四章

　力なく立ちすくむ奈緒美の細い肩を抱きかかえて、京子は大きな十字架の前へ奈緒美を誘導する。
　軽い絶頂を体験した後の奈緒美は呆然と従っていたが、京子が十字架の前に止まると、自我を取り戻して京子に嘆願する。
「これは嫌です。絶対に嫌、」
　身を固くして動かなくなった奈緒美の目の前に京子はまだ湿っている指を差し出した。
「これが奈緒美の本性よ、特殊な匂いだけど・・ふふっ」
　京子が軽く笑うと奈緒美は羞恥で顔を赤く染め、下に向いて反抗を止める。
「貴女に逆らう権利はないの、嫌なら、娘を連れてくるだけ、娘は奈緒美のように心が強くないと思うの。ビデオを見せられただけで、自分の父親に絶望するでしょうね。あの娘の性格なら自殺するかも・・試してみる？」
　京子の問いに言葉無くうなずいた奈緒美は指示に従い、美しい裸身を十字架に差し出した。
　京子と俺は皮ベルトで両手首と両足首を固定する。
　奈緒美は太腿をきつく閉じて秘所を晒さないように身体を捻じるが、ベルトで固定されているので、思うように動かない形の良い乳房が揺れるたびに胸元のクロスが照明の光を受ける。
　幻想的な光景に息を呑んでただ見とれてながら、くぐもった嬌声がスピーカーから流れ始めたのでTVに目を向けると、女中が便器に跨りながら社長の男根を咥えている。
　局部がアップになると秘所にはピンクローターが装着されて、肛門に差されたストッパーは今にも押し出されそうに嬌声と連動するかのごとく、大きなうねりを見せている。
　京子は呆然とTVを眺める奈緒美の耳元に唇を寄せて
「見て、お手伝いさんが社長に食べられるわよ」
　京子の言葉と同時に女中は身体を痙攣させながら、肛門からストッパーを吐き出して、糞と尿を同時に噴出させる。
　装着していたピンクローターも尿の勢いに負けて便器に転落した。
　絶頂の中で叫ぶ女中の唇から社長の怒り狂った男根が吐き出されると、社長は女中に犬の姿勢になるように指示しながらシャワーを手にした。
　大理石調のタイルに手をついて、四つん這いになる女中の尻に熱湯をシャワーで注ぎ清めると女中は今までの嬌声と異なる絶叫をあげるが、姿勢は崩さない。汚物があらかた流し落とされるとシャワーの温度調整器がアップになり目盛りは５０度付近を指していた。
　社長は熱湯を絞り線状にすると膣と肛門を集中的に洗い始める。
　さらに女中の大きな絶叫が反響すると、社長の男根も呼吸に合わせて躍動する。
「社長は、食べる前のあのシャワーが大好きなのよ。見て、ピクピク動いてるでしょ。あれは、社長が興奮している証明なの」
　TVから目を叛けようとする奈緒美の顔を固定するよに美しく小さく尖った顎を押さえつけて
「今から目を離さないで・・いよいよお食事よ・・」
　熱湯を止め女中は緊張がほぐれたように肩を落とした瞬間、社長は傍らにあった氷水が入った風呂桶を女中の赤くなった尻に打つ。
　急激な温度変化に身体を震わせる女中だが赤くなった尻を高く上げて社長の挿入を待ち構えている。
　一連の行為がよどみなく流れていることから、おそらく既に何回も調教されたことが女中の行為から予測できる。
　社長の男根がアップになり、どす黒い亀頭と怒張により本来の色が見え始めた数個の真珠が画面いっぱいに映し出された。
　亀頭の先は氷水で引き締められた肛門に辿り着く。
　女中の腰をがっちりと掴んで引き寄せると社長は一気に貫いた。
　言葉にならない絶叫を振り絞る女中と対照的に淡々と腰を使う社長を見ながら反響する音声のボリュームを下げる京子は
「あれは真珠を埋め込んでいるのよ、昔は今のように玩具が無かったらしいから、社長は次々と真珠を入れたみたい。嵌められると癖になるわよ・・」
　美しい瞳から涙を流しながら奈緒美が否定する。
「主人の過去は見たくありません・・私は今でも信じてます。」
　この言葉に京子は鋭く反応し、口調を変えて詰問する。
「奈緒美、貴女の主人はもう社長じゃないの。この男が御主人様なのよ。奈緒美は私とこの男の持ち物。あの社長とは、ただ籍を入れてるだけ」
　京子の言葉が終わらないうちに、しっかりとした口調で奈緒美は凛とした姿勢を崩さず京子の瞳を見据えて言い放つ
「貴女が何を言っても、私は主人を信じてます。」
　京子は美しい顔を紅潮させて、奈緒美の頬を強く平手打ちすると
「何言ってるの。裸で十字架に張りつけされて、さっきは私の指でイッた牝豚が・・・臭いマ○コの癖にいい加減な事言うんじゃないわ。このファイルの日付を見なさい。つい数週間前よ。アンタが綺麗事言ってる横で狂った社長に犯されてるお手伝いさんの気持ちがアンタに解るの？　よく見なさい、オイルやローション無しに肛門にハメられたら・・・アンタに何が解るのよ！」
　京子の言葉に再生されているファイル情報を画面の隅に見つけると、言葉通り、今日から数週間前に作成され、タイトルはharuhotokenoまで読むことができる。
「匂いのことは言わないで！・・・」
　京子の言葉に涙声で反論する社長夫人は激しく身体を揺らし始める。
　全裸の美女二人が混乱している様子に俺はとまどいを感じて落ち着かせるために京子の肩に手を置いた。
　京子はビックリした様子で振り向くと、俺の顔を見て我を取り戻したらしく素早く映像を停止させた。
　沈黙が部屋に訪れると泣き止まない社長夫人の声が反響する。
　この部屋の音響効果に驚く俺に笑顔を向けると京子は以前のソフトな口調で社長夫人には聞こえないように小声で
「今日は中止しましょう。これからのことは私に任せて」と言うと俺の服を拾いあげて胸元に突き出した。
「貴方は先に帰って、また連絡するから・・」
　依頼者の言葉に逆らうすべもない俺は固くなった肉棒を下着に押し込めて着衣すると部屋を出ることしか出来なかった。

　依頼者の指示により、計画を中断した俺に残ったのは使い切れていない着手金と頭から離れる事の無い美しい社長夫人の媚態だった。お金は残っていても困らないが、社長夫人の映像と独特な匂いが忘れる事が出来ないことは明らかだった。
　数日経って他の仕事に追われる俺は旧知の友と情報交換すべく、いつもの店に顔を出した。
　歓楽街から少し外れた薄暗い夕暮れの路地裏の奥に古いワンショットバーの看板が点滅している。点滅は馴染みの客しか居ない合図だ。
　安心してオーク調の扉を開けると長いカウンターの奥に友人が座っている。
　ヘリボーンのブルゾンにアスコットタイ、椅子の傍らにはコートとハンチング帽が無造作に置かれている。身につけるものを手元に置くのが彼の主義だ。
　数年会ってないが、以前と全く変わらない様子に安心したがさすがに薄くなった髪はかなり白いものが混じるようになった。
　それは俺も同様なので口に出すつもりはないのだが・・・
　俺は友人から間隔の狭い椅子を四つ空けると静かに腰を下ろす。
　これなら会話を止めればただの行きずりの客にしか見えないからだ。
　タンカージャケットを脱いで隣の席に置くとマスターの差し出すウォッカを舐めながら、互いに簡潔に近況報告を済ませ、追われている仕事のアドバイスを友から授かり、一区切りつくと２杯目のウォッカが必要になったので、軽く手を上げた時だった。
「老師の噂、聞いてないか？」
　老師について口に出す事はお互いに必要最小限にしているのに、その話題に触れた友人の真意を量りかねて、俺は２杯目のグラスを掴みながら質問に答えずグラスの中で廻る大きな丸い氷を眺めていた。
「悪かったな・・忘れてくれ」友人の言葉には謝罪より不安が感じられたので
「俺は聞いてない、どんな噂だ？」
　グラスの中身を一気に飲み干すと席を立った。
「老師の術が必要らしい。金に糸目はつけないそうだ。地下の奴らが金儲けに必至だからいずれお前の耳にも届くだろう。」
　軽くマスターに合図して万札を一枚コースターの下に挟む
「盆暮れが近づくと毎年の事だろう。なにか変わった情報なのか？」
　俺はジャケットを羽織るとグラスを片付けるマスターに軽く会釈した。
「昔話を喋るだけで、年は越せそうな金額が提示されている。依頼者は堅気だし、ニュースソースも全く問題無い　俺が自分で確認した。」
　俺は友人の目を見て情報に偽りがないことを感じたので
「しばらく老師に仕送りしてないから、任せるよ。頼んだぜ。」
　友人の言葉を残すと俺は店を後にした。
　俺も老師に仕送りしなければならない時期だ。友人ばかりに頼る事はできない。
　咥え煙草に火を付けて決意した瞬間に、携帯の着信を示す振動が胸から伝わってくる。
　電話は、依頼者の京子からだった。