Ｒｅｓｅｔ


Ｒｅｓｅｔ　『SM stories on the desk』eConomy 作
見かけは10代に見える理沙は今年の8月に25となる。　　今まで付き合った男は軽く20を超えるが、その9割が年下で彼女もその方が好みだった。（この人は、私のモノ。そう、私の・・。でも、遊びなれた感じ。・・しょうがないわよ。ヒルズ族とは言えないけど、今までの男と比較すれば大金持ち。私はこの人と結婚する・・。）　剛志が遊びなれていたかは置いておき、理沙がそんなことを言える立場ではないことは明らかだろう。　剛志は32歳だったが、確かに大金持ちではある。ソフトウェアエンジニアでゲームソフトの会社に勤めていた。　彼の作ったRPGの名を知らない人間は、コンピューターを少しでも触れる人間にはいない。　彼は、そのゲームのパート3を制作する統括責任者であり、会社内では取締役が付くエンジニアでもある。　年商300億の会社の約30％は彼の企画の売上であった。　剛志は、根っからの技術屋であり、そのタイプに良く見える気性を持ち合わせている。　考え込む時は、何時間も人との会話を拒む。また、1つの発想が浮かべば、結論を得るまで精力的に動き、働く。　　会社内では、彼の行動は全て容認されている。約100億稼ぎ出す頭の働きを止める事は、会社自体の損失と考え間違いではない。　女を抱いている時さえ、考え事をしている、そんなタイプの男であった。　理沙と剛志が知り合ったのは、そのRPGのパート2が完成発表会でのパーティー。理沙の職業はいわいるコンパニオンである。　彼女も、当然、ランク分けされる職業についている。そして、ほぼ最高の賃金を得ていた。　容姿は小さな顔に華奢なボディー。　年齢は始めに書いたが20位に見え、黙っていれば、男が声をかけたくなる見栄えを有し、会話となれば、周りをきちんと盛り上げる術を知っている。　剛志は一仕事が終え、ほとんど躁状態と言った感じでパーティーの中、相手構わずしゃべり続けていた。　偉大なエンジニアはただの疎ましい人にされ、周りから人が次々に去って行く。　その中で理沙のみが、彼の周りに付っきりだった。　　彼女は男の「正体」を知っていたし、会社から、それを命ぜられている。　成り行きで、剛志は理沙を抱いた。剛志には、1ヵ月ほどの休暇が与えられている。その間も理沙は、彼の側を離れずにいた。　その事は業務ではなかったが、独身の剛志に断る理由はない。　　その結果として、理沙に剛志は自分の男であるとの意識が生まれた。　当然、彼の財布に1万円の束が無造作にいつも入れられていたこと、ゴージャスなマンション生活も、彼女の頭にこびリついたが。　一方、剛志の頭には、抱き心地の良い女が現れた。　ただ、それだけである。　金で解決できる女であり、華奢で柔らかな女体は一時の休日にはぴったりと言える。　剛志の休日が2週間ほど経過した時、ベッドにいる隣の女が言った。「剛志さん、ずっと付き合って頂けるのでしょう。」　「・・・。」しばらく理沙の顔を見ていた剛志は、結局、何も答えず、タバコを探した。（この女と切れる時、300万くらいで良いか。）　剛志は理沙の価値を1月750万としたことになる。　理沙にとって、その金額は、5～7ヶ月、一切の仕事を拒絶しない給与分に当たり、問題はないと技術屋らしい考えによるものでだった。　理沙も黙り込んだ。　剛志は、明日も1週間後も、同じベッドで寝ているはずの男であった。　剛志は都会が好きな男で、特に旅行に出ようともしない。　　ただ、1日2，3時間は、自分のための時間を必要とした。　その時間は、自分のソフト評価の分析、最新の業界事情を知るための、言わば公務的な時間である。　それ以外は、いつも、理沙と買い物に行ったり、食事を楽しんだりしていた。　理沙が、再度、剛志に聞いた。「これからも付き合って頂けますよね。」　機嫌よく剛志が笑いながら、理沙と会話をしている最中である。　最初に聞いた時から、1週間が経っていた。つまり、剛志が業務に戻る時間も1週間後である。　理沙の言葉に、剛志が黙り込む。タバコをもみ消し、「どこへ行こうか。」と答え、話を逸らした。　理沙は了解した。（つまり、遊びってことね。私はこの人の息抜き、1ヶ月の慰み者・・。）　　理沙の頭が回転し、いつか考えたことが脳裏を過ぎる。（私のモノ・・。）　理沙はもう後に引けない。剛志に再度、聞いてみた。「つまり、後1週間でお別れってことでしょうか。」「・・・。」「そうなんですね。」　買った女に言われることじゃない。剛志は少し怒気を含め答えた。「あぁ、そうだな。後1週間でもう会うことはないだろう。お望みなら、今日の今からでも良いが。」（冷たい。）と理沙は思ったが、懸命に感情を抑え、ようやく言えた。「いいえ、お別れは1週間後にしましょう。」　剛志は理沙のその回答が気に入った。合理的な考え方が好きなのだ。　その方がお互いのため、たぶん、今は穏便な結果となる。　そして、理沙、剛志も、これからの1週間にすべき事を考え始めた。
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『SM stories on the desk』
2016年2月13日掲載
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