個人授業で・・・

２．

　その日からは違った情熱を持って、パソコン教室に通い始めた。
　夜が楽しみで、仕事中も上の空であった。
　もう僕にとっては、彼女はマドンナであり、憧れそのものであった。

　高校、大学時代は、ずっと野球部一筋であったが、今ひとつ才能に恵れなかったのか、ベンチ入りはしたものの、レギュラーを穫ることが出来ない、イマイチ君の人生を歩んできた。
　この為、何に対しても、自信が持てない男であった。
　それは、女性に対しても・・・・。
　大学2年の時に、彼女らしい子にも出逢えて、初体験も経験したが、自信のなさが災いたのか、大好きであったにもかかわらず失恋してしまった。

　そんな僕に、突然降って湧いたような幸運であり、彼女が僕を生まれ変わらせてくれると、勝手な妄想をして、信じ込んでいた。
　彼女に夢中になっていたのだ。

　１日、4時間もの個人授業の中で、当然雑談として、いろいろプライベートな話しも出来る雰囲気だったので、僕は熱心に彼女のことをリサーチし始める。

　万年補欠の人生だったが、常にスーパーサブの地位は確立していて、野球の実力よりも交渉力、トーク力は、その経験で、自信があった。
　そのあたりを買われて、難関であった現在の会社の内定を獲得したのだ。

　彼女の身長は、１６６センチ、私立大学名門のＷ大学出身でテニス部。
　結婚３年目の３１歳。タイプは、芸能人で言うと、竹○結子似。

　世田谷の一等地に家を購入して、そのローン対策で、パソコン教室の教師をしているということだった。
　そして、これが重要なことなのだが、旦那さんは、僕と同じ商社マンで、現在、海外に単身赴任中ということで、今広い自宅に一人暮らしをしていると言うことだった。

　その妄想は、果てしなく広がり、妄想と現実の錯綜した日々を過ごしていた丁度受講し始めて、数日後の初めての週末、授業の日の最後に、新たな展開が訪れた。

「杉本君、ちゃんと家で復習しているの？　若いのに、思ったほど進まないのよね」
「まさか何か違ったことに、エネルギー費やしているんじゃないの？ウフ」
「いっいや、それは・・・、実は僕、自宅にパソコンが無いんです。買おうと思っているんですが、ショップに行くと多すぎて訳が分からなくなって・・・・」
「えぇっ、まだ持ってないの？　珍しい人ね、そっかぁ、まだパソコンの事分からないよね。どれを買っていいのか・・・」
「分かった。明日、私、暇だから、一緒に買いに行ってあげようか？」
「えぇぇぇぇぇえ！！良いんですか！！嬉しいな、初デートゲット！！」
「まったく、口だけは達者なんだから・・・せっかくだから、お昼も一緒に食べようか？」

　突然のチャンスに、ジャンプしたい衝動を抑え、素直に、返事をしていた。

「よろしくお願いします。手間賃は払いますから、何処で待ち合わせしましょうか？」
「そうねぇ、杉本君買うなら、秋葉原で色々見てみようか」
「それじゃー、新宿で待ち合わせしましょうか、明日、９時に、新宿アルタ前で」
「えっそんなに時間に？・・、こらぁ～デートは無しだぞ！」
「いえ、買う前に色々ゆっくりパソコンのこと、お聞きしたいから・・・。」
「そういう事は上手よねぇ～、まあいいでしょう」
「あっそれと、デジカメも一緒に買いたいんです。オススメ有りますか？」
「そうねえそれも一緒に調べとくわ、何を撮影するのかなぁ？」
「玲奈さんです！！」
「駄目よ。人妻は撮影禁止よ！それなら女性は写らないカメラにしましょう」
「ええぇぇぇそんな～～～意味ないじゃないですか！」

　予想以上の展開であった。
　憧れの玲奈さんと、パソコン購入という建前で、デートが出来るという願ってもないチャンス。
　それも、朝早く約束を取り付けることに成功し、自分の幸運に舞い上がってしまっていた。

　そして早くも、本来の目的を忘れ、邪な欲望に包まれた計画のシュミレーションに想いを巡らしながら、帰路に就いたのであった。

　計画は、こうである。
　まず、待ち合わせ。そしていきなり、映画に誘い、そして食事。
　秋葉原に行き、パソコン、デジカメを購入する。
　そして、初期設定をお願いしますと、懇願し、自宅に誘うというシナリオである。

　帰りのコンビニで、コンドームを購入していた僕は周囲の人間が不審に思うほどニヤニヤしていたに違いない。

つづく。

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2010.9.25掲載

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