桃色忘年会


桃色忘年会『性愛小説の世界』豪円寺琢磨作
【第１話】　あっという間に師走です。あちこちからメールで催促が来ているため、今年もそろそろ会合の準備を始めなければなりません。　１年に１度だけ12月に開かれるこの催しは、仲間内で“桃色忘年会”と呼ばれています。　温泉宿に泊まり込んで行われるのですが、コンパニオンを呼ぶわけでも、ホステスを連れて行くわけでもありません。実は、この忘年会、私の愛人を肴にしてエロを満喫する集いなんです。　今年で５回目になり、噂が噂を呼んで申し込みが殺到している状態ですが、ほとんどお断りしています。というのも、この会に参加するためには、ある条件が必要だからです。その条件とは、愛人の夫の関係者であること、です。　とはいえ、私が暮らしているのは人間関係が強烈な地方の田舎町ですから、愛人の夫と面識のある人間は少くありません。なにしろ、私自身が夫と知人関係にありますから、周りにいるエロ仲間で彼を見知っている人はかなりの数にのぼります。　さて、前置きはこれくらいにして、去年の様子をご報告させていただきます。　会場は草津温泉の某老舗旅館でした。湯畑からは遠いのですが、離れを貸し切ることができるため、オトナの遊びにはもってこいの場所なんです。　当日の早朝、私は真美（仮名）を隣に乗せて愛車のパジェロで出発しました。私は短期出張と、真美は泊まり込みの同窓会と、家族に嘘をついて時間を捻出しました。　お昼前に草津へ到着したあと、ちょっとしたデートを楽しみました。　なにしろ、住んでいるのが小さな町ですから、不倫関係にある二人が肩を並べて歩くことなど到底不可能で、ふだんは隣県のラブホに現地集合現地解散して事に及んでいます。　ですから、年に１度、忘年会のときだけは、二人して手を繋いで歩き、恋人気分を満喫します。　見知らぬ男たちの慰みモノになることがわかっていながら着いて来るのは、ご褒美としてこのデートがあるからなんです。　でなければ、いくら愛人の頼みとはいえ、こんな破廉恥な行いに同意などするはずがありません。　この日は、マイタケ入りの山菜そばに舌鼓を打ったあと、湯畑にある土産屋をひやかしてまわり、逢瀬の記念品としてガラス細工のネクタイピンとブローチを購入しました。　よほど気に入ったのか、私と会うときには必ずこのブローチをつけています。　午後３時、旅館に到着しました。顔なじみの女将が出迎えてくれました。　スキーを目的とした家族旅行で何度もこの旅館に泊まっているので、女将は真美が私の愛人であることに気づいているはずですが、滞在中は真美を正妻として扱ってくれました。気遣いに感謝、感謝です。　荷物を置いたら、さっそく温泉です。部屋付きの露天風呂に二人でつかり、１年分の疲れを落としました。宴会が始まってしまえば、ゆっくり温泉を楽しむ時間など、肴のオンナにはありませんから。　出たり入ったりしながら１時間ほど温泉を楽しみ、雪の積もった和風庭園を仲良く散策し、また部屋に戻ってほうじ茶を飲みながらくだらない世間話をしました。　それから、私だけ部屋を出て、本館ロビーでピンクの同志たちを待ちました。　午後５時、むさ苦しい仲間たちがランドクルーザーに乗ってやって来ました。「近藤さん、お待たせしました！」　三島さんが大声を出しながら元気よく入って来ました。　私は椅子から立ち上がってエントランスに向いました。「お疲れ様！　こっちは温泉に入って休憩してたとこです」「来る途中で雪が降って大変でした。何年かぶりでチェーンを巻きましたよ」「そうですか。それは大変でした。さあさあ、はやく上がって温泉につかってください。みなさんもはやく上がってください」　隣に来た三島さんが小声で尋ねました。「で、これからの段取りは？」「とりあえず風呂につかってゆっくりしてください。６時くらいに宴会を始めます。時間になったらこちらから呼びに行きますので、各自部屋でくつろいでいてください」　ニヤケ顔の三島さんが耳打ちしました。「わかりました。あれこれ想像しながら待ってますよ」　午後６時すぎ、男たちがみな集まりました。　いちばん奥にある和室を共用スペースとし、合同プレイはこの部屋で行いました。　参加者は私を除いて５名でした。みな、私のエロ仲間であり、真美の夫の知人です。でも、真美に会うのは初めてです。去年はそういう人をわざわざ選びました。　何故かというと、一昨年の忘年会で真美のＰＴＡ仲間を呼んだのですが、声で誰かわかってしまって大変な騒ぎになってしまったからです。「似ているかもしれないが別人だ」と言い聞かせて誤魔化し、プレイは続行したのですが、忘年会後、真美はＰＴＡの役員を下りてしまいました。いまでも可哀想なことをしてしまったと後悔しています。　というわけで、去年は真美と面識のない人たちだけで楽しみました。しかし、背徳感という点で満足を得ることができませんでした。　その反省から、今年は真美と日常的に付き合いのある知人だけでメンバーを構成するつもりです。そのかわり、真美が人物を特定できないよう、アイマスクに加えてヘッドフォンを装着させます。　６人が車座になって着席したところで開会宣言です。「今日はお忙しい中、こんな遠いところまでお越しいただき、まことにありがとうございます。まずはビールで乾杯といきましょう！」　お膳の上のグラスを持った男たちが立ち上がり、「かんぱ～い！」と叫んでまた座りました。「それでは皆さんお待ちかねの生け贄を連れてまいりますので、いましばらくお待ちください」　私は部屋へ戻り、真美を連れ出しました。「さあ、歩くんだ！」　真美は黙って四つ足姿になり、廊下を犬のように這って進みました。首には真っ赤な犬用の首輪がはめられており、そこから大型犬用の手綱が延びています。「さあ、入るんだ！」　手綱を引かれた今日の肴がおずおずと入室しました。「みなさんにご挨拶だ！」　私の座布団に正座した生け贄が三つ指をついて挨拶をしました。「み、みなさま、今日はメス奴隷の真美を使ってお楽しみくださいませ」
【次】
あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
豪円寺琢磨さんの作品集→
小説提供サイト
『性愛小説の世界』
2015年12月5日掲載
Copyright (c) 2015 豪円寺琢磨 All rights reserved.

▲