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「やっ、やめろぉ！」
俊介は怒鳴った。
目の前で奴がベッドに横たわる季子の衣服を一枚一枚と剥ぎ取っている。
季子は既にあきらめたのか、それとも悪い薬でも飲ませれ抵抗を奪われているのか、微動だにしない。
喉が張り裂けそうなくらいに何度も何度も怒鳴った。
しかし、目の前にいる奴はその声に反応することなく季子の大切なところを隠す最後の布をおろした。
奴が、季子の生身の肌をねっとりと撫で回す。唇、乳首と体中に蛭のように赤い舌を這わす。
その行為を止めようとするが、体が全く動かない。つぶれた声で懸命に罵声を浴びせるがどうにもならない。
こんなのは嫌だ！ 目の前で最愛の女である季子が最も嫌いな男に弄ばれている。頭には血が上り、胸が張り裂けそうなほど苦しい。
せめてもの抵抗と目を閉じようとするが、瞼さえ自分の意思に逆らう。
奴の顔が季子の股の間に埋められた。ジュルジュルと淫猥な音が耳にはいる。
耳をふさぎたいが手も動かない。一体どうなったんだ！
奴は俊介を挑発するかのようにニヤリと笑い、暴力的にそそり立つものを季子の中に押し込んだ。
(やっ！ やめろぉっ！ やめてくれぇ！)
「ううっ、ううん……」
俊介は瞼を開いた。天井の鏡に自分と女性の姿が映し出されている。状況がよく飲み込めない。
半身を起こし、辺りを見回した。ここがラブホテルの一室であることは直ぐに理解できた。また、他には誰もいない。
傍らに横たわる女性を見つめた。季子だ。羽毛布団で体を覆い、すやすやと静かな寝息をたてている。
季子が奴に陵辱された様子など微塵のかけらもない。どうやら、夢だったらしい。
（よかった）
傍に眠る季子の姿を見てほっとすると共に彼女に対する思いの強さを確認した
だが、なぜラブホテルにいるのだろう。俊介に疑念が生じた。
酔った勢いで季子と寝てしまったのか？
寝起きでしかもまだアルコールが抜けない頭では考えることすらままならない。
服は脱いでいるが、下着は身につけている。ということはなにもなかったと考えていいだろう。なぜなら、俊介はセックスを終えた後、下着を身につける習慣はないし、そのことを無粋であると考えていた。冬の寒い時でも全裸のまま眠りにつく。女の肌の温もりを感じながら性行為の余韻に浸るのが好きなのだ。
僅か前の記憶を辿りたいが、陰茎が、はちきれんばかりに硬く膨らんでいる。夢の仕業というよりも尿が溜まっている勃起である。
俊介は夢の中にいるであろう季子に気遣い、そっとベッドから降り、トイレへ向かった。
たまったものを排出し、部屋に戻った。喉の渇きを潤すため冷蔵庫を開いた。缶ビールに栄養剤などがところ狭しと並んでいる。もうアルコールはいらない。コーラを手にとり、皮製のソファに腰を落とした。
ブルタブを開き、ゴクゴクと一気に飲み込む。炭酸の刺激が乾いた喉に心地よい。
空になった缶をテーブルに置き、季子に視線を移すと、相変わらず、彼女は寝ているようだ。
改めてさっき見た夢が現実でなかったことに安堵した。
大分、思考がはっきりとしてきた。今なら考えられる。なぜ、彼女とここにいるのか、頭の中を整理しなければならない。
俊介は立ち上がり、スラックスと共に丁寧にハンガーに吊るされた上着のポケットからタバコをとりだした。ＺＩＰＰＯの蓋を開きタバコに炎をともして大きく煙を吸い込みながら僅か前の記憶を遡る。
断片的にしか思い出せないが、季子に誘われて次の店に行ったことは覚えている。賑やかなナイトスポットの外れにあるカウンターだけの静かなワンショットバー。
店内にはいると黒々とした立派な鼻髭をたくわえた四十代位のマスターが声をかけてきた。
「いらっしやいませ……おや、珍しいねぇ。季子ちゃんが男性とくるなんて」
「えへっ」
季子は照れ笑った。
「彼氏？」
「うん。そうだよ」
彼氏と聞かれ、明るく肯定した季子の言葉が、例え、冗談だとしても嬉しかった。 季子にすすまれるがまましばらく口にしていなかたカクテルを飲んだ。大分酔っていたのは自覚していたが、季子と二人だけの時間を共有していることが嬉しく、杯が進んだ。
そして、酔った勢いで秘めた思いを告白すると季子が困ったように俯いた。その答えは……よく思い出せない。
この辺りから記憶が飛んでいる。
気づいたらベッドの中に季子といたのだ。
透明なガラスのテーブルに置かれたオメガの腕時計をみると、深夜の３時をまわっている。
季子は軽い羽毛布団をかけたまま静かに寝入っている。
さて、どうしようか？
ここはラブホテル。男と女が肉体を交わらせる場。
ここにいるということは、抱かれることを望んでいると考えていいのだろうか、それとも、何もしないと思い安心しているからなのだろうか。
こんな状況であれば、大抵の男性は、迷うことなく前者であると考え、行動に移すだろう。
だが、手を伸ばせば届くところに季子がいるのに、なかなか一歩を踏み出すことができない。
季子に恋をしているし、彼女を抱きたいとの思いは強い。しかし、家庭がある身だ。
思考がはっきりとしてきた俊介は慎重に考えた。
妻との男と女の関係がなくなり約二年が経つ。妻は子供が生まれてから母性本能が性的欲求を勝ったのか、全く性の営みに関心を示さなくなった。
性欲の強い俊介はもちろん不満だった。そんな妻を出産前の淫らな女に戻ってもらいたいと、あらゆる、テクニックを駆使し感じさせようと努力した。だが、妻はそんな俊介の行為に応えることがなかった。
そんな状態が続き、月日が流れ、とうとう妻を求めることを諦めた。もう、二度と、肌を合わせることはないだろう。二人の間には”愛”という一文字は消え、ただ子供を育てていく共同作業をしているに過ぎない。
しかし、俊介の男はまだ終わっていない。女の体を抱きたいという欲望は全く衰えをみせない。また、妻との肉体関係が終わったからといって、自分の性欲を押さえ込みそのままセックスなしで人生を終えることは望んでいない。
以前、妻に『そんなにセックスする気がないのなら、他の女を抱くことになるけど。それでもいいのか』と言った。妻は本気か冗談かわからぬが『許せないけど、するんだったら私の知らないところでやれば』と言った。
その言葉を本気と受け止めれば季子と肉体を交わらせることに問題はないだろう。妻にばれなければいい。
しかし、もし妻に知られたらきっと、離婚にいたるだろう。それでもいいが、子供たちとの関係がどうなるかだけが心配だ。
たが、もっと重大な問題を抱えている。
三十七年の人生の中で色々な恋をし、数人の女性と交際してきた。その中でもまだ忘れられない女性がいる。十八歳の多感な頃だった。熱く燃えあがっていた。全てが彼女中心だった。しかし、無情にも別れが訪れた。その時は、辛かった。何もする気が起きず毎晩、酒におぼれ、一人泣いた。
時が経ち、胸の痛みも癒され、新たな恋を重ねてきたが、あの時のような胸の高まりを感じることはなかった。たぶん、あの苦く切ない思いを二度としたくないということが潜在意識に深く刻み込まれたのであろう。必ず、冷めた目で見ているもう一人の俊介が宿っていた。もちろん、結婚する以前の妻に対してもそうだった。
そんな冷めた感情を持ち続けながら恋愛をおくってきた俊介の前に季子が現れた。
初めて、彼女に対面した時、急激に心拍数があがり全身がカーッと熱くなった。こんなことはあの時の彼女以来なかったことだ。まさに一目惚れである。
たが、独身ではないので、なんとか、自分の感情を抑制してきたのだったが……。
昨日のあの出来事によって、一層、季子への思いが強くなった。
一度、抱いてしまったら、もう感情を抑えることはできないだろう。底のない深みへ落ちてしまう自分が怖い。別れが訪れた時の苦しみが怖い。
臆病な自分にやり場のない怒りを感じつつ、二本目のタバコに火をつけた。
「うっ、ううぅん」
季子が悩ましくウメキ寝返りを打ち掛け布団が捲くれあがった。
俊介は季子の姿にドキリとした。愚かなことに今まで気づかなかったが、下着姿で季子も隣で寝ていたのだ。
滑らかな女の背中に目を奪われながら、その下のまだ布団に隠されたところを思う。
たぶん、腰から下も下着だけだろう。
理性が瞬時に失われ欲望という本能の渦に全身が支配されていく。
隠された下半身を見たい。季子の肌に触れてみたい。そして、季子を抱きたい。
そこに横たわっているのは愛しい女なのだ。
欲しいものを羨ましそうに指を咥えて眺めていることはない。
行動しなければ、何も得ることは出来ない。
（結果は神のみぞ知るだ。もう、どうなったていい）
俊介は心の中で自分に言い聞かせ、ようやく決心し、タバコを揉み消し立ち上がった。
頭の中は悶々とし、心臓が破裂するのではないのかと思うくらい漠々と脈打つ。
（落ち着け、落ち着くんだ）
大きく息を吸い込み、季子の様子を伺いながらそっと掛け布団をずらしていく。
瞬く間に溜まった唾液をゴクリと鳴みこんで、少しづつ捲くっていくと、眩いばかりの光沢で輝く純白のパンティがあらわれた。
（おおっ！)
目の前に突き出された滑らかな丸みに思わず声をあげそうになる。
俊介は淫欲な視線で滑らかな女の後姿を見つめた。さらりとした明るい茶色の髪、か細い肩、浮き出た背骨、綺麗なカーブを描いた腰の括れ、そして、季子に気づかれないように制服越しに何度も視姦してきた柔らかそうなお尻に太腿。ずっと触れ、揉んでみたかったもの。それが、すぐ目の前にある。
全身に血流が巡り、頭がカーッと煮えたぎる。
初めてベッドを共にする女。性のセオリー通りにいけば、最初に唇を重ねることから始めなければいけない。だが、右手が尻の丸みに引き寄せられるように伸びていく。
指先が尻に触れた。パンティの滑らかな感触と季子の体温が指先に伝わる。一思いに美尻を握り、揉みたいとの逸る気持ちを懸命に抑え、手の平をやんわりと丸みに乗せた。体温が手のひら全体に伝わる。そっと指先に力をいれていく。
「うっ、ううん」
季子の声に、滑稽なほどビクッとして瞬時に手を引っ込めた。
「季子ちゃん、季子ちゃん」
俊介は仰向けになった季子の顔を見つめながら小さな声で様子を伺った。
季子は反応を示さない。
俊介の行為に気づいていないようだ。
息を呑んで、再び、季子の下半身に視線を移すと更に刺激的な情景が眼に飛び込んできた。
薄布がぴったりと女の性器に張り付きワレメの線がくっきりと見える。
もう、限界だった。頭がどうにかなってしまいそうだ。
男の象徴はピクピクと脈打ち紺の綿のパンツを突き破らんばかりに勃起している。鈴口から滲みでた透明な汁が布の突き出た頂点を濡らしている。
「季子……愛している」と囁くと彼女が瞼を開いた。
つづく
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