第3章



　洋平が最後に放った言葉の直後、理恵子がトイレから帰ってくる気配を感じて、さっと握られた手を引き、冴子は平静を装った。

「お手洗い、スゴイ込んでたぁ・・・個室が一つじゃねぇ」

　何も知らない理恵子が無邪気に２人に話しかける。洋平は理恵子の話しに相槌をうち、適当に返事をして会話を続けていた。

　冴子は、頭が真っ白の状態のままで、会話が全く上の空の状態だ。

「冴子・・・？」理恵子が冴子に声を掛けた。

「え・・？」

「お手洗い、空いたみたいだよ、今ならチャンスだよ！あ、冴ちゃん、ストッキング少し伝染してるよ。脱いだ方がいいかもよ。」小さな声で妹に告げる。

　先ほどの洋平との秘密の会話を知る由も無い理恵子が、姉らしい気遣いでトイレが空いた事を妹に告げ、無情にも、トイレに行く事を促している。

　洋平は何も言わないが、あの強い視線で自分をジッと見ているのが痛いように感じた。

「・・・お手洗いに行ってくるね・・」

　トイレに行き用を足す必要は感じていなかったが、自分でも何故だか解らないが、フラフラとトイレに立ってしまった。

　トイレに入り洗面のガラスに映った自分を見ると、思わず冴子はたじろいだ。そこには、時折、姉が見せるあの厭らしい表情とそっくりの自分が写っていたのだ。

（！！・・やだ！・・私もあの顔をしていた・・・なんで？・・）

　答えが見つからず、考えが纏らないまま、冴子はピッタリと下半身に張り付くタイトのスカートを捲り上げ、いつのまにかふくらはぎ部分が伝染しているストッキングを脱ぎ、ゴミ箱に押し込んだ。

　数秒考え込んだあと、お気に入りのピンクのTバックのショーツを少し下ろしてみた。クロッチ部分が女の花園から離れた瞬間、「あ！！」とまたも声を上げそうになった。

　クロッチ部分がお漏らしをしたように、グッショリと濡れており、更には、ベットリとした蜜が、名残り惜しそうに、クロッチと陰唇の間に糸を引いていたのだ。今にもヌチャァと音がしそうだった。

（そんな！！！！・・・・なんで・・・？）

　これほどまでに自分の秘蜜で下着を汚したのは、初めての経験だった。

（やだ・・なんで・・・わたし・・・）

　ほんの数分前までは楽しく皆でオシャベリしていたはずなのに・・・・、いまはこうして操られるようにトイレで下着をおろし、下着に付いた自分の愛蜜を眺めている。あまりの急展開にとても現実の事とは思えなかった。

（脱いでこいと命令されて・・・興奮しちゃっているの？・・・このわたしが？・・）

　洋平のことを思い浮かべてみた。さっきまでは、冴子がポンポンと勝気で生意気な言葉を霰のように投げてかけても、笑って優しい言葉を返してくれる、温和で頼りがいあるお兄ちゃんのような存在だったのだ。

　それが、さっきはまるで別人のようで、妖しく有無を言わせないような男の威厳に満ちた洋平の一面を見せ付けられたのだった。

（なんか・・いつもの自分でいられなかった・・初めて男の人が・・なんか怖かった・・）

　腹の底から出ているような低い声。無遠慮に投げ掛けられた、妖しい光と、冷たいような、それでいて何か奥に暖かいものを感じさせる強い洋平の眼差し。男性的なゴツゴツとした浅黒い手。それらを思い返すと、冴子の恥かしい部分がキュンなった。

　彼が最後に呟いた言葉を思い出した。『服従すれば・・・気持ち良くなれる・・・』

（わたしにもできるって言ってた・・・）

　心の中で呟き、ピンクのショーツから長い両足を抜き、手に取りクロッチの染みを数秒見つめ、指で恐る恐る確かめてみる。クチャっと音が出そうな感触がした。

（やだっ！）と手を止める。

　そっと、その整った鼻に近づけて匂いをかいでみる。かすかなアンモニアの匂い以外に、女が興奮した時に溢れさせる淫靡なジュースの匂いが鼻腔から飛び込んできた。そのまま数秒立ち尽くしたあと、ショーツを小さく畳んで化粧ポーチに押し込んだ。

（そうよ・・・下着が汚れたから、脱いだだけ・・・）

　自分の理性に言い訳をして一つ深呼吸をすると、決心したかのように、冴子はトイレの個室のドアを開け２人の待つテーブルに戻った。

＊

　洋平は、数ヶ月前から三人で食事やカラオケをして頻繁に冴子と接する中で、ある事に気づいた。自分の前では、少し生意気で可愛げのある無邪気な妹のようなこの女が、一歩外にでれば、プライドが高く小生意気で、不遜な女と思われており、近寄り難い女として周囲からは認識されているだろうことは容易に想像できた。

（固いな・・・・・・女として・・・固すぎる・・）

　それが彼の冴子に対する印象だったが、同時にこの女の仮面の下に潜む本人も自覚していないマゾヒスティックな本質を感じることがあった。男に対する評価が、非常に厳しいのが冴子の一つの特徴とも言えたが、それは裏を返せば、あらゆる面で圧倒的に自分を凌駕して支配してくれる男を待ち望んでいるのだ。

（もったいないが・・・・）

　洋平は、自分のマゾ奴隷である姉とほぼ同じ顔をしたこの長身のグラマラスな妹に、欲情を感じる事が無い訳では無かったが、姉の理恵子の手前もあり、（いずれ機会があるだろう・・・・）と特段のアプローチはしてこなかった。仮に理恵子の存在が無かったとしても、抱くだけの女ならば困ることもなく、ガツガツとする必要は無かった。その機会が思わぬことから、予想よりずっと早く転がり込んで来た。

　トイレから帰ってきた冴子の上気した羞じらいを含む顔を見て、下着を脱いで来たことを洋平は確信した。

（最初のハードルは越えたな・・これからだ・・じっくり時間を掛けて育ててやる・・・・）

　洋平は、この狭い店の中で 二人のとびきりの美人に囲まれていることで、周囲の羨望の眼差しを感じていたが、まさか二人が下着を履かずに秘部を熱くしているとは誰も想像もしないだろうと考え、（俺だけが知っている）と奇妙な優越感を愉しんでいた。

＊

　冴子は 席に戻ると 若干正気になり自分のしていることを後悔し始めた。そもそも、彼は冴子がショーツを脱いできたか否かを知る術もないのだ。まさか、ここで見せろと言う出す訳もない。この私がなんでこんな事をしているのだという悔しさがこみ上げ、洋平を睨みつけた。何故、「服従」などと言うこの男の言葉に踊らされてしまったのだろう。

　だが、洋平と目が合うと、また、ぼぉーとしてしまう。下着がびしょびしょになっていたことなど知られている訳はないのだがそのことも見透かされているような気がする。

　しかし、洋平は、それ以上何も言ってくることもなく、時折、冴子の目をじっと見つめるだけだった。視線を感じるたびに、冴子は消えてしまいたいような気分になるのだった。

（このあと、どうなってしまうのかしら？・・・）考えると怖かった。

＊

　食事を終え『今日はここまでにしようか・・・又、来週な』と洋平が切り出したため 冴子は一人タクシーに乗り込んだが、姉の理恵子と洋平は同じタクシーに乗り去っていた。あの二人は今日セックスするのだろう。この後の、二人の営みを想像すると嫉妬心から胸がチクッと痛んだ。

（どんな事を？・・・どのような感じなのだろう・・・。）

　二人が裸で絡み合っている姿が脳裏に浮かび、置いてきぼりを食ったような、悶々とした気持ちのままタクシーの窓から見える外の景色を、眺めるのだった。

　部屋に帰り、バッグをソファに投げ、スカートを下ろした。

（やだ！）

　ショーツを履いていないせいで、太腿の内側が、女の花園から膝上１０cm程度まで愛蜜が垂れて、ベトベトになっていたのに今まで気付かなかったのだ。

（こんなになるなんて・・・・はしたない・・・）

　今まで交際した男達とのセックスの時でさえ、これほど濡れた事は無かったような気がする。

（でも・・・・気持ち良くなっちゃてたんだ・・・命令されたから？・・・服従できたから？・・・）

　洋平の『服従すれば・・・気持ち良くなれる』という言葉がフラッシュバックしてくる。

（わたしにも、できた・・・・・服従・・・できた・・・）小さく奇妙な満足感を感じる。

　服従という言葉がとても甘美なものに思えた。これは洋平の魔法なんじゃないだろうか？私がおかしくなっちゃったの？そんな事を考えながら、シャワーを浴び全身の汗と女の蜜を綺麗に洗い流した。

　シャワーで全身の汚れを落としスッキリとすると、少しずついつもの冴子に戻り始めた。

（この私に、あんな命令をするなんて・・いくら洋平さんでも許せない・・私はそんな厭らしい女じゃない。さっきは少しおかしかっただけよ・・男に服従するなんて・・あり得ない！）

　しかし、素早くベッドに潜り込みテレビのスイッチを消し部屋が静まると、さっきまでの事が又思い返された。

「服従・・」

　小さく声に出して呟いてみる。それだけで、また秘裂から蜜が溢れてきてしまった。

（いけない・・・わたし、そんな女じゃない・・・でも・・でも・・今日だけ・・・）

　自分に言い訳をすると、洗い流したはずが既にしとどに濡れている秘部に細く長い指をあて指先を湿らせる。湿らせた数本の指でクリトリスを擦りあげ、小さなオーガズムを迎えると、身体と頭の中の疲れがドッと押し寄せ、泥のように眠りについた。

　冴子にとっては、性に目覚めた高校生の頃以来のオナニーであった。