ガラス細工の少女 ひら 作
◆第２章 　彼女の表情からは恥ずかしさも、そして動揺みたいなものも全く感じとることができなかった。 　栞は俺の目の前に立ったままの状態で淡々とセーラー服の上着を脱いでいき、腰のファスナーを下ろしてスカートを脱ぎ終えると、それらの衣服を丁寧に折りたたんでいく。 　―― 生真面目な性格に加えて、几帳面でもあるということか‥‥。 　俺はそんなことを思いながらも、徐々に露わになっていく十代の少女の瑞々しい身体のラインに視線が釘付けになっていた。 　ほっそりとった。 　―― 俺はそれを振り払うかのようにして、少女の身体をさらに責めていく。 　固く勃起した乳首の表面を爪先でカリカリと引っ掻いてやりながら、包皮を剥き上げたクリトリスの方も指の腹でクニクニと押し込んでいく。 「あっ、あああっ！ はあああっ！ へ、変になる‥‥、変になっちゃうううっっ！」 　少女の身体が弓なりに激しく仰け反っていく。 　俺は乳房と陰部への愛撫をさらに続けていきながら、乱れた黒髪から覗く可愛らしい耳たぶを咥えて軽く噛んでやる。 「あううっ！ あふうううっっ！ はああああぁぁぁっっ！」 　嬌声を張り上げながら、少女の身体がびくん、びくんと何度も痙攣する。 　俺はその波打つ身体をしっかりと抱き締めてやりながら、これからのことをボーッと考えていた‥‥。 　しばらくすると、平静を取り戻した栞が膝の上からするっと立ち上がって、ショーツだけの裸身で俺の方を振り返った。 　本当に人形みたいな姿だな‥‥と思いながら、彼女の大きな瞳をじっと見つめてから、俺はふうっと息を吐き出す。 「もう‥‥やめた。‥‥栞、服を着てくれないか？」 「え‥‥？ ど、どうして‥‥？」 「君には‥‥まだ早いと思ったからさ。今回が君にとっての“初めての経験”になるんだろう？」 「っ‥‥」 「これでお終いだから、約束どおりに１０万円は支払うけど‥‥。できればこれからは、お金のために自分の身体を売るようなことは止めてくれるとうれしい‥‥」 「な、なぜ‥‥ですか？」 「これからの君のことがとっても心配だから‥‥かな？」 「そ、そうじゃなくて‥‥まだ早いという理由がわかりません。もう経験している子だって‥‥」 「うまく言えないけど‥‥今、君の初めてをもらったとしても、全然うれしくないと思ったから‥‥」 「うれしく‥‥ない？」 「だって‥‥君の心はここに無いだろう？ 別のことで頭が一杯になっていて、自分自身を見失っているようにしか見えないんだ‥‥」 「わ、わたしは‥‥本城さんのことを、恋人だと思うように頑張ったつもりです！」 「俺に自分の裸を見せる時も‥‥、大切なところをいじられている時も‥‥、君は恥ずかしいという気持ちが欠落していた。君にはまだ“愛し合いたい”“セックスをしたい”と想う男と女の気持ちがわかっていない‥‥。だから、君にはまだ早いと言ったんだ」 「そ、そんなこと無い‥‥。私は精一杯、あなたのことを感じたいと思っていた‥‥」 「栞。もう無理はしなくていいいんだ。お金で君を買っておきながら、こんなことを言ってしまう俺の方が変だということも十分にわかっているし‥‥」 　―― こんなことで現実の苦しさから逃避しようとした俺が全て間違っていたんだ。 「栞。これでさよならだ。お金を持って、帰ってくれ」 「で、でも‥‥」 「君とはもともとそれだけの関係だ。お金をもらえば、もうそれで十分だろう？」 「で、でも‥‥私は‥‥このままじゃ、納得できません！」 　そう叫ぶ少女の真剣な顔つきを見ていると、胸の奥の方がどんどんと重たくなっていき、そして苦しくなっていく。 　俺はそれらをはね除けるようにして叫んでいた。 「たのむ！ もう出て行ってくれっ！」 　栞はその言葉に一瞬だけ悔しそうな表情を浮かべたが、下を向くとコクンと一つうなずいた。 　そして、俺に背を向けると、淡々とした仕草で下着を付け直し、たたんであった制服を着直して、小さな声で「さようなら」と言ってから、玄関に向かって静かに歩いて行った。 　俺はソファに座ってうつむいたままで、玄関のドアが開閉する音を聞いていた。
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2010年5月8日掲載
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