ずっと愛してます4
羅衣 作
第41話　ホステススタッフ３


　松本莉佳は予定通り亜紀とバトンタッチして任務完了で帰宅するだけの筈だが、凌のことが気になって田原家に向かっていた。
　コラボーレーションセックスを通して、莉佳は凌が大好きになってしまったのだ。
　彼の亜紀に対する真っ直ぐな愛が一緒にいてなにより清々しいし、彼の人柄に惚れてしまったのだ。
　そしてあのロケットのようなセックスにド嵌まりして快楽落ちしてしまった。

　その彼が諸事情理解しているとはいえ、愛妻が不倫しに行っている状況でお留守番しているなんて肉体関係のある女の１人として放置しておけない心境だったのだ。
　もちろん自分では亜紀の代わりには成れないとは理解しているが、別にセックスしたい訳でもなく話し相手でも良いと思ったのだ。
　なにより彼は、莉佳にHIGH SOCIETYの生活を提供してくれる男性なのだ。
　
　実際、訪問すると、凌は凄く嬉しそうな笑顔を浮かべて出迎えてくれたのだ。
　その笑顔だけでも莉佳は、やっぱり来て良かったと満足していたのだ。
　女にとっては慕う男性が自分の存在で笑顔でいてくれることが何事にも代えがたい価値があるのだ。
　今回の役割を果たしたことへの労いの言葉も嬉しい。

　いつもは亜紀や涼子が一緒にいる環境だったから、二人っきりという環境になにか新鮮な感じもする。
　大人の彼は若い男のようなガツガツしたところがないから、こういう時は自分からちゃんとアピールしないと駄目だと理解している。
　２人でバーボンを楽しみながら、莉佳の方からボディタッチして彼にオッケーサインをアピールする。

　察しの良い彼は、途端に嬉しそうに彼からもボディタッチがあるから「きゃはぁはぁ」と楽しげに応える。
　ロックバーボンを続けて５杯ほど飲んだから、ほどよく気持ち良く酔ったから横になりたいと立ち上がるとフラフラと歩き出す。
　女の子が使うありふれた誘いの手口だ。

　凌も乗ってくる。
　危ないよと言いながら、客室のベットまで連れてってくれる。
　莉佳はお約束通り、行っちゃ嫌と彼に抱きつく。
　見上げてキスをねだる。
　彼とは年齢差があるから莉佳は年齢相応に可愛く振る舞うだけで十分だ。
　ゆったりとした大人の時間が莉佳を包んでいく。



　亜紀は経験したことのない深い快楽の絶頂を満喫していた。
　数え切れない数の男達とセックスしてきた彼女であったが、極上の男は数えるほどしかいなかったし、その極上の男達は「美あんず」メンバーが夫として繋いでいてくれる状況だから望めばいつでも逢瀬出来る環境を彼女は作り上げていたのだ。

　今まではパートナーである郁美が開拓してくれて色々と環境作りをしてくれたのだが、彼女が身重の間は亜紀が自ら動く必要があると認識していたのだ。
　もちろん現状でも蒼々たるメンバーが揃っているが、時流は流れていて自らが当事者の九条家絡みの事案は待ってくれない。
　だからこそ佳菜子と勇人のことにも積極的に関与したし、従姉妹である瑠璃子と佳子にも急速に手を伸ばしたのだ。

　瑠璃子とは違い、ノンケである佳子を半ば無理矢理女同士に引き込んだのも彼女の夫となった綾小路優貴が欲しかったからだ。
　亜紀自身と「美あんず」のエキスを吸い尽くした夫である凌の破壊力は、妻の彼女から見てももはや敵無しの領域に達しているから彼に抱かれたオンナは彼に無力だし、結果的に亜紀のモノになる形が出来上がっていたのだ。
　あの「魔性」を持つ佳子ですら１夜で屈したのだ。
　もう周囲には亜紀の意向で動くオンナ達が配されているから、あっという間に優貴が連れてて来た２人の女性にも亜紀の手が伸びてきた。

　松本莉佳を悠希が連れてくると亜紀は凌に手伝って貰い１夜で調略してしまう。
　もともと莉佳は妹分の佳菜子のスタッフとして大切な養成対象だから、重用し優遇したい対象だったのだ。
　彼女も亜紀の影響をモロに受けて、早々に欲張りなオンナぷりを発揮して、優貴とのセックスを満喫しながら虎視眈々と亜紀との逢瀬を画策していたのだ。



　西園寺勇人の離脱で「王妃の三銃士」は完全に空中分解してメンバーはバラバラになった。
　佳子の結婚により存在意義が無くなったので当然と言えば当然ではあるが、彼の離脱が決定的な出来事であったのは事実だ。
　リーダーであった鷹司 翔も、あの日以来迷走していたが、自身が佳子から選ばれなかったのも自分自身が未熟だったからと自己分析していた。
　勇人は実家を捨てて佳菜子という九条家の亜紀が寵愛する女性に走ったことも驚きだった。
　なにより自分自身があの日以来、他人妻である敬子が忘れられなくなっている現実があり、自分が未熟なんだと思い知らされていたからだ。

　セックスはさておき、自分は女性という存在を理解していないのだと思ったから自らそういう場に足を運ぶようになった。
　友人に誘われてキャバクラなどに通ったが、望んだような女性に出会えなかった。
　神戸の経験から銀座に出向いたが、名門の子息といえど紹介も無しに２０歳半ばの若造が簡単に銀座高級倶楽部に出入りできるような甘い世界では無かったのだ。
　もちろん父親世代に相談すれば紹介してくれるであろうが、結局家のチカラを利用する形であり自分自身が納得する形では無かったのだ。
　迷ったあげく彼は悠希に相談したいと考えて、再び神戸にやって来たのだった。



　上条美琴は負けず嫌いな性格だから、いつの間にか生じた莉佳との差を埋めるチャンスを虎視眈々と狙っていた。
　なにより自分自身でも天職に出会ったのではないかというホステスという仕事に全力を注いでいた。
　悠希というお手本のような存在に強く惹かれた。
　彼女から紹介された祐司から実に多くのことを学んでいて、立派に佳菜子が不在な穴を補って有り余る活躍を見せ始めていた。

　翔は悠希に素直に打ち明けてしまう。
　するとそれならばと源氏名「ミレイ」こと美琴を紹介される。
　容姿端麗でハキハキ話す彼女に驚く。
　その日はもう既に人気ホステスになっている彼女とは僅かしか話せなかったが残念であった。
　その日は悠希も忙しい中、彼のことを気遣ってくれて対応してくれたので退屈しないで過ごせたのだ。
　翌日は予約を入れて貰えたので、かなりの時間を過ごすことが出来のだが、彼が探していた女性だと確信してしまう。

　もうそこからは彼はかなり積極的だ。
　毎週週末には神戸にやって来て、通い詰めるようになるし、美琴の同伴出勤も勝ち取るようになる。
　アフターデートも何回か楽しんだけど、思うように彼女との距離は縮まらないが凄く楽しく時間は過ごせているし、彼女と一緒にいるだけで楽しくって仕方がない。
　次第に彼に今まで感じたことが無い女性への感情が芽生える。
　女性をセックスの対象としか考えていなかった自分を恥ずかしく思うように変わっていく。

　そうなると全ての言動、行動が見違えるほど変わってくる。
　美琴や悠希は忙しくてずっと席には居てくれない。
　そこにヘルプの女の子達が来てくれるのだが、その子達への態度が激変する。
　どうしてもお目当ての女の子がいないとテンションダウンする顧客は多いし、その場の雰囲気がそれなりになるのが普通だ。
　翔はヘルプの女の子達を大事にするようになり、積極的に名前を覚えて楽しく盛り上がるようになったのだ。
　
　ホステスの世界は歴然とした競争社会だ。
　面白い話だが、ヘルプクラスの子達にとって場が盛り上がることは輝くチャンス到来なのだ。
　必然的に目立とうと色々し始めるし、色んなことを話し出すのだ。
　すると自然と他の顧客からも目にとまる機会が増えることにも繋がる。
　もともと女修行を意図した翔にとっても、同年代の女性陣の考えなど訊く良いチャンスとなったのだ。
　ヘルプの子達が行きたがる席となると、俄然メインであるミレイ（美琴）の株が上がることに繋がるのだ。
　結果、美琴にとって優先度の高い顧客として翔に接するように変化していく。

　それは結果的に同伴出勤、アフターデートの優先度が上がっていくことになるから、思うように彼女と過ごせる時間が増えていくことになる。
　もちろん投資額に見合った形で優先度は上がるのは事実だが、結局女性陣からの信頼度が一緒に上がらなければ彼女達はアフターデートなどしてくれないのだ。
　それだけ店外で行動するというのはリスクを伴うものであり、結果的に顧客を犯罪者にしてはいけないという不文律もあるから隙を見せないという対応になるのだ。

　翔の投資額は中の上といったレベルであったが、ホステスからの好印象と抜群の容姿、家柄があっただけでなく、なにより美琴が密かに気に入ってしまったことが優先度が高くなった理由だ。
　ホステスも女だから、好きなタイプの男性を優先するのは致し方ない。
　ここまできて、翔は西園寺勇人がしきり中村佳菜子との距離が縮められないとずっと悩んでいた時のことを思い出す。
　それを悩みすぎだと笑い飛ばしていた自分が今頃恥ずかしくなる。

　今正に自分が以前勇人が悩んでいた状況そのものだ。
　夜の街で楽しく遊んで、さあこれで決めるぞと意気込んでも美琴には見事に何度も逃げられてしまう。
　以前神戸に三銃士で来て、アフターで一夜の天国を謳歌しのは彼女達が意図的に自分たちを試食しただけのラッキーだったと気がついたのだ。
　「会」で出会う女性や学生時代に出会った一般女性とは全く違って、全く手も足も出ない。
　五摂家の子息として、三銃士として、全く苦労知らずだった自分がここまで未熟なんだと思い知らされた。

　とはいえ日本支配層頂点の名門である鷹司家嫡流としてのプライドがある。
　勇人が乗り越えられた女性のガードを破れないなど、一族の恥だと自分を奮い立たせた。
　思えば勇人が廃嫡騒動を起こす頃には、彼が一回りも二回りも大きい存在に見えたのも事実だ。
　その騒動の経緯でも伝え聞いた佳菜子の態度に、夜の世界にいる女性の矜持を粋に感じていた。
　もし自分が勇人の立場だったら彼と同じ選択が出来たのだろうかと先日は迷っていたのだが、今の自分だと彼と同じ選択を出来るし確信があったのだ。

　そんな翔の精神的成長を間近で見守っていたのは他ならぬ美琴だった。
　倶楽部顧客年齢層は４０代から６０代が大半であり、彼は美琴の１歳年上の２５歳というダントツに若い太客でもあるし凄いイケメンなのだ。
　面食いでミーハー気質の彼女が彼に特別な感情を抱かないはずも無い。
　もちろん潜入警察官・護衛官としての研修真っ最中であり、結婚とかありふれた夢はまだ意識の外だが、セックスは大好きなタイプだから虎視眈々と狙っていたのは事実であった。

　美琴の本質はホステスの皮を被った警察官であったことで、佳菜子とはプロ意識が全く違うのだ。
　なので気に入った男性が現れたら女丸出しで、男性に執着するリスクが内包していた。
　その可能性は悠希は予期しており、既に亜紀と連携して事態の推移をワクワクしながら見守っていたのだ。
　亜紀は既に九条家当主代行として女ならではの策謀に動き出していていた。
　翔を調略したら鷹司家次世代はオンナネットワークの勢力下に落ちてしまうのだ。

　悠希にすれば美琴は佳菜子に続いて見つけた逸材であり、あと１年もすれば有名なホステスになるとの予感すらしていたほどだ。
　もう今では祐司との関係ですら見事なほどの距離感で駈け引きしている状態で、まだ若い翔がすっかり彼女の虜になるのは想定通りだったのだ。
　そして美琴が一目で翔が好きになっていることなどもお見通しであったが、もう彼女も恋愛営業の天賦の才を発揮して自らの肢体プレミアムを極限まで高める姿に、唆した張本人なのに末恐ろしいものを感じていたのだった。

　翔の様な血気盛んで、お坊ちゃま育ちの若い男性は、それをやられたらひとたまりもないよねと俯瞰して眺めていたのだった。
　まあ新人だし彼女も若く元気なので早々に許しちゃうのかなと予想していたのだが、その後数ヶ月にわたって彼は彼女に翻弄され続けていくのだ。
　オンナ全開で格上の男をガチ恋させる才能にさすがの悠希は脱帽であった。
　もうイケイケドンドンの若いオンナに怖いものは存在しなかった。



　そんな兄貴分である鷹司翔の様子に、面白半分で三銃士だった嵯峨悠真が反応した。
　とある週末、翔と悠真は２人で神戸にやって来た。
　悠真はあの夢のような一晩以来ぶりだった。
　彼にはあの夜の経験は刺激的過ぎて実は忘れようとしていたのだが、兄貴分格の２人が崩れるように女達に屈していく様に興味そそられたのだ。
　実際、悠希への憧れが忘れようとすればするほど、大きくなるのことに戸惑っていたのだ。

　実は勇人より早く直ぐに神戸に来ようとしたのは、悠真だったのだ。
　翌日から再び悠希に会いたいと何度も連絡してきていたのだが、上手くかわされて断られてしまったのだ。
　その後数ヶ月に渡って煩雑にやり取りしてアプローチしても進展はなく平行線で現在に至る。
　肉体関係が出来てから突き放されるパターンは初めての彼は困惑したが、やはり三銃士として評価されてきたプライドもあるから悠希のことは諦めようと努力したのだ。

　そんな彼の間近では兄貴分格の２人が次々の女達に嵌まってく状況が展開して無関心ではいられなくなったのだ。
　なんといっても悠希を忘れられないというか、もうすっかり惚れてしまっていて夢にまで出てくる。
　悠希との再会は気が引けるが、まあ友人との同行だと許されるだろうとの願望も入っている。
　見苦しくても、LINEじゃなくて面と向かって話したいとの気持ちも強い。

　倶楽部で出迎えてくれた悠希の顔色が曇る。
　悠真は、やはり勝手に来たのはマナー違反かと後悔するが、朝起きたら居なくなっていったというパターンのまま終わりは淋しくて顔を見たかったのだ。
　思わず申し訳なく会釈すると、笑顔で返してくれた。
　その笑顔でまた惚れてしまいそうになる。
　席に着くと、もう翔はミレイ（美琴）が来てくれて夢中になってる。
　一息していると意外なことに悠希がやってくる。

悠希　「嵯峨様　お久しぶりです」
悠真　「その節はお世話になりました」
　　　「悠真って呼んで下さい」
　　　「なんか淋しいです」
悠希　「うふふ　ではそう致しますね」
　　　「悠真様」
悠真　「おっいいねぇ」
　　　「そう　先日はいろいろお見苦しいところ」
　　　「見せてすみませんでした」
悠希　「いえいえ　こちらこそゴメンなさい」
悠真　「あんな気持ち初めてだったので」
悠希　「私もです」
　　　「でも私　分かって頂けるかしら」
悠真　「はい　冷却期間が欲しかったみたいな」
悠希　「さすがだわ」
悠真　「俺もお陰でクールダウン出来ました」
悠希　「うふふ」
　　　「大人の事情理解してくれて嬉しいです」
　　　「では　悠真様に素敵な子ご紹介します」
　　　「カリンちゃん　こっち」
莉佳　「はい」
悠希　「こちら　カリン（莉佳）ちゃんです」
　　　「うちのいち押しの女の子です」
莉佳　「カリンです　お邪魔致します」
悠希　「こちら嵯峨悠真様です　よろしくね」
悠真　「おっとぉ　悠真です」
　　　「うっはぁ」

　悠真はびっくりだ。
　ミレイ（美琴）もモデル級の美女なのに、それにも負けない美女が現れたからだ。
　正直、倶楽部にはどれだけの美女が集結しているんだと思ったほどだ。
　悠希は笑顔で去って行くが、清く彼女への未練は封印するのが大人だと思った。
　若い悠真は切り替えが早く、モデルのような容姿で気持ち良いくらいハキハキと話すカリン（莉佳）に惹きつけられてしまう。

翔　　「おっとぉ　カリンちゃん来たんだ」
悠真　「エッ知ってるの？」
翔　　「当たり前だよ　今」
　　　「ミレイちゃんとカリンちゃんは」
　　　「２人この店のエースだぞ」
悠真　「マジで！！　道理で美人な訳だ」
莉佳　「うふっ」
悠真　「よっしゃ！！　カリンちゃん指名ね」
莉佳　「あら　他の子会わなくて良かったの？」
悠真　「もう一目惚れ　ビビッときた」
莉佳　「まあ」
悠真　「俺の直感に外れはないと思ってるタイプ」
莉佳　「光栄です　絶対後悔させませんわ」
悠真　「よし　そしたらシャンパン飲もうよ」
莉佳　「ありがとう　なににする？」
悠真　「ちょっと甘口が良いけど　どう？」
莉佳　「はい　それならアルマンドのレッドが良いな」
悠真　「よしそれで　みんなで乾杯しよ」

　悠希はホッとする反面、若い悠真が思ったより大人なのが複雑だ。
　かえって彼への評価が高くなってしまい、自分のオンナの部分が揺らめくのを感じて狼狽えてしまう。
　かなり年下の彼だが生粋のサラブレッドであり、全ての所作に一流の風格があり、まだ経験が少ないから知らないことも多いがイイ女に出会えば急激に成長する資質が見えるのだ。
　翔や勇人もそうだが、彼ら三銃士はさすが佳子がキープした男達だと感心しきりだ。

　悠希ですら心揺らいでしまうほどの男達だ。
　とはいえ悠希は年長の自覚もあるし大事な夫も居るからここは我慢しどころだから、翔から悠真の同行があると美琴に連絡が入った時点で半ば強引に莉佳を準備しておいたのだ。
　今の店には、悠真に対応出来る女の子は彼女しかいないと思ったからだ。


　悠希には美琴と莉佳の２人に、夜の蝶として天性の資質があって、最高の顧客を迎えて羽を広げている情景が見えるのだ。

「この２人は　絶対もっともっと売れるわ」


つづく
【前頁】/【次頁】
あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
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2022年5月14日掲載
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