奥様は接待秘書
浩一 作
自供する女　６

　尿意に目覚めると頭痛、淡いオレンジ色の照明がスイートルームの広すぎるベッドを、浮かび上がらせていました。
　今、どこにいるのかと一瞬の惑い、乱れた掛けふとんから起こした裸身は、ガーターからストッキングに、片足はまだハイヒールを履いたままだったのです。
　乱交とも思える黒人との肉宴を、ビデオ撮影だの乱痴気騒ぎに、いくら酒癖が悪いっていったってひどすぎます。
　わたし以外誰もいない部屋。酔わされたあげく、そのまま社長や理事長のじいちゃんに放っておかれたのです。

　シーツは乱れた性行為の痕跡にシミだらけで、男が放った精臭がただよい、恥毛のない陰部は赤みを帯び、下半身の真ん中に穴が開いたという感じに、どんな抱かれ方をしたのか、腰やお尻にまで男の手形のような赤みが残っていました。

　軽い二日酔いに嘔吐き、手を当てると口の周りはカサカサで精液の乾いた臭い。誰もいないを良いことにシャワーも浴びようと、ガーターとサスペンダーからストッキングを脱ぎ、全裸になりました。

　洗浄便座に座りオシッコついでにビデで流す、陰部から垂れ出た白いのもたっぷり。シャワーを浴びると、やっと生き返った気分になりました。
　ドライヤーに髪を吹かし、バスタオル１枚に早朝の東京を眺めるか。午前６時、大きな窓の外は明るくなっていた。
　こんな時間に起きた記憶も最近はとんとなかった。朝の風景に主人との生活が懐かしく思い出されて。

　毎朝、主人を見送ったマンションの扉の前、主人の行ってきますの一言がさみしくて、待ってと主人の手を取って困らせた。
　手を握り返してくれた笑顔の記憶に、頬を伝う涙が糸を引きバスタオルの胸に、跡形もなく染みこんで、涙の痕跡さえ残さないのです。
　身に染みついたシャワーで落とせない汚れが、朝の記憶に涙するのです。

　ビデオカメラにまで撮させるなんて、わたしってバカだよな。おぼろげな昨夜の記憶を、よみがえらせながら自己嫌悪に沈んで行きました。

　あえぎ声を上げ、絶頂をさまよい続けたことも夢おぼろに、斜め上から社長が撮すカメラを意識していたはずなのに。脚に挟んだ黒い肌、組み敷かれた身に見上げたら、目の上にあの黒人の凶悪顔です。
　目が合うとまた唇を奪われ、絡める舌先に伝う唾液に思わず目を瞑ったら、またすぐに逝かされちゃって。

　そうなんです。その後のことは酒の酔いも回ってきて、スプリングの効いたベッドで、ええっ、あれはキンちゃんとだっけ。ダックという凶悪顔の黒人がバカみたいにいっぱい射精するものだから、膣ん中はヌルヌルのネトネト。
　いつでもどうぞって状態で乗っかられて、遠い親戚一族の年齢も変わらぬライバルのを、ああも見せつけられたらね。キンちゃん、たまらなかったんでしょうね。

　白いヌルヌルを潤滑にズドンだものね。わたしもそのままずっとエクスタシーのど真ん中だったし、肌はどちらも真っ黒で選手交代なんて気がつかないじゃないですか。
　意外と早かったような。でも、量だけはたっぷり。それがキンちゃんとの最初だというのに悪いことしちゃいました。
　まあ、あの凶悪顔の黒人に、さんざん責められた後だから仕方ないですよね。

　まあ、黒専だった和美さんさえ白旗を揚げたはずですよ。ダックという凶悪顔の黒人のすごかったこと、その後、途中参加したキンちゃんと交互に責められ、記憶も飛ばし死の寸前のそのすごさ。
　わたしも黒人相手もいいかなって気分になっちゃいました。

　そう、これからの時代、女は前を向いて生きていかなきゃダメだってこと。
　見える物ならどうだ…！って、バスタオルも取っ払って、大きな窓ガラス沿いに全裸で眺める東京の街。

「社長やじいちゃんのバカ野郎！、２度とさせてやんないからな、覚えてろ」
　誰もいない広すぎるスイートに、ひとり大声に悪態をつきました。

　そしたらリビングのソファーに寝ていたのか、上半身は裸の黒人がむくりと身を起こしたのです。その驚いた顔。
　わたしもどんな顔をしていたのか、放り投げたバスタオルは遙か向こう、今さら裸が恥ずかしいって態度も取れないし、平気な顔でキンちゃんの前に。

「おはよう、よく眠れた」なんて照れ隠しに言ってたり。

「おはようございます」
　て、キンちゃんも、わたし何だか可笑しくなって泣き笑いしちゃいました。

「理事長さんたち帰られて、ヒサコさん心配に私に残るように」
　そう言うことか、そうだよね。見捨てられたんじゃなくて良かった。

　でも、見るとかわいそうなキンちゃん、全裸の女を前に朝立ちに、ズボンの前を超窮屈そうにしていたんです。思わず聞いたのです。

「それって、わたしの所為」って。
　苦笑いする真っ黒の顔、遙か年上の黒人だけど、可愛いって。わたし横に座りズボンの前を楽にしてあげたんです。

「昨夜、２回もしたよね。元気…っ！」
　３０センチ余りの真っ黒なのが斜め上にご挨拶。

「ヒサコさんすみませんです。私、理事長にてか、我慢できないでした」

「やっぱし理事長のじいちゃんにそそのかされたんだ。でもとっても元気ね」
　前に突き出た亀頭まで真っ黒の、膨れきった黒人のを、わたしは口にしました。昨夜の痕跡にティッシュかすが付き臭いまで、でも本当にビンビンなんです。
　見上げると苦しそうな顔。どうしたのって。

「私、朝からしてないからトイレに行きたいし、ヒサコさんに悪いし」
　で、そんなのでオシッコが出来るのって、思わず微笑がもれちゃって。

　後はベッドで昨夜の続き、ええそりゃ、その良かったですとしか言えません。

　でも、キンちゃんて可笑しいの、昨夜の続きだというのに中出しして大丈夫か？って聞くんです。
　そこでまた説明、自然妊娠は１００分の２〜３もないし、また子宮外妊娠の可能性も高いけど、出来たら絶対産むんだ。
　と、決意を話したら、キンちゃんたら国の８人の妻には年子だって、わたしにプレゼントだと、昨夜の今朝なのにまた、たっぷりとキンちゃんの愛を入れられちゃいました。

　キンちゃんとは秘密を約束、接待秘書に禁じられているプライベートの中出しセックス。まあ、昨夜からの社長黙認だから、まあいいか。と、軽く考えていたんですが。

　接待秘書として最初の仕事は大失態でした。社長にとってうれしい誤算だろう、程度にしか思ってなかったのですが、キンちゃんの飛び入り参加がこの後、大変な事態を引き起こしたのです。

　社長も由香利には絶対言わないはずだと思ってたのに。その日、待っていたのは血液検査に尿検査。くそぉ、チクリの社長の野郎…！。あんたの親父がそそのかしたんだろうが。

「接待秘書の仕事に、コンドームを使わないって、なに考えてんのさ…！」
　由香利からの罪人扱いに、先輩、和美さんからも冷たい視線。まあ、この件は他山の石として気分一新。
　なにせその検査のおかげでその後は、セフレのキンちゃんとは安心して中出しで出来ましたから。

　ところがところがです。大変な事態が勃発したのです。原因は留学支援団体に持ち込まれた１枚の写真、それはわたしとキンちゃんの性行為中の写真でした。それもわたしの顔もバッチリ、超美人に写っていました。
　犯人は誰かすぐに分かりました。あのダックという黒人です。
　
　あのとき、先に精を出し終えたあのダックという黒人以外、わたしとキンちゃんの性行為に集中していましたから、その空白を狙ってスマホで撮った物でした。
　これが留学生自主行動プログラム遵守義務違反となり、このままではキンちゃんは西アフリカ国へ不名誉な帰国となります。

「なんと言うことだ。キンタに良かれと思ったことがアダになった」
　そう、すべてが理事長のじいちゃんが原因！。

「アアッ…！このままではキンタの８人の妻や、２７人の子供までが路頭に迷うことになってしまうわい」
　理事長のじいちゃんは頭を抱えていましたが、わたしも今、セフレのキンちゃんに去られては困るのです。

「じいちゃん、なんとかならないの気の毒じゃない」

「オオッ…！そうじゃ、それより一番大事なことを失念しておった」

「それより大事なことって」

「緋紗ちゃん、あの写真が光田君の目に入ったらどうじゃ」

「えっ…！、あの写真を主人が…」
　一瞬、息が止まりそうでした。それが元で主人から別れるなんて言われたら、わたし死んでしまう。

「そうじゃ、あの留学支援団体にゃ光田君の大学時代の友人、緋紗ちゃんとの結婚式にも出席した高橋ちゅう男がおるのじゃ」

「じいちゃん、それ困る。絶対に困るよ…！」
　どんな人か覚えていません。でもあの友人グループの方たちなら、前日からうちに来て大騒ぎ、絶対わたしの顔を覚えている。

「そうとなれば最後の手段じゃ、その代わり何もかもワシに任せてもらうぞ。緋紗ちゃん」
　じいちゃんの提案は実に大胆な物でした。

「よいか、緋紗ちゃんとキンタとの関係を公然の事実とすることじゃ。留学支援団体にゃ友人に騙されてＡＶに出てしまったことにする。よいな」

「じゃ、じいちゃん、わたしＡＶ女優ってことになるの？」

「うむ、好事家の手によって作られた物が流出したと言うことにしてのう。緋紗ちゃんにはもう１度、あの部屋でしてもらうことになるか、正道の監督での」

「それで上手く行くの？」

「後は正道からの多額の寄付で不問とするわい。さすれば高橋も口をつぐむじゃろ」

「それで絶対主人に漏れない？」

「分からぬ、分からぬから光田君には決して不倫ではないと、緋紗ちゃんの仕事として押し切る。だがじゃ、これだけじゃインパクトが足りん。そこで清麿じゃ」
　だんだんと話の訳が分からなくなって行きます。

「緋紗ちゃんや、もう清麿を許してやってくれんか、さすればこの作戦、絶対上手く行くと保証するがのう」

「分かったよ、あの早漏男と仲直りに１発させれば良いのかな」

「いや、その１発とせんでも良いと思うが、まあ、緋紗ちゃんの意思じゃな」

　その作戦で、一番驚いたのが帰国する主人の前で、わたしとキンちゃんがセックスして見せるということでした。

「じいちゃん、本当に大丈夫なの」

「任せておけ、上手く行けば光田君のインポテンツも治るぞ」

「じいちゃん、ホントぉ…！？」

　深夜の留置場、眠れもしない。背中は痛いし妄想ってか、主人が帰国して、じいちゃんの作戦通り全て上手く行った、あの頃が一番幸せだったのかな。

　村田は残念がるかもしれませんが、主人を前にしたセックスって、ものすごく興奮するんです。主人もおそらくそうだったのだと思います。ＥＤなんか吹っ飛び、その夜の激しかったこと。
　夫婦仲も睦まじく、結婚以来初めて２回３回と人並みのセックスが出来た気がしました。そして、自信を得たのかその夜から主人が変わったのです。

　主人の帰国後も、接待秘書の仕事だと言われれば、社長や理事長のじいちゃんからのお誘いも、断ることなどしませんし。
　わたし自身、キンちゃんが帰国するまでの間、色々あったけど、主人にも内緒のプライベートでしたから。

　ただ、約束した社長から臨時ボーナス１００万円をもらってないんです。色々あって請求するのも忘れ、今さら気まずくそのままなんです。

　１００万円が、その１００万円がと夢うつつ、ウツラウツラに睡魔にいつしか、眠りについたのは明け方近くだったと思います。

　翌朝６時半に起こされ背中が痛くて、ダラダラと顔を洗うともう７時、プラスチック容器に盛られた弁当の朝食、お箸を付けたけど半分も食べられませんでした。

　取り調べということで連行というのか、担当の婦警さんに鉄檻扉から連れ出され、ゴムのサンダル履きに腰縄に手錠という情けない有様で署内を歩かされました。
　ペタペタと足音に浴びる視線に意気消沈。指紋、掌紋を取られ写真撮影をした後、９時を過ぎ本格的な２日目の取り調べです。

　取調室のドアを両横に、立っていた婦警さんの一人がココンと短いノックをしました。
「どうぞ」と声が掛かり中からドアが開き、開けてくれたのは若い刑事さん。ジャガイモ顔に刈り上げ頭、逮捕時からの刑事さんです。
　目が合うとニタリ、その顔にドスケベと言ってやりたくなります。この若い刑事さんも覗き組みのひとり、ドラマと違って現実は警察なんかに、滅多矢鱈といい男はいないってことです。

　躊躇してると。

「さっさと中に入りなさい…！」
　ヒステリックな命令調の婦警さんにせき立てられ室内に。

「光田緋紗子さんですね」と声かけたのは、椅子に腰掛け両の手を組んでいる昨日の女刑事です。今日の担当のようで、わたしは緊張にうなずくだけでした。

　あの女刑事、本庁の主任さんと言うのですね。威風堂々と昨日とは別人のようです。
　連行してきた婦警さんが、女刑事さんに応対する椅子に座らせ腰縄を椅子に括りつけます。手錠をはめられた両手を机の上に、前に出さされ小さな鍵を差し込むとカチャリと外れました。

　赤くなった手首を見ます。なにか自分が惨めになりました。

「警視庁捜査１課、川上警部補です」と、女刑事さんに名乗られ顔を睨みつけられました。ホントにやな女です。

「昨日、あれから会ってきたんだ。先生ねえ、精神的に参ってて鬱状態が続いてんだって、遠山緋紗子、あんたの所為！」
　わたしを見据えたまま話しかけ、前に身を乗り出すようにした女刑事は夜叉の顔です。

「えっ、遠山緋紗子ぉ…！先生って…？」
　遠山は私の旧姓、不思議に女刑事の顔をマジマジと凝視しました。

「先生から話聞いたんだけど呆れたものよね。認めたくないけどまがりなりにも夫婦だった先生をよ、清河なんて最低の男と暮らすために捨てるなんて女のクズよね。連絡も無しで家をおん出て６ヶ月、全身にモンモンさんを彫って、最後は三下ヤクザの情婦だって聞いたら、先生泣いてた」

「刑事さん、さっきから先生って…？なんで…どうして主人にそんなことまで言ったの。プライバシーの侵害じゃない！」

「なにを偉そうにさ、イレズミ者の犯罪者のくせに！。Ｓ女学院高校英語科教諭、光田浩一先生。ねえ、おひさ、川上理恵て名乗っても、まだ私のこと思い出さない」

「えっ…！」
　おひさって呼ばれたのは高校以来です。で、なんでその名を…。

　驚きに上目遣いに女刑事さんと目が合いました。

「おひさ、あんたって先生の疫病神よね。今着てるジャージーの上下見て、まだ思い出さないの」
　それは色形、Ｓ女学院高校当時のジャージーそのままでした。

　頭の中がこんがらがる。そのときハッとしました。主人がひと頃、話していたことを思い出したんです。同窓の剣道部のキャプテンだった川上が警察官になったって…。

　全身に熱い震えが起きました。

「やっと思い出したようね。リソノが選任の弁護士付けてくれるって誰だと思う。高桑芹香、こ〜ことあだ名で呼んだほうが分かるかな。あんたと小中高校と同じだったから知ってるわよね。留置所で刑事と弁護士と被疑者の同窓会って洒落にもなんないわよ…！。先生は今ね、こ〜この妹が面倒見てる。おひさ、あんたも知ってるでしょ高桑香里奈って娘よ」

「こ〜この妹が香里奈だって…？。香里奈ってハーフでしょ」
　どういうこと…。

「おひさ、あんた香里奈って娘に先生をやるって言ったんだって。仮にも夫だった先生を払い下げるって、あんたって何様なの」

　わたしを睨む、相手を叩っ切るようなすごんだ目、間違いない剣道部のキャプテンだった理恵だ。この女のなにを見ていたんだろう。わたしは昨日からの屈辱に体がカァーっと熱くなり、涙が止め処なく流れてきました。

「香里奈って娘、意外といい子じゃない。会ってビックリ、ハーフなんだってね。あの娘さ、絶対先生に惚れてるね。訊問した私に帰れって睨んで噛み付かんばかり。あの頃のおひさを思い出したよ。それが今じゃ刺青入れたヤクザの情婦ね」

「りえ…っ…う」
　その後の言葉が出ません。屈辱以外ありませんでした。

「実に見事な、絵に描いたような転落の人生よね、泣いたってどうにもならないの。ねぇおひさ、もういい…！あんたがもう、先生の元に戻る事なんて出来ないの。いや私がさせない。それくらいの罪を犯したの分かるよね」
　戻れない。そのくらい分かっている。それでも面と向かって言われると涙が止まらない。

「おひさって、先生にも薬物入りのドリンク飲ませたのよね。昨日、その件でうちの係長取っちめたんだって。取調室でおひさの胸に抱きつかれて、係長たじたじだったって」
　たじたじって、そんな…！。

「先生大丈夫よ。心配入らない、先生そんな成分が含まれてるって知らなかったから有罪になりっこないから。ただ薬物に関しての容疑が晴れないから、おひさの身元引受人にはなれないからね。先生に私が保証人になると言ったらよろしくだってさ」
　理恵がわたしの保証人、意図が分かりませんでした。

「あっそうだ、おめでとうと言っときゃなきゃならないみたい。東池袋のホテルで殺された中谷由香利っておひさの代わりに殺されたんだってね。良かったじゃない。昨日さ清河の供述から東池袋のホテル相対死の件は、龍仁会の現在行方不明の玉川の犯行でほぼ間違いなさそうだって？」
　清河って男は、ペラペラとしゃべったんだ。

「おひさ、あんた玉川とも面識あるんだってね。リソノ周辺の聞き込みから、おひさの名前も浮かんだ。肉体関係もバッチシだってね。バカ…！」
　そんなことまで…！。玉川、記憶にありました。

「それにね先生が捨てずにおいてくれた、おひさの指紋の着いたドリンク剤のビンから清河の指紋も検出された。お陰で、おひさの罪も軽くなるって聞いたら、先生涙流してたっけ。裏切った女によ、よっぽど善人なのよね」
　一転してそんなこと、やさしい口調で言われても、ハンカチを差し出されても嗚咽が止まらない。

「だけど、もう元には戻らない。清河にハメられたのかも知れない。でも、おひさも一時は清河の愛人になる。そのつもりで背中一面モンモンさんを彫ったんでしょ。だったら清河のこと、事件のこと知ってること洗いざらし話すの。それが先生や亡くなった方への罪滅ぼしでもあるのよ」
　泣き腫らした顔で理恵を見る。一転した穏やかな顔、話そう、話さなくてはならない。

「じゃ昨日、係長に話した続き、分かるでしょ名前は出さないでね、ア〜さんでいいから。事件を混乱させた録画は清河の物と２ッあった。それがこの事件をややこしくさせた原因の１つよね。話して」

「捜査が混乱したか知らないけど、録画の話は社長からあったんだよ」

「社長って株式会社リソノ社長、南野正道で間違いないのね」

「社長って、理事長のじいちゃんと一緒であんなのが好きなの。色々事情があって録画ってのが断れなくてさ」

「ちょっと待って、理事長のじいさんって誰のこと？」

「名前はなんてったのかな。母校Ｓ学園理事長だから理恵も知ってるでしょう。南野房之助か正之助だったか、学園理事長であの兄弟の親父だよ。わたしの行為中のヤツを録画コレクションしてやんの」

「うそ…！まさかあの学園理事長が…！？じゃぁ、録画の指示は南野理事長が…」
　理事長と聞いて理恵のあの驚きよう、正体を知っているのはわたしだけ、どうだ…！。

「じゃぁさ理事長、清河のとかアーさんのとか、録画を持ってて撮影にも関わってんだ」

「理事長が…？違う違う、あれは由香利よ。清河のときのビデオ撮影、わたしには直接は言わないで社長から言わせたんだ。リソノじゃまだしも迎賓館じゃね、由香利が女帝、絶対の権力者、社長よりもね」

「ちょっと待って…！じゃ、中谷由香利が主犯ってこと…？。金銭のトラブルに玉川に裏切られたってことか？」

「そう、玉川って欲深のただのスケコマ師よ。あの部屋にゃね豪華なソファーがあって、両脇からカメラで撮るの。役立たずの社長の義弟、村田清麿ってのがカメラを仕込んだんだ。事情が事情だから業者を使って、うかつに漏れても困るからね」

「なら、あいつも全然シロじゃないじゃん。ハイソナの代表のくせに天上設置の監視カメラも知らないって言いやがって。ねえおひさ、よおく考えて欲しいんだけど、アーさんの録画って他に誰が知ってる」

「他には誰もいないはずよ。ずっと一緒だったけど、清河も自分の録画で脅迫したと思ってたし、わたしだってそうだと思っていたもの。亡くなった宏樹だって清河のしか知らないし…後は、そうだ香里奈だ。香里奈も社長秘書として、迎賓館の管理に携わってたから」

「香里奈ちゃんか、そうねあの娘もか、知っているんだ」

「そうだよ、香里奈がアーさんの件で謹慎だなんて言わなけりゃ。主人の元を飛び出て行くことなんかなかったかも知れないしね」

「シャーシャーとなにそれ！他人の所為にしちゃってさ。香里奈ちゃんてそんなに関わってんだ。長くなってもいいから、その辺のところも詳しく話してよ」

「あ〜あっ…！女ってヤダよね」
　謹慎中ってか、西大井の自宅マンションでの出来事、わたしは夜遊び禁止のつらさを切々と理恵に訴えた。隣近所の女たちが監視役だなんて、まるで囚人だったと。
　机に片ひじの先からをべたりと着け、斜めにだらしなく頭を下げたときセミロングに伸びた髪がバサリと。

「分かるよ、よおく分かる。おひさが先生にとって最悪の奥様だってことがね。ねえジャージーのもっと上まで上げてくんない。うちの若いのが調書取れないから」
　顔を上げた視線の先に、若いジャガイモ刑事さんの目が。

　だらりゆるむジャージに胸の隙間から、ノーブラのオッパイがほとんどってくらい見えてました。摘まむフックをシャカシャカと、素早く引き上げようとしたら引っかかってしまって。
　上には上がらず下がるばかり、何このお古。乳房の膨らみにかけての緋牡丹が、ジャガイモ刑事さんの視線の先に。

「ゴメン…！朝から刺激が強すぎたかな」
　と、わたし。

「いえ、そ、そんな…！今日もってか、昨日もどうもありがとう御座いました。背中の龍から太ももの牡丹まで、いっぱい見せてもらっちゃって…」

「一茂ぇ…！相手になんない。おひさはそのだらしないとこを、清河につけ込まれたんでしょうが！。刺青のこと、清河のこと詳しく話す。いいぃ…！」

「なにから話せばいいの…？。清河のメールがあって家を飛び出てからなんて褒められることなんか全然ないしさ。もう男運の悪さなんて最悪ぅ…！」

「ふ〜ん最悪ね、私からすりゃ自業自得って気がするけど。じゃ〜なぜ先生を捨て、刺青なんか刺れることになったのか、順序立てて話してよ」

「刺青、そうよね。あれは６月の初週、主人の元から飛び出してすぐだった。なぜって、清河が刺青を嫌って別れた奥様と比べたから、だからわたしがって…」

「へ〜え、飛び出したって…？たかが清河からのメール一つで…！」

「さっき言った謹慎てさ、ア〜さんの接待でしくじっちゃって、なんか主人とも上手く行かなくてムシャクシャしてたんだ。清河の接待から、なんか体調がおかしくて、思えばあのドリンク剤のせいで、わたしスケベちゃんになったのかなって…？」

「まあなんと白々しいお言葉、ねえ、うちの係長から聞いたと思うけど、おひさの尿から検出されたのは主にＭＤＭＡ。俗に言う催淫剤ね」

「それって押尾が事件で使ったのと同じヤツ」

「鑑識に言わせるとＬＳＤが入ってる分、女はもっと夢気分だっただろうってさ」

「夢気分ってあれが…？そんな効果なかった気がするけど」

「清河の供述によると、飲んでも飲ませなくてもあの女の性欲は並外れて、一緒に住み始めた時から持て余してた。て、言ってたけど」

「連れ出しといて、あん野郎ったら好き勝手言ってさ。ふざけるなよな。あれは確か６月の４日だったかな。暑い日だった。ついてこいって、３時に池袋の駅で待つとメールがあって…」
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あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
2015年12月9日掲載
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