個人授業で・・・

４．

　僕の身長は、178センチなのだが、玲奈さんも身長が166センチと高く、目線的には、丁度良いバランスで、いつでもキス出来そうな距離感である。
　彼女は、長身を気にしているのか、かなりヒールの低い白いミュールを履いていた。

　マックでの食事、映画館までの道のり、映画上映までの時間と、文字通り、夢のように、過ぎ去っていった。
　玲奈さんの学生時代の話が、僕は楽しくて、夢中になって聞いていた。
　特にテニス部時代の、馬鹿げた練習、課題の話が、僕の野球部時代の理不尽な掟と重なり、お互いに大いに盛り上がった。
　同じスポーツをした物同士での共通意識があったのだろうそんな会話を楽しみながら、玲奈さんの瞳と唇を見つめて、もうすっかり彼女の虜になっていた。

　映画が終わり、エンドロールとなった時、迷わず、考えていた奇襲作戦に出た。
「玲奈」っと声をかけた瞬間、左隣に座る玲奈さんの唇に、自分の唇を重ね、キスをしたのだ。
　玲奈さんは、何が起きたのか分からず慌てていたが、次の瞬間僕の胸を両手で押して、離そうとする。

　彼女を座席に押し付け、舌を玲奈さんの口内に侵入させた。
　そして玲奈さんの舌に、僕の舌が触れた瞬間、玲奈さんの抵抗していた力がフッと抜け、受け入れてくれたのだ。
　そのまま、二人はディープキスをし、舌と舌を絡め合い、唾液と唾液を混ぜ合いました。
　映画のエンドロールも終わり、館内が明るく照明が付くまで、求め合うかのように、続けたのだ。
　それは、人生で経験した最も長いキスだった。

　唇を離し、玲奈さんの瞳を見つめると、憂いを含んだ濡れた瞳をしていました。
　今なら、玲奈さんをホテルに誘ったら、断らないのではないかと感じましたが、断られてしまっては、チャンスを逸してしまうと思い、決心がつかなかった。
　座席から立ち上がり、玲奈さんに右手を差し出しました。

「玲奈、さあ、僕のパソコン買いに行こうよ。」
「・・・・・うん。」

　微妙な間の後、玲奈さんは僕の手を握り、立ち上がった。
　明らかに、玲奈さんは、自分の気持ちと理性とのギャップに動揺している。
　それを察した僕は、ぎゅ～っと玲奈さんの手を握りながら。

「玲奈、君のこと大切にしていきたいし、そして僕のことをよく知って欲しいんだ。」

　玲奈さんは、無言で僕を見つめていた。
　それには構わず、玲奈さんの手を引いて、映画館を後にして、新宿駅まで、二人で歩き出した。
　外の明るさに、理性の平衡を取り戻したのか、玲奈さんに笑顔が戻ってきた。
　しかし、映画館に入る前の恋人ごっこをしていた二人の距離感とは、明らかに違う、二人の距離感は急速に変わっていた。
　繋いだ手も、指と指が絡み合うものに変化している。

　そのまま、秋葉原へ行き、ヨドバシカメラで、恋人同士のショッピングモードで、楽しく、ノートパソコン、デジカメを選定し、購入した。
　それさえも、二人にとって甘く楽しい時間でした。
　それでは、今日はお開きという雰囲気の玲奈さんに、僕は作戦通り、お願いを申し出たのだ。

「玲奈、出来ればパソコンの初期設定などの手伝いをお願いしたいんだけど」
「今から、僕のマンションに来て欲しいんだ」
「えっそれは・・・・・・。無理よ・・・・・」
「まだ３時前でこんなに明るいし、良いでしょ。それにマンションの近くに美味しいケーキ屋さんあるんだ」
「健ちゃん、絶対に変なことしないって約束できる？」
「えっ、変なこと？？　僕は真面目な生徒だよ」
「全く・・・・しょうがない生徒ね、うふふ。分かったわ。私は先生なんだから。分かってるよね」

　玲奈さんは、承知してくれた。僕のマンションに向かうことを・・・・・。
　玲奈さんは大人の女性。それがどんな意味を持つか、分かっているはず。
　考えた通りの展開に運んでいることに、やや驚き興奮しながら、玲奈さんの心の隙間に、自分が上手く入り込んだと実感するまでにたいして時間を必要としなかった。

　玲奈さんは、旦那さんの長期間に及ぶ不在に、満たされぬ想いがあり、それを満たす役割を僕に求めていたんだろう。
　まだ出会って1週間も経っていないにも関わらず、まるで磁石同士のように吸い寄せあっているような気分だった。

　そのまま、恋人同士の雰囲気のまま、マンションの最寄り駅まで行き、美味しいと勧めたケーキ屋さんに寄って、ケーキを4つ購入する。
　ケーキを選ぶ二人は、恋人そのものでした。
　ラブラブな雰囲気のまま、マンションに向かい部屋に入った。
　玲奈さんは、部屋に入る瞬間、何か意を決したように、肩まで伸びた美しい髪の毛を両手で掻き上げる仕草をしました。
　その時に、あることに気がついたのだ。

つづく。

あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。

2010.10.6掲載

【5】／【3】