七月九日・午後四時五十一分 全裸の女を数人がかりでベッドに組み敷き、左右の手首に枷をはめて自由を封じる。同じく両足首も固定すると、月本涼子もようやく抵抗を諦め、幼児のように泣くだけとなった。 牢屋内にある粗末なパイプベッドではない。地下の拷問部屋には、大仰な磔台や拘束器具がいくつも設置されており、そのなかに鎖と革枷のついた木製ベッドがあった。見かけは古いが、マットだけは新品のものに取りかえてある。 「それじゃあ、はじめるとしようか」 滝一成はワイシャツのボタンを外した。彼の横には、磔にされた女の裸身がある。 涼子は首を左右に動かした。それから、また身体を派手に暴れさせる。が、視姦の恥辱からは逃れられない。手足の枷も外れない。 ベッドの柱脚と拘束具を繋いだ鎖が音をたてるだけだった。しかも、彼女の両足は大胆に開いた形で束縛されている。太腿を閉じあわせることもできない。 もろ見えの淫裂に視線が刺さる。顔も乳房も、全部見られる。四人の男と三脚のビデオカメラが見守るなかで、もはや蹂躙を待つだけとなった若妻の裸身が震える。 「最初はつらいだけだろうが、我慢してもらうよ」 上半身裸の滝がベッドにあがった。筋骨隆々のたくましい身体つきである。六十四歳の老人とはとても思えない。 内気な性格が枷となっているのか、あるいは恐ろしさのためか、これほど絶望的な状況だというのに、涼子は悲鳴のひとつもあげはしなかった。唇だけがワナワナと動く。身じろぎにあわせて大きな乳房も揺れる。 その高丘に滝の指が触れた。形状に沿ってつうと円を描く。 「出るぞ、神の手だ」 ベッドからやや離れた場所で上畑はつぶやいた。 右手を丸く動かしながら、滝は、さらにもう片方の手も白肌へと伸ばした。指を筆の穂先に変えて首筋をなぞり、頬や耳元、色っぽくへこんだ鎖骨へも滑らせる。 ふたつの手が休むことなく流動する。その手つきにしても恐ろしくなめらかで、迷いや躊躇がいっさいない。まるで澱みを知らない水の流れだ。たとえ性技に長けた女でなくとも、つい見惚れてしまうに違いない。 指がゆらりと動く。虫の歩みで上半身から下半身へと進む。 「……やンッ」 最初はしゃにむに暴れるだけの涼子であったが、徐々に抵抗が弱まり、かわりに腰がクネクネと揺れはじめた。恥じらいと性感からくる身悶えだった。 息づかいも色っぽく上気してくる。そういうさわりかたを滝はしているのだ。かといって微弱なだけの愛撫ではなく、乳房を強く揉み押したりもする。 「いいねえ、惚れぼれするようなモチ肌じゃないか」 首筋や肩に接吻の雨が落ちる。豪雨ではなく、さらさらと降る霧雨である。 「感触だけじゃなく、味もいい」 「う、うううッ……」 「ここが好きなのかい？」 そう言って首筋に舌を押しつける。柔らかい先端で耳元やうなじをなぞる。そのあいだも右手で乳房を包み、左手は腰のラインを確かめるように動いている。 滝の指は彼女の弱い部分を的確に探り当て、そこを重点的に責め通した。首筋、わき腹、太腿の内側……。単にしつこく愛撫するのではなく、強弱さまざまな力加減で撫でまわし、舌で味わい、ときにじらしながら女の性感を掘り起こしていくのだった。 いつの間にか涼子の声がやんでいた。 大の字に固定された裸身が汗ばみ、室内灯の下で妖しく光っている。ふたつの胸が息づかいにあわせて上下する。官能からくる切迫が表情に濃くなり、そこに柳沢がビデオカメラのレンズを寄せた。 裸身のほぼ全域を指で探索したあと、滝の両手がふたたび乳房を包んだ。 たっぷりの量感を下から持ち支えるようにして、指にそっと力をこめる。丸くこねる。作品を愛でながら造形する陶芸家の手つきだ。そして乳首を口に含んだとたん、月本涼子の裸身が震えた。 「あ、あ……ッ」 ミルクを舐める仔猫のような音が響く。吸う。舌で乳首をねぶる。 やめてください、そんなことしないで……舐めないで……。 胸のうちで涼子は叫んだ。おぞましい拷問部屋に監禁されて、見ず知らずの男に裸身を好き勝手にされている。乳首を舐められている。恐ろしい。死にたいくらい気持ちが悪い。嫌悪感の奥から生じる一抹の快感が怖い。 長くねちっこい愛撫のあとだから、刺激もより強く、より甘いものだった。いやでも声が出る。舌が、右から左の乳首へと移動した。 「ううンッ」 巨乳を持つ幼な妻の裸体が、また震える。 男の体液で染められていくふたつの乳房を、豊田と上畑が事務的な目で見おろしている。ほんの少しの欲情の気配さえない。普段から無表情の柳沢も、ことに当たっている滝でさえそうだった。自分の役割を淡々とこなす男たちのなかで、全裸の月本涼子ただひとりが悩乱している。 女の下半身に柳沢がカメラレンズを向けた。 左右の足を開く形で束縛されているから、丸だしの股間まで容易に接写することができる。見事な太腿だった。色白なせいか、ムチムチッとした肉感がことさらきわだつ。けれども膝から下はスラリと引き締まっていて、足首も細い。ぽっちゃりというよりグラマーに分類される身体つきだ。そして、太腿の奥にはぬらついた光沢を放つ淫裂がある。 滝の指はまだそこを苛めてはいない。淫裂どころか、股間の周囲にすらただの一度も触れていない。なのに、おびただしく濡れている。老人の並外れた淫技に翻弄され、二十二歳の女体はいまや陥落寸前だった。 薄めの恥毛をかきわけて、滝の右手がはじめて淫裂を包んだ。涼子の腰がピクリと震え、次に左右に動いた。 「そ、そこは……許して」 涙声で哀訴する。今の涼子にできることといえば、それだけだった。手足は枷に繋がれている。股間を隠すことも、男の手を払いのけることもできない。 そんなだから、丸だしの淫裂もやすやすといじくられてしまう。濡れた縦溝を指が擦り、肉芽まで甘く押し潰される。地下室内は異様な静けさだった。愛液の擦れる下品な音、女の悲鳴だけがコンクリートの壁に反響する。 刺激の強さに比例して裸身の揺れも大きくなる。恐怖とは別の理由で腰が上下する。それは、男にインサートされたがっている女の嬌態である。 淫裂にあてがわれた指に力がこもった。 「痛ッ……い、痛いッ」 その言葉を涼子が発したとたん、滝は、膣口に沈めかけた指を止めた。 え……？ 怪訝な目で女の顔を見つめ、ふたたび指を挿しこんでみる。涼子はまた痛んだ。強姦の恐怖から出た声ではなかった。 滝は、女の足のあいだへと身体を移した。抵抗のために揺れる両腿を左右の手で押さえつけ、間近から淫裂を直視する。見るからに使いこまれていない女性器だった。色素の沈着がほとんどなく、恥毛も細く短い。 顔ごと埋めて泥沼の亀裂を啜ると、牝そのものの匂いが口内と鼻孔を満たした。彼の頬に当たっている太腿がピクピクと震える。さらには舌も這わせ、たっぷりと濡らしてから、滝はふたたび指を押しこんだ。 が、やはり入らない。異物の侵入を阻む壁のような圧迫が確かにあった。 「滝さん？」 異変に気づいた豊田が近づいてきた。 滝に目線で促され、彼は女の股間へと首を伸ばした。涎で濡らした指を挿入する。悲鳴とともに涼子の下半身が跳ねた。 豊田は指を引き抜いた。 「まさか……」 「豊田くんも気づいたかい？」 「ええ。ですが、そんなことが」 「僕もそう思うよ。だが、事実のようだね」 ふたりはベッドの上に視線を落とした。月本涼子は顔を横にそむけて泣いている。 ☆ 同日・午後八時三分 上畑が地下室から戻ってきた。手つかずの食事が乗ったトレイを持っている。 「すみません、やっぱりだめでした。食べたくないそうです」 キッチンのミサにトレイを手渡して、彼はダイニングテーブルの椅子に腰かけた。 「……しかし、驚きましたね。まさか処女だったとは」 「まあね」 向かいに座る滝がつぶやいた。 「いわゆるセックスレス夫婦、ってやつかい？」 「そういうことになるでしょうね」 「しかし、あの娘はまだ二十二歳じゃないか」 「年齢は関係ないですよ。中高年の夫婦はもちろん、最近じゃあ性交なしの条件で婚約する二十代の男女だって多い」 「どうりで少子化が進むわけだ」 滝につれられて苦笑しながら、上畑は、横に座る豊田に顔を向けた。 「スケジュールを白紙に戻す必要がありますね」 「ああ。まったく面倒な話だ」 豊田は缶ビールを喉に流しこんだ。 「……セックスを知らない人妻、か」 女に男性経験があるかないかで、性的教育の指針は大きく変化する。特に処女の場合、プレイの種類や幅が限定されるため、調教が遠まわりになるのは当然のことだった。精神的にもデリケートだから、接しかたにも細心の注意が必要となる。 へたに姦通などすれば、取りかえしのつかない心の傷を与えかねない。ひいてはそれが調教の失敗に繋がる恐れだってある。そのため、夕方の調教も消化不良のまま中断を余儀なくされた。いわば、試合開始の直後にエースが負傷退場したようなものだ。 「基本的な手順は同じなんでしょうけどね」 生娘だろうと色情狂いの女だろうと、やることは同じ、と上畑は言っているのだ。セックスのことではない。調教の順序のことである。 「……女を墜とす手段など、昔も今も方法はひとつです。心か身体か、どちらかを開かせればいい。片方を陥落させれば、おのずともう片方もついてくる」 「心身ともに成熟した女なら、そうだろうな。しかし……」 「ええ。相手が処女では、いきなりハードな調教ってわけにもいかない」 精神状態が不安定な女を性的に開発するのは、難しい。基本的に、人間の性本能とは理性の土台の上に成り立つものだからだ。心があるから情欲や興奮が生まれ、それが一線を超えたとき、はじめて性感が発火する。孤独や悲しみを感じる心があれば、現実逃避の一手段として性交にのめりこむことだってある。 男の肉体が精神的な拠りどころとなり、抱かれることに自己の存在意義を見出すようになる、というわけだ。それはつまり、性調教に適した女の心理状態ともいえる。ただし、孤独や恐怖が強すぎると、精神が崩壊する。そのギリギリのバランス感覚が難しい。 女の内面性を的確に見定めつつ、快楽と暴虐、ときに心の安定を与える。その作業を積み重ねることで、はじめて一人前のＭ奴隷は完成するのだ。そういった女の操縦術は当然、彼らも心得ている。そのために何が必要なのかも、知っている。 「肉体の開発と心の懐柔。たとえ相手が処女といえど、両立するのは不可能ではないでしょう。ただし、それには相当の時間が必要だ。二ヶ月でアブノーマルまで仕込むとなると、とても……」 「ご婦人の性感はロマンチシズムと同義だからね」 ため息混じりに滝は口を開いた。 「多少の時間はかかっても、まずは心を開かせるのが先決かな、豊田くん」 「ええ。ですが、その前に尋問でしょうね。今後のことを考えても、あの女のすべてを丸裸にしておく必要がある」 「まあ、仕方ないだろうね」 「それと、月本栄二についても少し調べてみましょう。うまくすれば、調教に有利な情報が出てくるかもしれない」 「それは豊田くんにまかせるよ」 そのあと当面の方針を談議して、豊田と滝は二階の自室へと引きかえした。 ソファで新聞をひろげる上畑に拓海が歩み寄った。 「しばらく調教はなしなんですか？」 コーヒーカップを上畑の前に置きながら尋ねた。 「まあね。処女だとわかった以上、へたに手だしはできない」 「そんなものなんですか」 「ハハハ、意外だって顔だね」 上畑はコーヒーカップを口にはこんだ。 「……朝晩かまわずセックスをして、毎日ひたすら女性を犯しまくる。そういう仕事だと思ったかい？」 「ええ、まあ」 「確かに、アダルトビデオならそれでいいんだろうがね」 パソコンのキーボードを叩く音が部屋に響く。柳沢だった。月本涼子の調教内容を文章にまとめ、定期的に報告するよう南雲泰治から指示を受けている。 上畑はテーブルの上に新聞を置いた。 「たとえレイプや輪姦だろうと、数をこなせば女は感じる。それでも言いなりにならない場合は、暴力で屈服させればいい。だがね、そんなものは男の身勝手な願望から生まれた幻想であり、ＡＶやポルノ小説のなかだけの話だ。実際の調教はそう甘くない」 「それじゃあ、どうやって」 「ようは恋愛と同じだよ。意中の女性にアプローチをかけて、恋人にして、ベッドの上で裸にさせる。そのためには地道な努力と気配りが必要だろう？」 「はあ……」 「もっとも。いくら心を砕いたところで、やってることは犯罪に変わりないがね」 自嘲気味に上畑は笑った。キッチンのミサに一瞬だけ視線を投げる。 「……ひとりの女の人生をこの手でめちゃくちゃにする。それも事実だ」 「上畑さん」 「とりあえず、その自覚と覚悟だけは常に持っていたほうがいい。脅すつもりはないが、ここにいる以上は拓海くんも共犯者なわけだしね」 息を呑んで拓海は頷いた。 |
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| 2010.3.27掲載 |
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