個人授業で・・・

５．

　玲奈さんは、部屋に入る瞬間、何か意を決したように、肩まで伸びた美しい髪の毛を両手で掻き上げる仕草をしました。
　その時に、僕はあることに気がついてしまったのです。

　玲奈さんの左手の薬指に有ったはずの結婚指輪が無くなっていたのです。
　それは彼女が今は人の妻ではないという主張の表れなのでしょう。
　それに気がつき、胸の高鳴りと興奮を抑えるのに、苦労しました。
　玲奈さんは、僕とのことを意識している、そして期待しているのだという、僕を生徒から男に変えるには十分すぎるエネルギーとなったのです。

　冷静さを装いつつ、ワザと大げさに、部屋の中に入り、ドタバタと、玲奈さんを案内しました。

「まあ、健ちゃん、部屋綺麗にしているのね。見直したわ」
「だってまだ越してきて、1ヶ月も経っていないですよ」
「それでも綺麗よ。それとも、初めから私を連れ込むつもりで、部屋を掃除したのかなぁ？　うふふ」
「えっ・・・・、それは当然でしょ！！」
「そっかぁ、やっぱり私、健ちゃんの罠に落ちちゃったんだぁ」
「私、人妻なのに、無事に帰れるのかしら？」
「僕は、良い生徒ですよ、安心して下さいよ。」
「ホントにぃ？　嘘つきが隠れていそう」
「それにしても、ここ広いね。２ＬＤＫじゃないの？　ひょっとして彼女と一緒に住んでいたりして？」
「僕、もてないから、彼女いませんよ。僕は、ここで玲奈さんと住みたいって思ってます。」
「あはは、健ちゃん、かなりの女殺しよね。怖いなぁ」

　そしてケーキを食べようと、キッチンテーブルで、お皿、フォークの準備をしつつ、簡易ドリップ式コーヒーの準備を始めました。
　玲奈さんが、直ぐ傍に来て、コーヒーは私がすると言って、炒れてくれました。
　もう恋人そのものの週末の風景です。

　その間に、僕は、よからぬ考えから、急いでデジカメの梱包を解き、パソコンを設置する寝室でバッテリーの充電を始めていました。
　そう僕は、寝室のサイドテーブルに、パソコンを設置するつもりでした。
　これは、僕の計画のひとつでもありました。
　有無を言わさず、玲奈さんを布団近くに誘い込もうというものです。

　そんなこととは知らずに、玲奈さんは可愛い仕草でコーヒーの準備をしています。
　すると、「健ちゃん、できました～」

「健ちゃん、1人でこんな広いところ、淋しいでしょう」
「家賃高いでしょう？ひょっとして健ちゃんってお金持ち？」

　ケーキとコーヒーで、上機嫌な玲奈さんは、滑らかになった口で、僕に次々に質問を浴びせてきます。
　僕は、丁寧に、質問に答えていきました。
　一通り答えると、僕は質問で逆襲に転じました。

「玲奈は、大学卒業してから、ずっとパソコン教室の先生しているの？」
「旦那さんとは、どんな風に出会って、結婚したの？」
「ずっと帰ってこない旦那さんで、淋しくないの？」

　玲奈さんも質問に丁寧に答えてくれました。
　玲奈さんは、大学卒業後、日本で一番大きな大手損保会社に勤めていたが、父が亡くなった関係で、母の傍に居たいと考え、その大手損保会社を退社し、実家近くのパソコン教室の先生になった。
　そして、家同士の繋がりのお見合いで、旦那さんと出会い、紹介され結婚した。
　その時に一度専業主婦になったが、世田谷に家を買ったときに、再び、今のパソコン教室で先生になったということだった。

　そして、実は寂しがり屋で、もう1年も帰ってこない旦那さんが不満で、心揺れているということを、素直に僕に告白したのであった。
　その瞬間、僕は、本気で、玲奈さんと結婚、人生を一緒に歩みたいと思い始めていた。
　今思えば、玲奈さんの魅力に魅了され、それ以外の事を考えられなくなっていたのだ。

　ケーキを食べ終わると、僕は胸高鳴る気分で、パソコンのセッティングを玲奈さんにお願いした。
　玲奈さんを寝室に連れて行きます。
　部屋の入り口で、寝室と悟った玲奈さんは立ち止まり、僕の顔を睨みました。

「健ちゃん、あなたって・・・・・。やっぱり・・・」
「違うよ。　ＬＡＮケーブルが、この部屋しか引けないから、ここにパソコン設置するつもりなだけだよ」
「ふぅ～ん、そうなんだぁ。まぁいいけど信用するね」　

　玲奈さんは、寝室に入っていき、ノートパソコンの梱包を解き始めます。

「今日申し込んだＡＤＳＬ回線は、未だ工事日が未定だから、ネットの設定は今度ね」
「基本的に、今日は電源入れるだけだったりして・・・・。」

　玲奈さんは、両膝をついた姿勢で、箱からノートパソコンを取り出しながら、ひとりで何かをつぶやいています。
　僕は、そんな玲奈さんの後ろ姿、艶めかしい両脚を舐めるように見ながら、露わになった、玲奈さんの足の裏を見て、興奮がピークに達しつつありました。

　デジカメのバッテリーは充電完了となっていました。
　僕は、玲奈さんの隣に座り、デジカメにバッテリーをセットして、撮影モード等の設定を済ましました。
　幸い、会社で同じメーカーのデジカメを扱っていましたので、取説無しで設定できます。
　デジカメをスタンバイ状態にして、ノートパソコンの横に置いて、僕は玲奈さんに話しかけました。

「玲奈、玲奈さん！！」
「うん、健ちゃん？？どうしたの？」
「れっ玲奈さん、お願いします！！」

　僕は、玲奈さんをいきなり布団の上に押し倒しました。

「玲奈さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん！！」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ、健ちゃん駄目えぇぇぇぇぇぇぇ。。。。やくそくちがうぅぅｘ」

つづく。

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2010.10.9掲載

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