奥様は接待秘書
浩一 作
８ 軽井沢にて

　軽井沢のサロンとでも言うのだろか、個人所有の別荘にしては広すぎる居室で、俺は借りてきた猫のように、居心地悪くこの邸の主人を待っていた。まあ、相手は忙しい人だから仕方ないんだろうが、いい気な物だ。

　リビングとダイニングが一緒になった客間、仲間内のパーティ会場ってのか、広すぎて人様に何畳って説明も出来ないくらいだった。
　ダイニングの、それも１０人ばかりが同時に食せるくらい長いテーブルを前にして、俺は木製の堅牢な椅子に斜め座りに片肘を着いていた。
　人待ちにゃ、心落ち着かぬ柔らかすぎるソファーより、貧乏性の俺には固い椅子の方が座り良かった。

　こんな所にひとを呼びつけやがってと、息巻くだけの若さもすでになく。南野社長からのお誘いだから、同居している香里奈の手前、断ることも出来なかったが。

　それにしても金持ちの別荘ってみんな軽井沢にあるんだな。車中から見たファッショナブルな装いに舗道を歩く人の優雅さ。秋の日の賑わいまでが、分かるような気がした。
　１０月も終わりの頃だが南野の別荘に至る往路に、針葉樹の緑が残る中に黄葉に色づく山々、赤い紅葉が実に美しかった。

　色づいた並木の道を駆ける香里奈の愛車、真っ赤なＢＲＺと言う車だ。名前を聞いて絶対ドイツ車だと俺は信じた。信号待ちに街並みのウインドガラスに映るシルエットは、お洒落なイタ車に負けてはいない。
　若かりし頃の愛車、トヨタカリーナをもじって、娘に香里奈と名付けた教授のカーマニアの遺伝子だろうが、車が好きで中央連絡道からここ軽井沢までひとっ走りだ。

「せんせぇ…！悪いけど、これ日本車なの。あんなにトヨタが一番だってた父が今じゃスバリスト、信じられます」
　信じられる分けない。六連星のスバルのマークを見てからでもだ。
　これが日本車だなんて、軽より狭い窮屈な車内にこの沈み込むようなシート。それでも香里奈の運転が荒っぽくなけりゃ、紅葉の山々にちょっとした観光だっただろうに。

「香里奈…！いや香里奈ちゃん、いくら何でも、ス、スピードの出し過ぎじゃないかな」
　碓氷軽井沢インターを出ての登りの山道、ボクサーエンジンは吠え声を奮わせ、長々続く登坂車線を左に右に、前車を次々と追い越す。制限４０Ｋｍの県道を遙か、スピード違反だ。

　左右に振れる身体、助手席に足を踏ん張り、シートに持たれ伏すばかり。正面に見える奇岩、インディジョーンズ魔宮の伝説を思い起こさせるＢＲＺは、ゴルフ場の横のまっすぐな道に、やっと生きた心地がした。

　軽井沢の中心街に近づくにつけ車、車、車。平日だというのにこんな賑やかさは想像もしなかった。新幹線だろう線路を下に潜って、新軽井沢って交差点を道なりに進む、軽井沢のど真ん中だ。その割りに人が少ない。どうして。

「せんせぇ…！駅前からの軽井沢銀座って、この季節も渋谷の駅前並み。なにが良くてか観光客でいっぱい。地元の人たちも敬遠してるの」

「そうなんだ」
　と、関心したり。今どき珍しいロータリーを左にぐるりと曲わる。
　町並みが途切れ、あとは同じような林間の道。対向する車もなくなり、もうどこだか分からないうちに南野社長の別荘に着いた。

　呼び出された用件は分かっていた。緋紗子のことに決まっていた。
　昨夜、川上が訪ねてきた件だ。緋紗子が今日、不起訴で放免される。そのとき俺が近くにいて欲しくはないか。小汚い野郎だ。
　寝取った男が寝取られた男への筋違いな南野の怒り。緋紗子を清河の元に走らせたのは、俺の所為だとでも言いたいのだろう。

　薬物汚染の渦中に放りこまれ、規制薬物不法入手に関する疑惑だと、警察の事情聴取を受けてる最中だからって、良人である俺が、緋紗子の身元引受人になれないだなんて。
　おそらく南野なのだろう。誰が手を回したのか、緋紗子を迎えにも行けないなんてどうかしていた。

　情けないが川上に任せるしかなかった。

　南野から到着が遅れると香里奈に連絡があったのは、待ちくたびれた午後を、さらに３時と過ぎたところだった。遅れてくるとまだ東京を出ていないだと、ふざけた野郎だ。
　南野一族って最悪だろう。ああクソぉ…！。

「せんせっ…！社長が泊まって行けと申しておりました」

「なんだよ、南野さんは今夜、俺を肴に酒でも飲む気かぁ…？」
　どうせ、じっくりと一度は話しておかなければならない相手だったが。

「うふふ…さかなって、せんせいなんか、煮ても焼いても美味しくないですよね」

「煮るなり焼くなりは、香里奈ちゃん食されてか」

「まあ、先生ぃ…ったら、私はレアで先生の松茸を、美味しくいただいてるだけですわ」
　なにがマツタケだ。良いとこシメジ程度だろうと、香里奈の際どいジョークに怒りを笑い飛ばしてしまった。
　情けないヤツだと俺自身も思う。１５歳も年下の麗しき姫君に毎夜のご奉仕、西大井のマンションを放り出されりゃ、行くところもなく、引き取られるように香里奈のマンションへか。

　世の中に女房を寝取られた男ってどれくらいいるんだろう。そんなことをグチグチと真っ昼間から酒を飲みながら考えてるから、きっと２回も寝取られるんだろうな。これが飲まずにいられるか。

「せんせぇ、地下のワインセラーから１本抜いてきました。それと鴨のスモーク」

「オッ、気が利くねえ香里奈ちゃん、でも、南野のワインって高いんじゃないのか？」

「ビンテージっても２００８年のマルゴーだから、しれてます」

　恐る恐るとコルク栓を抜き、おそらく１本１万円以上はするのだろうシャトーワインをグラスに注いだ。

「せんせぇ…！遠慮しないで、ガブっと行きましょ」
　香里奈はグラスに６分目ほどのワインを一気に飲み干す。なんだその程度のワインかと安心してしまう。勝手に飲んでも南野なら屁とも思わないか。
　どうせ俺には高級ワインの良し悪しなんて分かりはしない。どれを飲んでも美味いに決まっていた。

「確かに高級ワインってけど、カリフォルニアでも、こんくらいのなら飲んだよな」

「そうですよ、カリフォルニアにゃもっと良いワインなんていっぱい有りますよね」

「だな…！」
　南野自家製の、鴨肉の燻製を棚にあったサバイバルナイフで削ぎ切り、毒見としゃれ込む。美味い。桜のチップの香りが芳しい。
　南野のような悪党が作っても、美味い物は美味いのか。くそ…！。

「南野が来るまでに出来上がってるかもな」

「いいじゃないですか、せんせぇ…！私お腹が膨れそうなのを見繕ってきますね」
　そう言って香里奈は誰もいないキッチンへ。

　一人取り残された俺はロクなことを考えもしないか。気になっていた緋紗子が釈放された時間は何時だったのだろうか。
　まさか南野が緋紗子を迎えに？誰も教えてはくれなかった。

　川上のヤツ、連絡くらいくれたっていいのに。

　緋紗子にとって、金のない俺との暮らしをどう思ってたんだろうか。俺の元には帰ってきたくなかったってことか。

「ん…なんだぁ…せんせい、暗いよ…！」
　フランスパンを抱えた、香里奈が開けっ放しのドアのところで見ていた。

「先生ぇ、今、先輩のこと考えてたでしょ」
　そりゃそうだろ。世話になってる香里奈には言えないが、お互いが今日の日の意味を知っていた。

「香里奈、俺ってそんなに緋紗子に嫌われなきゃならなかったっけ」

「さあ、先輩ぃったら、なに考えているのか」
　昨夜、訪ねて来てくれた。というか、俺への尋問なのか、川上はあのドリンク剤の出元を訊いた。俺は知らない。記憶にないと以前訊かれたことと同じ事を答えた。

『先生、緋紗子は清河からだと証言しました。誰からもらったか、本当にご記憶はないのですか？』
　俺の目を見て有無を問う。目ぢからってかあの迫力、川上のヤツ本当に警察官になったんだと思ったな。

『先生、緋紗子をかばってらっしゃるんじゃ、ないでしょうね』

『緋紗子をかばう？』
　出来たらそういう格好良いことにしたかった。が、どう思われようが、知らない物は知らないと言うしかなかった。

『先生…！緋紗子は今じゃ、背に刺青を入れヤクザの情婦に成り下がった女です。それでもまだ、あんな女に未練があるのですか？』
　未練か、別に香里奈の前だから格好つけたい分けじゃない。ただ今を一緒にいてくれるこの娘に申し訳なくて。

『すまない、どうすりゃいいか分からないんだ。情けない男だよな』
　うつむくと涙の雫がぽたりと。

『川上刑事さん、刑事さんも先生の教え子さんですよね。だったら先生の性格のこと、先生のやさしさ、分かるでしょ…！絶対言い過ぎです。出てって、出て行け…！もう２度と来ないで下さい…！』
　虚を突かれた川上の表情。
　あのときの香里奈に、俺みたいな男が出来ることってなんなのだろう。

「また、なに考えてんです。せんせぇ…！。早く斜めに薄くカットして、それからバターを塗って下さいな」
　目の前に置かれたフランスパン。ナイフを手に取る。

「了解しました。料理長殿」

「お腹が空いてちゃ、なんにもすることもできませんよ〜だ。ハイせんせぇ、トマトにクリームチーズ」

「分かった、ナイフで薄切りにしたフランスパンで鴨のローストサンドか？」

「そう、正解…！せんせぇ、ルッコラはないですけど、お好きなピクルスを多めに入れちゃいました」
　クリームチーズに黒コショウ、ワインに合うんだなこれが。

「美味い…！意外と香里奈ちゃんは良い奥様になるのかも知んないね」

「まあ、せんせえったら、心にもないことを…」

「俺に香里奈ちゃんを養う能力なんかないし、俺を同居させてるようじゃ無理かもな」
　中途半端を絵に描いたような男の、責任さえ避ける男の、一連の会話をどうとらえたか知らないが、香里奈は明るい。

「無理カモって、先生まで受けない親父ギャグ…！私、せんせぇ…と一緒にいられるだけでいいんです。パパがあんな人だったですから」
　少し気まずくなったか。

「教授って、余計なことかも知んないけど、外から見ると仲の良い夫婦に見えたけど」
　余計だと断りながら言ってしまった。

「せんせ、うちの両親、ある意味仲が良すぎるんです。子供なんか邪魔者扱いで、そりゃ早くから独立心も芽生えますよ」

「なるほど、香里奈ちゃんは１５から日本で暮らしてんだ。強い子さんだな」
　下の双子の妹さんとは年が近いせいか、父親の愛情に飢えてたか。だから俺みたいな男でもよかったのか、なるほどな。

　高桑教授は郷土の先輩でもある。知的で冷たすぎる面はあるが、それが若い頃はマイナスと出たのだろう。陽気なキャシーと一緒になったことで変わったと思ったのだが。
　教授の奥様はキャサリンと言う名だが、あの頃の我々留学生はキャシーと親しく呼ばせてもらってた。仲が良すぎるか、今さらどうとは言えないが、渡米した芹香とは上手く行ってたのだろうか。

「うふふふ…ねえせんせぇ…！私、アメリカンスクールに通わずＳ女学院に行ってたら姉と同じに先生の教え子さんだったかも…」
　香里奈はそんなドキリとする一言も。

「なら、俺はすぐに免職になってたかな」

「そんなこと、私ならそんなヘマも、姉のようにせんせぇを寝盗られるようなこと、誰にもさせませんって」
　姉の芹香や緋紗子への対抗心、そんな言葉に驚かされ顔を見た。無邪気に笑った香里奈は少女のようにも見えた。

　高桑家は代々鎌倉にあった。あの頃は先代さんがおられて俺も会ったことがある。今は教授の甥御さんが継いでいたが、香里奈の東京での生活になにかと支援はあったはずだ。

　秋の日の釣瓶落しか、あれほど眩しかった日差しも陰り、肌寒さも出てきたか。この時期にヒーティングのスイッチを入れるなんて、さすが避暑地なんだと改めて思うこと。

　男と女か、この半年余りに色んなことが起こったが、今、香里奈という娘の元、金沢区のマンションに厄介になっていた。
　娘への信頼か、俺って男の買いかぶりか、いくら放任だといっても、まだ２３の娘とＦラン大学の非常勤講師になったばかりの、４０を前にした男との同居を、高桑教授は良く認めたものだと頷けた。

「ね〜え、せんせぇ…社長が見えるまでには、まだまだ時間がぁ…」
　とろ〜んとした瞳で見つめる、少女の面影から妖艶な女へと２人でいるとすぐにスイッチが入ってしまう。
　ドライなアメリカ娘って印象が強いけど、こんな若くていい女がどうして俺にって、改めて思い感じた。

　家を飛び出た緋紗子の逮捕と出所、結論を出さねばならないときが、すぐそこに迫っていた。

「ねえ、せんせぇ…２階のお部屋に行きませぇん。行きましょ…ようっ！」
　ほれ見ろ。酔うとすぐこんなになっちまう。

「片付けなくてもいいのか」

「いいじゃないですかぁ、せんせぇ…え。また降りて来るんだから」

　薄暗くなった裏窓、１０月の終わりの頃の軽井沢、離山に日が陰る頃だ。
　テーブルの上に広げたままだが少しはかたづけた。見渡すとだだっ広い部屋に飾りとしか機能しない暖炉、かろうじて２重扉とした玄関口、暖房効率も考えていない造りだった。

「せんせぇ…！もう、早くぅ…」

「分かったって」
　急かせる香里奈は階段のそば、奥まった階段は玄関から正面になり、中程の踊り場で折り返し２階の客部屋へと続いていた。

　少し酔いが回ったか、抱いているのか抱かれているのか、既知りの香里奈の案内に２階の１室に、スィート並の広い部屋だった。丘陵に建つ２階窓からの光景、ホテルなら一泊５万円くらいだろうか。

「せんせぇ…」
　香里奈はいつもの如く積極的だ。重なる唇に、俺は香里奈を抱き、縺れるままベッドに倒れ込んだ。

　そうだ、今日の日に俺の方こそだ。未練だと言われようが香里奈を抱いてなきゃ、胸が張り裂けてしまいそうだった。

「香里奈…」
　そのスーツを乱暴に脱がそうとした。

「せんせ…ダメぇ…自分ちじゃないのぉ」
　誘っておきながら、どういうことだと戸惑った。

「せんせぇ…せっかくのスーツがシワになるから先に脱ぎましょうね」
　だって。俺の一張羅を、どこまでしっかりしてるんだか。

　香里奈が脱ぐのを黙って見ていた。仕事着ってのか、判で押したようなミニスカスーツに大きく胸繰りされた白のカットソー。
　南野のお気に入りに、なるほどのタイトスカートだ。

「もう、なに見てんですか、せんせぇ…」

「さすが、足が長いなって…」
　ピッチリとしたタイトスカートの丸っこいお尻に目が行ってとは、さすがに言えない。

　脱ぎ捨てるカットソーに現れた、真白き乳房の谷間、黒の薄地に赤い刺繍のＤカップのブラにもまた、どっきり。

「もほっ…！せんせいったら、足だけじゃなくて見てんじゃないですか」
　確かにだ。
　と言いながら気を引かせ、ワザと背を向け脱ぐ地味な黒のタイトスカートから、白くて丸っこいＴバックのお尻がぷりぷりと。
　艶めかしくズリ下ろすスカートから、ガーターを使うシームのあるストッキング。男にとっての下着姿の魅力まで、香里奈はこの若さで知り尽くしてた。

　かつて緋紗子も良く着ていたが、これほど働く女性を魅力的にさせるファッションアイテムはない。さすが女性の趣味が良い南野さんだ。
　ビジネスシーンに正統なタイトミニのスーツ。その下は、なんでと言いたくなるほど超エロチックなガーターとストッキング。赤と黒の下着のセットだもんな。

　俺だって知っているんだ。香里奈が南野の物でも有るということを。社長の趣味、つまりそういうことだ。わずかに透けるＴバックのパンティを脱がずとも分かる。永久脱毛をだ。
　まあ、その趣味もそんなに悪くないんじゃないかと、膨れきったズボンを前に最近思うようになったが。

「もう、せんせいも…早く、脱いで下さい」

「分かったって、でも香里奈ちゃんのヌードってきれいだなって」

「もうっ…！せんせぇ…ったら」

　香里奈って意外とこの年齢にして、冷めたというか冷静な面を持っていた。南野の信頼を得たというのか。中谷由香利亡き後のリソノ秘書室を背負って立つというのか。
　それだけの器量があると俺は思う。ファッションモデルには少し身長が足らないか、それにつけてこれだけの、均整のとれた美女もそういないだろうな。
　目の前でそんな若き娘のヌードを目の当たりして。

　クリーミィーなチーズに、汗の匂いが混じった若きハーフ美女の体臭。決して嫌いじゃない。高原のホテルのようなスイートで、全裸で抱き合うのも新鮮な物だ。
　レロレロと舌を絡め合うフレンチキッス、手は背中からお尻へと彷徨い。手先は横に這い太ももから無毛の陰部に、親指は隆起する肉芽を撫で２本の指が小陰唇の割れ目へと。

「あうっ…うぅぅ…せんせぇ…！」
　そのまま香里奈を抱いたままベッドに崩れた。

　両の手を被せるように弾力のある乳房を揉みほぐす。プリリとした若さの張り、ツン立つ乳首、唇で挟み扱き、舌先で吸うようにしてみる。

「ああっ…せんせぇ…！早くぅ…私の舐めて…」
　分かったというように、乳房から腹部へと舐め下る。おへその周囲、さらに下って無毛の恥丘に、チュウチュバと啜り音を立てながら隆起した淫茎の周囲を吸い舐める。

　無毛の陰部、香里奈は舌先に感じるところを当てようと腰を振り出した。緋紗子もそうだったけど、香里奈もマ○コ舐めが大好きだ。
　と、言っても俺は２人しか女を知らないが。

「せんせ…やあっ…ちゃんとなめてぇ…え！」
　あまり焦らすのも何だからと、ブチュりとピンク色の肉芽に吸い付いた。固くなった淫茎を唇で押しやる。肉豆か、柔らかく煮た豆を唇に挟む。
　舌先でチョロチョロと舐めてやる。

「あはっ…あああああ…っ」
　この積極的な悦びようはどうだろう。

　舐め男か、舌を使ってベロリベロ、小陰唇の裏側をペロリベロと、筒のように丸めてチュウチュリュリか、そういや指マンで中指を使うことが多くなった。俗に言うＧスポット膣中の上側中程のところだ。
　この微妙というか指遣い。こりゃ香里奈ちゃんのに合わせて俺も進化してるのか。

　登り詰めていく香里奈の足に両耳を挟まれ、両の手に後頭部を押さえられ、息するのさえ苦しい。それでも口と鼻をブリブリグリグリと。

「あはっ…せんせえぇ…あっ…いくぅ…いくぅ…あっ…いっちゃうよ…」
　思うんだけど香里奈の逝き声、緋紗子に似てくんだよ最近ね。

　これって女の方も男に合わせるちゅうか、俺の趣味的に女が変わって行くってことかな。香里奈なんかアメリカじゃオーマイガーってな声あげてたかも知れないし。１５歳でそれはないか。
　もし経験豊富な方がいらっしゃるのなら教えを請いたいと思うよ。

　このベロベロって、俗に言うマ○コ舐めや指マンなんだけど、１時間から続ける人ってどのくらいいるんだろ。俺だけこんなこと、女にさせられてるのかなと不安にもなる。
　けっこう舌遣いも大変なんだぜ。
　目の前にして緋紗子を抱いた黒人への対抗心っていうのか、あんなのを見ちまった俺だから、性的優位性を持つ牡種に対するレジスタンス的な意味も有ったりして。

　まあ、そんな余計なこと考えているから時間が持つのかもな。俺のいきり立つ分身なんか、さっきから香里奈の中に入れたくて、年甲斐もなく先ちょ濡らしてたまらなくなってるもんな。

　香里奈の肉体をチュウチュチュっと、舐めキスしながらずり上がってのフレンチキッス。その反応で満足度や欲求が分かるようになった。

「せんせぇ…！早くぅ…」
　香里奈の手が俺の固くなった物を宛がう、もう我慢できないらしい。もう俺の唾液と淫汁でグチャグチャに濡れていた。
　腰を沈めるようにすると膨れきっていてもズブリと入る。温かい濡れた肉が全体を包み込むって感じ。支える手の上と下で香里奈とお互いを相見た。

「ああっ…せんせぇ、大好き…！」

「俺もだよ、香里奈」
　チ−プかもしれないが、軽い抽挿にそんな気分だった。お互いが相手の肉感を感じ確かめ合う。これが生き物人間として情交か。

　男の先端の肉の膨らみに絡まる、香里奈の柔らかき膣中を動かす。ゆっくり深く小さく早く肉のピストン。

「ああっ…いいぃ…あん、せんせぇ…！」

「香里奈ァ…」

「あっ…せんせぇ…！いくぅ…いっちゃうよぉ…」
　お互いが高みに昇っていく。クライマックスに向けて。

「あっ…！あっ…あっ…ああっ…！ああん…ううん…ううつ…あふん…ああっ…！」
　香里奈の逝き声にもうたまらなく。スパートを駆ける。

「香里奈ちゃん、行くよ」

「ああっ…せんせ…ちょうだい…！ちょうだい…香里奈に早くぅ…う！」

「アッ…ウウン…ツッ…」
　噴き出る。先からほとばしる快感、のけ反る香里奈の逝き顔、膣肉に包まれつつの射精、男にとって最高に満足感を覚える一瞬だ。

　射精の動きに合わさる絶頂に悶絶し、のけ反り顔をしかめる香里奈。思わず抱きしめてしまった。

　快い射精後の動き、しばらく香里奈の顔を見続けていた。

　香里奈が微笑み見返した。揺れる心に目線を外し重いだろうと横に離れた。

「せんせぃ、いっぱい出しましたねえ…」
　気を戻し身を起こした香里奈が、柔らかみが増した俺のを舐め洗うのを見ていた。上目遣い目を合わす香里奈に、微笑み返すことしか出来なかった。

　俺はこの娘のために何が出来る。俺って人間は、けじめも付けられない卑怯者か。

　とうとう先生と呼ばせることを、やめさせることが出来なかったか。まあそれもいいかと最近は思うようになったが。

　その時だったと思う。玄関口の駐車場に車の止まる音がした。南野なのか、全裸、この格好だからの緊迫感か、二重窓をわずかに開き聞き耳を立てた。
　開けたとはいえ周りは林間、ヒヤリとする冷気に閑静とした中での物音だ。バタンと車のドアが閉まる音、そばだてる耳にガチャカチャと、カギが掛かっていた玄関ドアがきしみ音を起て開いた。
　時代錯誤と思える装飾を兼ねた旧式の鍵と扉だ。と、いう事はカギを持っている誰かが来たと言うことだ。

「社長かも知れない。でも早いよね」
　顔を見合わせる、香里奈も不審に思っていたようだ。

「せんせい、見てくるからここで待ってて下さいね」
　香里奈は裸の上にガウンを着て、階下のリビングルームに降りていった。
　待っててと言われてもこの格好だ。俺も間男のごとシャカシャカと急いで服を着て、香里奈を追って階段を、踊り場にと近づいて足を止めた。

　階下に香里奈との話し声がした。てっきり南野社長だと思ったが、声の主は村田清麿だった。アイツもここに呼ばれたに違いなかった。
　話す雰囲気が何やら怪しい、身をかがめ耳を澄まして会話を盗み聞いた。

「社長とお約束もないのに、勝手にカギ開けて入ってこられるって、迷惑です」
　香里奈の物言いに、どうやら南野と約束はなかったみたいだった。

「なにを偉そうによ、お前の車が停まってたからに決まってんだろが…！兄貴が言ったんだよ、お前がここに居るってなァ…！」

「清麿さん、２階に先生がいるの、大きな声を出さないでいただけます」
　不機嫌を露わにした香里奈の声だ。

「だから話が違うじゃないかって、前に聴取を受けた、警視庁の川上と言う女刑事から、もう一度、お話を伺いたいと言ってきたんだぞ。いったいどう言うことなんだよ」
　潜めてもまだ聞き取れる声だった。

「それでぇ、その川上刑事さんはなんて言って来たのですか？」

「防犯カメラなんか知らないって、前に供述したことがウソだと言うんだ。だからもう一度、大臣の秘匿映像と迎賓館の隠しカメラについて、再度、俺から事情が聞きたいと言って来てんだよ」

「だったら前に言ったとおり、防犯カメラの映像なんか知らないって、言ってやればいいじゃないですかぁ。証拠なんて何にもないから、清麿さんに揺すぶりを掛けてきただけですよ」

「だからよう、警察は俺の言ったことが、ウソだと知っているんだよう」
　またトーンが上がった。イラつくときの村田の声だ。

「もう清麿さん。警察が清麿さんの証言がウソだという証拠を持っていたなら、そんな回りくどいことなんかしません。絶対しませんってぇ…！」

「分からねえ女だな。お前は…！あの女刑事は知っているって言ったんだよ！」

「そんな、証拠がないから、カマ掛けて清麿さんになにか言わせて、矛盾点を突こうとする警察の作戦ですよそんなの。だから、なにを聞かれても亡くなった由香利しか知らないって言っておけばいいんです。いいですね。死人に口なし、証拠なんて絶対にないんです」

「そんなこと言ったって、現に警察がよ…！」

「いいですか、警察が玉川という影を追いかけているかぎり、真相には絶対近づけない。何のために、捜査に不慣れな女を捜査１課の主任捜査官にしたんですか」
　捜査に不慣れな女って川上？、話は続いた。

「たとえですよ、川上って女が気付いたところで、清麿さんはなにも知らない。迎賓館のことは由香利がすべて仕切っていた。いいですよねぇ清麿さん」

「わ、分かったよ。分かったけど、埋めたの見つかったらどうすんだよ」
　埋めたって、どういうことだ。何を埋めた？。俺の不安は最高潮になっていた。

「清麿さんは臆病すぎます！。何があっても、犯行当日、私は軽井沢のこの別荘にいたんです。いいですよね。分かったら出てって下さい」
　香里奈の不用意な物言い、おそらく臆病と言われた村田は顔色を変えただろう。自尊心だけが強い男だ。

「なにが出てけだ！なにがあの日だァ。誰が別荘にいただと、この…！」
　やはり村田は声を荒げた。

「お前だけがシャーシャーと玉川殺しに関係ありませんってか！」

「だって、その通りじゃありませんか。いらぬ工作まで、私にさせて」

「なにをっ…！だったら手を下した俺はどうすりゃいいんだ…！。兄貴が言った通りだ。この俺を殺人者に仕立てたのはお前だろうが…！」
　村田は香里奈に背を向け、ドライバー手袋をしたままの右手にハンカチを持ち、咄嗟にテーブルにあったナイフを握った。

「村田ァ…やめろ…！」
　俺はもどかしく階段を駆け下る。
　香里奈はまだナイフに気付いていない。

「こな、クソ…！」
　俺の動きに気づいた村田は、香里奈の背後からナイフを持って襲いかかった。
　後方から香里奈の首に手を巻いた。

「香里奈…！危ない逃げるんだ」
　たしか、そう叫んだが、香里奈の胸にナイフが突き刺さるのと同時だった。村田は血に染まるハンカチを持ったまま、そのままドアから飛び出した。

　俺はすぐに踊り場を駆け下り倒れた香里奈の元へ、瞳孔が見開いていた。

「香里奈…ァ！」

「せんせぇ…私なら、せんせぇのこと…」
　背に手を回し香里奈を抱いた。両手が血まみれに。

「せんせぇ…私…ダメみたい…ぱすわそのま…」
　香里奈はその言葉を最後にショック状態に。

　血だらけになったガウンの胸に、鴨肉を削ぎ切りしたときに使ったナイフが突き刺さり、ドクドクと血が流れていた。ナイフを抜いてはダメだと知ってはいるが、心臓が傷ついている。どうしたらいいんだ。とにかく救急だ。

　香里奈を床に置いたとき急発進の車の音、携帯を持ったまま、俺はあわててドアの外へ飛び出した。車は道路に出るとき門柱の飾りにフェンダーの左側を擦り、右折し猛スピードで消えた。村田のレクサスだった。
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2016年1月16日掲載
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