新米教師の悪夢


新米教師の悪夢『新・ＳＭ小説書庫２』二次元世界の調教師作
３．理事長の馬鹿息子の停学処分　やはり部室の中から悲鳴を上げたのは小池紫乃だった。すぐに入り口をガラッと開けると、男子生徒が彼女を押し倒して上になっている決定的な場面である。　だが、その男子生徒は、僕が駆け付けたのを見て諦めたのか、チッと舌打ちをして小池さんの上から降りる。あまり大柄ではなく、小池さんの方が背が髙い。そして邪魔が入ってしぶしぶ中断したかの様子で、さほど悪びれた風もない。「おい板東！　お前何やってたんだ」「まだ何もしてねえよ」　少し遅れて駆けつけた生徒指導部の体育教師に、僕はホッとした。そして彼と生徒との短いやりとりだけで、僕は不穏な胸騒ぎを覚えていた。ーー板東って、コイツが理事長の息子か。「まだ何もしてない」って邪魔が入らなきゃ襲うつもりだったのか？　とんでもない奴だ　一面識もない僕に不躾な連絡を寄越したのも、坂東理事長の息子だったが、さらにその弟もこの分校にいる事は既に聞かされていた。小柄なくせに不敵な態度の悪さからも、ただの不良生徒ではない事は一目瞭然ではないか。「先生！」　だがそんな思いも、体が自由になった小池さんがやって来て中断する。何と彼女は僕に抱きついてワンワン泣き始めたのだ。僕はちょっとまずいんじゃないかと少しだけ思ったけど、彼女を落ち着かせようと一緒にしゃがみ込み、ヨシヨシと頭を撫でてやっていた。「板東！　こっちへ來るんだ」「チ！　やってらんねえな。教師と生徒が抱き付いてていいのかよ……」　話を聞くため連行される板東の捨てゼリフが気掛かりな僕は、本当に情けない小心者だと思う。だけど集まった他の教員達も何も言わず立ち去って２人切りになると、この行為が学校に承認されたのだと確信して、泣き止む気配のない小池さんをしっかり抱き締めてやった。そして頭や背中を優しく撫でてやりながら、僕は不謹慎にも意外に発達した胸の膨らみの柔らかい感触と、手入れの良いロングヘアから発散するような女の子らしいフェロモンにクラクラと興奮し、股間をカチカチにさせてしまっていた。　しばらくして落ち着いて泣き止んだ小池さんは、すぐに状況を察するとおかしなくらい真っ赤に赤面し、慌ててパッと飛びのいた。「ごめんなさいっ！」　僕は正直なところ、このままずっと彼女の温もりを感じていたかった。教育者としてあるまじき、けしからぬ感情である。はしたなさを自覚して僕に謝る小池さんの方が、ずっと大人だった。僕は感情を表さぬよう務めて冷静に、彼女の話に耳を傾けた。「あの人、とてもエッチなんです。女の子のカラダを触ったり、その………やらせろ、とかエッチな冗談ばかり言ってるんで、女子はみんな嫌ってると思います……」　やはり板東はロクでもない男らしい。そして小池さんは言いにくそうだったけど、２年の終わり頃から奴にしつこく付きまとわれていたらしいのだ。僕は言葉を濁した小池さんの断片的な情報から、勝手に脳内補完を試みる。　人がいないのを狙って、トイレから小池さんが出て来るのを待ち伏せしてた板東が、彼女のお尻を触る。キッと睨んだ小池さん。「いいじゃねえか、減るもんでもないし。今度一発ヤラせろよ」　何だかムカついて來たが、さらに小池さんの話を聞く。驚いた事に板東はなぜか鍵を持っており、外から開けられた小池さんは、僕だと思って入口に向かったらしい。そこで奴に捕まったと言う。無理矢理キスを迫られた小池さんは勇気を出して悲鳴を上げ逃げようとしたが、力づくで押し倒されたーこれで僕が見た場面に繋がる。これは立派な強姦未遂ではないか。僕が小池さんの悲鳴を聞き付けて、あり得ないスピードで駆け付けて良かった。　だが板東の証言は酷い言い訳だった。奴は前から憎からず思ってた小池さんにキスを迫り、悲鳴を上げられたので咄嗟に押し倒しただけで、それ以上何かするつもりは全くなかったと言い張るのである。「ちょっと悪ふざけしただけっすよ」　怯えて泣き出した小池さんは母親に連れて帰ってもらい、板東の取り調べに参加していた僕は、しれっとそんな言葉を口にされて、カーッと頭に血が昇るのを感じていた。ーー悪ふざけですませられるわけないだろう。お前、邪魔が入らなきゃレイプするつもりだったくせに。　しかし悲しいかな新米の僕が口を挟める立場にはない。警察を呼び婦女暴行未遂で逮捕してもらったら、何てのは僕の勝手な願望に過ぎないんだろう。結局「悪ふざけ」も度が過ぎるとして、板東に下された処分は２週間の停学。もちろんその後二度と小池さんに付きまとわないと言う条件付きだったが、僕は正直こんな甘い処分では、小池さんに会わせる顔がない気がしていた。　さらに僕からすると、なぜ板東が部室の鍵を持っていたのか、と言う大きな疑問が残っている。鍵は２本あり、１本は学校が保管しており生徒の手に渡る事はない。現に無事保管されているのだ。もう１本をいつも使ってるんだけど、これは部室の中にちゃんと掛けてあったのだ。僕はこれを問題にしようと思ったんだけど、今日はもう遅いからと保護者に引き取りに来てもらう事になり、結局うやむやになってしまった。「この度は弟の不始末、大変申し訳ございませんでした！　家でしっかり反省させますので………」ーーこれ本当に板東の兄貴か？　父親の理事長はこちらには住んでいないとの事で、停学処分となった板東を引き取りにやって来たのは、僕の同級生だと言う兄だった。あの失礼な歓迎会の連絡を寄越した時、僕が想像した遊び人風では全くなく、キチンと背広を着てネクタイを締めた若いサラリーマン風の出で立ちに驚かされる。板東一族はこの島田で飲み屋や雑貨屋など経営しており、高卒で働いていた板東兄は、この春から雑貨屋の店長を任されてると言うのだから、わからないものだ。　板東兄は事情を聞いて弟の短慮を厳しく叱り、警察沙汰になってもおかしくないのに、停学処分ですませてくれた学校に感謝の意を表して、弟を連れて帰る。彼の在校時を知っている教員達からは、見違える程立派になったと驚きの声が囁かれていた。「あの坂東が……やっぱり社会に出ると成長するんですね」「全くです。あの様子なら弟を任せても大丈夫そうです」「理事長も安心でしょう」　でも僕だけは板東兄の変貌を疑っていた。ーー騙されないぞ。社会に出て、外面を良く見せるのに長けただけだ。アイツの本性は変わっちゃいないんでは？　僕の自宅に電話を掛けて一方的に歓迎会を持ちかけ、「都合を聞かせろや」とぞんざいに言い放った板東兄の声はまだ記憶に生々しく、僕にはあの無礼な電話こそ奴の本性だと思えるのだった。　こうして何とも鬱々とした気分で帰宅した僕に、その夜意外な電話を受けた。「この度は娘が大変お世話になりまして………」と始まったのは、小池さんの母親からのお礼の電話だった。そして驚いた事に、坂東兄弟が学校帰りすぐ謝罪に訪れたと言うのだ。　母親の認識では、幼なじみ同士の悪ふざけが度を過ぎたと言うことで、これは板東弟の言い訳と一致する。それにこの狭い島田で分校の生徒は皆幼なじみのようなもので、互いの家も良く知ってるわけだ。それなのに僕と来たら、同級生板東兄の歓迎会の誘いを、無碍に断ってしまったわけだ。ーー僕って、ホントに詰まらない人間だな……… 　電話を受けた後入った風呂で、僕はそう自分を卑下しながら、股間に手をやらずにはいられなかった。泣きじゃくってた小池さんを抱き締めた感触が蘇り、いくら不謹慎だと思っても自分を抑える事が出来ないのだ。とうとう湯船の中で射精する失態を演じてしまい、いつもより一層激しい罪悪感に責められる。　こうして僕は絶対絶命のピンチを救ってあげたにも関わらず、小池さんと顔を合わせるのを躊躇う気分から抜け出す事が出来ないのだった。
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新・ＳＭ小説書庫２
2020年10月31日掲載
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