも言ったように女二人の前でみっともない所は見せられない。 そんな順平の前で、もやは少しずつ人の形を成していく。 「…子供だ」 夢月がそう言った。目の前に現れたのは、今度こそ子供だった。 「違う…この前、わたしを襲った『幽霊』とは違います」 聖が言った。あの事件ののち、彼女自身が『高校生以上に見えた』と言っている。 『おばさん、ごめんなさい』 少年の幽霊の最初の一言はそれだった。 「…え？」 目の前の少年は本当に申し訳なさそうな顔をしている。 『僕達は…、おばさんに酷いことをしてしまいました』 「酷いこと…それじゃあ、あなたは…」 『僕も…あの場所にいたんです』 「…どういうこった？こいつはどう見ても子供じゃねぇか」 順平が、身構えはしたものの子供相手に攻撃を仕掛けるわけにもいかず、相手はいきなり謝っているのだから手出しが出来ずにいる。 『…僕達は、もう長い間この山にいます。大人の人も子供も、たくさん見てきたんです。 いつか必ず、『おねえちゃん』を迎えに行くために』 「…『おねえちゃん』？」 『はい。僕のおねえちゃん。『紀子』っていう名前の』 その名前は、三人とも忍から聞いている。行方不明になった六人の少年とともにいたという、当時中学生の少女である。 『でも、詳しい説明をしている時間は今あまりないんです。 僕と一緒に、あの場所へ来てください。おにいちゃんたちの力が必要なんです』 少年の幽霊の表情からは必死さが窺える。しかし、聖の身に何が起こったかを考えれば、すぐさま信用も出来ないのが現実だった。 「…そう思わせて、六人全員でまた襲い掛かろうってことじゃあねぇだろうな！？」 順平がそう考えるのは当然の話だった。相手は幽霊だ。物理的な攻撃が通用するとも思えない相手であり、またいざとなれば相手を攻撃することも出来るようである。 『『カズキ』や『ユキオ』たちはそういうことを考えてる。でも、僕は…あのとき分かった。 『おねえちゃん』はこんなこと望んでいないんだって。だって、あのときのおばさんは…とても悲しそうだった』 聖も少年もうつむく。他の五人は分からない。しかし、この少年の幽霊は、どうやら感情を持ち合わせているらしい。 しかし、そこまで強固な意志を持つ幽霊がいたものなのだろうか？ 『それに、『おねえちゃん』、本当は…もう、僕達とはずっと会えない場所に…行っちゃったんだよね？』 この少年は、生方紀子という少女の…実の弟であるようだった。 「ちっ…仕方ねえ。少なくとも子供を殴るような真似はしたくねぇし、俺が行ってくる。 さすがに雨の中の山道を女二人にひとっ走りさせるわけにはいかねぇからな」 舌打ちした順平が、少年の幽霊に向かって言った。 「おい、案内しやがれ。お前ならちったあ安全な道分かるんだろ？」 『…信じてくれるの？』 「…俺は世間一般的には馬鹿の類だがな。お前みたいな子供にこんな手の込んだ嘘をつく脳がないことくらい分かってる」 口は悪いが、要するに『信用してやる』という意味である。 『…『ユキオ』も『カズキ』も、もう『おねえちゃん』を見つけた、こっちに向かってる、って言ってた。だから、もう…』 「その『おねえちゃん』っていうのは、あなたのお姉さん…紀子さんのことだよね？」 かがみこんで目線をあわせ、夢月が尋ねる。 『はい。でも、『ユキオ』たちは、この建物に、おねえちゃんと一緒に来ていた人たちの中にいた、『ヒカリ』っておねえちゃんを、僕の『おねえちゃん』だと思ってるんです』 「…ヒカリちゃんを！？」 「なんてこった…！急がねえと口縄さんが危ねぇ！」 順平がいきり立った。 「夢月、お前達はここにいろ！」 『僕についてきて！』 少年の小さな体が駆け出し、順平もそれを風のように追った。 |
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| 2013.8.31掲載 |
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