奥様は接待秘書　浩一 作


　カギを開けて中に入る。
　もうそこは自宅という物ではなかった。
　まるで態の良いラブホテルの一室、ここに緋紗子と彼ら一族との情事があって生活感のない部屋だった。
　緋紗子がこの半年余りの暮らしでなくした物。
　いや、南野一族によって２人が暮らした記憶を捨てさせられた跡だ。

『やっと会えたんだもの、あなたと別れたくなんかないよ…！』
　そう言って泣きながら俺に抱きついてきた緋紗子だ。
　あのときも今もなにを思ったか理解不能。
　２人の暮らしを再構築するにあたって、忘却という物が必要なのは確かだが自分にそれが出来るのだろうかと。

『なんでもする。お金だっていっぱい稼いでくるよ』
　論点が違った気がするが、これが緋紗子の愛情表現なのは確かだった。

『あなたぁ…しよ。さっき立ってたでしょう』
　微笑みかける緋紗子を、思わず抱いてしまったんだ。

　そう、緋紗子と出来たんだ。
　自分の物が勃起する、男にとってどれほど大事なことか思い知ったことか。
　ショック療法、確かに効きすぎたみたいだ。

　あの日は時差ボケにかかわらず朝まで仲睦まじくだ。
　が、理事長の言ったことを理解するのに３日と掛からなかった。
　俺は男だ。３７の男として頑張ったんだ。
　ただ。

　結局のところ緋紗子の接待秘書としての仕事を認めるしかなかった。
　妊娠の兆候は無くもキンタという黒人と緋紗子の関係は帰国まで続き、社長秘書という名の愛人も辞める事なきに至ったが。

　西大井の社宅の如きマンションに住まいを変え。
　１年の忌まわしくも呪わしい記憶の中での追想、目の前で６５インチの高精細テレビには隠し撮られた清河と緋紗子の情交が延々と続いていた。

「なにが秘書なものか」
　ぽそりと俺の口から言葉がもれた。

「だから、こんなお仕事続けながら、あなたのお世話してんじゃない」
　と、緋紗子は俺を垣間見ながらリモコンを手に取り音量を上げる。
　自身の絶叫の喘ぎ声の中、上に重なる清河の突き動き、尻の動きが卑猥すぎた。

　確かにそうだが、
　女房自身が写る盗撮の本番映像、それを夫婦が横に座り夢中になって見るなんて、それもスキャンダラスな超有名元野球選手、清河との生性交場面だ。

「すごいわ、あなたぁ…！。
　こうして見ると清河さんて、さすが元野球選手ね。
　腰の入り方が違うわ。もう思い出しても、ここがジンジンしてくる」
　清河の奥深くの突き入れに緋紗子の喘ぎがシンクロしている。

『あっ…あうっ…あっ…あ…あっ…あ…あっ…！』
　見ていても確かに、確かに凄い。怒濤の高速ピストンに突き込まれ、なんて声だ…！。

「ああ…こんなの見てると、たまんなくなる」
　緋紗子は太ももに巻き付くバスタオルの中に手を入れ、画面に映る清河の抽挿に合わせ指でまさぐる。

「もう、なにやってんだよ」

「うふふ…あなた、オナニーしちゃうわ。
　あはぁ…また濡れてきちゃったぁ…！
　あの強烈なの見てると、また清河さんとしたくなってくるの」
　バスタオルの上からでも指が動いているのがよく分かる。

「なにが清河さんだ…！女は、こんな乱暴なのが、ホントにいいのかね…？」

「ああ…っ！出来もしない男ならそうくるか…。
　清河さんのガチガチの亀頭の膨らみで、ああ…膣ん中をヒッコヒコのズッコズコって掻き回されの。
　もうこのまま好きにしてぇ…って感覚ってば、もう、あなたにも分かるかな」
　挑発でもしてるつもりなのか、指遣いまで早くなってやがる。

　ヤツは体位を変え、修行僧のように一心不乱に抽挿を繰り返す。
　緋紗子のあの乱れかた、さすが、うわさのシャブ中でも女に関して海千山千男だ。
　腰の使い方が違うか。

　それにしても盗撮カメラなのに、この絶妙なアングルは何だろう。

「お前、ホントは撮されてるの知ってたんだろ…？」

「さあっ、どうかしら…？。ベッドルームにモニターカメラなんてないものね。
　それにしても４Ｋって、こんなにきれいに映ってるなんてね」

「こんなのが流出して、バレたら問題になるんじゃないか…？」

「ないないって…！ここ社有の迎賓館よ、防犯カメラがない方がおかしいでしょ」

「だけどこの映像、顔もうわさの背中の刺青がバッチシ写ってるし、もれたら防犯カメラの映像だっていえない代物だぞ」

「冗談じゃないわ！誰も流出なんかさせないし、こんな照明の下、明らかにゲストルームだと分かるソファーの上で、クスリにラリって女をやる男が悪いのよ…！」
　確かにそうだ。疑惑の有名人なら不注意すぎる。
　おそらく緋紗子が、ヤツをこの場所に誘導しカメラに撮影させたのだ。

　何かある。
　不自然なほど緋紗子はこのソファー間際のカメラの存在を知っている。
　天井取り付けの固定カメラじゃ４Ｋとはいえ、よほど特徴が無ければ誰と見分けるのもむつかしそうだ。
　だからか。

　だが幅広の背中に昇り龍の刺青だけが、妙に鮮やかでインパクトがあった。
　これを週刊誌にでも持ち込んだらと、一瞬でも考えたのは女房の尻に敷かれる失業者なればこそか。

　その時だ。日焼けの両腕に白き尻を掻き抱かれ、黒靴下にハイヒールを履いた足が、清河の手で中空へと持ち上がる。

『ウオッ…オオッ…アオウッ…緋紗子ォ…いくでぇ…！』
　尋常者と思えぬ咆哮、野生の叫びがした。

『ああっ…ああぁ…ちょうだい…ああ…中へ…中へちょうだい…！』
　中出しをせがむ緋紗子の求めに、清河は再び体位を変え黒靴下の両脚を抱え折り、奥深くまでのピストンの動きを強めた。

『ウウッ…ウッ…ツゥ…ツッ…ウウゥ…！』
　清河は声を噎ばせつつ過激な抽挿を続ける。
　緋紗子の手は清河の背をまさぐり、指先はその背肌を爪繰った。

『あっ…あお…あううっ…あおっ…！』
　サラウンドスピーカーから、清河の動きに応じる緋紗子の声が尚以て叫いた。

『あひぃ…あおっ…！おおぅ…あっ、あ、あ、あ、ああっ…！』

「お前、なんて声を出すんだよ…」

「だって 清河さんに超激発に逝かされたんだから、しょうがないでしょ…！」
　これが清河と抱き合い、身をのけ反れせた我が女房、緋紗子の物言いだ。

　ボリュームを落とそうとテーブルの上のリモコンに、手を伸ばそうと立ちかけたときに、緋紗子の手に制せられた。

「だめぇ」俺は憂いを含む魅惑的な女房の横顔に魅せられた。

「あなた、もうじき清河さんが、また中出しで射精する。感動的な場面よ」
　なにが感動的な場面だ。いったい何回目の射精なんだよな。

　俺は清河と女房の睦言を部屋中に響く音量で、聞かなければならない羽目になった。

　モニターでは、清河は緋紗子に重なり激しすぎる突き動きをやめない。

『緋紗子…！お前のオ○コ、むちゃ締まるオ○コがええ、ええ具合やでぇ…！』
　清河は両手で緋紗子の腰を挟み付ける。
　東京生活が長くても関西弁は消えないらしい。
　この場に及んでオ○コだってなんか変な感じだ。
　興が冷める。

　大きな両の手なら一周廻りそうな、わずかに脂肪が付いてるだけの緋紗子の細腰だ。

　手のひらを背とシーツとの境に潜り込ませ、緋紗子の肉体を引き寄せ、清河は奥深くまで打ち突ける。
　パゴパゴパンパンと肉が相打つ音、上気する女体の白い白いきめ細かい肌が赤みを増す。

　清河が上下に揺れる緋紗子の大きな乳房を鷲づかみに揉み寄せ、上体を折り曲げ器用に白い物が混ざったヒゲ面の唇で吸い付いた。

『エヘヘ…柔らこうてボリューム満点の、ホンマええ乳や…
　また逝きそうなんやろ。逝くか…？どや、逝きそうなんやろ…？』

『ああっ…！だめえ…！やめないでぇ…！
　おチンポが抜ける…ああ抜けちゃうよ…！』
　その寸前にまで女を焦らせるのか、長けた男だ。

『ああっ…ダメっ…ダメよっ…！
　あっ…いくぅ…いくぅ…ああっ…いくよっ…カズさん…！
　もっと…もっと突いてぇ…』

『アォ…！そんな言われて、もうワシたまらんわ…！
　ウオッ…出る、もう出るで…！』

『あっ…！ああああっ…早くぅ…早くうっ…』

『そうかァ…ヘヘ…そうやな。そら、そら、そらっとなァ…！』

　清河の焦らしと激しいばかりに続ける抽挿に、緋紗子の性感は異常に悶えた。絶頂の啜り声だ。

『ああおっ…！ああ…あっ…！
　あっ、あっ、ああ、あ、あ、あ、あ、あああぁ…！』
　帰宅後のハスキーボイスの正体、緋紗子が声を涸らして帰ってきたはずだと確信できた。
　こんな時間に耳を澄ます隣人はいないだろうが、起きていれば気付く音量だ。

『アッ…ウウッ…アオウウゥ…ウッ…！ウウッ…オオッ…』
　あの動きだ。上り詰めた女の中に打ち込む、清河の射精の雄叫びだ。

　緋紗子はモニターに魅入られたまま、オナニーの指遣いも忘れてた。

　生出しの性行為の実感が永遠にも続くのか。
　固い亀頭の膨らみが膣内を激しく前後に動くのか、緋紗子はたまらず喘ぎを上げ続けた。
　黒靴下の脚が男を逃がすまいと胴を挟み、抽挿の動きに力なく赤いハイヒールの足先がユラユラと揺れた。

「おい、清河の野郎、まだ射精してんだよな…！な、してんだろ…！」
　俺は緋紗子を問い詰めた。

　恍惚にトロンととろけそうな瞳、間の抜けたような口元、緋紗子は呆然と、モニターに映る登り詰めた緋紗子自身と清河を、ただ見ていた。

『ウウッ…オッ…オウ…ウウッウオ…！』
　清河は気持ちよさげにシャクリ続け吠え声さえ荒げてやがる。

「ああ…そう、そこよね、感じるの。今、あのブシュっと噴き出てくる生射精の感触よね。ああっ、また出てきたんだ」
　緋紗子はそのときの心地をまどろむのか、知る限り２回目の抜かずの２度出し射精に思いを馳せていた。

　クソ…！柔らかに包まる緋紗子の膣ん中で、清河の野郎、さぞたっぷりと出ししてんだろな。
　俺のまでもうパンツの中で、ビンビンで先が濡れ、冷たく感じるほどだった。

　まだ終わらないのか、とどまるところを知らない清河の射精の動きだ。
　これが中年男にとって魔法の如きシャブマンなんだ。

『アアッ…緋紗子ォ…ええでぇ…ホンマにええで…！よう締まるええオ○コや』

『ああっ…ああいいぃ…ああカズさんっ…ああああああっ…ああっ…カズさぁん…！』
　緋紗子は波のように次々と襲い来る絶頂を感じたら、とどまれなかったようだ。
　性接待の相手を親しげなファーストネームで呼ぶなんて…。やはり出来てるのか。

『ええか…緋紗子ォ…！お前は俺の女や…！ずっとワシのもんや…ええなァ…！』

『ああぅ…あっ…あなた…ああっ…あなたぁ…！
　緋紗子は…ああっ…緋紗子は…あなたのもの…カズさんの…ずっとカズさんのものよ…！』
　緋紗子はいつしかその身に被さる、薬物疑惑の元野球選手の背を抱き、狂ったように叫んでいた。

「なんて乱れ方だよ。こんなの超本気じゃないか」

「なによ、本気じゃ悪いの、本気じゃなきゃ清河さんに失礼でしょ…！
　わたしに対してこんなにも一生懸命になってくれてるの。
　わたしだって、少しくらい好きになったって、いいじゃない」
　やはり、ここんところの緋紗子はおかしい。

　俺は、緋紗子の清河に対する言動に危ない物を感じた。

「緋紗子、お前が男を好きになるのは自然なことだから、俺にはどうしようも出来ない。
　まして性交を重ねた相手ならな。
　だけどな相手は背中に刺青を彫ったヤクザ紛いの薬物中毒者だ。
　あんなに激しく気をやったのは俗に言うシャブマンだからだ。
　薬物によるおかげなんだぞ。
　南野社長がどんな圧力があったとしても、危険人物だからと今回限りと約束させたんだろ。
　やめておけよ」

「あなたは、あれもダメ、これもダメって言うけど、幾度となく肌を合わせりゃ情も湧くわよ。
　刺青を背負ってるからって悪い人とは限らないし。
　俺の女になれって言われて嬉しくない女っていないわよ。
　あなたと別れるつもりはないし、わたしは覚醒剤なんか絶対使わない。
　約束する。だから少しはわたしの好きにさせてくれてもいいじゃない。
　会うわよまた清河さんに…。いいわねあなた…」

　禁じられると燃えるのか、我が女房ながら難儀な女だと思う。
　また、大騒動が起きる予感がした。
　が、俺の場合、緋紗子の保護者でもあった。高校卒業を待って緋紗子を嫁にと迎えたとき、今は亡き緋紗子の祖母より、天涯孤独の身の上とくれぐれもと頼まれた。
　だから緋紗子とは喧嘩別れする分けにはいかないんだと我が身を慰める。

「ああ、緋紗子の思い詰めたときの無茶ぶりは、高校生のときからだもんな。これでもまだ夫婦だし仕方ないようだな」
　と、あのときも今も折れるしかなかった。

　母親の危篤に長年の米国での学研暮らしを諦め帰国した。
　当座の生活にと村田の紹介に女子校教員。
　最初の年が緋紗子の２年次だった。若気の至りと今から思えば恥じ入るばかりだ。

　校内でのウワサ話はウソじゃなかった。
　二股とそんな器用な男じゃないと思ってた。
　あの夏の日に緋紗子との確執に、俺の愛した芹香は２学期を前にバークレーの父親の元に旅立った。

「あなたぁ…！ありがとう」
　緋紗子の声に現実に引き戻される。

「ねえ、その代わりさぁ、堂々と香里奈を抱いていいわよ。
　あの娘、あなたに興味津々、誘えばすぐ何処までもって、うふっ、何でもしてくれるわよ」
　舐め見る緋紗子の妖艶なまでの女の顔。

　香里奈となぜあんなことに、高桑芹香、高校三年生の芹香の顔が思い浮かんだ。
　恐怖、もう香里奈という娘から逃げられないじゃないかという恐怖。

「ば、バカなこと言うんじゃないさ。女房殿さえ持て余す、俺はもうすぐ４０男なんだぜ」

「それじゃ、今から眠くなるまで、うちのご主人様に頑張ってもらおうかな」

　録画状態が途切れたしばらくの後、モニターはブルー画面を映し続けていた。
　バスタオルの括りを外し、全裸の緋紗子が艶めかしさを顔に出し俺を見ている。

　禁断の実を食べたのか、確かにそうかも知れないと思った。
　村田が言った、お前の女房ってのは他人に抱かれる度にきれいになると。

　分かってるよ、逃げ出しゃしないって…！緋紗子の挑戦に応じてやるさ。
　適わないまでも、俺だって清河に負けるわけにはいかないんだ。
　な〜に女の一人や二人、ドリンク剤が効いてきたのか、そう思うと急に力がみなぎってきた。
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あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
2015年8月22日掲載
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