姉妹花

第5章

　
　翌週月曜日、冴子は、いつも通り職場で部下や同僚に指示を出しながら、社内のミーティング、クライアントとの打ち合わせ、書類作成などを次々とこなしていた。昨今の不況のあおりを受けて、不動産市況は厳しいものの、冴子の勤める会社は比較的高水準の利益を安定して出していた。

　週明けだったことから比較的忙しく、夜の１２時すぎに自分のマンションにやっと辿り着いた。美しい四肢を包んでいたチャコールグレイのタイトなパンツスーツを脱ぎ、黒のTバックショーツとブラジャーをはずすと、匂い立つような色香が解き放たれたように、艶かしい裸体が露になった。ガラス張りのシャワールームで、熟れた身体の一日の汚れを洗い落とすとバスローブに身を包み、パソコンを開いた。

　平日の夜、海外留学時代の友人などから来るメールをチェックするのが、冴子の一寸した楽しみだった。

　あの金曜の夜の出来事で週末は頭が一杯だったが、今日は幸いにも仕事が忙しく、頭の片隅に追いやることができていた。

（あのときの私・・おかしかったんだ・・もうあんなことはしない・・・）

　そんな事を思いながら、メールをチェックしていると差出人「洋平」の文字が目に飛び込んで来た。ドキドキとしながらメールを開くと、文章はなく、あるURLアドレスが記載されているだけだった。怪訝に思いながら、それをクリックする。

（あっ！！！）

　それは動画再生するファイルで、そこには、ベッドの上で、上気した顔をした女がペニスを懸命に頬張っている姿が映っていた。

「あはぁぁ・・素敵ぃ・・・ご主人様の太いです・・あぁぁぁ・・ここから出るザーメン飲みたい・・・んぅぅん」

　それは、間違い無く姉の理恵子だった。

＊

（姉のこんな姿を映した動画を送ってくるなんて・・・なんて人なの・・）

　怒りを感じながらも、冴子は動画から目が離せなかった。実の姉がペニスを愛撫している姿や、「ご主人様」などと口にしているのが衝撃的であったのも勿論だが、その姉が喉の奥まで咥えている肉茎が凄まじかったのだ。

（なにあれ・・・あんなの・・あるの？　先っちょが凄く太くて厭らしい形してる・・）

（今までの彼氏のモノは・・あんなのじゃ無かった・・・アメリカ人の彼だって・・あんなには・・・・怖い・・あんなのが口に入るの・・？）

（ましてや、あそこになんて・・）

　そんな事が頭をグルグルと駆け巡っていた矢先、動画は突然終了した。

　動画の送り主が洋平で、画像の女が姉であることから、あの凶器のような肉塊の主が洋平だということは容易に想像できた。もう一度再生してみたいような気持ちに襲われ、メールをクリックするか迷っていると、電子音がして新着メールの到着を知らせた。それは、又、洋平からであった。

【冴子・・先週は、ほんの少し踏み出せたな・・。冴子も、理恵子のように心から男に奉仕するようになる・・・必ず。今週の金曜日、理恵子は朝から下着を履いていないはず。冴子も・・・わかるな？】

　メールの文章はそこで途切れていた・・・。

（あの日、私が、命令されて下着を脱いでしまっていたことを、あの人はやっぱり知っていたんだ・・・・。）

（それにしても・・お姉ちゃん・・あんな嬉しそうに・・口で奉仕してた・・厭らしい・・）

　冴子は、フェラチオを経験した事が無い訳ではなかったが、好きではなかった。過去交際した男達に、どうしてもと頼まれてイヤイヤした事はあったが、おざなりなものだった。男の性器を口に入れるなど汚らしいと思っていたし、男に奉仕しているという行為が、プライドの高い彩子にしてみれば我慢ならなかったのだ。

　ところが、姉の理恵子はイヤイヤどころか、男をご主人様と呼び、苦しそうにしながらも淫靡な表情で男根を愛おしそうに、小さな口いっぱいに頬張って奉仕していた。

（洋平さんが、姉はマゾ奴隷だって言っていたのは・・・本当だったんだ・・ご主人様だなんて・・・信じられない・・・・汚らわしい・・・）

　動画の中で見た、ご主人様という言葉、男の太いペニス、姉の表情、すべてが頭にこびりついて、その夜、冴子はなかなか寝付けなかった。

＊

　その夜から毎日、冴子の頭の中は、洋平からのメールの最後の言葉でいっぱいだった。

（下着を脱いで来いっていうこと？・・・そんな・・・馬鹿にしてる・・）

　怒りを感じながらも、心の奥底で、何か蠢くものがある。

　SEXは嫌いではなかったが、クリトリスへの愛撫による軽いオーガズムはあるものの、それ以上の深いオーガズムは経験した事が無かった。女友達とのガールズトークでは、失神したりする事もあると聞いたことはあったが、とても信じられなかった。

『不感症なのかしら？』などと考えた時期もあったが、快感が無かった訳ではないので、セックスなんてこんなものだと片付けていた。セックスに心を奪われるなんて、頭の悪い女のする事だと思いもあった。

（でも・・この前・・・凄く気持ち良かったかも・・あんなにあそこが潤んでいたもの・・）

（どうしよう・・・脱いでいかないといけないの？・・・服従しないといけないの？・・）

　どうして良いのか分からず仕事中のふっとした時や、夜、一人になると、あの動画の事と洋平からのメールが思い出され、落ち着かない気分になってしまう。

＊

　３人で食事の約束をした金曜日を翌日に控えた夜、自宅でニュース番組をボォっと見つめながら、冴子は、明日どうしたら良いものか未だ悩んでいた。

　理性では、‘馬鹿馬鹿しい’、‘あの二人は変態なんだ’、‘放っておけばいいんだ’と解ってはいるのだが、自分の奥底には、あの時の驚くほどの愛蜜の迸りをまた経験したいという気持ちや、洋平のあの眼差しで下着を履いていない自分を見つめられたい欲望がある事に薄々気づいていたし、姉にも負けたくないというような奇妙な思いもあった。

　その時、携帯電話が鳴った。木曜日の夜中に電話が架かることなど珍しいが、携帯を開くと、「洋平」からだった。

「・・・はい・・冴子です・・・」

「・・・わかってるな？・・・・・できるな？」

　洋平の低く抑えた声が聞こえた。

　しばらく沈黙が続き、再度問いかける。

「冴子・・・・できるな？」

「・・・・はい・・・・」

　催眠術にかかったように、洋平からの問いかけに応えた自分に驚いた。

「今度は・・見せるんだ・・」

　冴子の返事を待たずに、電話は切れてしまった。

（・・・約束してしまった・・・）

（そう・・約束してしまったから仕方ないの・・私が望んでるんじゃない・・仕方ないのよ・・・）

　自分に言い聞かせると、何かストンと気持ちが落ち着いた。同時に、遠足の前のように、高ぶった気持ちでベッドに入った。

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2009.10.7掲載

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