| ％ 『SM stories on the desk』eConomy 作 |
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生暖かい部屋の温度はずっとそのままだった。 「俺」と名乗る幸を10日間「所有」する男との時間の中、幸の頭にはもう「逃避」は思い浮かばなかった。 相手はがっちりとした体格の持ち主。 、気力で呼吸をしている状況の女には、銃でもなければ勝目はないだろう。 幸を買った所有者は言った。 「2日間与え続けろ。」 もう一人、ここから出た女がいたらしい。 その女もたぶん体力の99％を奪われた後、同様のことが求められたに違いない。死を前提のSM・・・。 「俺」と名乗る、生殺与権者は一体、何を求めているのか。幸には想像もできない。 SEXの快楽であるはずはない。マゾヒストの従順でもないだろう。 「俺」は痛みのみを幸に与え続けた。その痛みは、死に値するもの。 ・・・命乞い。見たいのはその姿。23歳の女は生き延びて、この地獄から「金」を受け取り去った。 その女の頭脳がもし、幸を上回っていても、「この状況」で何かが出来るとは思えない。 出来たのは「助けて」を叫び続けること。命乞い・・・。 その状況が2日続き、タイムリミッドになったのだろう。 幸の頭は「この状況」下でそこまでまとめた。 「生」への執念である。 体に受けた傷は時間が癒す。しかし、乳首、ヴァギナは歪な変化はもう戻らない。 焼印は直径5cm以上ある。「豚女」の消えない文字は一生付いてまわる。 今の願いは外に出、全てを奪った男を殺すこと。 もしかしたら、殺しても執行猶予が付くかもしれない・・・。さすがにそこで、幸は考えを中断した。 この体で生き延びて何になるのか。男を確実に殺せるのか。それは、ここから出れる二人目になった後の話。 それから先を考えても仕方がない。しかし、幸は自分がわりとしっかりしていることを自覚し、「安堵」した。 幸は「俺」の前で、惨いキズだらけの体を晒し立ちすくんでいる。 「どうぞ、命ばかりはお助けください。しょ・・・所有者様。」「俺」の顔に少し、不快なものが見えた気がする。 しかし、幸にはこの懇願しか今は無く続ける。 「どうぞ、お助け・・。」右のストレートが、幸の左側の奥歯を砕く。 幸の全身が宙に飛び、セメントの床に叩きのめされた。 意識が朦朧とする。 何が起こったかなど当然考えられない。 「おい、豚女。・・・ふっ、ふっ、お前、まだ元気だな。やってることは的確だ。しかし、芝居はごめんでね。前の女を考えたか。そう、命乞い。ここはSMプレイの場所じゃない。 命乞いってのはなぁ。虫の息、無意識でするものだ。お前の考えなど、ここでは必要ない。お前はここで消えて良い女。・・・「俺」に少しヤキが回ったか。」 「俺」の革靴は、幸の顔の上にある。そして、言葉の最後と同時に足に体重を載せる様な力を瞬間かけ、元居たテーブル椅子に戻った。 幸は「痛い」が理解できないでいた。意識はある。男の言ったことも聞こえた。ただ、全身が動かない。このまま、もう動けないのではないかと思えてくる。 口中で奥歯の1,2本を舌で感じたのは「俺」が去って5分後。（生きている。舌が砕けた歯を感じる。目が見えない。真っ白。） その5分後、視界の焦点がゆっくり合い始める。 白は幾つもの色を有しはじめ、部屋の状況を脳へ伝え始めた。逆かもしれない。視界の情報を脳が解読し始めた。 幸の体はまったく動かない。どんな形になっているのかもわからない。（死んではいない。でも、もうすぐこの意識らしきものも無くなるの・・・。） 男は幸の全身が震えていることに満足している。死の前の痙攣ではない。 （この女はここから去るな。今の一撃で死んだ方が幸せだったかもしれない。まぁ、男への復讐くらいがこの女の今の全てだろう。 くだらない。それに「俺」を加えてならまだわかるが・・。女の彩る未来はいつも淡色。鮮明でないことが生き延びる術だからな。） 死は男の考えたとおり幸を迎え入れなかった。手足いや全身が寒い。恐怖からの震えではない。一気にまた、体力損じたための寒さだった。 （さ、寒い。どうしてこんな目に合うの。私が何をしたと言うの。・・・私は男に騙された。・・その結果。あまりに酷い。か、顔は・・・。） 幸の思考はさ迷い、ようやく動いた手は自分の顔を確認し始めた。 （血は出ていない。頬も柔らかい。アゴから殴られたから奥歯が砕けたのね。でも、変。目の焦点が定まらない。2重にモノが見える。・・・喉もカラカラ。） 身体中を走る悪寒と喉の渇き、「俺」に対する怒りが今は浮かばない。幸は女だった。突然起こった事より年月を得た恨みが先に甦る女。 幸の身を横たえたそばに男が近寄った。 「寒いか。」顔をその方向に向けようとする。鈍痛が走った。 「別に不思議ではない。そんな殴り方をしたからだ。視線が空ろだな。それも2,3時間で戻る。顔が少し腫れ上がった。しかし、目立たない。骨はどこも折れてはいない。 「俺」の手の感触だがな。お前はまた傷を一つ負った。それだけだ。」 「喉が渇くだろう。残念ながら、酒しかない。小便をやる。飲め。」 幸はガクッと首を落とす。そして口を広げた。 （あの男のおしっこは良く飲まされた・・・。） 口に「俺」の小便が注がれて行く。ゴクゴクと幸は飲んだが、やがてその液体は身体全体にかけられる。 （あったかい・・・。） 男はその場を去る途中で目に付いた毛布を幸に投げ、また元の木製の椅子に座った。 |
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| 『SM stories on the desk』 |
| 2013年10月26日掲載 |
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