鞭を執れ
はちみつ太郎 作
１７

「はぁ。」

　エンジン音の消えたワゴン車の車内に溜息だけが何度も行き交う。携帯をいじり、他愛もない記事を一読みすると、その画面を消す。その作業を繰り返すうちに、再び溜息も同じタイミングで吐き捨てられる。

「はぁ、潜入捜査かぁ・・・。」

「コンコン。」
　助手席側の窓が叩かれる。薄暗いが、顔立ちと性別は確認できる。

「なんでしょう。」

「桧山です。」

「あ、・・・密名の？」

「えぇ、隣、いい？」

「どうぞ、・・・桧山警部補、ですよね。」

「えぇ、黒田巡査長。・・・潜入捜査では、階級は呼び合わなくていい。」

「あ、すいません。」

「小春が入ってから、何台車が？」

「え、えぇ、３台です。軽が１台、ＳＵＶが２台。」

「時間はどれくらい？」

「小春、いや、滝井巡査・・小春さんが入ってから・・・５分後と３０分後、それと、今しがた。」

「そう、あの娘が入って、・・・５０分か。」

「はい、２０時５０分ですから、そのくらいかと。」
　あずさのしている右耳のイヤホンから微かながら音が漏れている。黒田には聞き取れないが、捜査の状況が克明に報告されているのだろうとわかる。

「あの、・・・潜入捜査の事案って・・・性犯罪とかの？」

「概要だけ、聞いておいて、数人の女性の行方不明者が出ている。そこには、殺人事件も絡んでいる。その捜査。」

「女性捜査官が必要なのですか？・・・正面きっての捜査本部が出来ても良さそうですが。」

「そうね、正面きれない部分がある。大体判るでしょ。」

「いえ、飲み込めません。・・・若い女性捜査官を潜入させる理由が・・・どこに。」

「・・・警察庁のお偉方の娘さんが、被害者の一人なのよ。」

「公に出来ない理由・・・ですか。それが、・・・その程度で・・・小春ちゃんを。」

「そうね、でも小春はそれすら知らずにやっている。使命感と女性を守りたい一身、それだけね、ここにいる理由は。」

「やらされているわけではないと。」

「そう、・・・黒田さん、小春のことを・・・もしかして？。」

「え、・・・気になるかってことですか？」

「男女の関係がない、ってことは？」

「えぇ。関係は、あります。・・・それだけで気になるって事じゃなくて。」

「好意を持ってる。・・・そういうことね。」

「はい、だから、・・・気になるんです。潜入捜査のこと・・・僕にできることは、してあげたくて。」

「わかった。小春を守ること、それが黒田くんの任務。私も全てを知る立場ではない駒なの。でも、できる限りあなたへの協力を請うことにする。」

「はい、なんでも・・・。」

　あずさは黒田に手を差し出すと、反対の手を差し出した黒田と握力を込めて握手する。

「じゃぁ、小春の現状を・・・これを聞いて理解して。」
　黒田にイヤホンを差し出すと、耳にはめこんだ。黒田の耳に飛び込んだのは、雑音と被さる音の向こうに聞こえる、小春の聞いたことのない喘ぎ声だった。



「はぁぁ、だ、だめぇぇぇ・・・いっ・・いっちゃぅぅぅぅ・・・あぐぅぅぅぅ。」

「三回目か、・・・ハスイモサポニン効果ですね。」

「あぁ、サポニンの泡か・・・奥さんのオツユか、わからんようになってるけど。」

「あぁぁ・・・あついぃぃ・・・かゆぃぃぃ・・・はぁぁぁ。」

　瓶詰めになっている白い石鹸の泡のような液体を指先にすくうビルド。その瓶のラベルには、ハスイモ抽出サポニンと書かれている。

「師匠これ、こんなに効くなら、店で売っても？」

「おまえ、しらねぇなぁ。こんなもん、肥後ズイキ使ってる奴はみんな知ってるよ。」

「え、肥後ズイキって・・・おみやげ物かなんかですか？」

「ハスイモを乾燥したもんでな、編みこんで、ディルドゥのように女を喜ばせるものだ、大昔からあるものだから。」

「へぇ、じゃ、それ売れば。」

「そしたら、俺らは用無しだろ。」
　瓶から掬った白い粘性の液体を、乳首の周りになすり付け、周りを柔らかく揉んでいる。背筋を反らすように小春は胸を突き出す。その反動で腰は引き気味になると、まだ残るサポニンの液をビルドの指から小春の膣前庭に引き渡す。

「あぁぁぁぁぁ・・・奥、奥っ。・・・熱くて、かゆいぃぃ。」
　指先を曲げ、小春の膣道の上側を刺激するビルド。柔らかく温かい内臓物は、指先に湯気を帯びさせるほどだ。

「クチュックチュッ・・・クチュックチュッ・・・グチュゥゥゥ。」

「んぅぅぅぅぅぅ・・・。」
　一文字に結んだ口元は、言いたい事を封じ込める。その通りにはならないと、ここ数回のやり方で判っていた。

「どうしたの？」

「クチュクチュ・・・ほぉら・・・クチュ・・・クチュチュチュチュチュッ。」

「んーーーーーーーっ・・・・あぁ・・・お、おかしくぅぅぅ・・なるぅぅぅ。」
　ビルドの指先は膣奥まで潜り込み、粒々した粘膜の集合体をかきむしる。短く切られた爪は指先の仕事をしやすくしている。開いたり閉じたり、粘膜を擦り取るように刺激し続ける。

「おかしくなっていいよ、それが女なんだから。ね、奥さん、気兼ねはいらんよ、ＳＭホテルに絶叫はつき物さ。」

「すっげぇ・・・ヌルヌル、熱くって、膣肉が、ユルユル。・・・そりゃっ・・・そりゃぁぁぁぁ。」
　指先をかぎ状に折り曲げたまま、小春の膣道を押し広げ、トンネルの掘削機のようにドリル回転をさせる。

「あぁぁぁ、んーーーーーーーーーーっ・・・だめぇぇぇ、おしっこ・・・もれるぅぅぅ。」

「ビュッ・・・ビュビュッ。」
　床の人造大理石に透明な液を噴出した小春。ビルドは、二の腕まで飛び散った小春の潮を、太腿の裏で拭い取る。

「ご、ごめんなさぃぃ・・・ふ、拭きます・・・おしっこ、・・・手を外して、自分で拭きますから。」

「いいよ、おしっこじゃないし。」

「初めてなんだねぇ・・・潮吹き。」

　ビルドに目配せをする舐め地蔵は、手のひらに残った飛沫を小春の舌になぞらせる。

「・・・。」

「味、しないよね。臭いも、おしっこ臭くない。」
　息がつらいせいなのか、ビルドの指先からは何も臭わない。微かに臭うのは指先に残るタバコの臭いくらいだった。

「潮、吹き？」

「あぁ、潮吹き、女が絶頂を味わうと、尿道横のスキーン腺から膣分泌液が吹きだすんだよ。圧迫されたＧスポットに押されてね。」

「さぁ、奥さん、五回目・・・いくよ。」
　再び、ビルドの指先は、割られた陰唇の間に入り込むと、ドリルのように奥を目指す。小春の喘ぎが始まったところで、黒田はイヤホンを外した。


「聞いていられない？」

「・・・。」

「外れてもいいのよ。」

「いえ、続けさせてください。・・・彼女を・・・守るのが・・・私の。」

「そうね、・・・じゃ、小春から、電話があるまでここで待機・・・できるわね。」

「・・・はい、任務ならば。」
　下向き加減で答える黒田の答えは、握った拳と同様に固い決意であるのがあずさにはわかった。
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2012年12月15日掲載
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