| ３ 同行者 「…で、何もなかったのかお前」 「…何もって何がだよ」 朝一番、弟に起こされた姉が言う言葉がそれである。 「…決まってるだろ、よば…」 「やるわけないだろ」 場所が場所なので大声を出すわけにも行かず、巴は静かに姉に抗議する。 「…まったく、案外ヒカリちゃんも『早く手を出して欲しい』とばかりに待ってるかもしれないっていうのに」 「ないないないない。っていうか姉貴、早く服着ろ服」 パジャマでないと眠れない柄らしく、姉は下着姿で寝ていた。本当はブラジャーすらつけていなかったが、さすがに弟でも体裁が悪いと思ったのか、急いで（弟に取らせて）着用したものである。 「はいはい」 「お二方とも長居させてしまって申し訳ありませんでした」 身なりを整えた二人が朝食のあとで辞去を伝えると、ヒカリは丁寧にそう述べた。 本人も宿泊してもらうつもりはなかったのだが、つい長話になってしまったのだろう。 「あー、うちなら、とくにこいつは土日は基本的にヒマだから、いつでも呼びつけてやってください」 ふざけて忍がそう返す。 「こら姉貴」 「ふふっ、そうですね」 意に反し、ヒカリは嫌そうな顔はしていない。むしろ『まんざらでもない』といった微笑を見せている。 （あー、こりゃ確かにかわいいな、うちの弟が射抜かれるわけだ…でもこうなるとライバルも多いぞ、早くキメさせないと可愛い弟の恋愛対象が誰かに取られかねない） （でも、ヒカリちゃん、クラスメートとはいえなんで巴と仲がいいんだろうなぁ。 人当たりは悪くない人間みたいだから誰とでも同じように接しそうだけど、まさか家にまで呼びつけられた人はそうそういないだろうし） 帰りの車中、忍はそんなことを考えていた。隣の巴はまだ眠そうである。そっちを見やった忍は、 （おーおー眠そうにしちゃって。好きな娘が一つ屋根の下（広すぎる屋根だが）にいるからって悶々としてたか） 「どうした姉貴、ニヤニヤして」 「あーいや、我が弟の成長を垣間見たもんだから」 「なんだそれ」 かくして、巴と忍の甲賀姉妹、そして口縄ヒカリの三人は、夏休みを利用して揚羽山の山荘に宿泊することになったのである。 数日間は学校の後に打ち合わせをして、実際にいつ訪れるかの調整を重ねることになった。 といっても、北見のほうは『いつでもいい』と言っていたし、忍は仕事をしているが数日間なら有給をとる事ができたため、折り合いをつけるのは忍の仕事のほうだけだった。 「…なぁ甲賀、お前、口縄さんの家に行ったって本当か？」 夏休みも目前に迫ったある日、クラスメートの日野順平がそう声をかけてきた。 打ち合わせが終わっていることもあり、ヒカリはもう帰りの車に乗り込んだだろう。 「どっから聞いたんだそんな話」 「…事実なんだな？くっそー、羨ましいぜ」 隠さずに悔しそうにする順平を前に、巴のほうは半ば呆れていた。が、目の前にいる順平がもし自分と立場が逆であれば、同じように嫉妬していたに違いないのである。 「大体な、いつからお前らそんな関係になったんだ。男じゃお前だけだぞ、口縄さんのことを『ヒカリちゃん』なんて呼べるの」 「はぁ？彼女、そんなに人当たりは悪くないぞ？俺は向こうから『ヒカリでいいですよ』と言われたからそう呼んでるだけで」 「それがお前だけなんだっての！」 順平が巴を遮る。 「…で、どんな家だったんだ？何をしたんだ？まさか宿泊していったんじゃないだろうな？何もなかっただろうな？」 「ホテルみたいな部屋だった。心配しなくても姉貴もいたぞ」 「なんだ、お前は『ついで』か…。姉さんのほうに用があったんだな」 「あーもうそれでいいよ」 この順平という友人も、ヒカリに熱を上げている人間の一人である。こっちのほうは巴のように奥手ではなく、割と積極的にアタックしているほうだろう。しかし、あまりにも鈍いヒカリはそれがアタックだと気づかず、特に悪気も他意もなくやんわりと回避してしまうのである。 ヒカリは女子にも友人が多い。ヒカリの友人に言わせると、 『喋り方があまりにもゆっくりすぎてイラッと来ることもあるけど、お嬢様気取りも無駄に高いプライドもないし付き合いやすい』と言っている。 のんびりすぎる動作がせっかちな人間には気に入らない面もあるようだった。 順平は忍を知っている。…というより、中学生時代からの知り合いということもあり、父兄参観などで何回か目にしているのである。 姉を見た順平は『カッコいい』と言っていた。その後『ずいぶん若いお母さんだな』とも言っていたのだが。 忍は豪快だが常識を弁えている人間であるため、父兄参観などのときにはきちんと身なりを整え、周りが見て恥ずかしくないように振舞う。豪快なところなど片鱗も見せない。それが家に帰ると、今まで着ていたスーツをとっとと脱いで着替え缶ビールを空ける駄目な姉になるのである。 さて、そのヒカリのほうは…。 「えっ、ペンションに泊まりに行くの？誰と？」 …と、夏休みの話題になっている。 「甲賀さんと、そのお姉さんです。なんでも、使われていない山荘を買い取ってペンションにリフォームしたのを実際に宿泊してみてどう思うか、というのを聞きたいらしくて」 「へぇ〜。意外に彼もやるときはやるもんね。そういえばヒカリのことを『ヒカリちゃん』って呼んでるのって甲賀君だけだしね、男じゃ」 「そうでしたっけ？」 本人は特に何も考えていなかったようである。 「…で、その人数は限りがあるの？」 ヒカリのクラスメート、中嶋夢月（なかじま・むつき）は、揚羽山荘に興味を持ったようである。 「えーと、わたしはそこまで知らないので、さすがに甲賀さんに…」 「おーいニンジャくん、夏休みの山荘の件だけどさー！」 ヒカリの言葉が終わらないうちに、夢月の声がこだました。 「誰がニンジャくんだ誰が、そりゃうちの姉貴の仇名だ！」 今頃忍が会社でクシャミしているかもしれない。 「…というわけで、あたしも行きたいんだけど」 夢月の言葉に、巴は素直にうなずいた。 「別に人数は何人でも構わないみたいなこと言ってたし、日付さえ合ってればいいんじゃないかな」 「じゃあ俺も行くぜ！」 その話に割って入ったのが順平である。純粋にヒカリとの旅行に行きたい、というのもあるだろうし、『口縄さんに巴の魔手を伸ばさせるわけにはいかない』という思いも強いのだろう。 中嶋夢月は、やや童顔ではあるがヒカリについで男子に人気の高い美少女である。 こちらは特にお嬢様でもない…といいたいところだが、母親が有名な小説家だ、ということで （さすがにヒカリの家には劣るが）それなりに家も大きいらしい。 ヒカリの母親、そして夢月の母親も旧知の仲であり、今でもたまに会うことがあるのだとか。 三つ編みにメガネ、といかにも小説家の娘というような風貌なのだが、その実運動神経のほうに優れており、反面成績は中の下といったところである。なんでも、母親が『自分が文学少女だったから、娘には活発になってほしい』と小さい頃から色々スポーツに関わらせられたのだとか。しかし本人には『スポーツに打ち込んでいたら勉強が追いつかない』と、もっぱら勉学に励んでいるようだ。頭の回転は早いが運動神経が鈍すぎるヒカリとはいいコンビなのである。 その日の夕方になり、忍は巴に『今夜は遅くなるか、帰れないかも』と電話を入れておいた。 とはいえ、会社の仕事が忙しかったわけではない。予定が出来たのである。今隣にいる『男』との予定が。 「…というわけでね、親戚の山荘にお邪魔することになったんだよ」 ベッドに腰掛け、上着を脱ぎつつ忍が言うのを、男のほうは無精ひげを撫でつつ見ている。 「へぇ。…だが、揚羽山といえば、ずいぶん前に失踪事件があった山じゃないか」 男…八重樫一太郎が思い出したように言う。 「さすがプロのカメラマン、よく覚えてるね」 「茶化すなって、そんなに腕前が良いわけでも有名なわけでもないさ。それに、カメラマンというより写真家だ」 ここは八重樫の部屋である。甲賀家からはそれほど離れていないマンションで、本人いわく『とある事件の決定的瞬間を捉えた写真を撮ったおかげで買うことが出来た』ということである。 八重樫は巴も知っている、忍の『恋人』といえる存在である。そろそろ結婚していてもおかしくない付き合いだし、八重樫から正式にプロポーズも受けているのだが、忍のほうは、『一緒に暮らしている忍が無事に高校を卒業してから』と言っているのである。 無精ひげを見れば分かるように、八重樫という男は割と無頓着なところもある。 しかし、むしろ忍はその点を好もしく思っている。というのは、忍の豪快な性格は、きちんとした性格だと嫌がられることが多いらしく、彼女は何度か男選びに失敗している。 この八重樫は忍とは気が合うし、性格も色々な面で似ている。なので今までやっているのである。 「…なぁ、その話、よかったら俺も乗せてくれないか？」 「乗せるって…山荘に行くってこと？」 「あぁ。僕も、前から揚羽山の幽霊の噂は聞いたことがあったし、気にもなっていた。 それに、ひょっとしたら…」 「…あの失踪事件の真相に少しでも近づけるかもしれない、って思ってるんだね？」 「ああ」 八重樫は素直にうなずいた。彼は記者ではないが、職業柄こういうことは気になるのだろう。 「…まぁ、了解を取っておけばいいんじゃないかな。あたしから親戚には話しておくよ」 「頼むよ。あ、それから今日は酒はなしだ。…いいね？」 「…まだ、寝るには早いよ？」 忍の言葉を聞きつつ、八重樫の腕が忍を抱き締める。年下の八重樫を力強く感じる瞬間である。 「ん…ぅ」 ベッドの上で、唇と舌を絡めあう。次第に二人の体が熱を帯びていく。 「…もう、濡れた？」 そういわれた忍は、 「…どうだろう、見てくれる？」 と返す。 「ふふっ、どうしても、服を脱がすのには慣れないみたいだね」 苦労しつつやっとブラジャーとショーツだけにされた忍は、胸を両腕で覆いながら、ベッドの上に体を横たえた。 「笑うなって。そこまで経験が多いわけじゃないからなぁ。そっちだって、なんだかんだいって隠してるじゃないか」 「…こう見えても、結構ウブだからね、私」 フリではない、恥ずかしそうな微笑を見ながら、八重樫は仰向けになった忍の下着姿を舐めるように眺める。 大き目の乳房を覆う白い布。細く引き締まったこしつき。無駄な肉のない脚。その間、下着に隠された小さな丘。 「…視姦っていうの？恥ずかしいから、触るなら早く触ってよ」 視線に耐えられなくなったのか、身を起こして忍がそう言った。 「それじゃ…」 ゆっくりと八重樫の手が、忍の裸身の上を這い回る。その掌は、彼女の体を存分に愉しむかのように、腹を撫で、内腿を撫で、そして胸を包んでいく。 「んっ…！」 何度体験しても慣れない、胸を手で包まれる感触に、忍は声を上げる。下着の上からでも温かみが伝わってくる。 不快ではない。むしろ心地よい感触。 そして、ついにショーツの中に指が忍び込んでいく。最初は秘所のやや上を撫でる。 忍の息が少しずつ上がっていく。 薄い茂みをゆっくりと進み、指はついに亀裂へとたどり着いた。そこはもう、湧き水で湿っている。 「あんっ！」 指を差し込まれ、忍の声が高まった。 「ほら、そこだけじゃないぞ」 そう言いつつ、八重樫の手が胸を揉む。ひとしきり揉んでからブラジャーをずらす。乳房があらわになる。 その間にも、下腹部は指に刺激を重ねられて潤っていく。 「…もう、溢れてるな」 「…馬鹿」 全て脱がされて全裸にされた忍は、そのまま仰向けに横になっていた。いつもの言動からは信じられない大人しさである。 『こう見えてウブ』と言った彼女の言葉は決してウソではないのかもしれない。 続けて、八重樫も服を脱いだ。 「…相変わらず、大きいね。こんなになるもんなんだなぁ」 感心したように、忍が言う。もちろん、八重樫の下腹部を見ての感想である。 「久しぶりに忍の体内に入りたい、って訴えてるんだよ」 八重樫が、自分のものを見せ付けるように忍の眼前に歩み寄る。 「ふふっ、反り返って、先っぽから汁が漏れてる」 そっと指で突っついて笑う忍。余裕そうに見えるが、八重樫のほうから見てもかなりいっぱいいっぱいなのがわかる。 「さ、脚、広げて」 「…うん、一応、そっと、ね」 素直に返事して、でも遠慮がちに脚が左右に広がる。薄い茂みと亀裂が大きく露になる。 くちゅっ、と音がした。モノが突きこまれたのではなく、指が突きこまれたのである。 「ひぃっ！？」 てっきりモノが挿入されると思っていた忍は、体をのけぞらせて声を上げた。八重樫はそのまま指を小刻みに前後させ始めた。 「ちょっ、や、やめっ、あぁ、あんっ」 「ほら、もう中身がトロトロになってる、あったかくて、指だけでも気持ちいい」 「あっ、駄目っ、激しい、激しすぎる、指駄目っ！」 くちゅくちゅと水音を激しくさせられ、忍自身も激しく喘ぎ、全身を興奮させていく。 「はあぁっ…い、いっちゃ…あぁぁぁ」 ぷしゅっ、と忍の亀裂が噴水のように潮を吹いた。それを見届けた八重樫は、すぐさま忍の両足をさらに押し広げ、自分の体を押し入れた。 「んひぃっ！？」 ずん、という強い衝撃、そして深いところを貫かれる感触、絶頂したばかりの場所を抉られる快感。 「こ、こらぁっ、いきなり入れるヤツがあるかぁっ！？」 「あ、ごめんごめん、イッた直後なら入りやすいかな、と思って」 八重樫のほうは悪びれもしていない。 「…あっ、忘れてた」 そういいつつ、八重樫は今入れたばかりのモノを引き抜こうとするのを、忍が止める。 「…今日、中、いいよ？」 「…じゃあ、遠慮なくそうする。出来たら出来たで親子ともども俺が面倒見るよ」 「ふふっ、楽しみにしてる」 真っ正直に『結婚しよう』と言われているのと同じなのだが、もとよりそのつもりなので忍は軽く受け流す。 というよりも、今入ったばかりのモノが中にいるのが心地よく、外に出て行って欲しくないのだ。 「…忍、中すごいな。狭くて、強く締まって、トロトロで…」 一番奥に突き当てたまま動かず、八重樫は忍の胎内を味わっていた。 …と同時に、八重樫はわざと感想を目の前で述べることで忍の興奮をさらに煽ってやる。 「…ば、馬鹿っ、は、早く動いてよっ…！」 （可愛いな） 普段の豪快さは本質の純情を隠すためのものじゃないか、と八重樫には思える。 忍の要望を受け、八重樫は少しずつ腰を律動させる。 「んくっ、あ、あう…っ」 ついでに胸を手に包み、その突起を優しく刺激してやる。 忍は、八重樫との交わりを『愛のあるセックス』だと理解している。だからこそ、何年も続いているのだし、結婚も割と真剣に考えている。というより、結婚するならもう八重樫くらいしかいないだろう、と思っている。 「…んぁ、は、激しいっ…！中が…融ける…っ」 眼下の忍が激しく喘ぎ、眼を閉じ、その両手はシーツを激しく掴んでいる。そろそろ限界が近いようだ。 「…忍、中でいいの？」 「…んっ、いいっ、中、中にっ！おかしくなるまで出してっ！」 ほどなく、八重樫も欲望が高まるのを感じ、もう一度、忍に『許可』を得ておく。 胎内のモノが愛液と襞に包まれ、絞られる。融けそうなのは八重樫も同じだ。 彼女の中でさらに膨張し、血走り、そしてついに弾けた。 「んあっ、ひゃっ、あぁああっ、で、出てる…っ！」 膣の奥にめり込ませた状態で動きを止めてから、全てを解放していくと同時に忍が絶頂の声を上げた。 「んっ、んぁ、い、いいっ、いく…、いっちゃ…あぁぁあっ」 全身をびくんびくんと痙攣させ、背筋を何度も何度も脈動させ、忍は激しく絶頂していた。 八重樫のほうも、あまりにも激しい絶頂を見せる彼女を見て満足そうに微笑んでいた。 「…あーっ、もう、出しすぎ…」 己の亀裂からあふれ出る白濁を、忍は呆れたように見ていた。 「言っただろ？早く中に入りたくてウズウズしていたって」 「馬鹿」 忍がもう一度言った。が、顔はとくに怒ってはいない。むしろ火照った顔は少し嬉しそうにも見える。 「…愛しているよ、忍」 「…うん、できれば、ずっと愛していて」 不思議だな、と忍は我ながら思う。 『ずっと愛していて』などという言葉が自然に出たのは、今まで生きていたなかでも今日が初めてなのだ。 それだけ自分が八重樫という男を信頼し、愛しているのだ、ということなのだが、少し自分でも違和感があるのは否めない。 少なくとも、普段の自分を知っている人間が聞いたら目を丸くするか、熱でも出ているんじゃないか、と疑ってかかるだろう。 （あたしも、わりとネコを被ってるってことなのかな、それとも…） ネコでなければ、ウサギのようにさびしいと死ぬのかもしれない、とも思う。だからこそ、『可愛い弟』から離れられないのだ、とも。 「…さて、もうすぐ出発の日か」 裸で寄り添いあうまま、忍は誰にともなく呟いた…が、八重樫に抱き寄せられ、すぐにその思いは消えた。 「…まだ、するの？ふふ、元気だね」 「満足、してないんだろ？」 …二人の夜は更けていった。 |
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| 2013.7.6掲載 |
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