潜入捜査、それはかなり危険度の高い仕事であった。
　ユリは、捜査官である。特に犯人のアジトに潜入をして内部から壊滅をはかる、いわば最前線で働いている。
　今回の任務はエステ業界大手のA社の捜査であった。
　できてから間もない会社だというのに売上を急激に伸ばしている。
　ただ一度エステをやると絶対にやめることができないという噂がたっていた。
　ユリは実態を掴むため客になりすまし潜入するというものだった。

　ユリはモデルと間違えられる程の容姿をしていた。
　長身でスラリとしたプロポーション、Eカップ程の豊かなバスト、ツンと上向きなヒップ、完璧なものであった。

「ようこそ！」若い女性が出迎える。
　店内は明るい雰囲気で心地よい環境であった。
　ユリは、早速カウンターに通された。
「本日は、いかがなさいましょう？」と店員がカウンセリングも兼ねた営業トークを始めていた。
　確かにこの雰囲気では、ついついエステの申し込みをしてしまう。しかしこれだけでなぜリピーターを獲得できるのか、ますますユリには疑問が沸いてきた。

　ユリは、初回に限り無料体験というエステを受けることにした。
　まず、エステを受ける専用の着衣に着替え、部屋に入った。
　その部屋にはベッドが置いてあり、お香が焚かれ、音楽が流れ、リラックスできる環境であった。
　全身をマッサージしてもらいパックをしてもらう、日頃の疲れも出たせいか、ついついユリはうたた寝をしてしまった。
　気がついた時には、ほとんどエステは終わっていた。
「いかがでしたでしょうか、お客様」女性店員は尋ねた。
「とてもリラックスできて気持ちよかったです」ユリは、心からそう思った。
　エステのパンフレットをもらってユリは職場に戻った。
　上司には特に変わったことはなく、単なる思い過ごしかもしれないと報告をした。

　数日後、
「ピンポーン」予備ベルが鳴った。
　出てみると宅配業者が小包を届けにきた。
　送り主はA社となっていた。
「ご注文の品、お届けいたします。ご利用ありがとうございました。なお、お客様の次回の予約は○月○日午後９時となっております。」
　ユリは、手紙の内容が理解できなかった。勝手に何かが送られてきて、次回の予約がされている。とりあえず封筒の中身を見てみることにした。
　そして、ユリは呆然とした。

　写真は、ベッドに全裸で横たわっている女性だった。顔にはモザイクがかかっていたがユリだとわかるのにそれほど時間がかからなかった。
　ユリは昔、犯人との乱闘でお腹に傷跡がある。傷跡がはっきりと写されていた。
　２枚目の写真は股を大きく開かれ、大人の玩具が埋め込まれていた。
　３枚目はアナルのアップ・・・
　卑猥な写真が複数入っていた。
　ユリは、この事態を飲み込むには少々時間がかかったが上司には相談をせず、自力で解決をしようと決意した。

　ユリは指定された日時に再びエステを訪れた。
　前回のような愛想のよい対応はなく、事務的に奥の部屋へと案内された。
　社長室らしき部屋に通された、そこには初老の男性が座っていた。
「よくお見えになりましたね、ユリさん。」何もなかったように男性は話し始めた。
「どういうおつもりですか？」ユリは態度こそ冷静であったが言葉にはかなり尖った気持ちがこめられていた。
「あんなことをして、許されると思っていらっしゃるのですか？警察に言ってもいいんですよ。」ユリは続けた。
「まぁまぁ落ち着いてください。やけに強気でいらっしゃるが何か勘違いをされているようですな。」そういうと男性はパソコンを操作しユリに見せた。
　そこにはユリに送られてきた写真がアップされていた。
　ユリは、黙り込んだ。
「実は私どもは、会員制のクラブを経営しております。ユリさんには、クラブに参加していただきたいのです。」
「クラブ？」ユリは聞いた。
「会員は各界の大物ばかりです。まぁ簡単に言うとクラブのホステスですかね。」男性は言った。
「引き受けてもらえない場合は、ご想像にお任せしますが。契約は１年、引き受けてもらえた場合は謝礼をお支払します、もちろん写真もお返しします。」男性は続けた。
「わかりました。」ユリにはその答えしかなかった。
　そして契約書にサインをした、内容は「何事にも逆らわないこと。」ただそれだけだった。