奥様は接待秘書
浩一 作
刺青の女 ４の続き

　広すぎるベッドで抱き合い始めた黒川の身の上話。黒川のだらりと広げた刺青の股間に屈み、固く成長しきった男の物に戯れ、しつこく口で奉仕を続け、また適度の相づち。

「フフッ…緋紗子、俺の母親ってのはバカ女で、新婚旅行先のハワイでよ、飲みつぶれた亭主をほったらかしにな。ホテルの従業員だという何処の誰か、人種さえ分からね男と浮気しちまいやがって、生まれ出たのが日本人に似ても似つかぬこの顔だ。お前さんならどう思うよ」
　股間に目をやる黒川と目を合わす。
　その一瞬、わたしが黒人の子を産んだとして、主人ならどうしただろうと思ったんです。
　口の中にある黒川の大きな亀頭の肉の膨らみに太い肉柱、突然の罪悪感に喰わえながらシャクる動きを止めてしまったんです。
　バカですね、いくらなんでも主人のと比べるなんてね。

「なんだ、急にびっくりしたような目をしやがって。そりゃそうだ。顔も知らねえバカ女の亭主も、さぞかし驚いたろうよな。あっさり離婚され苦労して育てたって言うが、本人は自業自得ってもんだ。ハハハハハ…こりゃチンポをシャブって貰いながら言うことじゃねえよな」

　主人への思いを振り切るようにバカなこと、黒川を前にＭ字開脚にストリップのまねごとを、そうでもしなけりゃ女の身が哀れ過ぎました。

　広い円形ベッド、半円状に並んだカガミの前で赴くままのポーズをとる。天井にも側面までも分身たちの刺青が映る。
　若き筋骨隆々の刺青男の前で大股開き、自慢の恥毛のないオマ○コを見せ、指で開き奥まで見せます。覗かれる悦びに我を忘れ、膣を閉じたり開いたりして口パクさせたりして。

「フン、確かにビラビラはピンクできれいなもんだ。土手はよく使ってる割りにゃ薄茶色ってとこか。ヘヘッ、それにしてもよ、こんな白い肌に毛根もねえし、毛を小っちゃな三角に揃えてる女って初めてだよ」

「ねえ黒川さん、どう気に入ってもらったようだけどぉ…」
　自慢げに微笑みました。

　それが気に入らなかったのか…。

「ヘンなんだ…！毛根もねえピンク色のマ○コがそんな自慢かよ。俺は母親みてえな淫水妬けのドドメ色のマ○コが淫売女の生活感があって好きだがよ」

「もう、そんなの変…初めて言われた。緋紗子のオマ○コはきれいだからって、お付き合いのあった社長の勧めで永久脱毛したんだよ。永久脱毛ってしても少しは生えるんだけど…見て、このうぶ毛」
　黒川は股間に顔を覗かせる。

「やっぱ、お前ってバカだよな。これから男に抱かれるつうのに、なにがお付き合いのあった社長だよ。それにしても永久脱毛ねえ。ホント、バッカじゃねえのか」
　黒川は赤ん坊のような柔肌を、手の先で下から淫裂に沿って撫であげる。

　それがまたそそっちゃって…。

「緋紗子はここによ、結局、何人くらいにさせたんだ」
　指先がそのまま、撫でるようにクリちゃんを上から愛でます。もう何でも言いそうです。

「ああんもうぉ、なんてこと聞くの。ずっと主人とだけだったから、そんなに多くはないと思ってるけど…」

「社長って言ったり、主人って言ったり、どっちも今のイロじゃねえよなァ…言えよ」

「あはあっ…」指先が小陰唇の襞を広げ二本の指が膣に潜り親指がクリを…。

「お前のこと知りてえんだ。だから何人だと聞いてんだよ」
　指が動く、気持ち良くって数えられないよ。

　ジュルリと動く黒川の指先に淫汁がネットリと、主人の顔が浮かぶ。少し申し訳ない気がして通り過ぎた男を思い浮かべる。
　社長と村田に理事長のじいちゃんと声に出す。ごめん、わたしなにしてんだろ。

「だから、何人ってだろが…！この…」

「ああっ…しゅ、主人と、黒人でしょ。あはぁ…っ、それから社長と、あふっ…つっ…きぃ、清河とア〜さんに彫雅ぁ、ああん…な、中でしたのって、そのくらいだよ」

「２５にもなった風俗の女だ。そんな少ねえことねえだろが、この…」

「ああ〜んだめぇ…！ほんと、本当ぉだよって…！中でさせたのって…」
　動きを速めた手姦に悶え、死に物狂いに言ったんです。

「アア、そういうことか、フフッ…中出しね。ゴムを被せりゃ何十人か、何百人…てか。そりゃ俺のお袋なんざ一晩で５人６人って客を取るんだ。ハハッ…！そりゃドドメ色にもなるわな」
　２本の指先が膣中をなぶり。口元が陰唇からベロリとクリトリスの肉芽に。

「あっ、ダメえ…！」
　黒川の突然のオマ○コ舐めに感じすぎて身はのけ反り、顔を太ももで挟むみたいに足を閉じてしまったんです。

「なにやってんだ、お前は」

「黒川さんがドドメ色のマ○コが好きだって言うからだよ。早くぅさっきの続き…！壺荒いのお返し始めてくんなきゃヤダぁ…」
　と、このブリっ子ちゃん。

「なにがヤダっだ、もう入れろって催促か、ヘヘエ、その顔で若い子ブリやがって…！フフフッ…やっぱ面白れえ女だよ。今どきのＪＫだってもっとスレてやがるぜ。なら俺のデッキブラシで洗ってやっから、お前さんは…エヘへッ、しっかり目開けて見てろってな…！」
　黒川は向き合うようにして挿入の時をカガミは映し出す。

　むき出しのオマ○コに膨れあがり赤く艶を帯びたデッキブラシの膨れた先で、ビラビラの淫唇を押し開きズブリと亀さんが頭を埋める。

「あはあ…っ…！」カガミに映る発情した女の声が漏れた。

「言っとくがよ、簡単には逝かさねえからな。俺の太いデッキブラシの柄で狂わせてやる。二度と俺から離れられねえ女にしてやるさ」

　そのまま押し倒され正常位に、先端の膨らみが押し広げるこの感覚。ああ、太くて固いわ。
　ブラシの柄というよりツチノコのような歪な肉柱がズキューンと奥まで来る。軽い抽挿がマムコちゃんへの挨拶のようで快い。

「ああっ…うっ…ううん…ああぁ…太いの…この太いのがいいぃ…」

「エヘェ…中は淫汁でベチャベチャ、カガミに映ったおのれの姿に、たらりたらりとしたらせた悦びの蜜かよ。お前って女はガマガエルっかってんだ」

　抱き合い繋がれたまま体位を変えさせられる。
　正常位から黒川の両の手に引き上げられ騎乗位に至る一連の動き。下半身に突き刺さる太肉の充塞感、もう乱暴なんだから…。

　刺青の胸に手を付き、カガミに映る分身たちに併せて尻を振る。ごつい腕に抱かれた尻を良いことに上下に動く。ああっ、たまんない。

　花時計と言うのですね。騎乗位に足を着き、太肉を軸に手を使ってゆっくりと舞わされ１回転半、背面騎乗位に、下から突き上げられ、思わず刺青の太ももに手を付いてしまう。
　ずずずんと下からの突き上げに、もう逝きそうです。

　背面騎乗位から黒川は立て膝に身を起こし後背位へ、尻を持ち上げられ後ろから突かれる女が目前のカガミに映っている。

「見ろよ、この背、この尻をよォ…！白き肌に一世一代の龍と牡丹だァ…ウワハァハハハハハ…ァ」
　黒川の手に尻を玩ばれカガミへと向けられた。肩から背中へと龍の刺青を担ぐ女とカガミの前で対面に顔を合わせる。なんていやらしい女なんでしょ。

　天井のカガミにも、不動明王を背負う男に、後背位に突かれる昇り龍に牡丹の女の背が映っている。

「ああ…黒川さんの…貴大さんの太いおチンポが気持ちいい…あっ…固くって、膨らみが中で動き廻るわ」
　カガミに映る女はそう言い悦びに身を崩した。

　ベッドに崩れ落ちシーツに顔を塗れさせ、カガミに映る女を舐め見ていた。

「ハメ心地がいい、雁首に肉ミミズが擦りつきやがる。お前っていい女だよな。本気にさせられる。俺と一緒にならねえか、悪いようにはしないぜ」
　甘い睦言に身を蕩けさせ、わたしのような淫質な女なら玩ばされ、すぐに黒川の若き肉体に夢中になりました。

　ああ…もう逝きそう。寸前、それが分かったのか黒川は動きを止めた。

「ああ…ダメえ…ダメよ…ダメなの…そんなのダメぇ…！逝かせて…逝かせてよう…！」
　あん、もう…！これが寸止めと黒川は笑ってるだけ…。

「フフフッ…その顔、逝きてぇんだろ」

「もう…っ、逝きたいに決まってる。焦らさずに逝かせてぇ…よ…！ねえ…ねえ、お願いだから…」
　男の股間に後背位で繋がる尻を擦り付けてやる。キュキュッと締めて膣奥で雁の頭がグリグリと、ああっ…。

「このバカ女が、てめえは淫乱か…！誰が勝手に動いていいって言った…！」
　大きな手に頸動脈を締められた。このまま殺される。
　頭が鬱血する意識が、強靱な体力の男に、正常位に押さえ込まれりゃなにも出来ない。背中のお不動様ごめんなさい。

「痛ぇえ…っ、コイツ、俺の背に爪、立てやがったな。なら死ぬほど逝かせてやるさ。ふざけるなよ、このアマが…」
　壊れるほどの激しい突き入れに、ビンビンと感じてしまう。

「ああ…っ…ああ…もう…ああ…いいいっ…！ああ…いいぃ…よぉ…」

「どうだァ…俺のチンポの味はよ。えっ…いいもんだろが…言え！」

「ああぅ…あうっ…っ…ああ…たまんないよ…！貴さんのチンポ…！ああチンポがいいよう…突いて…ずんずんって…突いて…もっと突いてよぉ…！」

「なあ考えろ、心配してんだぜ、ヒモ野郎とは切れろ。そしたら本気で愛してやる」
　また軽い抽挿に身悶えさせられ、寸前に止められる。それが２回も続けばもうダメ。

「ああ〜んもう…別れる…別れるよ…だから逝かせてぇ…ああっ…っ…貴さん逝かせてくれると言ったじゃない…」

「そうかい…ヘヘッ…俺のこと好きかァ…」

「ああん…もう、好きに決まってるじゃない」

「俺が好きなら…お前はなんでも…するよなァ…」

「ああ…する…なんでもする…なんでもするから早くぅ…」

「緋紗子、お前はいい女だな…愛してやるぜ…ヘヘッ…タップリとなァ…そらよ…」

「ああっ…ああうっ…あう…ああうっ…っ…ううっ…いくぅ…いくぅ…！ああ…とろけて死んじゃう…ああっ…死ぬっ…死ぬう…ああ…このまま死んじゃうよ…！」
　声を上げたのは覚えていました。

　肉体全部がガクガクと震える突き上げに、砕けたこの肉身の揺れ…絶頂の恍惚感に記憶が遠ざかりました。
　やっぱり死んだのか別世界の天上にもいました。下界に、わたしを抱くその背に不動明王がありました。

　刺青の魔力かカガミの世界に、目の前に胸割りの分厚い胸肉、乳房を揉み弄る手の隆々の上腕に五分袖の額彫り。
　下から突き上げる異人種譲りの超特大の肉身の突き入れに、のけ反り喘ぎ、記憶は千塵に吹き飛び、恍惚と白夜のたまゆらを彷徨ました。

「そろそろ、我慢できなくなって来やがったぜ。いいか…！出すぜ…」

「ああ…あああっ…お願い…早く…貴さんの早く…早く頂戴ぃ…！」

「ウウッ…ウウ…ウッ…ウウ…」
　男の呻き、ああ、男の射精の瞬間、極太の肉棹が引くつくこの感覚、負けずに膣肉で締め付けてやる。
　すごい、中に噴き出るこの感覚だ。若さなのか太肉がしゃくるたびブニュブニュといっぱい出て来た。生温かくすごい量だ。

　黒人並の３０センチからあるビッグサイズに、身も心もトロトロと蕩け、中に出された精液に充たされる至福の時。

　やがて固さが解れて行き、ゴロリと黒川は横になる。わたしは黒川の精液と女の淫汁にまみれた一物を体をずらせて舐め洗う。吸うと。残り汁が口の中に。

　陰毛沿いにヘソから胸毛と上へと登り、黒川の唇にヌルヌルの口元で吸い付いた。

「このバカ、やめろって、コラァ…！」
　男って自分の精液を口にするのはイヤみたい。すぐにペッって吐き出して、手で口の周りを拭ってた。

「もう、お前って女はよう…」

「うふふふ…だって貴さん、ものすごく良かったの」
　セックスが良けりゃ、ついこの男の赤ちゃんが欲しいと思うその時です。

　今、数多くの黒川の精子ちゃんが子宮を侵し１つ残した卵管をクネクネと這いずり昇り、わたしの卵子ちゃんを受精させようと、隊列組んで泳ぎ来るんだと想像しちゃう。

　生出しされた悦びに被さる黒川の広い背を抱き、好き好き好きと叫んでいました。

「緋紗子、お前のイロってシャブ中なんだろ。まあ、その手の女にゃお似合いだがな」
　気を戻したときの語り掛ける、その割りに面白くない睦言。

　夜を徹した朝の６時前、朦朧とし酒の酔いと抱かれながら続ける身の上話し。
　清河のこと調べあげた上で、言葉巧みにシャブを安く、卸し価格で手に入れてやると言われ、そうするしか仕方なくなります。

　それからは黒川の女のよう、呼び出されればいつものこのラブホテル。シャブの受け取りは毎夜のようにラブホテルでの情事後でした。

『黒川に香港に売り飛ばされた女を知っている』だとか、

『あの男は危険だから、深い付き合いになってはいけないよ』とか、
　親身に切言してくれる方も最初の頃はいたのですが、聞く耳もありませんでした。
　真実に基づいたうわさほど恐ろしい物はありません。いつの間にか、周囲は黒川の情婦としか見てくれなくなり、せっかく付いた上客も遠慮がちに去って行きます。

「キャバクラなんて２５にもなりゃ、あと何年も働ける分けねえだろ。
　キャバなんてチンケな商売やらずによ。吉原なら俺んとこから通えるし、緋紗子ならＮＳソープで今の５倍は楽に稼げる」

「ＮＳソープって、なんなの」

「ハア、お前さんって育ちが良いのかバカなのか、年のわりにネンネちゃんだよな。男に生出しさせんのが好きなんだろが、ノースキンって言えば分かるよな」

「ああ、そういうことか」

「俺が紹介してやるからそうしなよ。な、彫雅一世一代のモンモンさんもよ、客の前で素っ裸ならオープンに披露できるぜ。やっと龍の彫物に日の目を見ることになるんじゃねえのか、お前さんのヒモ野郎とも、ちゃんとナシつけてやるからさ」
　もう、貴さんの為ならなんでもしてあげたい。貴さんの言うソープのお仕事を真剣に考え、この店を紹介して頂いた彫雅に事前に了解を求めたのです。

　待つように言われ、滅多に店に顔を見せなくなった彫雅が会いに来てくれ、黒川のこと話してくれました。
　あの悪い評判はことごとく事実だと、もうその頃は彫雅とは肉体の関係も切れ、嫉妬による讒言とは思えませんでした。

「緋紗ちゃん、ごめん…！清河にはあれだけ言ったのに…」
　彫雅に手を合わされても、カズさんとはもうどうにも出来ないかも知れない。

「黒川のこと、あんな男だと知らなかったんだ。緋紗ちゃんのこと無理押しはしない。組幹部を立ち会いに、ということだけは約束させたから…」

　数日もせず、色よい返事が出来ずためらううちに、黒川は痺れを切らしたのか…。

「お前さんをナンバーワンにするのにいくら掛かったと思ってんだよ。金返せ。いやなら俺の女になれや！。彫雅の前でよ、俺の女になると大見得を切れ…！」
　黒川は自身のプライドか彫雅への嘲笑か、慌てることなく蛇の生殺しのように、黒川の女になると、わたしに宣言しろと言うのです。

「吉原でなくともよ、川崎堀之内、地元新宿、池袋にだってソープなんてな、全国何処にでもあるんだ。俺の女になれねえのなら、より取り見取りだ。どこんでも気に入った所に身を沈めてやったっていいんだぜ」

　言葉の端々に本性が現れるというのか、黒川はうわさ通りの、女を転がすことでシノギしているような男でした。それでも、わたしから切れることがないのを知っているからか、彫雅の顔もあり、無茶をすることはありません。

「なんとか言え…！彫雅がなんだ。危ない橋を渡る気になりゃ、香港経由のドバイでよ、アラブの石油成金に売り飛ばしても構わないんだぜ。分かるだろ緋紗子、チャイナマフィアの手に渡りゃ二度と日本にゃ戻れねえんだ。ヤツら日本人の女なんか屁とも思っちゃいねえ。気に入らなきゃよ、すべての歯を引き抜かれフェラ専用の女にだって、させられっかねえんだぜ。俺はそんなこと緋紗子にしたくはねえんだよ」

　キャバクラには毎日のように、ヤクザそのままで厭がらせのように通い指名して、しつこいぐらい言い寄るのです。カズさんにナシをつけると脅しもします。
　マネージャーや女の子から疫病神と言われ、いたたまれなく、もうどうにでもなれと彫雅に黒川の女になると言い。身を任せた方が楽になれそうな気さえします。

　行きつけのラブホテルの大きなベッド、カガミに映る刺青の太い腕から逃れ、熱い目のシャワーを浴び、黒川に舐めねぶられ、恍惚と悶えさせられた淫肉を洗います。粘りをなくした白濁した精液が垂れ出てきました。

　洗った髪をドライヤーで乾かし、カガミの前で化粧を始めます。パサパサの髪にカールのパーマネント、なんて醜い顔なんだろうと情けなくなります。
　黒川の好みに合わせたバカ丸出しのＤＱＮ女。せめてサングラスでも掛けていよう。

「おい、帰るのか、ソープに行かねえのなら金返せ…！」
　ヤクザにまともな論理なんか存在せず。いつの間にか３５０万円の借金持ちということになっていました。

「緋紗子、聞いてるのか…！もういい加減に決めたらどうだ」

「貴さん、勝手ばかりでごめんね。シャブの件、ありがとうね」

「ちぃ…っ」黒川の舌打ち。

「お前もバカだよな」

「そう、バカだよね」

　決して安くないホテル代を精算し、明治通りでタクシーを拾います。

　朝も遅いこの時間だというのに、肌寒さに秋も終わるのだと、ふと主人との暮らしを思い出したりして。

　通勤の人通りも過去の出来事と静寂とした朝の街、少し離れた一方通行の道でタクシーを降りマンションまでを歩きます。
　公園のコンクリート門柱の上に見知った野良の黒猫がいました。ニャーンと鳴いてもダメだよ。ごめんね、あげる物など何にもないよ。

　公園横の駐車場に珍しく安っぽい乗用車が止まっています。
　視線、そう誰かまたバカ女だと、わたしを見てるのだろうな。わずかばかりのシャブを持って帰っても、焼け石に水か。

　また清河と言い争うばかりの一日が始まる。
　黒川の情婦になり吉原のソープで働く。刺青の女にゃお似合いなのかも、それで今の暮らしより遙かに楽にはなれる。楽にはなれるが終わる気がした。

　これが家を飛び出した女の報いか、主人の、あのやさしかった主人の顔がまた思い出されます。
　主人の元に逃げて帰りたいと何度思ったことか、黒川というヤクザ者から逃げることなど出来ないし、主人にまで迷惑掛けるのが分かっていた。
　３５０万も借金持ちになり、別れるとならば幾らむしり取られるか。

　主人は生活の基盤をなくしてもまた塾教師だとか、悲嘆もせず、金にもあくせくせず、飄々と偉くなるなど考えてもいない男。
　わたしのためにって、やさしさ、そう、やさしすぎる男なんだ。

　帰っておいでと言ったけど、今のこの身を許してもらえる分けがない。

　やっぱりこのまま黒川の女になり、ソープで稼いだ金を貢ぐだけの女になるしかないのかな。

　部屋に入るなり、覚醒剤のパケをダイニングテーブルの上に投げ置いた。連日の朝帰りなど、どこ吹く風だ。
　獲物を得た地獄の餓鬼のように白い粉末を水で溶き、替えたことのない注射針で固くなりきった静脈に打つ、清河のあの朦朧とした歓喜の顔。

「おひさって、呆れて物も言えないわね。そんなこんなで清河から黒川って三下ヤクザの情婦。で、黒川というのがシャブの供給元って分けね」

「理恵、わたしが言ったってバレたら、意趣返しされるかな」

「バカ…！な、おひさ。まず黒川って三下からね。あんたに警察組織の恐ろしさって分からせてあげる。見てなさいって歌舞伎町のヤクザ組織がどうなるか」
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あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
2016年1月4日掲載
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