教え子の母 ＹＯＫＯ 作
１． 　小学校教諭の伊藤弘樹は美しい妻と二人の息子と幸せに暮らしていた。 　今日から新年度。短い春休みも終わりだ。 　妻とキスをして出かけるのは日課だ。 　新たな受け持ちの児童には学年イチの落ちこぼれと呼ばれる青山優人の名前があった。 　どう指導するか考えていた。 　美しい妻との時間が少なくなるのではと不安になる。 　最初のホームルームでは早速宿題を出した。 　テーマを出した上での日記の宿題だ。 　まさかこの宿題を忘れる児童がいるとは思いもしなかった。 　しかし翌日、提出された日記を読んでいると青山優人だけはテーマを無視した日記を書いてきた。 　なるほど。確かに彼は学年イチの落ちこぼれだと弘樹は納得する。 　同時に弘樹は親の顔が見てみたいと思った。 　きっと母親はデブスで不美人な醜女なのだろうと決めつけた。 　本格的に始まった授業の中で優人は落ちこぼれぶりを発揮していた。 　その度に弘樹は優人の母親がデブスで不美人な醜女と決めつけ、自分の妻と比べては笑っていた。 　そんな中で新年度最初の授業参観を迎えた。 　今までの自分の思いが覆されようとは弘樹は思いもしなかった。 　集まった保護者を見て弘樹はガッカリする。 　少しぐらい美人がいることを期待していたからだ。 　自分の妻を世界一美しいと信じていた弘樹だが多少美しいと思える保護者がいてもいいと思っていた。 　だが集まったのは醜い女性ばかり。おばさんの集まりだった。 　中でもデブスで不美人な醜女がいた。 　あの女性こそ青山優人の母親だろうと弘樹は決めつけた。 　そして心の中で笑った。 　子どもが子どもなら親も親だ。 　弘樹にとっておばさんの集まりの前で授業をするのは苦痛だった。 　自分がイケメンだと思っている弘樹はおばさんたちが自分に夢中になるのではないかと思い迷惑だと思っていた。 　なんとかホームルームまで終えると「こんにちは」と一人の女性が弘樹の前に現れた。 　先程まではいなかった女性だ。 　そしてその女性は美人だった。一体誰の母親だと弘樹は思った。 「青山優人の母です」と思いもしない答えだった。 　あの落ちこぼれの青山優人の母親と思いながらもあまりの美しさに弘樹は取り乱し「どうもどうもどうもこんにちは」と挨拶する。 　一目惚れだ。妻以上に美しいと思ってしまった。 　そしてこの女性と結婚したかったと思った。 　青山優人の母親は「授業参観間に合わなくて申し訳ありません」と謝罪してきた。 　わざわざ挨拶に来たことに弘樹は感心する。 　この後の懇談会ではこの女性をずっと見ていようと決めた矢先、「懇談会も参加できません」と言われ弘樹はがっかりする。 　弘樹は少しでも会話をしたいと「優人くん今日宿題を忘れたので居残り勉強させます」と言った。 　青山優人の美しい母親は「ご迷惑おかけします」と謝罪した。 「これからよろしくお願いします」と言うと帰って行った。 　弘樹は妻以上の美女に会えたことでテンションが上っていた。 　そして優人に「お母さんと帰れなくて残念だったな。ちゃんと忘れた宿題を終わらせかるんだぞ」と言うとウキウキ状態で懇談会の会場に向かった。
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2017年1月26日掲載
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