％　『SM stories on the desk』eConomy 作
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「殺すつもりはない。」男は暗にそう言ったのか。 　朦朧とした頭の幸には、もう良くわからない。しかし、この代償は2，3時間の生を継続させる。 　動かない身体では男は何も与えられない。きっと、男も望みはしない。 　そう考えた幸に「俺」は読心術を心得ているかのように呟き、その考えを霧にする。 「おい、豚女。また甘いことを思ったな。動けなくとも、後48時間中の数時間を捨てる訳がないだろう。・・・例えば、こんな話はどうだ。 　ここで生き残った女は確かに小指を切り落とすことで、2時間ほどの「休息」を得た。お前はその女の価値のわずか3分の1の300万。こう言えば同等かもな。 「幸の指を1本、1本、所有者様のお楽しみのためお切り下さい。」・・どうだ、言ってみるか。」 （そんな事が言えるはずがない。今の私に残された力では確実に死んでしまう。復讐も叶わない。万が一、生きていても指がなくてはあの男を殺す方法がない。） 　「俺」の最後の言葉は幸を殺した。 ただ、復讐のため呼吸をしている。人が生きることを継続することの最後の段階にあった。 　幸は死んだも同然である。 　突然、幸が大声を上げた。 「支配者様、生かしてください。私にはしなくてはいけないことがあります。指を全部もぎ取られても生きていれば良いです。 　でも、そうした場合、私にその力、いや、生きているかどうか・・・。」 「ふ、ふ、やっとわかってきたか。お前は様々に生かされている。大きな2つの理由でな。1つはお前には1日を必要とする理由がある。 　もう、1つは俺が今の叫びを聞きたかったからだ。」 　 　幸の生死を決定できる男はどこまでも残忍なサディストだった。 冷静に獲物を追い詰め、のたうち回る小動物を少しずつ八つ裂きにしていく。 　そして、「生」と「死」を明確にし、内面からも人を破壊しようとできる、ある種の知を持っていた。 　 「ふ、ふ、お前の復讐、俺が300万で買ってやろうか。」 　つまり、幸は死ね、そして、男を殺すことを「俺」が引き受けるということであろう。「俺」と名乗る男は幸の生きなければいけない「目的」を知っていた。 　 　幸は考える。それが支配者の優しさではないかと。 　限界がすぐそこにある幸にはあの男を殺すことは無理かもしれない。 　なら、八つ裂きにされ、一発の銃でも鋭利な刃物でも良い。あの男の命を自分の後に続かせたい。 「どうぞ、幸の指を1本、1本切り落として下さい。支配者様のお楽しみのために。そして、悲鳴を上げる幸をご覧になってお笑い下さい。」 　「俺」はずっと横たわり顔のみ向けた幸を薄笑いで見ている。 「おい、豚女。もう立ち上がれるだろう。」 　その言葉に幸はずいぶんと時間が経過し、鈍痛は残っているが、手足が動く状態に戻っているのに気づいた。 　 　男は会話の最中、幸の動きに目を配っていたのだろう。 　冷静なサディズムは反射的に動く筋肉の些細な収縮さえ見逃しはしなかった。 　幸は懸命に立ち上がろうとする。「俺」の腰掛けていた椅子を利用しようやく立った。 「まるでボロ雑巾だな。」続けて言った。 「後、40時間だ。お前は生き残る。そして自分で復讐しな。しばらく寝る。」 　「俺」はバーボンをラッパ飲みしながら、ソファに転がる。 　幸は再び、倒れこむかのように寝そべった。 　しかし、「俺」が何を言おうと命があるとはもう考えられない。 　時間が凝縮されているだけの事。最後の1時間、いや10分で「俺」好みの死に方をしなけばいけない。 　それが幸の最後に違いない。 　「俺」との会話は、そのことを幸の脳に強烈に染み込ませた。
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『SM stories on the desk』
2013年11月9日掲載
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