ヒトツバタゴの咲く島で


ヒトツバタゴの咲く島で【知佳の美貌録】知佳作
仕入れてきた女を仕込む「こげんこつ知ったら、あんひとどげん…」　こういうこととはすなわち、籍を入れる前に孕んでしまったことを指す。　厚生班という職業柄、更には僻地対馬の最北端にある離れ小島で隔離状態に置かれ国防に当たるこの地でいうところの「防人」という環境がら、営外隊員の各ご家庭の奥様方から暗に望まれ、必要に迫られコンドーム販売をしてはいた。が、当の幾世は未婚故必要ないとみなされてるだけに、しかも売店と言っても人事班や会計班も僅か１０坪ほどの狭い室内に机を並べ、隣り合わせで職務に当たっていて、出入り口近くにショーケースはあるものの、商品を取り出すとなると、どうしてもみんなの目や意識がそちらに向く。　そんな環境下で２００人の隊に５人しかいない、ただでさえ目立つ、それも隊員が最も熱い視線を送っている嫁入り前の女がコンドームを買うなどということは、閉鎖的なこの地にあってできるはずもない。　しかし、一方で足入れ漢の来訪を心待ちにし、義理の姉や親の承諾の元、半ば公然と日毎夜毎絡めば２０代前半、性ホルモンがそれでなくとも活発化しているだけに否が応でも女が芽生え、漢が愛撫中に必ずと言っていいほど口にする、言い寄る男たちのことが頭の片隅を過れば妄想が湧きおこらないはずもない。そのよう深い交わりに進むと、当初は恥ずかしいだの想う人への背徳感だのは消え失せ、躰はもちろん、気持ちだって昂ぶる。秘部が勝手に肉塊を求め、奥へ奥へと引っ張り込み、体液の受け入れ態勢に…、というのは好き嫌いは別として♂と♀の交合上自然の摂理。　その幾世は聞き及ぶ限り神社で躰を重ねた浦川、足入れ漢よりひとつ年上で先輩に当たる高橋、更には泉部落の漢集と、数限りない漢どもと過去幾度となく欲情の果てに交尾している。足入れ漢が耳元でささやく不貞の相手に、当然この漢どもは混じっていた、が、長電話の浜田も含まれたのではなかろうかと思われる。幾世の義理の姉や彼女の旦那の目を盗み、義理とはいえ妹の幾世と密かに情を交わし、知らん顔で義理の姉へと舞い戻り…などということを平気でやれるほど、達夫はこと性に関しては節操のない絶倫漢であった。精への尺度はアイヌを祖に持つだけあって野性味があり、常人のソレとは桁違い。とにかくしつこかった。　新婚気分も〇ヵ月などというのは、新鮮味こそ味わい深いの例えからきているのであろう。そんな絶倫漢を閨に引っ張り込みながらこの頃では既に、幾世はその閨中にこの兆候を示したようなのだ。なまじっかの勃起では、達夫の腰振り時間では満足してくれないのである。　焦る達夫はまずいとわかっていながら寸止めできず、逆に拒否られることが多くなると嫉妬に火が付く。危険日とわかっているにもかかわらず、婚約者なるものへの既成事実を作りたく、孕んでくれさえすれば本人も、そして周囲の漢どもも諦めてくれるのではなかろうかと思い、中出しを繰り返してしまっていた。　父親の癌告知から比田勝の病院での闘病、朝夕の見舞い、時として徹夜の看護に明け暮れ、亡くなれば亡くなったで葬儀と、精神や体力の限界を極めているにもかかわらず、達夫や義理の姉は婚儀と、婚儀に至る既成事実つくり以外考えていなく、彼らの勧めでしぶしぶ内地での不妊治療のためフェリーを使って渡航した。この間を通じ達夫は、つかず離れず生活を共にしつつ、胤付け交尾を、内地のホテルであろうが一泊入院の院内であろうが一向に頓着せず治療の一環と称し交尾を繰り返したのである。　思わぬタイミングで結果が出た。　春に始まる対馬銃弾駅伝大会に引き続き、西部航空方面隊警戒監視団の大会でも海栗島は、元監督が海栗島を離れて後、浜田が集団を引っ張る形で優勝に貢献し、その甲斐あって念願の郷里への転勤が半ば決まりかけていて、転勤の準備をし始めていた。　時を同じくして幾世は、急激な激太りが始まり、自分の躰を自分で支えることが出来なくなり、久しく対馬を離れていた。　舞い戻り、真っ先に耳に飛び込んできたのが浜田の転勤話し（……いけない、あの人が手の届かない場所に去ってしまう……）　大きくなり始めた腹をさすりながら幾世は、ある場所に向かっていた。比田勝港の岸壁の左端に建っている脇本商店の倉庫の２階は倉庫を改良し、簡易な部屋に区分けされ、アパートとして使われていた。　そのアパートの錆びた鉄製の階段を大きな腹を抱えながら、荒い息を吐きつつ上り、砂埃が舞う廊下を浜田の部屋を探し行きつ戻りつしていた。　こうしてる間に、もしも浜田の部屋に行きつき、あの人が帰ってきて部屋に入れてもらえ、事情を説明することで契れたなら、腹の子を彼の子として認知してもらえるやもしれない。もしもそうなれば馴染み過ぎた漢どもに三行半を言い渡し、電話でとはいえ言い交した彼に乗り換え…と、考えてのことであったろう。　それをまた、自分の意志で出向いたのではなく、世間といおうか浜田の上司が騒ぎ立てるものだから仕方なし…、にしてもらいたかったようなのだ。籍を入れるまで、どこで何をしようが勝手という、女がよくやるやり方を幾世も今際に、つまり孕まされて初めて早まったと気が付き、引き返したい思いに駆られ、思い余ってこのような愚行をやってみたようなのだ。　幾世がこの期に及んでなお、心を寄せる浜田は、あのバーのママさんにこの話しを切り出され、「浜ちゃん、ウチん来てくるるもんやけん、てっきり佐恵子ばって思うちょったばって、アン女まだ忘れられんとね」　生まれて初めての女に病気をもらったことは、本人から聞かされていた。にもかかわらず童貞か、それに近い男となると敷居が高いようなのだ。　それであってもやりたがりのママ、豊かな乳房や太股の奥を魅せ付けられ、気がヘンになりかけ、立ち去りたくても立ち去れないでいた。　ママの狙いは浜田の初物然のチンポではなく、１００万優に超える共済会の貯蓄（地元の十八銀行ではない）である。要は本人が引き出して持ってきてくれない限り手が出せないのである。「花子ばどげんしたとね、ええ子やなかね」　必要に迫られ、右往左往してるというのに、差し出そうとしてるのは娘の佐恵子でもなければ、自分の使い込まれたアソコでもない。娼婦の花子を世話してあげるから、お金を貸せという。「見てみらんね、隣でんあんたん持っとーお金出せば、いくらでん貸してくるるばい」　あれほど色気話しに付き合ってあげたというのに、一銭だって持ってくる気がなけりゃ、隣の桂にでも行って抜いてもらうんだねと美代子ママ。　何を隠そう、売り上げを上げるため、連日流れの漢を引き込んで、腫れが引かないほど使いまくっていて、只でさえ下半身が重いのだ。　そのバー桂で「あっ、あああああンンン……」　対馬流の客あしらいを教えてやると言われ、ノコノコついていった沙織は、ソファーの上に押し倒され、下半身を広げられ、余程焦ったのだろう、いきなり花芯をクロッチ越しに舐め上げられ歓喜とも恐怖ともつかない嬌声を上げていた。　沙織はつい数日前までごくごく平凡な人妻だった。バー白鳥のママの元に通い詰めるロハ漢じゃないが、働かないで遊んでばかりいる亭主が、競艇で擦った挙句借金のカタに獲られた。それが沙織だった。指を使い広げ見るヒダの色も、ついこの間まで人妻だったとは到底思えないほどきれいなピンク色をしている。　　これならばバー白鳥のママの顧客をごっそり頂くのも夢じゃないと、バー桂のマスターはほくそ笑んだ。白鳥をこの界隈から追い出そうとしてる黒幕は、実は親し気に口をきいてくれるはす向かいにあるバー桂のオーナーだったのだ。　バー白鳥が立ち去った跡地にオーナーは、売春用のなにがしかを、あの料亭に向こうを張って作ろうとしていた。それはこうだ。バー桂に呑みに来た客の中で女を欲しがってる客だけこっそりバー白鳥が立ち退いた建屋に送り込み、そこで沙織のような女を使って玉も金もすっからかんになるまで抜いやって、以降バーに来なければ落ち着かないような精神状態にしてやろうとしてたのだ。　場所さえ教えてやれば、そこはマグマが暴れて難儀している漢のこと、以前から極秘裏に売春が行われていたであろうことは耳にしてるであろうから、女の体臭や屋外に漏れ出る淫臭を易々と嗅ぎつけるだろうし、その女のひとりを席にはべらせれば、飲み代を多少吹っ掛けても阿吽の呼吸で納得し女の後について行ってくれるからだ。　問題は女の質だ。美代子ママは根っからの漢好き。漢を送り込んでやりさえすれば損得抜きで乳繰り合う。　その気になった客に、そんな気になりきってない女をあてがえば、最初は金をつかまされるだろうから快く開いてくれても、しつこすぎるとなるとあと後が続かない。心配でならないオーナーの堤は、直々に己のチンポを使い女を仕込むことにし、どれぐらい接客できるかテストすると称し新しくできた建屋に連れ込みコトに及んだ。「ああああっ　ア～ンアンアン　はああぁぁぁ……」　脱がせてクレバスに沿って舐め上げ、豆の皮をめくり始めると腰を浮かせ、挿入を乞うてきた。「はあっ、あああっ……オーナーさん……ステキよ……はああああっ」　ぐっちょぐっちょと音がし始め、竿を引き抜くたびにまとわりついた白濁液が肉壁と肉胴の隙間から溢れ出てソファーに滴る。　オーナーは我を忘れ、ピンクの花びらを激しくえぐった。　一目見た時からやりたいとチャンスをうかがい、耐えに耐えてきた逞しいチンポの一突き一突きが、ご無沙汰妻の膣奥深くに突き刺さる。　オーナーは生涯を通じ最高と思えるほどに、この女の肉壺へ凄まじい快楽を与えた。「あああっ……、オーナーさんの、固い、いっぱい出して！」　ソファーのスプリングが軋むほどに、オーナーは強く貫いた。女は何時しか、夢中になってしがみついていった。　女の態度が豹変したのは汗みずくになったオーナーが、彼女の胸に溢れ出た汗が滴ってはと引き抜いたからだ。「ふふふっ」「何がおかしい？」「だあってえ～、接客とか言ってえ～～……、ホントのところ、溜まってたんじゃないの？　……ホラホラ、ココこんなに膨らませちゃってえ～」　他にいくらでも女の子がいるというのに、何故自分が選ばれたのか。果たして本当にお駄賃貰えるのか。先にそれを約束させない限りアソコは旦那の専用物、入れさせるつもりはないようなのだ。「儂が信用できんとでも言うのか？　払わんとでも？」　いきり立ってみせるが、福岡で盛大に札びら切ってた堤と比較し、比田勝に来るまでの船の等数といい、連れ込まれたバー桂なる建物を見せられたときといい、その貧相さたるや絶句モノで、急階段を転げ落ちたと自戒してしまったが、それでもなお博多の女であるという自負が消え失せず、騙された感が渦巻き、到底信用に値しなかったようなのだ。「ここがと言われた部屋だって、あれじゃ県住の方がまだましよ。一体全体こんなボロ臭い港に、金持ってる漢ってホントにいるの？」　博打亭主とは久しくご無沙汰である。博多でもこの時代、おいそれとワンナイトの客は見つからない。だから綺麗な女と褒めた手えてくれる堤に抱かれることを嫌がってるわけではなかった。亭主に愛想つかしてからというもの、自分なりに探せども見つからず、ここしばらく一度たりとも漢を受け入れてはいない、言ってみれば空き家状態。女として寂しいには違いないが、売られてきた躰だとしても廃屋同然の小屋で、ろくに金も持たない漢に股座を開くなど御免蒙りたかった。安っぽく見られたくなかった。「アホなことぬかすなや！　なんでおまいらの金くすねなあかんね」　オーナーは女の売り上げをピンハネすると思われてたらしい「そんなこと言って……向こうに比べれば、倍出すってあの時……、ウチら信用してついてきたんよ……、なのに……、今更こんな……」　酒の席に座らされるオンナと、躰を売るオンナが同等でしかも同時進行というのは納得できないと言い張った。　久方ぶりにしっぽり濡れるはずが、妙に現金な話しになってしまった。　堤オーナーの考えは別のところにあった。各港ではこの時代にあってなお、互い欲情を抑えきれず、収まりがつかない者同士近親相姦までやらかすが、反面気が触れるものが続出し困っていた。自衛隊誘致を機に運動会などをもよおし、沸き起こる欲情をなんとか忘れようとしていた。見方のよっては願ってもない金づるなのだ。だが、そいつらを女で釣り寄せようにも気の利いたそれらすべてが（つまり漢なしではいられない女が）なかった。バー白鳥のママは漢のえり好みが激しかった。田岡組長のようなメンチを切る漢でなければ四の五のと理屈をつけ、酔いつぶしては有り金全部巻き上げ追い出す。欲しいくせにおいそれと開かないのだ。　だからと言って、この界隈にヤクザ者が入り込みでもすれば、荒波相手の漁師であってもビビッて近づかない。躰を売ってくれると、陰で囁かれる美代子さえ消えてくれたら、そいつらの気持ちも変わるだろうから呼び寄せることができる。そうすればこの界隈も賑わ…と、常日頃思っていたからだ。　計画は九分九厘成功したかに見えた。いざ蓋を開けたところ、以前と違う雰囲気になってしまった桂にまず人が寄りつかなくなった。目印だった紫がかったネオン、それを高級感漂わる色合いに変えたところ、何処が妖しげな店やら訳が分からなくなり、しかも暗くなると集まる彼らは飲むというより女目当て。健康食豊かな看板布巾を、あまりうろつきまわると妙な目で見られる。人が集まらないことには給金が出ない。来る人が少ない分値上げせざるを得なくなり、次第に足が遠のいていった。「儂のやり方の、どこが悪いねん」　オーナーはぼやくが、この時期に合わせ空自では人事の大移動が行われていたことに気づかなかった。　女無しではいられない同心自衛官が、雪崩を打ったように本土に転勤していった。　替わって入ってきたのが酒や女に興味を抱かない、落ちこぼればかリ。　彼らは日帰り外出をするのが常で、もちろん下宿には用はない。　飲み屋街は閑古鳥が鳴くようになった。　儲からないとなると女も変わる。　そのバー白鳥跡の建屋はというと、工賃をケチったものだから工期途中の場末のスナック風になってしまい、極秘の売春塾どころか、奥の部屋で交尾中というのに、気分次第でドアを開けっ広げ、掃除も行き届かない中でタバコをくゆらす、いわゆる使い古したお姉さんの休憩場所になってしまっていた。　オーナーが仕込みにかこつけて、同意をよいことに挿し込もうと連れ込んだ沙織からしてご主人に見切りをつけた瞬間、漢探しが始まっていたのだろう。豪邸に住まわせてもらい、豪遊にふける夢が破れ、これなら本土の方がましとばかりに翌日には比田勝からその姿は消えていた。　貞操とは、不貞を働かれたとしても女房は耐えるしかないが、漢は当面風俗に行けばよいものだから居直る。風俗の一角である売春塾は、女房や女に逃げられては処理に困るし、さりとて古女房相手では勃たない、エロ本や動画を使ってやる右手が、まずもって使えない漢にこそ必要不可欠な場所。その漢どもが女を堕とすべく溜めに溜めた精液を、上前を撥ねるが如く幾世のような女が搾取し、おまけに孕んだ後で来た子の責任を昨日今日挿し込んだばかりの漢に転嫁する対馬の女。　堤オーナーはもちろん、美代子ママも、そこらじゅうの女が気が向けば欲得づくで貸してくれる時代に突入してることすら気づかないで旧態依然の営業を繰り返していたのだ。
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【知佳の美貌録】
2025年8月24日掲載
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