ずっと愛してます4
羅衣 作
第1話　愛されている女


　瑠璃子は自ら始めたことであったが、規格外である武史のタフガイぶりにさすがに身の危険を感じて、郁美達のアドバイスを求めて「美あんず」病院を訪ねた。

　訪問の連絡を受けた郁美は「美あんず」年長メンバーを招集した。
　彼女の相談内容は察していただけに入院組に加えて、年長メンバーに限定して集まって貰ったのだ。
　不在の亜紀とは iPhoneのFaceTimeで繋ぐ予定だ。
　このような事態では亜紀の判断が欠かせない。

　瑠璃子は到着すると皆が勢揃いしていたので戸惑ったが、一様に心配してくれることが心強かった。

瑠璃子　「皆さん来てくれて　ありがとうございます」
里奈　　「お気になさらないで」
郁美　　「ちょっと　無理してない？」
瑠璃子　「分かります？」
郁美　　「そこまで頑張りすぎなくても・・・」
瑠璃子　「自分で決めたことですし」
　　　　「皆さんに早く追いつきたいですし」
　　　　「今回　環さんにも」
　　　　「かなり手伝って貰っていますから」
　　　　「それに弥生さんは　わたしの宝物なの」
郁美　　「うん　でもね　いつでも言ってね」
　　　　「わたし達　同志なのよ」
　　　　「ライバルであって　そうじゃないからね」
一同　　「そうです」
悠希　　「それにしても　かなり大変そうね」
　　　　「顔色悪いわよ」
瑠璃子　「ちょっと　寝不足で」
玲奈　　「その様子じゃ　寝かしてくれない感じ？」
敬子　　「えっ？」
彩佳　　「あらぁ　そんな感じかぁ」
紗弥　　「そうなんだ」
瑠璃子　「はい」
　　　　「なんか日に日に凄くなっているような」
郁美　　「あちゃぁぁぁ　ごめんなさい」
　　　　「わたし　やらかした感じか」

　プルゥゥゥゥゥゥゥゥプルゥゥゥゥウゥゥ♪♪

敬子　　「あっ　亜紀姉様ぁ！！」
郁美　　「亜紀　ごめんねぇ　いつもいつも」
亜紀　　「もう　気にしないでぇ」
　　　　「肝心な時　留守で　みんな　ごめんなさい」
瑠璃子　「お忙しい中　申し訳ありません」
亜紀　　「聞いたわ　武史の奴」
　　　　「こちらこそ　ごめんなさい」
瑠璃子　「いえ　いえ　彼は　いや」
　　　　「武史さんも　苦しいのかも知れないです」
敬子　　「えっ？」
瑠璃子　「抱かれてると伝わってくるんです」
　　　　「彼　爆発しそうなんです」
玲奈　　「ふむ　若いだけに　暴走が止まらないのね」
悠希　　「そうかぁ　弥生さん知っちゃって」
　　　　「そこに瑠璃子様だから」
　　　　「止まらなくなっちゃんだ」
亜紀　　「環ちゃんが　週末しか　いないからね」
　　　　「平日が　持たないのね」
瑠璃子　「はい　平日は　ほぼ毎日呼ばれます」
　　　　「彼　覚醒が始まっているみたいです」
玲奈　　「覚醒？」
郁美　　「やはり」
亜紀　　「・・・・・・・・・・・」
敬子　　「なに？」
郁美　　「だとしたら　わたし達だけでは」
亜紀　　「こないだ郁美が言ってたことが・・・」
郁美　　「たぶん」
瑠璃子　「さすがです」
彩佳　　「なんの話？」
郁美　　「武史　特別な子なの」
玲奈　　「まさかあの・・・」
亜紀　　「瑠璃子さんが言うなら　そうみたいね」
郁美　　「うん　淫魔導師の資質を持つ者なのね」
敬子　　「え？」
郁美　　「だとしたら健二さんに相談した方がいい」
亜紀　　「そうね　ここは」
　　　　「わたし達だけで」
　　　　「無理しない方が良いと思うわ」
玲奈　　「わたしも　そう思う」
敬子　　「わたしは　郁美姉の判断に従う」
紗弥　　「同じく」
彩佳　　「郁美がそう思うなら　わたしも異論無い」
里奈　　「亜紀と郁美の判断に異論無し」
瑠璃子　「・・・・・・・・・・・・」
郁美　　「もうすぐ帰ってくるから　来てもらうね」
一同　　「うん」

　郁美は直ぐに健二にLINEでメッセージを入れる。

亜紀　　「ところで」
　　　　「弥生さんの様子は　どうなの？」
瑠璃子　「お陰様で　無事になんとかなりそうです」
郁美　　「良かったぁ」
瑠璃子　「どうやら」
　　　　「急に旦那さんが　抱いてくれたそうです」
郁美　　「あらっ」
一同　　「おぉぉぉぉぉ」
彩佳　　「なんというタイミングぅ」
亜紀　　「きっと弥生さんの変化気づいたんだろうね」
郁美　　「ちゃんと見ていたんだね　偉い♪♪」
敬子　　「素晴らしい　旦那さんナイスぅ」
玲奈　　「子供が出来ると　どうしてもねぇ」
　　　　「夫婦関係継続って難しいとこあるからね」
佳菜子　「そうなんですね」
亜紀　　「あるよね」
　　　　「うちは私を「ママ」と呼ぶのは禁止した」
悠希　　「なるほど　確かに女って受け身になりがち」
里奈　　「子供出来ると変わるのは夫も同じってこと」
郁美　　「覚えておきます　勉強になるわ」
紗弥　　「はい」
敬子　　「そっかぁ　なんか分かる気がする」
瑠璃子　「そうなんですね　凄く納得しました」
郁美　　「では　あとは如何に」
　　　　「瑠璃子さんの負担を減らすかですね」
敬子　　「環ちゃんが　行くまでの数ヶ月かぁ」
瑠璃子　「環さん　大丈夫でしょうか？」
郁美　　「大丈夫ぅ」
瑠璃子　「えっ？　なぜ？」
郁美　　「亜紀　　あれ話して　良いかなぁ？」
亜紀　　「そうだねぇ　あれは真理だと思う」
　　　　「自信持って　話してあげて」
　　　　「だだし　これは」
　　　　「「美あんず」メンバー限定の話にして」
　　　　「特に夫達には極秘に」
里奈　　「あら？　亜紀はご存じなんだ」
亜紀　　「うふっ　郁美に聞いたときは目から鱗よ」
里奈　　「なるほど」
敬子　　「えぇぇぇぇずるい　知りたい」
郁美　　「はい　なぜ環ちゃんが大丈夫か」
　　　　「分かる人いる？」
敬子　　「はい　なんとなく　ただどう言っていいか」
玲奈　　「はい　わたしは実感　ありまくり」
佳菜子　「凄い　分かるんですね」
郁美　　「玲奈さん　さすがです」
一同　　「・・・・・・・すごい　知りたい」
郁美　　「敬ちゃん　言ってみて」
敬子　　「なんというか　相思相愛で」
　　　　「なにより」
　　　　「彼に　めっちゃ愛されているからです」
郁美　　「はい　正解！！」
　　　　「環ちゃんと武史は　相思相愛」
　　　　「そしてなにより　武史が環ちゃんを」
　　　　「めっちゃ　愛してる」
　　　　「愛されている女は　最強よ」
　　　　「まして　今回相手は　彼なのよ」
　　　　「もう最高って　感じだと思う」
紗弥　　「なるほど　分かるぅぅぅ」
彩佳　　「確かに　そうね」
　　　　「今自分に当てはめて実感した」
悠希　　「うふふ　今実感したわ」
佳菜子　「そっかぁ」
亜紀　　「女は　愛されて強くなる」
瑠璃子　「なるほど」
　　　　「弥生さんが　急に元気になったのは」
敬子　　「夫の　誠の愛！！」
里奈　　「うわぁぁぁああ！！ぐっときた」
郁美　　「みんな実感あるから　分かると思うけど」
　　　　「女って肉欲　性感が深すぎて」
　　　　「飲まれると　実は脆い」
　一同頷く。

郁美　　「性感に溺れると　自分を見失う」
　　　　「だから女は強引に犯され続けると」
　　　　「負けて　性感に溺れて」
　　　　「なにもかも　捨てて　墜ちちゃう」
玲奈　　「そうなのよねぇ」
郁美　　「でも　そんな自分を理解して迎えてくれる」
　　　　「引き戻してくれる　夫や恋人がいると」
　　　　「案外あっさり戻れるし　自分を見失わない」
　　　　「実は　女はある意味　冷静で確信犯」
　　　　「普通の男性は」
　　　　「他人との性に溺れた女性を助けてくれない」
　　　　「逃げたり　見捨てて行ってしまう」
　　　　「だからこそ　そんな夫や恋人に」
　　　　「絶望し逃避して　肉欲に溺れてしまう」
　　　　「わたし達は」
　　　　「幸い　ちゃんと見守ってくれる」
　　　　「そういう人に巡り会えた」
敬子　　「そうかぁ」
　　　　「確かに環ちゃん引き戻したのも」
　　　　「武史君の愛だもんね」
郁美　　「そして弥生さんの旦那さんは」
　　　　「土壇場で踏みとどまって　彼女を守ったの」
　　　　「女って自分を見失っているようで」
　　　　「実は見失っていないの」
　　　　「戻る場所がないと　自ら堕ちていくことで」
　　　　「全てのことから逃避してしまうだけ」
　　　　「女は逆境に強いけど　愛のない環境では」
　　　　「もっとも弱い存在でもあるの」

　一同頷く。

亜紀　　「だから　今の瑠璃子さんは心配」
郁美　　「まあ　幸い武史は」
　　　　「まだセックスフレンド感覚だから」
　　　　「瑠璃子さんに」
　　　　「最後の一線は越えてないみたい」
敬子　　「えっ？」
郁美　　「刻印使っていないでしょ？」
紗弥　　「確かに　もしそうだったら危ないよ」
郁美　　「あの子律儀だから　自重してるのね」
瑠璃子　「刻印ってまさか」
郁美　　「そう　わたしが彼に・・・」
瑠璃子　「すごい　そうなんだ　知らなかった」


　瑠璃子は今日来て良かったとしみじみ感じていた。
　もやもやしていたことが紐解いていける。
漠然と自分自身も感じていたことを明快に言葉にして情報共有できるって凄いことだと思う。
　武史のことについて、自身が感じたことについて全て話すことを決心した。

　瑠璃子は、皆に五摂家に代々語られた伝説を話した。
「伝説の淫魔導師」そして「真・魔性」という存在について解説した。
　今、５大老は郁美を「真・魔性」だと認識していて、そしておそらく武史は「伝説の淫魔導師」に覚醒しつつあると思われることなども報告した。

郁美　　「わたし？　そうかなぁ？」
亜紀　　「まあ本人は無自覚かも知れないけど」
　　　　「海千山千の５大老が　もうメロメロだから」
里奈　　「誰もが認めるところかも」
敬子　　「うふふ」
悠希　　「わたしも　そう思います」
　　　　「私ゼウス様に抱かれたから　余計に分かる」
　　　　「実感する　郁美凄いと思う」
郁美　　「そう言われると　なにも言えない」
亜紀　　「恐らくは　瑠璃子さんも　そうでしょ」
瑠璃子　「えっ・・・」
亜紀　　「遠慮しなくても良いの」
　　　　「同性のわたしでも感じる」
　　　　「あなた　明らかにオーラ変わったわ」
悠希　　「そうです」
玲奈　　「わたし思う　それってある意味辛いこと」
　　　　「血の宿命みたいな感覚」
瑠璃子　「・・・・・・・・・・・」
紗弥　　「わたしも　色々思うところあるけど」
　　　　「郁美の生き方を支持してる」
敬子　　「はい　郁美姉　大好きだもん」
一同　　「だね」
亜紀　　「瑠璃子さんは」
　　　　「もう少し楽に生きても良いと思うよ」
瑠璃子　「なんか　答え貰った気がしました」
亜紀　　「うふふ」


健二　　「おおお　これは　美あんず　幹部会？」
郁美　　「お帰りなさい　あなた」
健二　　「ただいまぁ　光栄だな」
　　　　「なにか　あったのか？」

　郁美と瑠璃子が健二に現状報告と武史についての話を伝えた。
　健二は黙って最後まで聞いていた。

健二　　「ふむ　そういうことか」
　　　　「話してくれて　ありがとう」
郁美　　「ごめんね　いつもあんまり話さなくて」
健二　　「いいさ　みんなを信じているし」
　　　　「こういう時にちゃんと相談してくれたし」
　　　　「問題ない」
郁美　　「うふっ」
健二　　「確かに　現状ではキツイと思う」
　　　　「既に武史君は」
　　　　「郁美に肥料たっぷり貰ってるから」
　　　　「もう　あとは　知識が足りないだけだ」
　　　　「瑠璃子様は　真逆　経験だけが足りない」
瑠璃子　「それは自覚してます」
　　　　「だから彼と」
健二　　「いや　これ以上は彼とは経験にならないよ」
瑠璃子　「えっ・・・」
健二　　「それには　彼に匹敵する男を」
　　　　「２人ほど　食べ尽くし」
　　　　「視野を広げる必要がある」
亜紀　　「あらぁ！！」
郁美　　「それって・・・」
敬子　　「まさか」
彩佳　　「そういう方法？」
玲奈　　「まあ　理屈としては王道なのね」
里奈　　「そういうもの？」
健二　　「まずは　徹　そして　俺？」
敬子　　「ああ　怪しい　願望入ってない？」
健二　　「失敬な」
郁美　　「うふふ　まあ　良いけど　確かにね」
　　　　「あなたの言うとおりだと思う」
健二　　「だろ？」
紗弥　　「それにしても　嬉しそうなのが」
健二　　「え？」
亜紀　　「まあ　多少願望は入っているけど」
　　　　「許してあげる」
　　　　「それに　確かに　健二さんは鍵だと思う」
健二　　「・・・・・・・・」
郁美　　「えっと　瑠璃子さん　日曜夜帰りだっけ？」
瑠璃子　「月曜朝帰りでも　大丈夫です」
郁美　　「なるほど」
　　　　「敬ちゃん　徹　また借りちゃって良いかな」
敬子　　「もちろんです」
郁美　　「そしたら　徹に連絡するね」
敬子　　「きっと　徹　喜んで来る」
彩佳　　「あらま」
敬子　　「浮気者なんです」
　　　　「ずっと瑠璃子様　気になっていたみたい」
一同　　　（笑）
瑠璃子　「えっ？　わたし狙われてるの？」
敬子　　「はい」
郁美　　「でも徹は武史とは全く違うタイプだけど」
　　　　「ある意味　最強モテ男子だからね」
里奈　　「うふふ」
瑠璃子　「・・・・・心します」
亜紀　　「あはぁっ　天然ものだからね」
　　　　「弟より最強男子かも」
健二　　「では　強化プログラム開始だな」
一同　　「はぁぁぁい」



　徹は就職する設計事務所も決まり、お世話になった大学研究室の後片付けに汗を流していた。
　まだ同級生の何人が未だ就職が決まっていない中であったので、彼らの分も資料整理もフォローしていたのだが、やっと一区切りついた時であった。
　郁美からの電話してとのLINEだ。
　急いで席を外し、郁美に電話する。

　徹は郁美の声を聞くだけで高揚する。
　妻である敬子にも常々申し訳なく思い謝っているが、彼にとって郁美は未だ絶対的な女神的な存在であって盲目的思慕の情が隠しきれない。
　敬子自身も郁美に対して実姉以上に慕っているから許されているようなものだと自覚している。

　そんな彼女からのお願いは、想定外の素晴らしいものであった。
　つい先日に講習と称して夢のようなご褒美を郁美から貰った彼は意外と冷静で、今回は「会」絡みの依頼だろう事は予想していたのだ。
　なにより郁美が「会」から最上級の評価を受けたことが、ますます彼を精神的に成長させた。
　あの講習の日の経験が、彼を真にモテ男としての才能を開花させたのかも知れない。
　
　もちろん妻である敬子への愛情に一点の曇りもない。
　むしろそこを疎かにしたら、現在の彼は存在しないであろう。
　全ての困難を乗り越えてこれたのも、敬子が彼を精神的に支えてくれたからだ。
　だから妻への愛情表現には一切手を抜かないし、常に彼女の周囲には目配りしている。

　彼は敬子が愛していてくれるからこそ、現在のような立場にいて多くの女性と合瀬出来るが、もし彼女を失ったら全てを失うと自覚していた。
　実はこの自覚が彼を最強たらしめるものなのだが、もちろん本人はこの点については意識していない。
　郁美は常に敬子と話し合った上でしか、このような話を自分に持ってこないと知っていたので素直な気持ちで話に乗る。
　郁美の期待は、愛妻敬子の期待に応えることになるのだ。

　それにしても今回の話はご馳走過ぎる。
　遠目で見かけただけで、その美しさに目を奪われた瑠璃子と過ごせとの依頼だ。
　あの佳子の実姉というだけでも、姉妹丼達成の膨れあがる期待が抑えられない。
　早々に彼は動き出して、直ぐに山田家が資本参加している有馬温泉宿を確保する。


　
　瑠璃子は半信半疑でこの流れに身を置いていた。
　なんとなく健二が言っていることは分かるが、自分が新たな男に抱かれることに果たして意味があるのかはイマイチ理解できない。
　武史との経験は、やはり愛している人、愛してくれる人が不在であることを思い知らされたからだ。
　健二がじっくり抱いてくれれば、それで自分は満足だし次の階段に上れるとの思いがあったからこそ、許しを請うために郁美に会いに来た部分もあったのだ。


　約束の時間に、「美あんず」病院玄関ロータリーに佇む。
　もうすっかり日が落ちて暗くなっている。
　軽くパッシングしながら白いＢＭＷ車が入ってくる。
　目の前に止まると運転席から若い男が降りて瑠璃子の元に駆けてくる。

徹　　　「瑠璃子さんですね」
　　　　「すいません　お待たせしました」
瑠璃子　「いえ　こちらこそ急に」
徹　　　「とりあえず　こちらに」
　　　　「今日　風が冷たいですね」
瑠璃子　「ありがとうございます」

　瑠璃子の釈然としない気持ちは、徹の自然体の笑顔が全て吹き飛ばしてしまった。
　たった今あったばかりなのに、助手席に案内されて座るだけの過程で彼女は彼の素晴らしさに感嘆する。
　なんの迷いも無く手を引いてエスコートしてくるし、彼女を守っているという空気感が凄い。

　男性の器量を瞬時に見極めることが染みついている彼女は、意地悪な気持ちが芽生えて車に座る直前にバランスを崩してみせる。
　彼は一言も発せず、彼女フォローしてバランスを戻して普通に座らせてくれる。
　惚れ惚れするような厚い胸板と腕で、彼はＳＰなのではないかと思ってしまう程だ。
　一瞬、動揺して彼の顔を見てしまう。
　少年のような無邪気な笑顔が罪悪感を抱かせる。

徹　　　「さてと　とりあえず出発します」
　　　　「夕食も用意して貰っていますので」
　　　　「急ぎますね」
瑠璃子　「突然で　ごめんなさいね」
徹　　　「いえ　ずっと話したいと思っていたので」
　　　　「大歓迎です」
　　　　「あのう　もう二人っきりだし」
　　　　「堅苦しいのナシにしませんか」
瑠璃子　「うふふ　そうね」
　　　　「なんか新車の匂いがする」
徹　　　「はい　納車されて　１週間かな」
瑠璃子　「あら」
徹　　　「そこに女性が座ったのは」
　　　　「瑠璃子が二人目だよ」
瑠璃子　「まあ」
徹　　　「４月から社会人なんで」
　　　　「初めて自力で買いました」
瑠璃子　「そうなんだ　これってドイツ車よね」
徹　　　「そう　M135i xDrive ってやつ」
　　　　「人生初のローンだよ　あはは」
　　　　「何事も経験だからね」
瑠璃子　「なにか　徹さんに似合ってる」
徹　　　「ああ　さんは止めようよ」
瑠璃子　「えっ・・・徹？」
徹　　　「そう」

　瑠璃子は人生初めてのドライブデートを楽しむ。
　横に座っている好青年は、あの武史とは全く異質な存在なのだと知る。
　会話していても彼女が期待しているリアクションしてくれるし、彼が上っ面だけで会話を流していないことが感じるだけに自然と話す内容がディープなものになっていく。
　気がつくと「美あんず」女性達と大差ない話をしてしまっていることに自分自身で驚く。

　車は、「有馬温泉　御○荘　花結び」に着いた。
　露天風呂付き個室があるのが売りの温泉旅館だ。
　２人は夕食の準備が整った客室に通された。
　旬の和懐石料理が楽しい。
　食事が美味しいと自然と会話も弾む。
　温泉旅館ならではの空間雰囲気が特別な時間を演出する。
　二人っきりの食事をこれほどウキウキさせてくれる彼の存在に感服してしまう。

　不意にこの彼も既に敬子という愛妻がいて、そして郁美と亜紀達に愛されているのだという事実が悲しく感じる。
　その時であった。
　彼が不意に立ち上がって、対面にいる彼女のそばにやってくる。
　戸惑う彼女が言葉を発そうとするのを彼が指で唇を制する。
　一瞬の心の動きが顔に出たのか、彼は彼女の切ない気持ちの変化を察してみせたのだ。

　驚きと共に急に身近に感じる男性の存在に狼狽える。

　彼女に天使のような笑顔を浮かべた彼が迫っていた。


つづく
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あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
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2021年3月14日掲載
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