息子の担任に一目惚れされる美しい母親　ＹＯＫＯ 作
優太は憂鬱だった。家庭訪問が始まるからだ。 　こんなにも先生に家に来てほしくないと思ったことはない。 　あの授業参観後のママとの初対面のときのように終始鼻の下を伸ばしてニヤける弘樹先生の顔が容易に想像できた。 　あの日以来、優太は母親のことばかり考えるようになった。 　授業中も、寝るときも。 　美人の感覚はわからないながら将来、美人と結婚したいと思っていた優太はいつの間にかその美人の顔に母、真理子を重ねるようにさえなっていた。 　そんな優太を見て弘樹はまた話を聞いてない。 　真理子さんとの会話のネタが増えると内心喜んでいた。 　そのとき「ふしゅー」と弘樹はくしゃみをしてしまう。 　すると弘樹は以前と同じように「くしゃみをするとき太陽を見ると綺麗なくしゃみが出る」と発言した。前にその言葉を聞いたときはなぜか胸騒ぎがした。 　しかし今はその理由がわかった。 　母、真理子が花粉症とアレルギー性鼻炎で毎日のようにくしゃみを連発していたからだ。 「ママの前で同じ言葉を発言して、ママの気を引こうとするのではないか」そんな不安が優太を襲う。 　たかがくしゃみ。でもママが先生の前でくしゃみして、もしくはママの前で弘樹先生がくしゃみして、綺麗なくしゃみを教えたら…。 　同じタイミングでくしゃみして弘樹先生がママに「気が合いますね」と言うことや綺麗なくしゃみをママに教えてママが「弘樹先生ったら」と笑う光景が思い浮かんだ。 　優太は頭が痛くなった。 　美人な真理子だかくしゃみは意外と豪快だった。 　そのくしゃみでママのことを見損なうことを期待したができなかった。なぜかギャップ萌えする弘樹先生が想像できた。 　優太のマイナスな想像はなぜか的中することに本人が気づくわけがなかった。 　そして迎えた家庭訪問最終日。 　優太は家にいてママを見てニヤける弘樹先生の顔が見るのが耐えられなくて友人の家へと逃げてしまう。 　ママを守らなければという思いはあったがニヤける弘樹先生の顔を見る苦痛さに負けてしまったのだ。 　ピンポーン。中山家のインターフォンが鳴る。 　真理子は「誰かしら?」と思う。弘樹先生が来る時間には早過ぎる。 　しかしモニターに映ったのは弘樹先生だった。 　真理子は驚きながらもドアを開ける。 　弘樹はドアが開いた瞬間、美しい真理子の顔を見て興奮する。 　顔を見るのはあの一目惚れした授業参観以来だ。 　早く顔が見たくて仕方なかった。 　鼻の下が伸びてしまう。 「すみません。松田さんの家がわからないんですよ。案内してもらうこととかできないですか？」 　嘘だった。方向音痴と思われるかもしれない。 　それでもよかった。顔には自信があったし、根拠もなく真理子を運命の女性と信じていた弘樹は真理子を落とせると確信があった。 　完璧に見えて方向音痴という欠点があっても意外性から真理子が自分に興味を示すのではないかとポジティブな考えさえあった。 　美しい真理子は笑顔で「いいですよ」と言う。 　これで真理子さんと二人で歩ける。お似合いな美男美女の共演だ。 　弘樹はまたニヤけてしまう。 「こちらです」と笑顔で案内する真理子。 　やはり美しい。見れば見るほど美しい。 　弘樹の好きな言葉は美しいだったがこれほど美しいという言葉が相応しい女性はいないと思えた。 　真理子との別れを惜しみながらも「また後程伺います」と会釈をした。 　その後、「ふぇぎしゅー！ふぇぐしゅー！ふぁくふー！」とちょっと豪快なくしゃみが聞こえた。 　声が真理子だったがまさかあの美しい真理子さんがあんなくしゃみするわけない。 　美しい真理子さんのくしゃみはきっと自分みたいに綺麗なくしゃみかきっとかわいいくしゃみだ。 　勝手に想像して弘樹はニヤける。 　しかし、くしゃみをしたのは他でもない真理子だった。 　松田家のインターフォンを押しながら、早々に終わらせて早く真理子さんとの時間を過ごしたいという思いになっていた。 　全ては計画通り来ている。弘樹はいつも通り真面目な表情に戻る。 　出迎えた松田母を見て、なぜこうも美しい真理子と違うのかと鼻で笑う。 　化粧も濃い。先ほど出会った真理子はスッピンだった。 　それでも真理子の方が何億倍も美しい。勝手に人妻を比較する。 　弘樹の中では既に真理子は自分の女かのようになっていた。 　真理子が家に戻って数分も経たないうちにインターフォンが再び鳴った。 　弘樹先生ではないだろう。そう思いながらモニターに向かうとそこには弘樹先生が立っていた。
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2015年4月29日掲載
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