| ３３ いずれまたその傍へと 「…しっかしまた、すっごい車だよねぇ…」 呆れたように言ったのは忍である。前にも乗ったことがあるものの、これではなんだか落ち着かない。 何しろ、今乗っているのはいかにも『凄い人が乗ってます』という黒塗りの車なのだ。 「…車降りたら『お控えなすって』とか言われないだろうね？」 「まぁ、姉貴ならその言葉は似合うけど、それはないって」 隣には巴も乗っている。そしてもちろんヒカリもいる。言うまでもなく、この車はヒカリの家のものであり、いつも学校に迎えに来る車である。 R> 少し不安に思った八重樫がそう言った。ヒカリは首を横に振って、自分で持っていた写真をテーブルに置く。 まずは一枚。こちらは二枚目のほうで、ヒカリが巴に抱きついているほうである。 「…これは、同じみたいだね。よかった」 八重樫の言葉に、ヒカリが少し頬を染める。 「…で、こっちの写真は…」 そう言って、ヒカリがもう一枚のほうをテーブルに置いた。 「…あっ」 ヒカリを除く全員が小さく声を上げた。 「これは…」 最前列に立っているヒカリと巴の間に、小さな少女が立っていた。その少女は、ヒカリを二回り小さくしたような可愛らしい姿で、巴とヒカリの手を取って微笑んでいた。 「…ノンちゃん」 ヒカリが小さく頷いた。ほんの少しの間、巴とヒカリの『娘』だった少女。写真には彼女が映っていた。 山を去るヒカリと巴のために、もう一度姿を写真の中だけに現したのだろう。 テーブルの上の写真…写真に写るノンの姿を見つめていたヒカリの両目から、涙が溢れ出していった。 この事件のあと、揚羽山山中で少年のものと見られる人骨がいくつも発見されることになる。 しかし、それらの骨はほぼ損傷なく、風化すらしておらず、まるで何者かに守られていたかのように綺麗なものだったという。 骨は六人分あった。この骨が失踪事件の少年達のものとするかどうかには（骨が綺麗過ぎるため）賛否あったものの、遺骨は少年達の地元の寺に引き取られ、少年達が慕った少女『紀子』が眠っているのと同じ場所に葬られたのだった。 かくして、この非現実的な騒動、そして少年少女たちの『かくれんぼ』は、十五年の時を経てようやく幕を下ろしたのである。 |
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| 2013.10.2掲載 |
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