奥様は接待秘書
浩一 作
５　捜査１課の女　１　

　事件の一報は、池袋駅東口のアルフインホテルから、若い男女の相対死と機捜隊より本庁捜査１課へと通報された。
　所轄池袋署から捜査員と鑑識が臨場にあたり、薬物による心中事件か事故死の疑いと詳報された。

　警視庁捜査１課殺人犯捜査第９係、係長、島田耕作のディスク電話が鳴っていた。島田には先ほどの事件の件だと推測がついた。おもむろに受話器を取る案の定１課長の声だ。

「島田、刑事部長からだ。やって見ろと、川上を出すようにと指示が来た」

「川上を…課長…！、川上はまだ」

「それは分かってる！。が、こんな事件だからこそだ。臨場は川上班だけで良い。上の方では、最前線での女性の活躍をアピールしたいらしい。島田、くれぐれも頼むぞ」
　島田は受話器をガチャリと叩き置いた。現場の意気をそぐようなクソ事件に、殺人犯捜査係の出動だと、なにがこんな事件だから川上を出せだと。
　これこそが女性軽視、セクシャルハラスメントだと、上はなぜ気付かない。

　島田は憤る。ミス警視庁だと、捜査１課始まって以来の美人捜査官だと、馬鹿野郎、俺に爆弾を押しつけやがって、上は現場を何て考えているんだ。

　官邸主導の女性活躍推進法の施行を前にして、刑事部長は最前線の捜査１課に川上を主任捜査官として抜擢し、開かれた警察とでも主張したいのだろう。
　場合によっては、２４時何とかのテレビ取材も有るかも知れないと、島田も１課長を通じて聞かされていた。
　事件性の低さから一度は待機となり、人騒がせな取材は取りやめとなったと聞いたが、ここに来て島田も不本意ながら、殺人犯捜査第９係川上班として理恵の初出動が決まった。

　小さな音で川上理恵の携帯が鳴っていた。たたんだ上着の内ポケットから取り出すと、気がつかなかったが、係長から何度か呼び出しがあったようだ。
「あちゃ…！」だから昼間の外回りは嫌なんだと、悪態をつきたくなる。
　シルバーウィークと呼ぶのか、１９日から始まる秋の５連休を前にして、連日の顔つなぎというか挨拶回り。女だからか、それが余計に理恵を苛ただせた。

　やっと食事にありついて、そばを一口手繰ったばかりなのに、あわてると乾いた唇に海苔が貼りついて、携帯までが片手で上手く開かない。
　止まらない呼び出しのメロディに、隣の席で口に楊枝を咥えた中年サラリーマンの侮蔑に席を立つ。建物はビルと近代的になってはいたが昔ながらの狭いそば屋だ。
　理恵は昼食をあきらめ渋茶を啜り外に出た。天ざるにしなくてよかった。

「はい、川上です」
　食べ残しは惜しくはないが、あの小麦粉の混ぜ具合で８００円は暴利だ。沸々と湧く怒りに、お釣りの２００円を握りしめたまま、理恵は暖簾の影で電話を受けた。

「俺だ、島田だァ…！電話にも出ねえで、今どこにいるんだ。川上ぃ…！当直中にお前はいったいどこの田舎を飯食いに彷徨ってんだ…！。
　場所は東池袋、アルフインホテル。事故か心中ってとこだ。早く行け、気に入らないだろうが、これがお前さんの初仕事だ」
　以心伝心、係長も機嫌が悪い。

「はいはい、大きな声を出さなくても聞こえてますって。係長、最初の質問ですが、現在地は神田神保町の蕎麦屋の前。
　彷徨う田舎は法務局から一ッ橋方面、課長の指示でご近所さんへと新任の御挨拶に伺っておりました。お陰で昼食は食べ損ないです」
　通話中も急いで地下への下り口へと、ローヒールの音を響かせ理恵は早歩く。
　頭ん中で池袋なら巣鴨で山手線に乗り換えるか、市ヶ谷から有楽町線で行くべきか迷った。何年経っても藤沢育ちの田舎者には東京ってややこしい。

「バカ、ふざけんじゃない。課長の指示だと、そんなことぐらい分かっている。他の連中には一報済みだ。川上は至急、現場に行ってくれ」
　ちぃ、動くとまた汗が噴き出てきたか。

「はい、はい、分かりましたァ。もう向かっております」

「ハイは１回でいいぞ川上…！」

　東口はヤマダ電機の前で地上に出て早足に、現場はごく普通のシティホテルだ。
　捜査１課の赤丸バッジにゃ気がつかず、なにか文句を言いたげなエレベーター前の警察官に、手帳を見せると恐縮し教えてくれた。
　９Ｆのツインルーム、フロアごと立入禁止になっていた。

　エレベーターホールを行き過ごし不審顔の警備の制服に、いつもの如く理恵は手帳を突きつける。目前で金筋ひとつの腕章を着け携帯する白手袋を手にした。
　本庁一の美人警部補の存在など知らなかったのだろう、緊張する若い所轄署巡査の肩を借り靴カバーを被せた。

「主任っ、ご苦労様です」
　部下である山中一茂巡査長が、理恵を見つけ廊下を駆けてきた。現場のツインルームは列びの奥か、緑に光る非常出口の案内に扉が気になった。

「一茂、臨場は」
　理恵は１７２センチの長身を屈め、警戒の黄色いテープをくぐり主任としての初仕事に颯爽を心がけ足を速めた。

「まだ鑑識が、それで斉チョウさんらはそのまま地取りに出掛けて」

「もう、また勝手に動くんだから、係長も係長よ、アイツら勝手させんだから」
『まあいいじゃないか。追々な』って、係長は男どもを甘やかす。理恵はそれが歯がゆい。

　警察幹部の、女性登用を薦める官邸へのへつらいか。依願退職者の後任として正式には１０月からだが、理恵は幹部の期待の星と９月から本庁捜査１課勤務に就いていた。
　昇任後半年足らずの警部補に男社会に年上の部下、思うように動かない刑事を掌握できずにいるのはまだ至極当然だった。

「主任、その、まだ分かりませんが、やっぱり一報の通り事故か無理心中のようですよ」
　そして、ただ一人の年下の部下は小賢しくて頼りないと来た。

「一茂、勝手に決めちゃダメ、それが捜査の鉄則…！行くよ」
　とは、言ったものの、現場は狭いツインの部屋に所轄の鑑識がウロウロと、理恵は遺体の前でそっと手を合わした。

　ホトケはダブル幅ベッドに若い男の死体、身長は１７４〜５か、以外といい男だ。
　寄り添う女、被さったシーツを捲る。つぅ…裸ぁ、それも見目麗しい観音様だ。心中事件お決まりの、女体から立ちのぼる青臭いというか精液の臭い。

「フムフムなるほど、死んでもケガないって、女上位にこうなるか」
　若い山中一茂のひとり言か、勉強熱心？ん、なにやってんだお前は…！。

「一茂ぇ…！」
　声を出して怒鳴りつけても懲りない。山中はシーツを捲り上げ死後硬直に脚を広げたままの、哀れな死美人の太もも深くを覗きこんでいた。

「主任っ…！もったいないすよ。死んだら男ともう出来ないっすよ。若くてこんなにいい女なのに毛がなくて、無修正物のＡＶにでも出てたのかも」

「一茂、ホトケさんにバカ言ってんじゃない」
　と、言ったものの２０代半ばの見るからにいい女だ。その手の類いなら絶対売れてる。

「主任…！アキバからの押収品を個人的に精査しても構わないっすか」

「押収品って…？」

「だから最近の無修正って、主任に負けないいい女がいっぱいいるっすよ」

「バカ…！ふつう私の前でそれを言うか？」
　確かに美的ライバルが一人減った。婚期を逃しつつある理恵から見てもホトケの女はそう思えた。死美人か。

「死美人ねぇ…主任っ…！死後１２時間くらいっすかね。行為中を思わす死後硬直に身を辱めか…」
　理恵は死美人を太った鑑識の背越しに現認する。性行為の痕跡を晒したままの恥毛のない陰部が丸見えだ。未婚だろうに親が見たら泣くぞ。
　身長１６０〜６５くらい、体重も４５〜４８キロ、長い黒髪に均整のとれた肉体、ミスなんとかでも不思議ではない。足っ、うんなんだ。理恵は見逃さなかった。

「鑑識さん、ホトケさんの足の甲から踝の、それ注射根…？」
　理恵は所轄の鑑識に指さし聞いた。顔見知りのタヌキ顔が振り向いた。

「ブクロのタヌキぃ」
　セクハラ男と絵に書いた、田淵という名の巡査部長で池袋署の古株だ。

「ああ、あんたか、本庁の主任さんになったんだってな。まだ成長期か知らねえがしばらく見ねえ間に、また背が伸びたんじゃねえのか…？おい」

「余計なお世話…！それよりさぁ…やっぱし女はシャブ中…？」
　理恵は自分より１０センチは背の低いタヌキ面の鑑識を急かした。

「ああ、間違いねえ腕は目立つからな。女は常習者だよ」

「男は…？」

「なんだ、お嬢は若い男にゃ興味津々か、残念だが男はねえようだ。よけりゃホトケを搬出するぜ」
　なにがお嬢だ、このタヌキ。

　機捜の聞き込みも収穫なし、カギは照明スイッチを兼ねたソケットの中、外部からの痕跡もなくカギはオートロック。
　内側から開けてもらわない限り侵入は不可能、出ようと思えば出られるが入ることは出来ないか。マスターキーの所在と合い鍵の存在をチェックと手帳にメモ書く。
　後でフロントで確認と。

　クローゼットを開く、会社勤めを思わせるシャキっとしたスーツがハンガーに掛けられてある。離して夏物ミニのレディスーツ、女も会社員？。
　ツルツルに剃り上げた陰部との違和感満載。会社勤めの高級コールガールか、身分を証明する物がひとつも無いなんて。社に迷惑が掛かるのを気にしたか？。
　それにしても、心中をするような男女が衣類をこんな左右に離して掛けるのか、恋愛経験の薄い理恵には分からなかった。

「どうしたい。さすが気になったか、サラリーマンにしちゃ、吊るしじゃねえ分不相応の高級のスーツだ。大企業の社員さんだとしても怪しかねえか？」

「なるほど、鑑識さんは疑ってるのね」

「いや心中は間違いねえ。そのドリンクだよ。薬物による中毒死だわ。もう、いいだろうが主任さんよ」

　鑑識によると死因は多量のアルコールと薬物の摂取による呼吸器不全、ショック死だった。理恵は白手袋の指先でラベルを向けた。

「なに…！スッポンパワーの赤マムシドリンク…？こんな、ふざけたネーミングのドリンク、確認もせずよく飲むものよね」
　鏡の前の小さなテーブルに、毒物が混入された空瓶が２本。軽く触れ臭いを嗅ぐ。

「オ〜イ、本庁の主任さんか知らねえが、そっちはまだ終わってねえんだからな。勝手すんなよ」
　今度は眼鏡を掛けた背が高いのか、いちいち腹を立てては切りがない。女だと思って、口の悪い所轄の鑑識だ。後でとっちめてやろう。

「主任…！洗面所にあった使用後の注射器から指紋が出ました…！」
　山中がまた弾んだ声を掛けてきた。母親が長島一茂のファンだったと聞いたが、顔に合わせた名前にすりゃ良かったのに。

　現場に薬物反応が出たドリンク剤の空瓶があり、残存物より致死量が確認された。
　洗面所の屑入れから使用済みの注射器が見つかり女の指紋。女の足に注射根も散見され常習が間違いないと思われた。

　注射器がなぜ洗面所なんだろう。常習者ということは同じドリンク剤を飲んでも、女は薬物に耐性が有り、同じに死ねなかったが、後追い抱き合って死んでいたか？。
　注射器を捨てに洗面所へか、それから死体に抱きつく、そんなバカなこと。

「ねえタ、田淵さん、ドリンクが先か注射が先か分かんないの」
　思わずタヌキと言いかけてしまった。

「ドリンクが先だろうよ。合成麻薬だ、効きの弱いＭＤＭＡに飽き足りず、女はシャブを注射、後からドカンと効いてきたＰＭＡで全身麻痺でお陀仏だ」

「ゴメン、ＰＭＡってなんだっけ」

「さては講習出てねえな。パラメトキシアンフェタミンと言ってＭＤＭＡと同じような物だ。ただ効きが遅効性で混ぜると持続時間が長くなる」

「じゃ女はシャブとの相乗効果、他殺の線もあるってこと」

「ねえよ…！常習者の女が男に致死量を分かって飲ませての薬物セックスだ。今生の別れとさんざんやり尽くしてからだ。男を殺すつもりじゃなかったら飲ませねえだろが…」

　理恵はなにげなく捨てられてた注射器の存在が気になった。が、常習者なら量を間違うはずもないか？。と、思い直し現場を後にした。

　捜査会議に、毛髪の鑑定により男は薬物の前歴なし、女は長期に渡る使用と断定。また女の体内より男性の体液が確認され、ＤＮＡ鑑定により相対死の男の物と判明した。
　他殺を思わす物証はなし、エレベーターホールの防犯カメラにも不審な動きは映っていない。どうせあの距離では判別不能か、やっぱり女の無理心中よね。理恵もそう確信した。

　ところが部下の斉藤デカ長から、部屋の予約がインターネットのサイトから２部屋続きで１０日前に、西池袋１丁目のネットカフェからの為されていたと報告があった。
　ホシが部屋に潜んでいた可能性、うちのデカ長もやるじゃないと、川上は勇んで報告をした。

「そりゃあんた、川上本庁主任さんか。うちの署の部下の報告にもあったでしょが、２部屋のうち１部屋は使われてなかったんだから、ひと部屋に男女が２人。それで計算が合うでしょうが、女の無理心中！それしかないだろうがね」
　所轄、池袋署の刑事課長は無理心中だと決めつけていた。異を唱えた者も少数いたらしいが、女が若く美人過ぎるという理由では信憑性もなかった。

　理恵たちの捜査はすぐに暗礁に乗り上げた。
　身元不明のため、限られた聞き込みによっても、やはり事件性は低く、身元を確認できる物証もなく、身元不明者の相対死としてそのまま処理されるばかりだった。

　ところが勤め先の届出により事態は急変し、池袋署には戒名のない形ばかりの捜査本部が設けられた。

「え〜現在、判明した事実のみ簡単にご報告いたします。
　死者の姓名は、男性は長谷川宏樹、２３歳。女性の方は中谷由香利、２８歳。死因は両名とも多量の薬物摂取による呼吸困難等、ショック死。
　両名とも大手派遣会社(株)リソノ社員であり、施設管理会社(株)ハイソナへ出向中であった為、届出が遅れたとのこと。以上…事件性を含め鋭意捜査中であります」
　所轄、池袋署刑事課長の記者会見も簡素なものだった。

「２億円の恐喝…！」

「川上、大きな声を出すな…！」
　殺人犯捜査９係、直上司である島田係長から内密に話が合ったとき、理恵はつい声を出してしまった。

「係長、届出が遅れたなんて、一体どういうことでしょうか…？自社の社員が亡くなっているというのに…」

「川上、(株)リソノが内密に２億円の支払いに応じた。どういうことか分かるな」

「企業脅迫ぅ…！だまって支払ったんですか…？」

「ああっ、そいつを運んだのが、アルフインホテルのマル害、長谷川って男だ」

「じゃ、殺人…！なんでまた警察にも連絡せず、そんな簡単に…？」

「あわてんじゃない川上…！良く聞け。上は殺しと決めちゃいない。あくまでもその可能性だ」

「またどうして…？！」

「(株)リソノに、やばいこと専業の実態のない子会社(株)ハイソナってのがあってだな。
　現職閣僚、大物大臣の…あそのなんだ。つまりだな、そのリソノグループの迎賓館で性接待の録画映像があって、それをネタに強請られたらしい」

「性接待の録画映像…！それって、リソノがその何とか言う子会社を使って、現職大臣にハニートラップを仕掛けたってことですか…！」

「大臣がおふざけで応接のソファーでやらかしたのが、防犯ビデオに映ってたヤツだと弁明はしているがな…」

「そんな弁明、通るんですか…？」

「極秘捜査、察庁からのお達しだ。つまり内緒だが、警察庁にも同様な接待を受けている幹部が多数いる。らしいということだ」
　何という呆れた男たちだ。

「録画映像はまだ、犯人グループが持っているんだ。マスコミに漏れでもしたら世紀のスキャンダルになる」
　なにが世紀のスキャンダルだ。男社会のバカさ加減が分かるというものだ。

「で、係長は見たんですか…？その大臣が映ってるヤツって…」

「ああ、顔どころか行為その物がバッチリ映ってる。その騎乗位ってのか？、ボテっと腹の出た大臣が、こう女を上に乗っけてだな…」

「もう係長、なにうれしそうにバカ言ってんですか、もう…！」

「お前こそ、俺になにさせんだ。脅迫の電話を掛けてきたのは、元プロ野球選手の清河だと言うんだ」

「清河って…？あの薬物疑惑の…」

「そうだ、録音装置の付いてない経理部の電話に掛かってきた。
　録音は出来なかったが、電話を受けた巨人ファンの社員がそう言ってるし、清河の名で録画の一部をコピーしたＳＤカードを送ってきやがった。後で川上も確認してみろ」

「ええ…っ、確認って、その大臣のヤツをですかぁ…」

「イヤそうだな、川上…！」

「イヤですよ…！だって、セクハラですよ。そんなの…」

「仕事だぞ、川上…！大臣と映ってる女は光田緋紗子２７歳、清河の情婦だそうだ。
　この女は(株)ハイソナ代表村田清麿３８歳の元交際相手で、義兄である(株)リソノ社長南野正道５２歳の元秘書で愛人関係があり、マル害両名との面識もあるということだ。
　また夫である光田浩一３８歳と６月初旬まで品川区西大井、(株)リソノ借り上げのマンションに住んでいた。以上…っ」

「係長、手帳を読みながらって、なんか、ややこしい重要人物のようですね」

「そうだな、緋紗子って女は退職後リソノのと請負契約の接待秘書で、確かに何らかの事情を知ってると思われる。実行犯を含めて犯人側は、複数に間違いない。
　川上班は現在行方を眩ましている清河を追ってくれ」

「ええっ…！うちがとっ掛かったヤマなのにぃ…」

「なに言ってんだ。事件性がないって言ったのは、お前さんだろうが…」
　それを言われると、言い返すことが出来ない。

「まあ、そういうことだが企業脅迫事件の概要を話しておく。
　金の引き渡しは事件の当日、今月１７日の午後３時だ。マル害でもある長谷川が、赤いリュックに詰めた２億円を犯人側の指示で運んだ。
　当然リソノとしても尾行するなり動いた。あれだけの会社だ、警察ＯＢもそれなりいる。元公安の男が、渋谷駅の長い階段で撒かれたのを最後に、長谷川はホテルに直行だ」

「じゃ、長谷川って男も犯人の一味ってことですか？」

「さあ、それはまだよく分からんと言うのが確かだな」

「おかしいですよそんなの、２億円の現金って２０キロもあんですよ。それを背負って走るなんて、それで元公安の警察官を撒くって、あの長谷川って子がですよ」

「まあ、言われてみればそうだな。見たとおりの頼りなさそうな若いヤツだ。
　カン取りの報告によるとリソノ社員の中でも縁故採用の超問題児だったらしく、今年の新卒なのにハイソナへ出向し、送迎の運転手をしてたぐらいだからな。
　中谷由香利に絶対服従ってとこもあると聞いた」

「だとすると由香利って女が、肉体をエサに利用したってことですね」

　理恵の脳裏に浮かんだのは、クローゼットに掛けられてあった、皺ひとつないスーツだ。２０キロのリュックを背負い、走り回った挙げ句、ホテルで女と無理心中だなんて変。
　狂言と言葉が浮かんだが、捜査から外れた者が思いつきを口にすることは出来ない。

「ホテルのマル害は企業脅迫事件の帳場が立った丸の内署と合同だ。これには秘密裏に白川班があたる。以上いいな…！」

　不満だったが、理恵は事件の主力から外され、何処に潜伏したか分からない薬物疑惑の、有名な元野球選手を追うことになってしまった。

「係長、４ヶ月も前から行方不明の脅迫犯を捜せって、いくらマル被が有名な元野球選手だからって、分かるわけ無いじゃないですか…？。
　ホントそれ、殺人犯捜査係の仕事なんですか」
　理恵は不満たらたら島田の顔を見た。

「川上、だれも潜伏している清河を捜せと言っているんじゃない。光田緋紗子って情婦を追えば分かるだろってことだ。これが手配写真だ」
　理恵は写真を手に取る。何枚か続けて見る。

「さすがリソノって感じでいい女ですよね。係長、これって全部ぼかしが入ってんですが上半身裸、えっ…！これなんか全身、裸じゃないですか！」

「そうだ、例の録画映像から起こした物だ。元が４Ｋだから意外と鮮明だろ」
　理恵のカンにピンと来る物があった。似たような肉体ムッチリの写真を見た記憶がある。

「係長、この女の写真、どこかで見た気がするんですが」

「そうだろ、俺も思った。保安課の若いのに見せたら深田○子に似てるってよ。若いのがあんまり欲しがるから、その写真の礼に水着の写真集まで見せてもらった」

「いいんですか？勝手に写真を流用して…」

「いいんじゃないか、同じ警察仲間だ。身長１６６センチ体重４９キロ、４９キロと公称するくらいだ。ムッチリボディの実際は５２〜３キロはあるんだろがな」

「係長、それ絶対セクハラ…！」

「ワリイな、時々お前さんの物言いに女だってこと忘れるよ。
　リソノ社員の証言によると、女として身長は高い目で尚且つ１０センチ以上のヒールを好んで履き、とにかく美形で目立った存在胸がでかい」

「はあ、でかいってなにがですか…？」

「だから、バスト９０センチ以上あるということだ。分かったか…！先月まで六本木のキャバクラにいた。池袋西口で見かけたという情報もある。とにかく捜せ、それが命令だ」

「はい、はい、はい、分かりましたァ」

「ハイは１回でいいぞ川上…！」
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あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
2015年9月16日掲載
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