奥様は接待秘書
浩一 作
１０　復讐の女 １

　保護観察中の身に薬物処遇プログラムも３週間目を過ぎ、その間の夜間外出は香里奈の通夜とお葬式のその夜だけ。
　保護司を兼ねる小姑の理恵や芹香が煩くて、修道女のように慎ましく送る反省の日々。
　理恵宅の居候というか、ここしばらく警察に捕らわれた主人の身を案じつつ、わたくし光田緋紗子は、狭い賃貸マンションの留守宅警備員を務めておりました。

　当面の暮らしは、主人が管理していてくれた預貯金で困らなくて済み、誰もいない昼間は購入したばかりのママチャリでのお買い物とか、中央線高架下にあるトランクルームに預けてあった、主人やわたしの私物の整理に勤しむしかない退屈な毎日でした。

　そこで先週、薬物課題講習と２週間に１度の簡易薬物検査の折、久しぶりに新宿に出て彫雅と会いました。
　黒川も覚せい剤取締法で逮捕され、街は新宿署の一斉取締りにより、ぼったくりキャバクラが摘発され、歌舞伎町だけで２８店舗が廃業したとか。
　本格的な警視庁の動きに、夜の街は良いも悪いも戦々恐々とした有様でした。

「おっかしいだろ！。全部込みで４０００円などある分けないのに、勧誘される客もどうかしてるよ」
　彫雅はご機嫌斜め。広すぎる円形ベッドの端に、片ひじに寝転びタバコをくぐらせた。

「そうだけどさ、ここ歌舞伎町の客引きってしつこく強引だって、いっぱい聞いたよ」
　と、わたしは彫雅をなだめるように相づちを打つ。

「そこんとこ、緋紗ちゃんさ、なんで歌舞伎町に悪質客引きが横行したか考えても見てよ」
　彫雅は枕元の灰皿でタバコをもみ消し、ゴロリとこっちを向いたんです。

「警察なんてさ民事不介入って、お互いの合意で解決してもらおうなんて言ってたからだろ。フリ客とぼったくり業者にだぜ」

「そりゃまあ警察って、そう言やそうだけれどさ。ここ最近よくやってるんじゃない」
　と、わたしはお世話になった警察の弁護。

「警察ぅ…！警察のなにが良くやってるだってぇ…！？」
　彫雅の怒りは収まらない。

「良くも悪くも警察のやることって、本当に強引なんだよ。緋紗ちゃんの大好きな、このカガミの部屋だって、風営法でダメになってんだぜ」
　知らなかっただろうと、彫雅はわたしの側に体を這わせ、肩に手を置く。

「えっ…！ど、どうしてよ…？このホテルもなくなるの」
　わたしは身をにじり寄せ彫雅に詰め寄った。
　誰が考えたのかカガミ張りの、こんな素敵な部屋が禁止だなんて。どうしてと彫雅の腕を取り問い詰めた。
　ここ歌舞伎町は２丁目の明治通りにほど近く、通い慣れたラブホテルなのに。

「まだ、急にはなくならないさ。新しく営業許可が下りないだけだよ」
　と、彫雅は組んだ手を枕に仰向け寝に天井を見る。

「バカッ…！もう、このホテルがなくなるのかと思ったじゃない」
　そう言うことか、と、少し安心して彫雅の組んだ腕を枕にゴロリと寄り添う。
　見上げた天井カガミの中に、身を寄せ合った男と女がわたしを見てた。

　斜め天井壁一面のカガミの世界に映るのは、短足に皮下脂肪にひしゃげた腹、全身の刺青にまるで不格好なタヌキの置物。そんな男の胸に手をやる女は、肩から胸にかけて牡丹の刺青がある、全裸のわたしでした。

「風営法ってなに考えてんだろね」
　カガミに映る女の指先がタプタプの、布袋腹に彫られた男の墨の痕をなぞる。横向き加減に女の手は、タヌキ腹の陰毛の草むらに、首をすくめた毒蛇が腹ばう下腹部をたどった。
　女の白く細い指先が、柔らかさのある黒ずんだ毒蛇の鎌首を掴まえた。男の腹部に伸びる女の腕、肩に彫られた紅白の牡丹刺青が男の刺青と重なった。

「彫物か、彫物なんて所詮ヤクザの象徴、あの女デカが言った時代錯誤ってことかな」

「なによ突然、そんなことないよ！現にわたしだって…」
　身を起こした女は男の胸に上半身を斜交いに重ねた。大きすぎる乳房が潰れ肌どうしが密着した。男の手は女を抱いた。
　ベッドサイドのカガミに映る女の背中、昇り龍の刺青が男と重なった。
　女の握る手の中で拍々と、疼く欲望に黒ずんだ大蛇が鎌首を持ち上げた。

「クソ…！あの川上って捜査１課の女デカ、俺が緋紗ちゃんや黒川に彫った刺青のことで、彫り師を指定暴力団の身内ぐらいに思ってやんだぜ」
　げっ…！理恵が事情聴取だって。身元引受人が理恵てことは内緒にしとかなきゃ。

「クソ…！あの女デカ、絶対許さねえんだ」
　呼び起こした屈辱に身を悶えさせ、彫雅の黒ずんだ大蛇は取調べの恥辱を購うか、記憶の理恵を犯すかのように、扱く手の中でビンビンに反り立っていた。

「もう、やなことばかりね。ねえ、もう一度忘れさせてぇ」
　こうなったらと、わたしは彫雅の耳元に甘く囁いた。

「緋紗ちゃん、もう俺の物になってくれよ」
　そう言って、腕枕のわたしを引き寄せ彫雅は強く抱いたのです。
　でも無理、魔法の解けた王女様は、ガマガエルの女にはなれないの。

　四角い顔に薄くなった頭髪、獅子鼻に小さく細い糸引き目、わたしは彫雅に被さるように重なり、分厚いタラコ唇に唇を重ねた。
　タバコ臭い息がした。差し込まれる舌、粘る唾液。舌を絡め合わせる激しいキッスに、彫雅と再びの情事を重ねた。

　墨の曼荼羅、絡み抱き合う男女の刺青がカガミに映る。分厚い唇の愛撫が顎門から首筋を、肩口の緋牡丹の刺青から乳房の膨らみを這い乳首を挟む。

「あはっ…」わたしは甘声をもらし身を反り返した。
　ちろちろと嬲る舌先、刺青の両の手が揉みほぐす乳房、指先に乳首をクリクリと弄られ、わたしは思わず男の首をかき抱き乳房に押しつけた。

「あっ…！あは〜っ、あんっ彫雅さ〜ん、お願いぃ唇で吸ってぇ…」
　乳房に口元を埋める彫雅と目を合わす。無言に唾液にジュブジュブと、右に左と乳首から乳輪にかけ、あの分厚い唇で吸われる心地よさにまた、喘ぐ声が出た。

「ああっ…あん…んっ…あはぁ…」
　ベチョベチョと乳房を舐め尽くす唇が谷間を下る。這い痕の唾液に光る腹部から、唇の愛撫は両足を開いた陰部に降りた。
　彫雅の顔が股間に隠れ、舐め吸う唇の感触が淫茎に、舌先が小陰唇を開きブルブルと淫肉の門扉を唾液に粘る唇に口淫されたんです。
　唾液を絡ませブチュブチュ、ベチョベチョと、聞こえるほどの音を立て、舐めねぶられるクリトリスの肉芽。膣中に侵入する彫雅の指先が、Ｇスポット辺りを肉襞を数の子のような天井をまさぐるんです。

「あっ、ああ〜ん、ダメえ…！」
　と、声を上げちゃいました。

「緋紗ちゃん、逝け、逝けよ。ホラ、逝きたいんだろ。逝って潮吹きを俺の顔にひっ掛けてくれよ」
　職人と呼ぶにふさわしいゴツゴツとした指先で、クニュクニュクニュリと手淫され、懇願するようにわたしの股間で、彫雅はぎらつく目で見据えるんです。

「あ〜ん、ダメ…え、ああっ、そんなことしたらダメだったら、もう〜」
　ああっ逝っちゃう、ベッドメイクのオバさんゴメンなさい。Ｇスポットをしつこくされる指マンに、ピュピュって、ラブホテルのベッドなのにまた潮吹きしちゃいました。

「ウォホッ…緋紗ちゃん、すげえっ…緋紗ちゃんたらオシッコと言うけど絶対違うよ。こんなヌルヌルのオシッコって絶対ねえよ」
　顔に潮吹きを受け舌先で舐め摂る、歓喜に噎ぶ彫雅の顔。最初のがクセになっちゃったのか男ってホントに変態ばかり。

　ヒザ立ちにブラブラさせるおチンポに唾液を塗りつけ、興奮に彫雅は野獣のように、のし掛かるんです。わたしは彫雅の緩んだ腹の辺りを抱きしめたんです。

「入れるよ。緋紗ちゃんのに入れるよ…！」
　そう叫ぶなり、彫雅は淫汁に濡れきったわたしのに、膨れきったぶっ太いおチンポをぐさり。ヌルヌルの亀頭の膨らみが膣肉を広げグニョリと奥まで入って来て。

「あはっ…！ああうぅ…うふっ」
　快感に思わず膣肉をギュッと締め、彫雅のおチンポちゃんを。この形の存在感を膣粘膜の襞で包み込んじゃいました。

「アアッ…！これなんだよな。緋紗ちゃんのマ○コって良すぎんだよな」
　天井鏡に映る彫雅の曼荼羅尻の褶動。あれからどれほどに女経験を深めたのか、感慨深く突き動かす彫雅です。

「クソ…！たまらねえよ、緋紗ちゃんよ」
　持ち上げられた両脚に、立て膝の彫雅にズンズブズブリと突き入れられた。
　彫雅は曲げた膝に足を広げ、高さを合わせた抽挿に、膨れきった大蛇の鎌首にＧスポット辺りを責められまくり。
　ズンコズンコと突き入れられる反動に、乳房はブルブル身はずり上がり、また手元にと引きずられ体位を変えて奥深く責められた。
　相性と言うのだろうか、傘が開く松茸というのか、カリ首が発達したおチンポで突かれ、引き抜く動作にもう声を上げっぱなし。

「ああっ…いいぃ…彫雅さんのがいいのぉ…ああいいわ…気持ちがいいよぉ…」
　キュッコキュッコキュッコとベッドを揺する彫雅の突き動き。

「好きだ緋紗ちゃんが好きだァ…俺ぇ…緋紗ちゃんをさ…」
　これでもかという激しい抽挿に、いつしかスプリングがギシギシと。もう死にそう。

「あっ、わああ…あわああぉ…わあああっ…」
　声を涸らしたわめき声、何度と訪れる絶頂に快感に悶絶し死にそうです。

「あっ…！ああっ…だめえ…ああ…しぬう…死んじゃうよぉ…！」
　そんなこんなで、背に手を入れられ引き寄せられ、拍々と打ち込まれ、気の遠くなるあの刹那に、わたしは死んじゃいました。

　強弱に突き入れられる肉に揺すられ、また気を戻す。幾度と訪れる絶頂感。
　突かれる身にその度に顔をのけ反らせ、自然に伸ばした足につま先を内側にキュイっと、抱えられた両脚に身を反らせたブリッジ。
　この不細工男にさせる被虐感、おぼろに霞み見たカガミに映す刺青男とのセックスって、なんていいんだろ。
　わたしに残されるわずかな時間。全力で燃え尽きなきゃ。

「ああっ…彫雅さ〜ん、ああ…早くぅ…早く欲しいぃ…のぉ…」

「緋紗ちゃん…！俺、緋紗ちゃんが好きだ。好きなんだよ」
　２回目だというのに、この頑張り。好きだと言うしつこさも男の才能か、天井のカガミに映る刺青の背と艶めき蠢く墨の曼荼羅、上下に動かす尻の蠢き。

「いいっ…！いいの…いいっ…ああっ…いいわぁ…」

「緋紗ちゃん…！出すよ。俺、もう出すよ…っ」
　速いピッチにズンズンズンと突き抜ける快感。重なる男の早まる呼吸、負けまいと挟んだ太もも足先をまた反らせた。

「ああっ…彫雅さん、あうっ、一緒よ…っ」
　この絶頂を迎える瞬間。中にドビュっと噴き出る男の射精にあとはおぼろ。ヒクヒクとシャクる動きにヌルっとした精液がまたドクンドクドロリと噴き出て来た。

「あっ…！あっ出てくる、ああっ、彫雅さんのがまた出てきたぁ…」
　思わず声に出た。

「アウッ…ウウゥ…つつっ…緋紗ちゃん、俺ぇ…」
　奥深くの挿入に淫茎にグリグリと押しあたる陰毛の感触。夢中に薄目に見上げた彫雅の射精、わたしは中に出される悦びに深く感じ入っていた。

「ああぁ…いいぃ…！いいわぁ…彫雅ぁ…さんのが…ぁ…」
　つい、わたしを抱く彫雅の名を呼んでしまう。男と情を交わすって至高の悦び、男っていい。

「好きだ、好きだァ、緋紗ちゃん、俺っ…！」
　射精する快感に男がわたしの名を呼び、好きだなんて言われるのは嫌いじゃない。
　嫌いじゃないけどごめんなさいね。ただこのひとときは忘れても、脳裏に浮かぶ思い人は主人ただ一人なの。

「ウン、ウウッ…アアァ、緋紗ちゃん…！アフゥ…フッウッ…」
　彫雅は小刻みに、最後のシャクリに動きを止め、膣中に射出された精液のぬるみにヌルヌルと、固く感じる男の肉身の感触が、余韻を残し柔らかくなり終わりの時を告げて行く。

「緋紗ちゃん、俺っ…俺さぁ…！ずっと一緒でいたいんだよ」
　彫雅は男女の繋がりが途切れにようにと、陰毛まみれの股間を密着させ、最後のひとときまでを惜しむかのように私を抱いた。
　見上げて目を合わせた彫雅の、ブッサ顔も見なれたか。

　この感じが良いよね。うん、やっぱ彫雅のおチンポちゃんは別かな、たっぷりと中に出されたこの充実感。
　分身たる精液を幾度と噴き出させ、彫雅は膣中にヌリヌルと温みを塗り広げ、わたしの上でその２回目を果てたんです。

　彫雅自身も事件の参考人として、警察と言うより理恵の強圧的な取調べに憤り、わたしは怒りに起ち狂う彫雅の男たる身をなだめるのも大変でした。
　彫雅が射精に至る時間に幾度と逝かされたことか。充たされる満足感に、ただ上に乗っかる彫雅が重い。

　慌てて帰る用意、シャワーに汗を流しながら手のひらで陰部を洗う、膣を締める動作にニュルリと。お湯と一緒に彫雅の白いヌルヌルのが太ももから足を伝い流れ落ちました。
　それもタップリ、女ってヤですよね。下着を着け髪をセットしお化粧直し、ああ、もうこんなに時間が経っちゃった。

　午後から始まる薬物課題学習後のわずかな時間、サービスタイム中のラブホテルを２時間ばかりで切り上げる。５万円ぽっちの生活支援金をもらい、彫雅とはまたの逢瀬を約束し区役所通りで別れ、わたしは急ぎ西武新宿駅の方に。もうこんな時間だと焦っちゃう。

　我慢できない女か、主人を思いつつまた彫雅に抱かれちゃいました。

　言い訳は別にして、その日の薬物課題学習で講師の脱線した話の中、性欲について興味深いことを聞いたんです。
　女の性欲は、性的快感の経験度に左右されることが多いんだって、なるほどと心当たりに真剣に聞いちゃいました。２６歳からこっち性的経験ならたっぷり。

　定年退職後のアルバイトか、年配の講師がそんな女は一目で分かるって、わたしにウインク。本当に年甲斐もなく男ってバカですよね。
　ＡcanＢって、もう少し若ければねって舌を出す。視線を合わせた年配講師の、しわくちゃ顔が笑ってた。

　小姑保護司の目を盗み、時間に追われる濃密な情事に幾度と逝かされ、２回に及ぶ中に出された生射精に身も心も呆ける有様。本当に彫雅の性技巧術の向上は目覚ましい物がありました。

　愛する主人への思いを裏腹に、あれから事態はさらに悪い方向へと進行して行ったのです。時間にルーズというのか、残業も無いはずなのに帰りの遅い理恵。
　時間を使うのが下手なのか、稼ぎが少ないのに忙しそうにしている芹香。保護観察中のわたしだけが時間に追われ、彫雅との密会もままならぬ有様でした。
　なのに、こんな日に限ってドアを開けると２人の靴が並んでるんです。
　もう最悪。

　理恵宅に戻ったのは午後７時半、わたしは、同居の住人である川上理恵と、不遜に押し黙る客人というか、主人の弁護士である高桑芹香に声を掛けました。

「帰りが遅くなってゴメン。こうこ、もう来てたんだ」
　室内に背を向けお洒落目の赤いハイヒールを脱ぎ、やばいとキッチンに逃げ込む折、わたしを見る２人の目。

「ねえ〜おひさ、なにそのオシャレ、都の保護観察所にそんないい男がいたかしら」
　確かにジャカード織りのジャケットの下は、ちょっと人目を引きそうな秋物ワンピース。

「おひさ、薬物課題講習って確か１５時半には終わってるわよねぇ？」
　背に受けるこのイヤミ。わたしはキッチンに立った言い訳に、グラスに一口水を飲む。
　やばいよこの弁護士様、にらむ目がまるでエサに飢えたメス虎のよう。そんなに待たせた分けでもないはずのにさ。

「こうこが来るって聞いてたからさ。帰りに新宿でさ、叙々苑の焼肉弁当買ってきたんだけど、熱いお茶でも入れようか」
　と、わたし。ダイニングテーブルの２人の前にお弁当をドサリ。そのままを部屋にジャケットをハンガーに掛ける。

「なにこの時間に、牛タン塩だれ弁当にお茶…？気が利かないわね」
　袋から取り出し、理恵ったら超不満げな顔で、部屋着に着替え中のわたしをチラチラと振り向くんです。
　彫雅のために着けてった透け透けの紅色下着です。堅物女の視線にさすがに気まずい物がありありでした。

「これでも急ぎ、お弁当買って来たんだから、ひとの気も知らないでさ」
　１５００円もしたお弁当に文句でもあるの。と、理恵に言葉には出しませんが態度でそう言ってやりました。

「ふ〜ん新宿に途中下車ねぇ〜、なら生ビールに、上カルビ弁当を腹一杯食べてえよな…！」
　男と、確証はないはずなのに訳知り顔に恐喝、その顔、あんた女終わってるよ。ホント。

「理恵は、ひとのお財布だと思って勝手ばかり、ウインドショッピングに少しくらい羽を伸ばしたって良いじゃない」
　と、言葉尻に様子をうかがう。わたし。

「おひさは保護観察中の女って、危機感ってものがないのかな。冷蔵庫にビールが冷えてたでしょが」
　彫雅との密会がバレたのか？ドキリとする一言を発し、芹香がいかにも見逃すその代償だとわたしを見る。せっかくケース買いで安く手に入れたビールなのに。
　ホント、女同士の暮らしってやりにくい。

　分かってるよ現状が大変なことくらい。弁護士の芹香や警察官の理恵から、その話を聞かされたとき、主人の救出にもう打つ手がなくなったことを思い知らされたんです。

　その夜遅く、わたしは離婚届に名前を書き入れ、光田という印鑑を押すのはこれが最後になるかも知れないと思いました。

　保護観察が明けると、わたしは南野の女に戻る。今度は明確な意思持って。

　群馬県長野原町北軽井沢の営業を終えた観光農園の片隅、木々が覆う奥まった廃屋横の駐車場だった。放置されていたハイエース車中から、村田清麿の服毒自殺死体が発見されたのは、高原の秋も終わる１１月の１６日でした。

　車中の赤いリュックサックからの現金１億９０００万円あまりが手つかずで見つかり、山間の町や長野原署は大騒動となったんです。ナンバープレートから盗難届が出ていた、あの東池袋のホテル現場に、２億円強奪事件に使用されたハイエースです。
　発見者の証言、遺体の状況から死後２０日くらいとしか特定出来なかったが、香里奈の殺害時期と重なり。そして鑑識により助手席シート下から見つかった毛髪が、ＤＮＡ鑑定により高桑香里奈の物と一致し事態は一変しました。

　警察庁の動きに、リソノ脅迫２億円強奪事件は、東池袋ホテル相対死事件と別件と分離され、主犯村田清麿、従犯高桑香里奈、両名死亡のため書類送検で終わり。
　東池袋の件は公安が手を引き、両家族の意向もあり、結局のところ池袋署主導により無理心中と、最後まで龍仁会玉川の存在は掴めぬままに幕が引かれたんです。

　同じして検察は、高桑香里奈殺害の容疑で拘留していた光田浩一を起訴しました。
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あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
2016年1月27日掲載
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