良妻賢母は二度ベッドインする


良妻賢母は二度ベッドインする保留守人作

９・　幼馴染だった旧友との再会は本当に心温まるものだった。　それだけに、また別れるときは心が痛んだ。　　午後８時、渡辺翔太は高速バスの車中に居た。　大阪からの帰路、乗車して既に２時間が経つ。　予定では明日の朝、新幹線に乗ることになっていたが、親にもらった交通費を浮かせる為に、バスを利用して帰ることを思いついたのだ。　だから、今日帰ることはママにはまだ伝えていない。　余ったお金を返せと言われるかもしれないと思ったからだ。　だが、バレたらバレたで何の問題もない。　別段、悪いことをしているわけでもないし、元々“あわよくば”程度にしか考えていなかった。　それにしてもあれ以来、ママが何度も同じ夢に出てくるようになった。　間一髪、寝室のクローゼットに忍び込んで、ママと孝太郎にぃちゃんが電話で話していたのを聞いていた、あの時以来のことである。 ――ベッドに寝ていると、下半身裸のママがやって来る。　　怒った顔で、『もう、しようがない子ね……』と言って　　自分の上に覆いかぶさる。　　その時、ママの陰毛がチラリと見えるのだが、　　肝心のアソコは見えそうで見えない。　　自分はと言えば、孝太郎にぃちゃんが来ないかどうかと　　心配になって仕方ないのだ。　　ママが言う、　　『入れてみる？……』―― 　股間が一瞬熱くなったのを感じて、いつもそこで目が覚めるのだ。　そして、かなりの確率で夢精しているのである。　そんな事を思い出しているだけで、ズボンの中は半勃起状態になっていた。　困惑と嫌悪が入り混じった複雑な心境にもなる。　　この時間、まだ室内灯は灯っており、窓のカーテンも開けたままだ。　恐らく自分が降りるバス停までは、この状態だろう。　とは言っても、外は真っ暗。　遠くに街の明かりが見えるだけ。　山間部に入ればそれも全く見えなくなる。　　そんな時、《ブルルルル……》　薄手のダウンベストのポケットから、スマホの短い振動を感じた。　取り出してみると身に覚えのないメールアドレスからの着信だ。　件名には“ふるさと”とある。　本文は無く、代わりにＪＰＥＧの添付ファイルがあった。　どうしたものかと躊躇したが、連れのいない車中は暇だったので、ファイルをダウンロードして開いてみた。《はぅっ！！……》　　表示されたのは一枚の衝撃的な写真画像。　思わず息を飲み、画面を自分の胸で隠していた。　リーズナブルな運賃を提供してくれる４列標準シートの窓際席。　隣の席にこそ乗客はいなかったが、通路を挟んだ反対側には三十代くらいの女の人がひとり座っている。　周囲を確かめ、誰にも覗かれないよう注意しながら、もう一度その画像を確認した。　横長のソファで女がうつ伏せになって尻を高く突き上げているところを、後ろから激写した画像だった。　おそらく撮影者の左手であろう、日焼けした小麦色の手が黒いパンティをズリ下げている。　周囲に毛が生えた茶褐色の肛門、そして陰毛の隙間から、アワビのような女性器がハッキリと映っていた。　女の陰部が密着していたであろう下着のクロッチ部が今まさに陰裂から完全に剥がれようとしている瞬間のようだ。　生地に付着している濡れたシミとクレバスとの間には、粘り気がありそうな女の分泌液が数本、糸を引いている。　鑑賞者の目前に迫るような女性の二つの恥穴画像は強烈なインパクトを与え、今にもクサい匂いが漂ってきそうな臨場感を感じた。　それにしても女の太腿から尻にかけての白い肌は美しい。　それだけに茶褐色に沈着した肛門とのコントラストが悲しいほどエロく思える。　女は黒い服を着ているようであり、後頭部には髪飾りの黒いタイトリボンがチラリと写りこんでいた。　被写体である女は完全にソファに顔を伏せているので想像するほかないのだが、見せている破廉恥なポーズとは裏腹に、美しく清楚な成人女性なのではないかと連想させられる。　反対の窓際に座っている女性を横目で見る。　自分の母親と同じ年齢くらいだろうか、文庫本を読んでいる横顔は美しかった。　花柄のフレアスカートを穿いた太腿あたりを翔太はしばらく凝視した。　中学３年生の少年は、早く家に帰ってこの写真を見ながら射精したいと気が焦った。　その後、少しウトウトしていた時間もあったが、ようやく降車するバス停に到着する。　　しかし、高速バスを降りてからも少し電車を乗り継がねばならない。　帰宅するまで、新幹線ならドア・ツー・ドアで２時間もあれば事足りるところを、３倍の約６時間を費やさなければならなかった。　小遣いを稼ぐのも楽じゃない。　自宅の玄関ポーチに辿り着いたのは深夜１２時。　ママはもう就寝しているだろうか。　寝室のダブルベッドでひとり、静かな寝息をたてているかもしれない。　　　　〝渡辺　健一　　　　　　　　　絵美子　　　　　　　　　翔太　　　　　　斎藤　孝太郎くん〟　お世辞にも上手とは言えない文字が彫られた、ドア横に掲げてある表札を見て自然と笑みがこぼれる。　小学生の頃、学校の課題で作った自分の彫刻作品だ。　翔太は、眠っているかもしれないママに気づかれないよう、鍵穴に挿したカギを慎重に回した。　まるでスパイのようだと自分で思う。　どこかワクワクとした気持ちでカギを抜き、洒落たデザインの縦長ドアノブを手前に引っ張る。　すると、《ガツン！》……硬い手ごたえ。　自分がたてた大きな音にも驚く。「おっと？！」　どうやら元々、玄関ドアは施錠されていなかったと気づく。（なんだママ、物騒だな……）　ＩＴ関連企業に勤務する父は福岡へ出張中だ。深夜は人通りがほとんどない閑静な高級住宅地と呼ばれるこの界隈、アラフォー主婦とはいえ、ひとりで居るなら人一倍防犯には注意を払わなければならないはずだ。　現に、ママがテレビに出てから以降、不審者が家の周りをうろついて、警察沙汰にもなったほどである。　訝りながらも再びカギを元に回し戻し、扉を引いた。　人感センサーが反応し、天井のシーリングライトが落ち着いた黄色で灯る。　次の瞬間……、「えっ？！」　扉を開けた隙間から、玄関土間に二人分の靴が整然と並んでいるのが目に飛び込んできたのだ。　一足は艶消し黒のパンプスであり、それはママの物であるに違いない。　だがもう一足は、２７センチ以上はあろうかと思われるコンバースのスニーカーだ。　にわかに胸騒ぎを覚える翔太。　　自宅玄関に一歩踏み入れた翔太の心拍数はすでに上昇し始めていた。　仲良く並んだ不釣り合いな２足の靴に動揺しながら自分の靴を脱ぎ、床に足を乗せたところで、ある“動物的勘”が働いた。　脱いだ自分の靴を下駄箱の裏に隠すことを思いついたのだ。　それは掴みどころのない、漠然とした想いにかられた行動だった。　そして、ゴクリと喉を鳴らしてフローリングの通路を進み、リビングルームへと続く扉を静かに押し開ける。　人影のないリビングは、ソファ横にあるサイドテーブル上の傘型スタンドライトだけが室内を薄暗く照らしていた。　心地よい湿度の室内は、エアコンが止まってから間もない証拠。　ソファの背もたれには黒っぽい衣服が無造作に掛けられてある。　近づいてみるとそれは、 “ブラックフォーマル”と呼ばれるワンピースだとわかった。　そう言えば土曜の夕方、出かける間際、ママはお葬式がどうのこうのと、叔父の聡兄ちゃんがどうこうするのだとか、誰かと電話で話していたのを思い出した。（え？　もしかして、あの靴は聡兄ちゃんの？……）　何か違和感を感じたのはそれだけではなかった。　普段のママなら衣服をこんな風にだらしなく脱ぎっぱなしにするとはない。　なおかつ、ダイニングテーブルには半分ほど空いたワインボトル１本とワイングラスがひとつ載ったまま放置されている。　ママはそれほどお酒に強くもないし好きでもない。　さらには牛乳を飲み干したような陶器のマグカップも一緒にあった。（な…何なの？　この組み合わせ……）　極め付きには、その下に落ちている黒く細長い布切れに目が留まり、翔太は一層、その違和感と不安を強く抱いた。　心臓の鼓動が増し、息が荒くなっている自分を意識しながら布切れを拾い上げる。　不気味にも、そんな動作をする自分の影が大きくなって、カーテンに投影されていた。　　　　　　　　　　　翔太が手にしたのは黒いパンティーストッキング。　女性のスカート型洋装喪服には必須のアイテムだということは中学生の少年にもわかる。　それはママが身に着けていた物であることにも疑いの余地はない。　パンストの黒色が一段と濃くなっている切り替え部、つまりママの股間が密着していた部分に鼻先を押さえつけ、鼻腔を膨らませた。（うっ！……）　長時間身に着けていたからだろうか、汗とオシッコが混ざって蒸れたようなニオイが嗅覚を襲った。　翔太のとった行動の意味は、このパンストの所有者が間違いなく直前までこれを身に着けていたという事実を確認しようとしたものだろう。　ママは自分でパンストを脱ぎ捨てたのか。　あるいは襲われるように誰かの手によって脱がされた？　シーンと静まり返っているリビングで、ガンガンと頭が鳴り響く。「マ…ママ」　呼んだつもりだったが、それは声になっていなかった。（ママ、今どこの部屋？　誰かと一緒にいるの？）　翔太は恐る恐る奥へ続く廊下を進む。　その先にはママの、いや、父さんとママ――夫婦――の寝室がある。　歩もうとする脚の膝が笑っている。　恐らく寝室の扉を開けたとき、すべての真実が明らかになると直感した。　いや、それとも真実に目を塞ぐ道を選び、こっそりと２階にある自分の部屋に逃げ帰ろうか。　そんな思考を交錯させながら、少年は一歩一歩、ゆっくりと寝室の扉へと近づいて行った………… …………つづく
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2015年12月16日掲載
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