ずっと愛してます4
羅衣 作
第42話　愛の紋章


　米田直子は郁美との交流で女性の生き方における多様性を学んだ。

　郁美は自分自身の生き方はむしろ異端であって、人として女として決して清く正しく正統な生き方ではないと直子達年少組にはことあるごとに語っていたのだ。
　直子達年少組からすれば、郁美の生き方は誰もが常識とか道徳観とかに囚われて避けてしまうものだが、実は生物学上メスである本質としては一番素直な生き方なのだとも見えていたのだ。

　郁美は料理を極めたが、その本質は運命の人である健二に尽くさんがためであり、肢体の美を追究する日頃の努力もしかりである。
　ある意味、彼女は健二のために自らの全ての可能性を捨て去れることで「オンナ」を極めたのだ。
　だからこそ郁美は自ら進んできた選択の方向性が如何に危ういものであるかを誰より理解していたのだ。

　そのため年少組の女の子達には、全てを１人の男に捧げるのは間違いとは言わないがリスキーであり、決してベストな未来に辿り着かないことを伝えていたのだ。
　結果、直子達女の子達は自ら見つけた道を走り始めていた。
　彼女達の胸の内には、先輩として憧れである郁美の思いが息づいていた。
　いつの日か、郁美から凄いね、頑張ったね、綺麗になったねって褒めて貰うのが彼女達共通の夢となった。


　直子は、関西外○語大学に進学した。
　麻里と同じく東京地区への進学も考えたが、彼女の軸としては海外留学があったので、それまで郁美と過ごす時間を少しでも確保するために関西地区を選んだのだった。
　「美あんず」の中だと気づかないが、実は直子は超がつく「ザ・美少女」であった。
　既に中学生時代から街を歩けば、スカウトと称する人達から声を必ずかけられるほどだ。
　基本的に語学系学校は女性比率が高く、大学ともなると女同士のマウンティング争いは熾烈だから異様に容姿が目立つ直子はターゲットになりやすい。

　直子は一般家庭の子だが、凌から麻里と同じく手厚い保護と支援を受けている存在だから生活水準は飛び抜けている。
　彼女自身は若さ故に一時的に浮かれてブランドモノを買ったり贅沢に溺れた時期もあったが、いくらでも贅沢できる筈の郁美や亜紀の質素な姿に気づかされたのだ。
　もちろん住んでいるところであったり、環境は別格なスケール感なのだが、亜紀と郁美の金銭感覚と価値観の本質は等身大で贅沢とはほど遠いものだったのだ。
　その結果、直子達年少組も良いお手本が存在するから誰１人浮かれて堕落した生活を送る子はいなかった。
　だから直子は与えられた生活環境はありがたく受け入れながら、真面目に勉学に励むスタイルだ。

　それでも直子はハンドバッグか好きで、凌が一緒にお出かけしたときに買って貰ったエルメス×バーキンを数点持っていて愛用している。
　直子の場合は天然でただハンドバッグ好きで他意は無かったのだが、１９歳の女の子が数百万円するものを持っていれば、それは明らかにマウンティング行為に他ならないであろう。
　ただそれは圧倒的なHIGH SOCIETYの証でもあるので、自然と彼女の周囲に裕福な子女達が集まってくるアイコンとなる。

　誰しもそんな極端なお金持ちアピールは控えるものだし、両親も配慮するものだろう。
　直子の場合は、もともと一般家庭育ちだし、両親もまさか娘が超高額なプレゼントを贈られているとは考えもしないし、娘が持ち歩くハンドバッグがそんな高額品とは知らなかったのだ。
　一般家庭で女性モノのハイブランド品を興味でも無かったら分かる人は少ないし、そもそも見たこと持ったこともないであろう。

　もちろん娘がなにかしら恵まれた待遇であったり、持ち物が良かったりしたので、娘が援助交際など人には言えないことをしているのではないかと心配したことはあったのだが、田原グループの亜紀から直々に挨拶されて彼女の支援をしたいと申し出されて驚きつつも受け入れざるを得なかった事情も大きい。
　父親は田原グループ企業に勤めており、亜紀の申し出を断る選択肢は無かったのだ。

　そんなこんなで直子も自然と裕福な家庭出身の子達グループの一員になるが、本人の意思にかかわらず通学は凌が用意した車ロールスロイス ファントムの送迎であった。
　当初電車通学していた直子は痴漢被害にあって、それを心配した郁美が凌に相談すると、彼女専用に送迎車が用意されたのだった。
　これは波紋が広がって、東京に行った麻里にも、残る涼子にも同様に送迎車が用意されることになったのだ。

　そんな状況だから、周囲から見れば直子は別格の裕福な家庭の子女に見えたことであろう。
　ただでさえ目立つ容姿であるから、学内でも有名人になってしまう。
　周囲が騒がしかったが、当の本人は自身が定めた目標に向けて語学習得に全力投球だった。
　もともと英語は得意で高校時代からトップクラスで既に日常会話程度あればマスターしていたので、後は実用ビジネス英会話レベルに学んで、可能であれば建築工学関係のものも身につけようとしていたのだった。

　直子は部活など興味が無くて授業以外には大学では活動していなかったのだが、注目を集めていた様で学内にとどまらず近郊の大学生が彼女を見に来る状況だった。
　実際に数名の男性から交際を申し込まれるほどで、断るのも大きなエネルギーがいるので年上の彼氏がいると宣言してしまう。
　それでも疑い食い下がってしつこくする者もいる。

　直子は徹にそんな状況を相談する。
　徹の心情は複雑だ。
　しかし彼女に他の男性に目を向けることを話すれば、ますます頑なになるばかりだ。
　いずれにせよ、しつこい奴は問題なので彼女を守る役割を演じることにする。
　わざと目立つように車で定期的に送り迎えをすることにするが、これの副作用に気がついていなかったのだ。

　確かに彼の存在が認知されて彼女への男性からのアプローチは激減したのだが、自分自身の心が揺らいでしまう事態に陥るとは夢にも思っていなかったのだ。
　１０代後半から２０代という女の子の成長は、男の想像を軽く越えてくるのだ。
　まして徹は直子と同年齢の妹環がいるから、彼女は可憐なタイプで可愛い妹的な存在との認識だ。
　成り行き上で肉体関係は出来てしまっていたが、認識として可愛い子というものだったのだ。

　直子にすれば、結果的に大好きな徹と日常的にドライブデート出来ることになったのだ。
　本気の女の子は一気に女への階段を駆け上っていく。
　助手席から見る彼の存在に、トキめきが止まらない。
　途中おねだりしてカフェに行ったり、夕食に行ったりするから楽しくて仕方がない。
　なにより既に身体の関係があるから、彼女も大胆だし遠慮が無い。
　彼女自身可愛い系イコール幼いとコンプレックスがあるから、大人の女性に成長したいと日々努力する。

　徹は逢うたびに雰囲気が変わる直子に戸惑い始める。
　カフェで向かい合って話す時は、彼が知っている彼女でよくしゃべりよく笑う年相応の女の子だ。
　なのに車の中とか、夕食を一緒にする時は違った雰囲気が漂うのだ。
　直子達年少組とは無原則に関係しないように努力しているし、出来れば彼女達が卒業してくれることを望んでいるのも本心だった。

　自重しているのだが、ふっと感じる色香に狼狽える。
　妻敬子がアルバイトホステスして不在の日が増えて、生じた心の隙間に直子の存在が埋めていく。
　これは女の本能だろう。
　直子は徹の心に生じた動きを感じて、彼を絡め取っていく。
　直子自身は敬子を姉のように思っており、裏切ろうとか悪意があるわけではないが、自分なら徹に淋しい思いをさせないという女の本能に突き動かれていたのだ。

　急激に距離が縮まる２人の距離。
　結果、煩雑に２人はラブホテルに立ち寄って愛し合う様になっていく。
　それは直子に残っていた女の子の部分をあっという間に変えていき、成長し一気にオンナを開花させてしまうことになる。
　目覚めてしまった若いオンナは、規格外に貪欲だ。

　ベットで彼から離れようとしないし、もっとしようと積極的だ。
　徹は元気爆発で次第に溺れていく。
　ベットでも彼女の成長は止まることを知らないし、徹が学んだ事柄を彼から追体験して吸収していく。
　女は抱かれた男からあらゆるものを吸収し成長していくのだ。

　送迎途中という体裁上、その日その日時間には限りがあるから、もう帰らなくては焦る気持ち。
　それなのに年下の彼女が妖艶にフェラチオしてきて延長戦をねだってくる状況。
　肉体関係がありながら「妹のような存在」と嘯くことで自制して封印している気持ちが次第に崩れていく。

　直子は小柄だし、バストも小さめでスレンダーな女の子だ。
　でも目鼻立ちがハッキリした可憐な子で、その子が上目遣いで情熱的にフェラチオしてくれる情景の破壊力は抜群だ。
　戸惑っていると自らイマラチオしてくるから、不意打ちで暴発しそうになる。

「こんなに愛してくれているのに・・・」
「僕はなにをしているんだろう」
「直子・・・」

　急に膨らむ健気な思いに対する気持ち。
　思わずイマラチオを中断させて彼女引っ張り上げる。
　困惑している彼女の瞳はイマラチオで苦しくて涙が揺れている。
　彼女は背伸びして自分に尽くそうと必死なのだ。
　抱き寄せるとキスして思いっきりギュッと抱きしめると、彼女から甘い吐息が漏れる。
　その身体を上下入れ替える。

　優しく頭を撫でてあげる。
　親指で彼女の瞳からこぼれた涙を拭ってあげる。
　そのままディープキスでお互いの思いを確かめ合ってしまう。
　直子は歓喜して彼に心の全て開放してしがみつく。
　２人の魂と魂が溶け合って絡み合う。
　徹は直子を手放したくないと思ったし、それによって生じる問題の責任を全て背負う覚悟を決めたのだ。

「直子　僕は逃げていた　ごめんね」
「こんなに愛してくれているのに　決めたよ」
「直子　僕も愛しているよ」

　熱く繋がり合う２人は両手を繋いで愛し合う。

「あん♡　あんぅ　あん♡　そこぉ　あん♡」
　グチュゥゥパフゥ♪♪グチャルプゥパァ！！
「ふん　ふん　はぁっ　ふん　ふん　はぁぁ」
　グチャルプゥパァ！！グチュゥゥパフゥ♪♪
「はぁん　あん♡　いっいぃぃ　はぁん　あん♡」

　直子は今までに経験したことのない深いセックスに溺れ、彼の逞しいものが体内で熱く脈打つ感覚に満たされていく。
　彼の全てが愛おしく感じるのだ。
　例え結婚という女が普通望む形が望めなくても、彼のために生きていきたい、彼の傍で生きていきたい、彼の必要な存在でありたいと強く思ったのだ。
　もう心の壁も魂の壁も無いから、徹が注ぐオーラを丸呑みしていく。

　結果、刻印という概念を越えた「愛の紋章」が直子に継承されることになってしまうのだ。

　徹は直子を愛すれば愛するほど、自分の身勝手な欲望で彼女の可能性を閉ざして縛ってしまったのではないかと悔やみ生涯苦しむことになってしまうのだった。
　確かに結婚という形は叶えられなかったが、直子は結果的に妻である敬子より彼の傍にいる存在になってしまい実は幸せだったのだ。


　「愛の紋章」継承は「会」性調教師では幻の究極秘奥義とされており、未だかつて意図的に行うことを習得した者がいないとされている技であり、徹が継承した事実が発覚すると「会」五摂家制度を根幹から揺るがすことになるのだった。
　彼らが驚き恐れたのは、最強エロス女王「真・魔性」の女達を唯一上回り食べ尽くし、彼女達を従えて覇王として君臨する「淫魔道士ヤマタノオロチ」の証が「愛の紋章」継承とされていたからだ。

　「淫魔道士ヤマタノオロチ」は名門公卿４２家全ての始祖にあたる伝説の先祖だ。
　彼は当時の「魔性」の女達と交わり、７７人の男児を設けた。
　そして存命で成人した息子達を分家して、後の世で公家の基礎となる４２家起こしたのだ。
　全ての始まりを生んだ者と同じ才覚が現代に現れたのは、その流れを基とする五摂家には一大事だったのだ。
　まして長年生まれてこなかった「魔性」の女達が輩出しだしたタイミングなのだ。

　動揺する周囲を他所に、当の本人である徹は自ら引き起こした事態に奔走する。
　本人は自覚していないが、自ら継承した「愛の紋章」によって直子は強くなってしまったのだ。
　若く日に日に輝きを増す彼女に、彼は驚きと共に引きずられていく。
　その傍らアルバイトホステスで働く妻敬子の変貌ぶりに胸騒ぎがとまらない。

　つい先日までビールが苦い嫌いって言っていた妻はいなくなって、帰ってきて入浴上がりでビール一缶をケロッと飲み干すようになったのだ。
　それだけだど落胆でもあるのだが、その先がある。
　働く前は普通にラブラブにしよか、という若夫婦ならではスタイルだったのに、今では妻がエロエロになってしまったのだ。
　濡れたままの髪で迫ってくる妻は超エロい。

　連日の夫婦生活は以前よりむしろお盛んになったと言って良い。
　普通であれば夫は満足しそれなりに大人しくなるであろうし、もう出ないというところまで毎晩奮戦するので精力の限界もあるだろう。
　徹は規格外で翌日の昼頃には玉袋パンパンにしてケロッとしているし、彼には逢瀬したいという女性が途切れない中での直子の吸引力は凄まじい。

　もとより２人は美男美女ぶりは際立っているから、非常に目立つ。
　ほどなく「美あんず」に察知されることになる。
　「美あんず」全員が誰より徹の魅力を知り尽くしているから、誰も直子の行動を咎めなかった。
　なにより皆が彼に惹きつけられることを自覚しているから、若い直子が自制効かないのは責めることは出来なかったのだ。
　
　ただ敬子だけはショックを受けていたから、郁美が見かねて動いた。
　３人を「美あんず」病院に招いたのだ。
　先に徹・敬子夫妻が訪れた。

郁美　「徹　お久しぶりね」
徹　　「郁美　ごめんなさい　心配かけちゃって」
郁美　「徹　わたしじゃなくて」
　　　「こういう時は敬ちゃんを見て欲しいの」
敬子　「わたしが悪いの」
徹　　「僕が」
郁美　「敬ちゃんは悪くないし　徹も悪くない」
郁美　「とりあえず　直ちゃん待ちましょう」
徹　　「郁美　・・・・・」


直子　「こんにちは　遅くなりました　お邪魔します」
郁美　「ゴメンね　呼び出して」
直子　「いえ」
郁美　「早くこっちにいらっしゃい」
直子　「敬子姉さん　ごめんなさい　わたし」
敬子　「ううぅん　直ちゃんは悪くないよ」
郁美　「敬ちゃんは悪くないし直ちゃんも悪くないよ」
郁美　「徹も　悪くないよ」
　　　「３人とも　若いのよ」
　　　「お互い惹かれ合って当たり前」
　　　「まして　徹　あなたって特別な人なの」
「今まで　本人には分かりづらいから」
　　　「言わなかったけど」
　　　「もう　潮時」
　　　「徹は　わたしが知ってる限りで一番の」
　　　「モテモテ男子なの」
徹　　「・・・・・・」
郁美　「わたし　徹にあれ駄目これ駄目なんて」
　　　「言うつもり無い」
　　　「だって　素が徹の魅力だもん」
徹　　「えっ　いいのそれで」
郁美　「そうよ　今回は徹も全く悪くないと思う」
　　　「だって　直ちゃん大切だと思ったんでしょ」
徹　　「はい」
敬子　「・・・・・・・・」
直子　「徹さん・・・」
郁美　「だと思ったけど」
　　　「そうじゃないと 徹じゃない」
　　　「ただ今回の機会に　徹に自覚して欲しいの」
徹　　「自覚？」
郁美　「あなたは女性が望むものを全て持ってるの」
　　　「そして　あなたの全てに」
　　　「女を変えてしまうチカラがあるの」
　　　「わたしも今も　徹　愛しているわ」
徹　　「郁美・・・・・・」
郁美　「敬ちゃん　ごめんね」
　　　「でも　わたしは健二さんを選んだの」
　　　「そして徹　あなたは敬ちゃんを」
　　　「敬ちゃんは徹を選んだの」
徹　　「はい」
敬子　「徹・・・・・」
郁美　「男と女　惹かれ合う愛し合うのは」
　　　「悪いことじゃないし」
　　　「わたしと徹も　こうして生きてきた」
　　　「でも残念だけど　妻は１人しか成れないの」
　　　「直ちゃん　これって辛いこともあると思う」
直子　「はい」
郁美　「でもね」
　　　「わたし　そういう生き方もあると思う」
　　　「そして　その先にも女の幸せはあると信じる」
直子　「はい　ごめんなさい　わたし・・・」
郁美　「あと　敬ちゃんが　どう思うか　ね」
敬子　「正直　今回　ショックでした」
徹　　「ごめんなさい」
直子　「すみません」
敬子　「でもね　今の話で納得した気がする」
　　　「だって　郁美姉が徹と結婚してたら」
　　　「その時は　間違いなく」
　　　「今の直ちゃんと同じことすると思う」
徹　　「敬子・・・ごめん」
　　　「郁美　敬子や直子いや女性皆のことを考えて」
　　　「行動することが大事ってことだね」
郁美　「もう　あなたって　凄すぎる」
徹　　「てへへ」
郁美　「ところで　徹　しばらく見ないうちに」
　　　「凄い成長したね」
　　　「なにかに目覚めたのかな」
徹　　「えっ？」

　郁美は彼女が知りうる「淫魔道士」についての話と、その資質が徹にあると思っていることを話したのだ。

　郁美は自覚してこそ「淫魔道士」は覚醒するし、成長すると信じていたし、なにより愛する徹を守りたかったのだ。

　「天然淫魔道士」は、愛すべきオンナ達に育まれてスクスク成長を続けていたのだった。


つづく
【前頁】/【次頁】
あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
羅衣さんの作品集→羅衣さんの他作品
2022年5月28日掲載
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