| ６ 夜の声 「…さて、巴。冗談はさておいて、あの子のことなんだが」 部屋に鍵をかけた巴を手招きしておいてから、忍はベッドに腰掛ける。 「…江馬ノン、って名乗ったけど、あたしが思う限り、ありゃ本人が思いつきで言った偽名だね」 「…えっ？」 偽名、と聞いたとき、巴は素直にいぶかしげな顔をした。あんな子供が何ゆえに偽名など使ってペンションに入り込むのだろうか。 「…あたしもさっき気づいたんだけど…」 荷物からメモ帳とペンを取り出した忍は、膝の上でメモ帳にペンを走らせる。 「『江馬ノン』…をローマ字で書いて、『EMANON』。これを反対から呼んでみると…」 「…あっ！」 気づいた巴が声を上げた。 『NO NAME』。すなわち『名無し』。 「…まぁ、あたしが一方的にそう思っただけだし、あの子の本名が本当に江馬ノンちゃんで、こうなったのは偶然、たまたまかもしれない。でも…もしこんな手の込んだ偽名まで使って入り込んできたというのなら、きっとそれなりの『理由』があるということになる。あんな子供にも関わらず、ね」 「…」 「…『子供』ってのも、微妙に気にかかる。あの子には色々と気をつけたほうがいいかもしれない。 まぁ、それはあたしがやるから、巴は早くヒカリちゃんのところに…ってノンちゃんがいるんだったか。 あぁ、そうそう。さっきの話は一太郎にも話しておくけど、あんたは他の人…ヒカリちゃんにも黙っておくようにね」 忍は、巴にそう釘を刺した。 『もういいか〜い…』 予期せぬ声に、ヒカリは闇の中目を覚ました。一瞬ここが自分の家であると錯覚するも、隣に居るノンを見て現状を思い出す。ここは北見のペンションだ、と。 この日のために入念に用意してあったであろうベッドに横になったヒカリは、ノンの就寝を見届けると、旅行疲れ（といっても運転は八重樫だが）のせいか、あっというまに眠ってしまったのである。 『もう、いいか〜い…』 （…子供の、声…それに、この声は、この町に着いたときに聞いた…？） 体を動かさず、目だけ動かして辺りを見回す。天井にも壁にも誰も居ない。が、声だけは聞こえる。 まだ幼い少年の声だ。それに、この言葉は…。 （かくれんぼ…？なんで、そんな声が…？） 「まぁだだよ〜」 不意の声に、ヒカリは心臓が口から飛び出るんじゃないか、というくらい驚いた。 横に顔を向けると、ノンがいつの間にか起きているようだった。先ほどの言葉は彼女のものなのだろう。 （ノンちゃ…） 声をかけようとすると、こちらも横を向いたノンが、口元に人差し指を当て『静かに』のジェスチャーを取っている。 やがて、闇に響いていた子供の声は聞こえなくなっていた。 （子供の声…それを静めたのもまた子供…いったい、今のは…？） 『かくれんぼ』をしているかのような声。そしてそれはいやでも『失踪』という二文字を思い起こさせる。 （まさか、本当に『幽霊』が…？） 「…う、うぅん…」 夏の暑さのせいだろうか。日野順平は夜中に目を覚ましていた。 （あぁ、ここはペンションなんだったかな。甲賀のヤツ、ヒカリちゃんに手を出してないだろうな…） ヒカリの部屋にはノンという少女も寝ているはずだし、いくら忍でも、ノンがいるのに、巴がヒカリに手を出そうとしたら静止するだろう。 隣のベッドには八重樫が寝ている。 （あれ？よく考えりゃ宿代タダなんだから、甲賀姉弟とヒカリちゃんノンちゃん以外はみんな個室でよかったんじゃねぇ？） …こりゃ明日抗議しないとだな、とややぼーっとしている頭で考えているうちに、順平はとあることに気づいた。 （あれ？なんだこの音は…） くちゅ…ぴちゃっ…。 （水の音…でも、ここ部屋の中だよな。雨降ってるわけでもないし…ん？それからなんか変な…） 「んぅっ…」 順平が、突然気が抜けるような声を漏らした。下腹部にくすぐったいような感触が走ったからである。 くちゅ、くちゅ、ぴちゃ…という音が少し強くなった気がする。 （え？お、おい、これどうなってんだ！？） 自分の体に何が起こっているのかをようやく悟った順平。そう、何かに下腹部のモノを咥えこまれているのだ。 いや、咥えられているだけではない。これは…。 「…っ！？」 跳ね上がるように飛び起きた順平は、自分の毛布を剥いだ。そこにいたのは…。 「…お、おい、中嶋…っ！？」 順平の脚の間にうずくまるようにして顔を突っ込んでいたのは、中島夢月その人だったのである。 「…ん？あら？起きちゃった…んん…」 一旦顔を上げた夢月の表情は、とろんとしていて妙に色っぽさを持っている。 「起きちゃった？じゃねぇ…んぉ…っ」 再びモノを口に含まれ、順平は思わず声を上げた。舌が先をつつき、嘗め回す。口の中の熱がそのままモノを包み、膨らませていく。 「ん…んちゅぅ…順平、おっきくなってる…気持ちいいのね、気持ちいいんだよね…んっ」 自身もかなり興奮しているのか、夢月のほうも声が荒い。 「お、おいっ、馬鹿やめろ、八重樫さんもいるんだぞっ…くぅっ」 先端を舌の上で転がされ、順平はさらに声を上げる。初めてされることなので快感にも慣れておらず、上がろうとする声を我慢することが出来ない。 「んふぅ…いいのよ、出しても。出ることは知ってるけど、一度も見たことがないの…だから、出してみせなさい」 そう言った夢月は、そっ、と右手でいきりたったモノを握り、上下に指を動かしていく。 「…男の子って、こうやって一人でするんでしょ？」 掌で軽く握り、皮ごと陰茎を扱く。夢月の唾液とモノが吐き出した汁が混ざり、手を動かすたびに水音が鳴る。 「…っ、く…っ！？」 まっすぐに上を向かされたモノが一瞬びくん、と震えて脈打った。それと同時に、夢月がモノの先端を口に含む。 順平の全身を、強烈な快感が襲った。今までに感じたことのなかった快感。 自分が今までなんとも思っていなかった少女の愛撫。自分の射精を招いたのはそれなのだ。 不思議と、『この相手が口縄さんだったら』とは思わなかった。と同時に、『何故中嶋が俺を？』という疑問も湧いてこなかった。 あるのは言いようのない快感と幸福感だった。 「…ん…いっぱい出た…でも…射精の瞬間、見られなかったな、口の中にしちゃったし。 でも、ベッド汚すと怒られるし、仕方がないかぁ…」 出された精液を全て飲み下してしまった夢月は、とろんとした目のまま、呆気に取られている順平を見据える。 「…ふふふ、今日はここまで、ね…」 「あ、おい！」 今までにないような不適な笑みを浮かべた夢月は、順平の制止も聞かず、ドアを開けてそのまま部屋の外へ出て行ってしまった。 『追おう』、とも思ったが、順平にはそれが出来なかった。下腹部に強い快感が残っていたため、早い話が『腰が抜けて』しまっていたのである。 「…っくう、なんだってんだ、中嶋のヤツ…！」 その夜から大雨が振り出した。順平もヒカリも、自身に起こったことに言いようのない不安のようなものを感じ、なかなか眠ることが出来なかった。 |
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| 2013.7.17掲載 |
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