「……おきて……俊介……」
　夢の中で誰かが囁いた。いつもの朝、聞こえる声とは違う優しい女の声がする。
「ねえ、起きてよ〜」
「うっ……ううん」
　俊介は女の甘い声と陰茎の心地良い感触に重い瞼を開いた。
「おはよっ。やっと、起きたぁ」
　手を伸ばせば届くところに甘い声の主の微笑みがあった。
「あっ、おはよう」
　寝起きの思考の鈍い中でも、ここがどこであり、彼女が誰であるか、はっきりとわかった。季子……。
　僅か、数時間前の季子との記憶が頭の中を駆け巡る。目の前にいるのは季子に間違いない。夢ではなかったことにホッとした。
　こんなに気持ちが充足感で満ち溢れた朝を迎えたのは何年ぶりだろう。嬉しかった。
　ただ、欲をいえばもう少し寝ていたく再び、目を閉じた。
「あっ、寝たら、だめだよぉ」
　季子はいい、陰茎を力強く握り締めた。
「うっ」
　強烈な締め付けに眉を顰めた。
「起きないと、こうしてやるから」
　陰茎を包み込む季子の手が上下に動いた。
　甘美な刺激に、否が応でも思考もはっきりとしてきた。滑らかに上下する手の動きに亀頭の先端から透明な汁が滲んでくる。
　眠りたいという欲求より、精を満たしたいとの欲求が勝ってきた。すぐ傍には季子の丸いおしりがある。
　俊介は手を季子のおしりにあて、指先で撫でた。
「だぁ〜めっ。もう、帰らなくちゃだめでしょ？」
　季子は腰を捩り俊介の手から逃れた。
　俊介はその言葉にハッとしてヘッドボードに埋め込まれたデジタル時計を見た。
　ＡＭ５：００。
(やっ！　やばい！)
　俊介は慌てて飛び起きた。
　結婚していらい、出張を除き深夜に帰宅することはあっても、外泊したことはない。
　急速に冷静な思考が駆け巡る。と同時に陰茎の力も失われいく。
　今日は土曜日で会社は休みだ。休みの日、妻や子供たちが目覚めてくるのは確か七時だ。テレビアニメの放映とほぼ同時に起きてくる。一年ほど前から、妻たちと寝室は別であるから、その前に部屋にはいることができれば誰にも気づかれるこはない。
　ここからなら、タクシーに乗れば自宅まで３０分弱で着くだろう。今から着替えれば充分に間に合う。
「うふっ、すごい慌てよう……やっぱり、奥さんに知られるのが怖いんだ」
　季子はクスリと笑い、意地悪な質問をしてきた。
「……」
　季子にずばりと指摘され、俊介は応えに困った。確かに、今、妻に知られるのは怖かった。だが、妻に対して愛情がなくなっているのは事実であり、できるのならば、このままずっと季子と共にすごしたいとの気持ちも強い。
「……うっ！」
　即座に否定できずに口ごもる俊介の萎えた陰茎に季子の舌が絡んだ。
「うっ、ううっ」
　数時間前のセックスで汗を飛ばしたことと僅かな睡眠でアルコールは抜けていた。よって、陰茎は数１０倍敏感になっている。
　季子の唇に亀頭が包み込まれた。雁の周りを擽くる舌の動きと扱く右手によって陰茎がどんどん膨らんでくる。
　その刺激に身体を振るわせつつ、ちらりと時計を見、再び時間を確認した。タイムリミットまで一時間半はある。もう、一度できるかもしれない。
　俊介の中に再び欲望の芽が芽生えてきた。
「早く、帰りたい？　それとも、もう一度……」　
　季子は陰茎から唇をはずし俊介に顔を向け妖しい笑みを浮かべた。そして、愛おしそうに陰茎に頬ずりし、亀頭の裏側に舌を這わした。
「こんな、状態じゃ、帰れるわけないじゃないか」
　
　亀頭を擽る快楽には勝てない。中途半端な状態で帰れるほど俊介はできてはいない。
　舌の動きに身を震わせながら、季子のおしりに手を潜らせ女唇に触れた。指先に生暖かい女の汁が絡みつく。いつから濡れてたのか、じとじとと汁が指に滴り落ちてくる。
「季子だってもう一度したいんだろ」
　中指を折り曲げると膣中に飲み込まれるように入りこんだ。
「あんっ、そんなことない……わたしは、ここで止めてもいいんだよ」
「ほんとかい？」
　入れた中指で膣の壁をなぞった。
「あっ、やっ」
「おま○このように正直になってごらん。ほら、季子のおま○こ、こんなに俺を欲しいっていってるよ」
　俊介は膣中をかき回しながら言った。
「あんっ……いじわる……だって、起きたら、俊介のこんなになっているんだもん」
　季子は頬を紅潮させ眉をハの字に曲げた。
「俺のチンポが勃起してから……とうなったんだい？」
「そんなこと、聞かないで」
　季子は応えずに唇で陰茎を包み込んだ。
　情熱的に陰茎をしゃぶる行為で季子が快楽を求めていることは明らかだ。言葉遊びはここまでにしておこう。これ以上追求するとほんとに白けてしまうかもしれない。引き際も肝心である。
　俊介はそう思い、膣の中へ人差し指を加え、２本の指をぐるぐると動かした。
「うふっ、ううっ」
　季子はくぐもった声を鼻から漏らしながらも、舌の動きを止めない。男の感じる部分を的確に刺激してくる快感に腰が震え、このまま口の中で果てたいとの欲望にかられてくる。
　季子の長い髪をまくった。頬を窄めながら陰茎をしゃぶる季子を見ると、欲情のうねりが高まってくる。神経が亀頭に集中する。もやもやとしたものが頭の中にたちこもり、射精が近づきつつあることを感じた。
「うっ、くっ」
　射精の第一波が突然訪れた。ビクッと陰茎が脈打ち、精子が根元から這い上がる。それを察したのか、季子が咄嗟に顔をあげ、力強く陰茎の根元を握り締めた。
「だめっ」
　季子の言葉にその波を抑え込むために尻穴に力を込めて必死に踏ん張った。だが、第一波の射精を止めるには少し遅かった。季子の手の中で陰茎は震え、鈴口から少量の精液が迸っり、握られた指と陰茎の隙間にどろりとした精液が流れ込んだ。
「もぉ、自分ばかり、いっちゃって、ずるい」
　季子はふてくされたように言った。
「ごめん、あまりにも気持ちよかったから……つい。でも、まだ大丈夫だ。全て出しきっていないから、ほらっ」
　第二波は抑え込んだので、まだ、精力は充分に残っていた。まだ充分にいけるということを誇示するように、ピクピクと陰茎を震わせた。
「あぁ、すごい……ねえ、い……れ……て」
　季子に言われるまでもなく、俊介も膣に挿入したかった。ヘッドボードに置かれた最後のコンドームをスルリと陰茎に被せ、季子の股を左右に大きく開き腰を落とした。
「うっ、ううっ」
　……敏感になった陰茎は、あっけなかった。強烈な膣肉の締め付けに我慢できず僅か三分位挿入を繰り返しただけで薄いゴムの中に射精した。
「ごめん……いっちゃった」
　俊介は情けなくボソッと言った。
　季子は何も言わず瞳を閉じたまま、膣肉に力を込めた。ギュッギュッと２、３回繰り返し、瞳を開いた。そして、聖母のように微笑んで俊介の背中に手を回した。
「好き……だあーい好き」
　季子は頭をあげ、俊介の唇に軽く唇を重ねてきた。
　そして、柔らかくなりははじめた陰茎を季子の体内から抜くと、季子は起き上がり
「シャワー浴びてくる
」といい、男と女の生臭い体液を洗い流すためにバスルームに向かった。

　俊介は季子の後につづき、一緒に入ろうかと思った。しかし、時計を見ると５時４０分を過ぎていた。もし、一緒にバスルームへ入ったらまた情欲が高まり季子の肉体を求めてしましそうだ。それだけ、彼女の肉体は素晴らしい。しかも、今、精液を放ったばかりだから、次はもっと長く持つはずだ。
　もっと、もっと季子と共に過ごし彼女の隅々まで知りたいが、冷静に考えるとそんな時間はない。また、次がある。その時まで楽しみはとっておこう。
　
　俊介は自分自身を納得させ、ベッドから下りた。床には二人の下着が散乱している。季子の白いパンティが丸まっている。さっと、パンティに触れてみた。まだ、湿っていた。そっと、指を離し、下着をつけることなく、ソファに座った。そして、タバコを摘み唇で挟んだ。ＺＩＰＰＯライターを開き石を擦った。ボッという音をたて、炎があがる。タバコに火をともし、蓋を閉じた。

　そして、煙を漂わせながら今日のことを思った。
　季子と結ばれた、ほんとうに夢のようだ。あの時、勇気をだして奴に刃向かってよかった。そうしなければ、今ごろ自宅で一人不安と後悔にさいなまれ眠れぬ夜を過ごしていたことだろう。

　酔っていてよくは覚えていないが、季子に正直な気持ちを告白してよかったと思う。今日のことは人生を変える大きな出来事だ。季子に熱烈に恋をしていることがはっきりとした。
　また、たぶん、今日、肉体を重ねた時から季子と恋人同士となったと考えもいいのだろう。彼女も好きといってくれたからそうとっても可笑しくはない。
　
そして、傍から見たら浅はかな考えだと思われるかもしれないが、このまま季子と愛を育んでいけるのならば離婚してもよいとさえ思う。もう後に戻ることはではない。この先のこと、じっくりと考えていかなければならない。

　そんなことを考えているうちに季子がバスタオルを身体に巻きながらバスルームからでてきた。
「あぁ、すっきりした。目が覚めるから俊介も浴びてきたら」
「俺はいいよ。熱いコーヒーで目を覚ますさ」
　たっぷりと汗をかいたし、陰茎にも結合後のむず痒さがあったので、シャワーを浴びたくもあったが、やはり、まだ、浮気の痕跡は隠さねばならない。
「だよね。石鹸の香りをつけて帰ったらまずいよね」
　本当に心を読まれているようだ。
「……コーヒー頼むけど、同じでいい？」
　俊介はそのことには応えず、内線電話の受話器をあげ注文を尋ねた。
「ううん、ちょっと、メニュー見せて」
　季子は髪の毛の水分をバスタオルでふき取りながら言った。俊介はメニューを季子に手渡した。
「ホットミルク」
　季子はメニューを見て直ぐにこたえた。
　早速、俊介はフロントに電話した。

　食事を頼んだわけではないので頼んだものが来るのにそんなに時間はかからないだろう。季子は髪の毛を乾かすために鏡に向かってドライヤーを当てている。手持ちぶたさの俊介は床に散乱した自らの衣類を拾い身につけ始めた。
「あっ、ずるーい。自分ばっかり」
　季子は髪の毛をブラッシングしながら不満の声をあげた。
　俊介が言葉を開きかけた時、扉がノックされた。どうやら、目覚めのドリンクがきたらしい。

　ロックを解除しドアを開くとトレイの上にラップでしっかりと蓋がされたコーヒーとホットミルクが置かれていた。廊下には人の気配すらしない。男と女がセックスすることを目的にやってくる場だ。従業員は顔をあわせないように細心の注意を払っているのだろう。
　トレイごと持ちドアを閉め振り返ると季子がしゃがみこんで丸まったパンティを手にしていた。そして、　
「うわあ、ビチョビチョ」
　と困ったようにいいながら、濡れた布を摘み上げた。
　その原因は俊介にある。早く、パンティを脱がせばこうならずに済んだ。
「ごめん」
　俊介は言いながら併設されているアダルトグッズの販売機に目をとめた。バイブレーター、ローター、ゴスプレ、避妊具、セクシーランジェリーなどが売っている。
「謝らなくたっていいのに……ノーパンで帰るから、大丈夫！　でも、今度は替えのオパンチュいるね」
　季子は俊介の視線の先にあるものに気づき、きっぱりと言って微笑した。
　その微笑に安堵し俊介も笑顔で応えた。また、今度という言葉に喜びを感じながら……。

　そして、衣服を整えた二人は温かい飲み物で喉を潤して月曜日に会社で会おうと言葉を交わし日の昇る前にホテルを後にした。

　家に着いた俊介は無事、誰にも気づかれることなく書斎件寝室に入り込めた。そして、パシャマに着替え、ソファとしての役割を果たしていないソファベッドに寝転び目を閉じた。
　だが、興奮冷めやらぬ俊介は中々寝付くことができない。冬空で曇ってはいるものの瞼の向こう側に明るさを感じる。妻たちが起きたのか、階段を下りる音がする。
　眠たいが眠れない。別れ際に交わした口付け、季子の柔らかい唇の感触が残っている。今頃、彼女も寝ているんだろうか？とふと思った。メールという三文字が頭をよぎった。
（あっ！　しまった！　携帯の電話番号とメアド聞くの忘れてた）
　そういえば、まだ季子のことほんの一部しか知らない。どこに住んでいるか、どんなところに住んでいるのか、同居なのか、一人暮らしなのか、自宅の電話番号など知らないことばかりだ。
　彼女の履歴書を見れば住所に電話番号などすぐにわかるのだが、営業部には置いてない。
　それは総務兼人事部で管理している。よって、彼らに確認せねば季子の情報を得ることはできない。まいった。後悔しても後の祭りだ。
（まあっ、仕方がない。月曜日に会える。その時に聞けばいいや）
　そうして、自らを納得させ、季子の素晴らしい肉体を瞼の奥に焼き付けながら深い眠りに落ちていった。その後、そのことを聞かなかったことで自分が苦しむことになるとは知らずに……。

　つづく